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「行列」を失くす。集客だけを目的としないコロナ禍でのイベントの在り方を考える。株式会社sakumotto代表・作本潤哉氏インタビュー

週末や連休にかけて、百貨店の屋内外、複合施設のパークエリアなどを賑わす期間限定のマーケットイベントは、普段はお店を展開していないクリエイターの雑貨やアート、珍しいキッチンカーなどに出会える場だった。コロナの影響で、多くのマーケットイベントが中止や延期を余儀なくされる状況が続く今、イベントに求められているものとはなんだろうか?作家のキュレーションやマーケットイベントの企画を行う株式会社sakumotto代表・作本潤哉氏に現場の声をお聞きした。

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作本潤哉:アート、デザインのディレクション、キュレーション、アイテムやイベントの企画開発、小売、卸売、商品MD、PR等の業務および、中目黒を拠点としてGallery&shop「sakumotto」「sakumotto store online 」運営管理を行う。株式会社sakumotto代表。

株式会社sakumottoって?

-まずはじめに作本さんのお仕事の内容を教えていただけますか?

作本:もともとはインテリアショップで働いていて、それから独立してクリエイターさんのグッズ制作のディレクションや卸業からスタートしました。それが段々とその繋がりを活かしたキュレーション業の様な仕事も多くなり、ポップアップやイベントを企画したり、商品MDやディレクションの仕事も並行して行なって今に至るといった感じです。最初はフリーランスで、今法人化して四期目となります。

↑株式会社sakumotto〈official HP〉

全滅したマーケットイベント

-百貨店などの商業施設からマーケットイベントの企画も多く請け負ってらっしゃるとお聞きしたのですが、コロナ禍そういったイベントはどうだったのでしょうか?

作本:全滅でした。笑

-全滅。。

作本:一年を通して、マーケット系のイベント需要をざっくり説明すると、春先からゴールデンウィーク、夏前あたりがピークで、少し間があいて秋口からクリスマスシーズンにかけてもうひと盛り上がりあるといった感じなのですが、自粛の流れがゴールデンウィークに直撃してしまった為、そこのイベントは全滅でしたね。

-あの時期は特に一日ごとの状況の変化が激しかったですよね。

作本:僕も複数のイベントを同時に進行していたので、どういった風に動こうかと考えている最中だったのですが、結局すべてなくなり家でじっとしていました。

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作本:特に自分の場合は、クライアントありきのイベントが多くなっていた為、開催するか中止かの判断は、クライアントの決定を待たざる得ないんですよね。なのでぎりぎりまで準備は進行しておかなくてはならなくて、不安の中で準備をすすめなくてはいけない状況というのはだいぶこたえますね。

-現在でもそのような状況は続いているのでしょうか?

作本:今はちょうどクリスマスシーズンのイベント企画の時期にあたるのですが、これも打ち合わせ自体は去年の暮れ頃からスタートしていて、ずっとペンディングが続いていたような状態で。ですが、今の所開催する方向に向かっていますね。あとは、延期になったイベントに関して開催時期を調整しているような案件がいくつもあるといった具合です。

イベント会場での感染対策とは?

-Go Toがスタートした夏頃からは、感染対策をとりながら開催されるイベントも徐々に増えているようですが、ご自身も参加されたものはございますか?

作本:自身の企画ではないのですが、マーケットに出店するかたちで青山のスパイラルホールで開催された「Spinner Markt ―蚤の市―」に参加しました。このイベントは参加者を、Peatix(イベント管理アプリ)を使って事前予約された方(上限30名)に限定して行っていて、イベント自体も一時間単位で区切って換気を行い、各ブースに立てるスタッフも一名のみ、ブース同士の距離もかなり確保されていて徹底されている印象を受けました。

↑2020年6月23日〜28日に開催された〈Spinner Markt ―蚤の市―〉web

-売り上げなどはどうだったのでしょうか?

作本:コロナ禍において参加する初めてのイベントだったので、実際のところ様子見の部分もあったのですが、売り上げ自体が悪くなかったのが意外でした。わざわざ事前登録を済まして予約して来場されるお客さんに限定しているので、客数自体は多くないのですが購買意欲の高いお客さんに恵まれたイベントだったように思えます。

-たしかに一コマが短時間での開催で売上を確保できるのは意外ですね!

