今こそ、私たちが歴史から学びたいこと。ムンディ先生こと山﨑圭一氏インタビュー。
ムンディ先生こと山﨑圭一氏をご存知だろうか。なんと、現職の公立高校教師にして、「一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書」をはじめ、シリーズ累計100万部以上を売り上げ、YouTuberとしても歴史の授業配信で13万人以上が登録している。
山﨑氏が教えてくれる歴史には、ひとつの特徴がある。それは「年号がない」こと。歴史をひとつながりのストーリーとして捉えることで歴史を分かりやすく、楽しく学べること。
今回は、そもそも歴史って何のために勉強するの?なんの役に立つの?と思った皆さんに送るインタビューだ。
ムンディ先生が歴史の先生になるまで。
-そもそも、山﨑さんはご自身でも「歴史オタク」であるとお話していますが、なぜそこまで歴史をお好きになられたんですか?
山﨑:出身が福岡県太宰府だったのは大きいかもしれませんね。歴史的に見ても、エピソードが豊富な土地柄ですので。
-確かに太宰府は日本の歴史でも菅原道真と共に耳にしますね!
山﨑:小学校2年生くらいには好きだったので、実は先天的に好きだったのかもしれませんね(笑)。あとは、学校の図書館に歴史漫画が揃っていましたし、様々なコンテンツに触れることでもっと好きになりました。
-先生は、現在も高校で教員を続けているんですよね?教員を目指されたのはなぜだったんですか?
山﨑:私自身、素晴らしい社会科の先生に出会ったことが大きいです。あとは、吹奏楽でチューバを吹いていたのですが、大好きな歴史と音楽を両方できる仕事はないかと考えていました。学校の先生になれば両方に携われるのではないかと思って教員を目指したんです。
-研究者など色々な道がある中で、教員を志すのに迷いはなかったんでしょうか?
山﨑:迷いはありませんでしたね。現在も教員の労務環境が整っているとは言えませんが、素晴らしい仕事だと思っていますよ。
-どんなところが素晴らしいんですか?
山﨑:教員の仕事は、知識を教えるだけでなく、生徒たちと同じ時間を共有して思わぬ感動を味わえる瞬間がたくさんあります。例えば、歴史というのは様々な人々や社会の動き、振る舞いが織り成されることで、思わぬ結果に繋がっていきますよね。音楽も一緒で、様々な楽器の重なりがピタッと合って感動的な演奏ができることがあります。学校教員は、そういう感動を味わえる瞬間がたくさんある仕事なんです。
「社会科」ってなんだ?
-まず、歴史って「社会科」のひとつですよね。そもそもこの「社会科」に分類されているのがよく分からないなと思っています。
山﨑:「社会科」っていうのは、今の世の中で起きていることを地理・歴史・公民の3つに分類して理解しようという教科なんですよ。
-どうしてその3つに分類されているんですか?
山﨑:例えば、現在のロシア・ウクライナ戦争を考えると分かりやすいのですが、まずは戦争に至るまでの歴史がありますね。そして、地理的な背景や政治的な背景を知る必要があります。現在起きていることを理解するために、最低限この3つから考えることが必要だよというのが、社会科の役割なんです。
-なんか社会科って特に小学生の頃とか、色々と内容が変わる不思議な教科だった印象があります。
山﨑:学校では地理・歴史・公民と一つずつ順を追って教えていきますが、そうすることでそれぞれの関わりが見えづらく、別々の学問に見えてしまいますよね。社会に出ると、この3つって本当は分けて考えるのではなく、未分化で実際の世界では分けて考えられないことに気がつきます。
-学生時代には、なんとなくそれぞれ別のものとして学んでいた人も多いのかなと思います。
山﨑:結構難しい問題なんです。高校生までは「社会科」という括りで教えるのですが、社会科って社会人になってこそ初めて役に立ちます。例えば、実際に選挙権を持ったり、金融や異文化に触れたりして初めて意味を持つんです。社会人でない学生にとって「社会科」の意義は分かりにくいと思います。もちろん、学生時代に受験のために勉強するっていうのもすごく大事なことです。大人になってから、必ず役に立ので、社会科を学生時代にもきちんと学んでおくにこしたことはありません。
-まさに「社会人」にこそ必要なんですね。
山﨑:そうなんですよね。私のYouTubeチャンネルは、元々生徒のためにはじめたものですが、今では社会人の方にも多く見ていただいていますし、書籍も幅広い世代の方に読んでいただいています。歴史に限らず、大人になってから「社会科」を学ぶ場にしたいと思います。
歴史を学び直す意義・意味。
-そんな社会科の中でも山﨑さんは「歴史」を中心に活動されています。歴史を学ぶ意義・意味ってどういうことだとお考えですか?
山﨑:受験の影響もあると思いますが「歴史を学ぶ」というと、知識を得る・覚えるといういわゆる勉強を想像されるかもしれません。でも私はまず楽しむことにフォーカスするべきだと思います。
-楽しむことから?
山﨑:良く「歴史はなんの役にたつんですか?」と質問されるのですが、「役には立たないけど人生を豊かにするものだ」とお答えしています。映画・文学・漫画・ゲーム・旅行…たくさんの人生を楽しむためのコンテンツのひとつだと思います。
-それはなぜなんですか?
山﨑:例えば素晴らしい映画を見たとしても、明日から急にお給料があがるわけではありませんよね。じゃあ映画は役に立たないかというと、そういうわけではありません。人生の豊かさって、役に立たないものだけど、楽しみにできるものをどれだけ持っているかということだと思います。まずは、歴史もそういうコンテンツのひとつとして捉えるといいかなと思います。
-確かにそうですね。
山﨑:歴史への興味は、先ほど挙げたような映画・文学・漫画・ゲーム・旅行…という他のコンテンツへ楽しみに発展します。例えば旅先で歴史建造物に興味を持つこともできますし、歴史を題材にした作品も、歴史的・時代的な背景を知っていることで、もっと楽しめます。
-あぁ。歴史に関わりがある作品って多いですもんね!
