「資金繰り」から日本の経済を考える。株式会社HIFAS代表・姫野氏インタビュー。
「資金繰り」と聞いてどのような印象を持たれるだろうか?今の日本経済を底上げするには、この「資金繰り」から考えるべきだと、株式会社HIFAS代表・姫野氏が語ってくれた。資金繰り管理に特化したクラウドシステム「milestone」を提供する姫野氏の分かりやすい資金繰りと日本経済の問題点とは?
-姫野さんのキャリアからお教えください。
姫野:小学校から社会人になるまで、バトミントンばかりやっていて、体育会系ど真ん中でした。就職活動も乗り遅れましたが、縁があって通信工事の会社で現場からキャリアがスタートしたんです。
-今の士業とは全然違うお仕事だったんですね!
姫野:結果的には社内で経理部に異動したのが直接的に現在のキャリアにつながっていますね。3年ほど経験した後に、公認会計士の資格を取るために退職。無事に合格できたので、監査法人に入所しました。その法人で、上場企業や上場準備会社の会計監査等に携わり、独立後は中小企業と関わることが多くなり、その過程でお金周りのコンサルティングもはじめました。
-現在は、法人を立ち上げてらっしゃるんですよね?
姫野:自分自身もアスリート出身で仕事を始めたので、アスリートがセカンドキャリアとして働く場を作りたくて「HIFAS」という会社を立ち上げました。社会的には運動能力だけで評価されがちなアスリートですが、努力をできる精神性はビジネスの現場においてもすごく活きると考えてのことでした。
-なるほど。
姫野:HIFASでは、「マイルストーン」というプロダクトを手掛けています。これは、シンプルに、お金の動きだけを把握できるシステムです。どのタイミングでキャッシュが出入りするのか、自社の正確なキャッシュ状況を管理するツールですね。実は一般的に財務管理システムと呼ばれるプロダクトは、実際の売上や利益とそれにまつわる税金関連の処理に特化したものが多いんですよね。マイルストーンには、簿記という難しい概念は一切なく、中小企業を中心にさまざまな企業の資金繰りを簡単に管理することができます。
-本日は資金繰りとは何かについて色々とお聞かせください。
資金繰りはネガティブ?
-そもそも一口に「資金繰り」っていっても、さまざまなケースがありますよね?
姫野:えぇ。本当に様々なケースを「資金繰り」として話していますが、総じて言えるのは日本で「資金繰り」というとすごくネガティブな印象を持たれる方が多いんですよね(笑)。お金が無くなりそうだとか、自転車操業的なイメージがありますよね。でも、英語で言うと「キャッシュフローマネジメント」と訳すのが一般的かなと思うんですね。
-英語で聞くとネガティブな印象はないですね。
姫野:「資金繰り」にまつわるネガティブな印象って実はすごく良くないことなんです。経営者とお話ししていても「お金に困っていないから資金繰りの管理は必要ない」と言う方が非常に多いんです。本来的には「お金が無くなりそうな時に管理をする」のではなくて、「今あるお金をどうやって使うか」「将来において成長させるにはどんなタイミングで使うか」といった中長期的な視点を持って”使いかたを考えること”こそが「資金繰り」の本質だと考えています。
-あぁ。本当はポジティブな文脈で資金繰りを語るべきだと。
姫野:おっしゃる通りで、会社の到達したいところにどうやって到達するのか、それをリアルに描くことこそ「資金繰り」と呼ぶべきなんですが、なかなか理解されていないのが現状ですよね。
-なぜ日本では「資金繰り」がそれほどネガティブに扱われているのでしょうか?
姫野:特に中小企業に顕著ですが、会計、金融といったお金を扱う上でのリテラシーが追いついていないことが原因だと思いますね。そもそも日本という国そのものがお金や金融への教育が足りていないですよね。結果的に「お金」とは何かよく分からないまま、扱いに対して後ろ向きのイメージが強くなってしまい、守りの体質になってしまう企業が多いのかなと思います。
-今年から高校で金融教育の義務化も始まりましたよね。
姫野:教育は進んでいくといいですね。現状のもう一つの問題は資金調達手段のバリエーションの少なさかなと思います。日本において、誰にでも門戸が開かれているのは、金融機関から借りるくらいなんですよね。例え素晴らしいサービスやプロダクトがあっても投資家から出資していただく手段が少ない。少しずつ増えては来ているようですが、それでもまだまだ一般的に門戸が開かれているとは言えないかなと思いますね。
-海外だと違った状況ですか?