作本:購買率が高かったという点もそうですが、事前予約など少し面倒な手続きをしてでもイベントに参加したいと思っている方が沢山いるんだな。という事を身を持って実感できた事は収穫でした。

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イベントと「集客」

-マーケットイベントを開催する上で「集客」という部分が切り離せないと思うのですが、そのあたりの考え方はコロナ以降で変化はありますか?

作本:その問題は難しいですよね。特に商業施設でのイベント開催の意義は集客すること自体が大きな目的のひとつでもありますから、人が集まって盛り上がる事というのがイベントの成果とイコールだったりします。イベントは開催するけど、人は集めちゃいけないとなると、宣伝もしづらいんです。例えば、クレジットカードの優待期間に合わせて開催されるようなマーケットイベントは、新規客の集客や優待の周知も目的としている為、外部のクリエイターさんなどを多く呼んで、普段はそのお店を利用してない層も引き込んだりする必要があるんです。こういった類のイベントは今一番やりづらい状況ですね。

-なるほど。

作本:コロナ以降は、その商業施設にもともとテナントとして入っているお店の中でポップアップとしてイベントを開催したりはしていますが、そんなに幅広く宣伝もできない現状はあると思います。

-新規の層を取り込むというよりかは、お店をもともと利用しているお客さんにより満足してもらうような方向性のイベントということですね。

作本:そうですね。特に館内のイベントスペースを利用した企画についてはそういった方向性になっているかもしれません。

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アプリの使用で行列を軽減する。

作本:集客の話の流れで「行列」についてなのですが。

-はい。

作本:sakumottoも関わらせて頂いている「パンタスティック」という話題のパン屋さんを集めたパンのマーケットイベントがあるんですが、コロナ前のスキームでは約一時間ほど行列に並んでパンを購入してもらう。といった感じだったんです。

-行列に一時間!すごい。

作本:コロナ禍でマス向けのイベントで行列を極力作らない。というのは課題のひとつで、今後の開催は、例えば取り置き機能のあるアプリ(sacri)を利用して行う方向も探ったりしています。各出店者さんにアプリの利用をお願いするなどで、お客さんは「待つ」「並ぶ」のストレスを解消できるし、パンが入ってくるタイミングの時刻に合わせてピックアップに来る事が出来るので、こういったアプリとの連携で行列を軽減するような試みには期待しています。

〈パンタスティック!!〉instagram
↑パン屋さんの取り置きアプリsacri

-そんな便利な機能があるんですね!

作本:並ばずに購入できる。というのは買い手側のメリットとしても大きいと思いますね。はじめから「並ぶかも。」の状態で来場されるより、あらかじめ目当てのものは予約で確保しておいて、その前後で各店舗の混み具合など考慮しつつ、さらに買い物を楽しんでもらうというのは、今までと入り口から変化しているので、そこは面白いかなーと思っています。また、売り手としても販売の見込みや予測が立てられるので悪くない仕組みかなと。

-お互いのメリットになるのはいいですね。

作本:便利なシステムを備えたアプリやオンラインのサービスをゼロベースで自分たちで開発していくってことはなかなか難しいですが、オンラインとの連携や工夫の仕方で組み立てる方法は、イベントを行う上で今後も選択肢になってくると思います。

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-クライアントありきではない自主企画のイベントを考える際はどういった事を気をつけられているのでしょうか?

作本:この前、アーティストの蓮沼執太さんのLPの発売イベント「“FREE FULLPHONY FLEA” at HAPPA」「HAPPA 」(sakumottoの入っているシェアオフィス兼イベントスペース)でやったんです。イベント内容としてはメンバーフリマとライブイベントを行なったのですが、普段ガラス貼りのガラスをシェアメンバーの設計事務所DDAAに抜いてもらって、ライブは外から見てもらうような形式にし、物販も建物の内部に入らずとも購入できるような仕組みをとりました。

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↑2020年11月1日に行われた「“FREE FULLPHONY FLEA” at HAPPA」(マーケット、フリーマーケット、ライブ映像上映、ミニライブ)の様子。

作本:自身で場所を持っている人たちは、空間をいじる事にも融通がきくので、今はクライアントの場所をお借りしてイベントを展開をするより、こういったイベントの方が開催しやすさはありますね。マス向けよりは、小さいコミュ二ティを使ったイベントの開催が周りでもちらほら発生してきていて、人自体はそんなに集まらないけれど、小さい輪の中にいる近しい思考の人たちが集まるといったような。それはそれでしっかりとイベントを体感してもらえるし、イベント自体の濃度としては濃い印象はありますね。大きな売り上げこそとれないですが、今はそういった方がハマっている気がします。

-しばらくはそういった企画を中心に進めるかたちですか?