山﨑:歴史が好きになることで日常での視点も変わるんですよ。例えば、私の家の近所に重要文化財があるんですが、普通の人は通り過ぎていってしまいます。でも、私はちゃんと足を止めて楽しめる。そういうものを知らずに通り過ぎないでいられるのは歴史が好きだからこそですね。
社会人として学ぶべき歴史。
-社会人として、あらためて歴史から学ぶべきことってどのようなものだとお考えですか。
山﨑:歴史には、原因があって結果があります。歴史を学ぶことで「今ここで起きていること」だけで考えるのではなく、それまでの経緯や文脈の中で現在を捉えられるようになります。これが社会人が歴史から学ぶべきことだと思います。歴史から、たくさんの原因と結果のパターンを知ることはビジネスの場においてもとても意義があると思います。調子がいい時期にやりすぎて崩壊した国や、代替わりでダメになった国も多いです。そういう姿は、会社の経営・運営にもとても役に立つと思います。
-確かにそうですね!
山﨑:歴史を通して「人間を知る」というのが私が一番大事にしている視点なんです。一人の人間の振る舞いがあって、集団になるとまた違う振る舞いがあります。その振る舞い方って、ある程度の傾向やパターンがあるようにも見えるんです。歴史自体を覚えることは役に立ちませんが、歴史を通して人間を知っておくと役に立つのかもしれませんね。
-歴史からパターンを学ぶことで社会はより良くなるとお考えですか?
山﨑:難しいですよね。歴史はパターンだけかというと、当然パターン外のことも良く起きています。傾向はあるとしても、結果は千差万別です。そもそもパターンがあるのか?という議論も研究者によって全然考え方が違ったりします。私自身は、自然に任せるとある程度同じようなパターンに向かってしまう傾向があると思っています。
-全く同じ状況というのもあり得ませんし、難しいところですよね。
山﨑:パターンがあるということは、ある意味で人間は変われないという悲観論につながるかもしれません。変われると信じて、パターンを学んでこそ、そこから脱却することができるのではないかと考えています。歴史教員のスタンスとしては、いろいろな知識を身につけることで、大きな失敗や悲劇は回避できるという希望を持つことが必要だと思います。
日常のあちこちに歴史への入り口がある。
-山﨑さんの歴史コンテンツは、どれもストーリーとしてもすごく面白く楽しめます。
山﨑:私の書籍の場合、宗教、経済、人物などのシリーズを発行することで、一つの歴史に、いろいろな角度から事実を肉付けしていくことでより立体的に世界を描けるといいなと思っています。
-事実を積み重ねることで、文学に負けないくらいのストーリーが広がっていくんですね。
山﨑:世界史って、枠組みとしてすごくスケールの大きい学問だと思います。世界の成り立ちから現代までを駆け足で見るっていうのは、歴史のダイナミックなところですよね。今後は、音楽や美術の歴史も発信したいと思っています。建物や絵画などを知ることでで当時の人たちがどのような考えでどのように感じていたか、その息づかいを少しだけでも感じられるんじゃないかなと思うんです。
-すごく楽しみにしています!ちなみに、山﨑さんはこの膨大な知識をどのように学ばれているんですか?
山﨑:ひとたび歴史的な視点を手に入れると、特別に勉強しなくても日常の疑問がそのまま学びになるんですよ。何をしていても、どの町に行っても、本当にどこにでも歴史の入り口があって、自然と学べるんです。
-どういうことですか?
山﨑:例えば…ニュージーランドってありますよね。
-は…はい。
山﨑:じゃあジーランドってどこだろうって調べてしまう(笑)。そういうことです。
-あぁぁ!NEW(新しい)ジーランドだから・・・!
山﨑:そうそう、そうなんです(笑)。みんなジーランドのことを考えませんよね。そういう癖がついているのは、やっぱり歴史が好きだからだと思いますね。
ちなみに、ジーランドというのは、オランダのゼーランド州に由来しています。オランダのタスマンっていう方が、オーストラリアを探検したときに発見したので、新しいゼーランドでニュージーランド。ちなみに、タスマンはタスマニア島の元になっていて…。
-もう止まらない(笑)。
山﨑:そうでしょう(笑)。
これからの世界で失いたくないもの。
-では、最後の質問です。山﨑さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?
山﨑:「好奇心」ですね。現代には情報がたくさんあります。与えられる情報だけを消化しているだけでも、人生は過ごせてしまいます。
ですが、先ほどのニュージーランドの話のように、世の中には好奇心の種がたくさんあります。そういう種を拾うと、思わぬ広がり方をするものなんです。
-タスマニア島のことまで知れると思いませんでした(笑)。
山﨑:情報をただただ大量に与えられるだけでなくて、自分自身で拾うことが必要なんですよね。それはきっと好奇心がどこに落ちているのか教えてくれると思います。あなただけのニュージーランドに気がつくためにも歴史を学ぶのは一つの手段だと思います。ぜひ、歴史を楽しんで学んで欲しいですね。
Less is More.
「自分だけのニュージーランド」が見つけるために歴史を学ぶ。ムンディ先生こと山﨑氏は、とてもにこやかに学ぶことの素晴らしさを伝えてくれる。
世界史、日本史に加えて人物編・宗教編と書籍の幅をどんどんと広げていく山﨑氏。ぜひ書籍を手にとって、その世界から色々なことを学んでいただければと思う。
(おわり)