姫野:特にアメリカなんかではもう少しリスクがある事業にも「とりあえずやってみよう」と初期段階から投資を受けるケースも多いと聞きます。逆に日本では、「本当にできるの?」という慎重な議論が多く、実際の投資に至らないケースが多い印象です。こういった投資も含めたお金の議論に対して慎重なのは、元々の国民性が大きく関係しているようにも思います。「資金繰り」という単語がネガティブに捉えられるのも、そういった状況が大きく関係あると思いますね。そういった状況を変えるためにも、本来的な意味で資金繰り=キャッシュフローマネジメントをきちんとしないといけない。
お金の考え方を変えるために「資金繰り」を学ぶ。
-資金繰りをしっかりすることで、お金の考え方が変わるんですか?
姫野:税制が複雑になりすぎていて、そのための会計処理に重きを置かなければならないことも原因だと思うのですが、「企業の数字の管理」となると、特に中小企業では体系的に管理できている数字として、どうしても税金計算につながる「損益情報の管理」のことを話される企業が多いと思うんです。ですが、それは利益とそれに対する課税の話、総じて「過去のお金の話」なんです。
-あぁなるほど!
姫野:そうではなく、資金繰りというのは未来のお金の出入りを計画することです。そもそも未来と過去、時間軸の違う話なんですよ。お金ということで一緒くたに考える方が多いですが、この未来のキャッシュフローというのをきちんと考えられる文化が生まれることで、日本の資金繰りの印象…ひいてはお金に関する考え方が随分と変化すると思いますね。
-ちなみに、考え方が変化するとどんなことが起きるんですか?
姫野:未来においてどれくらいのお金が入ってきて、どれくらいのお金が出ていって、どれだけが残るのかをきちんと理解した結果、企業は、リスクを取りやすくなると考えています。未来をお金から紐解くと、使えるお金が分かるから意思決定しやすくなるんですね。事業への投資もしやすくなりますよね。資金繰りを正しく理解することで、お金においても未来の話が多くなり、成長する企業が増え、結果として日本経済の底上げにつながると考えています。
過去・現在・未来のお金がつながる。
-資金繰りは未来の軸で考えるべきものということですが、どれくらいの未来を見ながら考えるべきですか?
姫野:事業にもよりますが、あまり5~10年といった長期での資金繰り計画を立てても、抽象化して意味をなさなくなる可能性もあります。まずは短期的なお金を回す管理と、半年〜1年の中期、長くても3年くらい先をバランスを見ながら考えていくべきかなと思いますね。
-目の前と少し未来を見ながら考えていくんですね。
姫野:実は、資金繰りってある種の未来予測でもあるので、デジタルで効率化できない部分も多分に含むんですね。海外のツールでは、過去の実績を元にAI技術などでキャッシュフロー予測もされていたりしますが、私たちの開発したマイルストーンでもそうですが、どうしてもある程度アナログで管理することにより個々人が学んでいかねばならない部分は多々あります。デジタルがそういった学びのフォローをしながら、資金繰りをリスキリングする必要がありますね。
-資金繰りに対してデジタルができることって他にもあるんですか?
姫野:一番大きいメリットとしては、未来に向けて作ったキャッシュフロー情報がデータとして蓄積していくことですね。データとして体系的に蓄積することで、未来予測と過去データの対照や、データを利活用して会計帳簿を作成する等が容易になります。将来的には、この未来予測としてのキャッシュフローが更新され、そのまま流れるように過去情報の記録へと反映されるようなシステムに先鋭化していくことが望ましいと考えています。
-それにしても未来のお金の話をするってのはある意味ワクワクしますよね。
姫野:お金ということで過去の数字と未来の数字を一緒くたに考える方が多いですが、この未来のキャッシュフローというのをきちんと考えられる文化が生まれることで、日本の資金繰りの印象は随分とポジティブになると思いますね。
これからの日本経済について。
-これからの日本経済については、どのようにお考えですか?