作本:そうですね。なかなか「会う」という事自体がしづらい状態なのですが、それこそがフィジカルのイベントをやる事の意義のひとつだと思っているので、場づくりという意味合いに重点を置いた展開をしばらくは続けていこうかなと思っています。

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-マーケットイベントのオンライン開催についてはどのようにお考えですか?

作本:オンラインのマーケットイベントに参加してみたんですが、他のオンラインショップにある商品をただ集めるだけだと、マーケット独自の強みが出せないので、何か商品自体に足して付加価値をつけてあげなきゃいけないんですよね。そこで取引のあるクリエイターさんに協力してもらってサイン入りで商品を出したり、そういう事もやってみましたが、こちら側もクリエイターさんもお互い大変。そのわりにその分の盛り上がりを感じられないというか、感触がないというか。。オンラインマーケットは、参加している実感も沸きづらいのがネックですよね。売り上げ以外で動向が見えづらいですし、どういった層の人が買ってくれたのかもわからないので。

-積極的ではないという感じですかね?

作本:まぁとは言いつつも、オンラインとフィジカルの両方の良いバランスを探る事は必要だと思っています。屋外イベントは天候に左右される部分も多いですし、そういった意味では開催中止になってもオンラインで売上をある程度確保出来たり、リスクの軽減にもなりますし、コロナが収束した後でもそういう流れは残っていく気がしてますしね。

-そう考えるとネガティブな部分ばかりではないような気がしますね。

作本:そうですね、ただどうしてもコストがかかってしまうってのは課題ですね。トークや音楽ライブの配信とかやるにしてもコストは余計にかかってしまう部分で、その分オンライン上で回収できればいいんですが、正直トントンというところが現状ですからね。投げ銭で課金してくれるお客さんも応援の気持ちだったりする部分が大きいと思うので、そういった部分以外での解決は難しいところです。

-ありがとうございます。来年(2021年)のイベント開催はどのような方向に向かうと思いますか?

作本:全体の流れを予測するのはちょっと難しすぎますね。自分自身は先ほどのお話とも重なる部分ですが、これまでクライアントから予算をまるっと頂いていて、その中でなにかやるっていう案件がほとんどだったので、自分の持っているスペースを活かした場づくりや、そこからの繋がりを意識したコンテンツをしっかり作り直していかなければならないと考えています。なので自分のように、事務所やスペースを持っている方々に限った事ですが、そこを店舗化するような流れはあるかもしれませんね。そういったところと一緒に何か小さい単位のコミュニティを形成していけたらなぁと思っています。

これからの世界で失いたくないもの。

-作本さんがこの先の世界で失いたくないものは?

作本:〈偶然会える環境〉失くしたくないですね。オンラインのツールは会おうとしないと会えないじゃないですか。
意図して会わないというか、偶然居合わせる事ってフィジカルに限ったフラットな出会い方だと思うんですね。お店もそうですね。お店は開けとくだけで不特定多数が入ってこれるじゃないですか。入店するお客さんをお店側が選んでるわけじゃないので、たまたま通りかかった人は誰でも入れる。当たり前の事なんですけど、それが面白いと思っていて。

-たしかに〈居合わせる〉ってその場にいかないと起こらないですね。

作本:マーケットをやってる時にお客さんとして知り合って、そのあとその方と取引する流れになったり。出会った方がデザイナーで活躍したりとか、時間軸で面白く展開する話も多いんです。今はなかなかそういった場が作りづらい状態だからこそ失くしたくないなって思います。

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Less is More.

開催か中止か。様々なイベントがその二択の中で選択を迫られる時期はまだまだ続いていると思う。しかし、それ以上に〈どう開催するか?〉という一番難しい選択肢と向き合っていかなくてはならない状況がこれからしばらくは続きそうだ。感染対策をとった上で、ターゲットを絞りニッチであるが濃度の濃いイベントを企てる事がヒントになりそうだと思った。

(おわり)



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