姫野:日本には中小企業が多いのは、アドバンテージになり得るとも考えています。社長と社員が近い企業ですと、経営体質を改革するのも本当はやりやすい環境ですよね。ですが、本来イノベーションが起きやすい環境なのにそれがなかなか実現していない印象を受けます。
-確かに、なかなか企業体質を変える企業は多くないですよね。
姫野:例えば、現在ですと世界的な潮流としてはSDGsやESGといった大きな潮流がありますよね。本来ならば持続可能な形で企業のあり方を変えていかないといけない。でも、グローバルの潮流が掴みきれていない企業は多いのではないかなと思います。どの企業にも関係あることで、扱うモノが変わり消費者が求めるものが変わっていく中で、そこに合わせて経営体質を改善していくために、きちんと未来のお金の流れを読みながら適切な投資をしていくことが必要になります。これも先ほどお話ししたようなお金や会計、金融リテラシーの向上が鍵になってくるのではないかと思いますね。
-あぁ。経営の改善にどれだけ投資するべきか、よく分からないのかも知れませんね。
姫野:これは決して経営層だけの話ではなくて、一般社員も含めて取り組むべきことなんですが、それにトライできている企業は少ないですよね。これは、社会人になってからの教育が世界の水準に比べて低いという結果が出ていることからも明らかです。会社が社員教育についても、もっと投資をすべきだと思います。
-なんかこう、トップダウン型で力技で経営シフトする企業もありますもんね。
姫野:過度な精神論に頼ることなく、新しい舵を切るためにもお金のことから考えてみるのはいいのかなと思います。持続可能な社会を実現するためにも、まずは客観的なお金という情報をもとに考え、財務体質を良くして健全な企業を作ることから始めるといいのではないでしょうか?
経営状態のサステナブルって?
-企業そのものがサステナブルな状態になっていくといいのかも知れませんね。
姫野:そうですね。ですが中小企業の場合、リソースの問題もあって「現状維持が優先」という小さな企業も多いですよね。現状維持だけを続ける企業は社会全体が大きく変わっていく中においては、今後自然と淘汰されていくリスクを抱えてしまう恐れがあります。
例えば、現在ですと、自動化による企業のスリム化やオフィス不要な企業のあり方など色々な議論があり、人的な意味でも利益としても拡大をどこまでさせるのか?企業としての成長とは何だろうかというのは、すごく難しいところですよね。
-わかります。
姫野:私は今ちょうど40歳なのですが、一昔前の経済情勢と現在は当然ながら全く違うと思うんですね。これからの社会において、企業の拡大は、未来にどのような意味があるのか、社会における企業の存在意義をもう一度冷静に考えてみる必要があるのかなと思います。日本は、割と危機的状況だと思うんですよね。人口も減少し続けていますし、平均給与も横ばいです。このままだと私たちの子供世代にものすごい負の遺産を残してしまうかもしれないと思っています。そういう中で、私たちが何をするべきなのか考えてみる必要があると思います。ただ利益追求するだけでなく、グローバルにおける日本の価値を高めることに、企業がもっと意識的になることも大事かと思います。
-そのためにも、資金繰りからもう一度学び直すといいのかも知れませんね。
姫野:はい。一つのきっかけではありますが、「未来のお金のこと」と捉えてぜひポジティブに学べる環境になって欲しいと思いますね。
これからの世界で失いたくないもの。
-では、最後の質問です。姫野さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?
姫野:ちょっと穿った意見ですが、失わないと新しいものを得られないと思っていたりはします(笑)。でも、そんな中で絶対に失くしてはいけないのは、事業上の理念や信念です。「社会に対して、自分が何ができるのか」現状維持をすることなく、常に進歩していくことで社会・経済がより良くなるといいなと思っています。
Less is More.
「資金繰り」のイメージ、少しはポジティブに変わっただろうか。お金に対する苦手意識をどのように失くし、楽しく話せる社会になるのか。
決して経営層だけに限らず、全ての人たちがもっと楽しくこれからのお金の使い方について話し合うことが、未来への鍵なのかも知れない。
(おわり)