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失われたインバウンド需要。民泊運営の今。Agniss Inc. / 株式会社アグニス代表・藤永憲太郎氏インタビュー

急成長を遂げていたインバウンド市場に歯止めがかかった。言わずもがな新型コロナウィルスの世界的な感染拡大の影響だ。利用者の大部分をインバウンド需要が占める「民泊」経営には今、何が起こっているのだろうか。都内、多数の物件の民泊運営を行う株式会社アグニス代表・藤永憲太郎氏にお話を伺った。

※取材は2020年12月15日に行いました。

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藤永憲太郎:都内を中心に多数の民泊・旅館業物件、レンタルスペース、マンスリーマンション等の企画、運営ならびに、コンサルティング、運営代行を行うAgniss Inc. / 株式会社アグニス。

民泊運営とは?

-はじめに、株式会社アグニスとはどんな事業を行なっている会社なのでしょうか?

藤永:簡単に言うと、民泊やレンタルスペースを運営している会社です。自社の持ち物件の運営や、物件を所有しているオーナーさんから運営面を任されていたりと。そういった感じの事をやっています。

-スタートされたのはいつ頃からなのでしょうか?

藤永:以前の会社で、会社員をやりながら趣味程度に始めたのがきっかけです。本格的に事業化してスタートしてから今、四期目になります。

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-わりと気軽な感じでスタートされたんですね。

藤永:そうですね。ひとつ物件を借りてみてちょこっと運営してみたというのがきっかけです。当時は民泊が始まって間もない時期だったというのもあり、やればかたちになるという感じだったので、うまくいって増やして。という具合に。

-なんだかとても簡単そうに聞こえます(笑)

藤永:たしかに開始した当初は難しくなかったんです。しかし、次第に競合が増え始めてからは運営の難易度が上がり苦しい時期もありました。2018年の6月に民泊新法(住宅宿泊事業法)という法律ができて、民泊の運営方法がクリアになるんですが、その法の線引きのタイミングで運営出来なくなる物件が業界全体に増えて、競合の物件等が一気に減少しました。それによって自分たちもなんとか運営がまわるようになって。

-例えばどういった線引きがあるのでしょうか?

藤永:わかりやすい例で言うと、消防の基準をクリア出来ない。などですかね。マンションタイプの物件の一室で民泊を行なっている方などで消防設備の投資に一千万円の費用がかかるとなった時、個人では流石に継続出来ず物件を手放した。というようなケースは多く耳にしました。自分の場合は運営する物件のほとんどが戸建てだった為、幸いにもその辺りはうまくクリアする事が出来たんです。

民泊新法と旅館業法

-そもそもなのですが、民泊と旅館・ホテルの定義の線引きはどこにあるのでしょうか?

藤永:法的な線引きになると、前述の住宅宿泊事業法(民泊新法)に則って申請をしているのか、旅館業法としているか。という部分になりますね。旅館業法にも改定があった為、見た目はただの民泊だけど場合によっては旅館業法として申請されている物件もあるかと思います。

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藤永:運営面については、旅館業だと365日運営ができます。住宅宿泊事業だと年間で180日です。簡単に言うと、住宅宿泊事業法は「住宅を宿泊施設として貸し出す為の法律」なのであくまで住宅でないといけないんです。なのでセカンドハウスとして使用しているもの、賃貸物件として募集が出されているもの。そういったものが当てはまります。

-利用する側としては全く気づかないというか、知り得ない部分ですね。

藤永:そうだと思います。お客さんからの視点では、朝食があってスタッフいて、というのがホテル・旅館。スタッフがいなくて、戸建てで、ってのが民泊で。と、そのくらいの認識だと思います。ただ最近無人のオペレーションによるホテルなども出てきていますから、色々ですよね。

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コロナが奪ったインバウンド需要

-利用客の多くはインバウンドの需要だと思うのですが、コロナの影響、オリンピック延期のダメージはどうだったのでしょうか?

藤永:どうもこうもない。というのが正直なとこですね(笑)。2月の時点で先の予約はほぼ100%キャンセルになっているような状態でした。当然オリンピック時期も予約は埋まっていたのですが全てキャンセル予約を行っているプラットフォーム側の判断で無料キャンセルが行われた影響も大きいです。民泊もホテルや旅館と同様に、時期や曜日によっての料金設定になるのですが、その時期はまさにハイシーズンの料金設定だったのでキャンセルは大きな痛手になりました。正直この時は、お先真っ暗と言っていいかもしれません。

-うぅ、それはとても苦しいですね。

藤永:オーナーさんの中には、どうにかオリンピック前に運営を開始したいという要望の方もいらっしゃったので、見込んでいた分あてが外れたってのはありますよね。まぁただ言うても、オリンピックは2-3週間のイベントなので、お祭り的に一時的に売上は上がるでしょうが、それが終われば通常に戻るので。厳密に言うと、オリンピック単体のダメージというよりかは、オリンピックを含んだ訪日観光客、国策としてのインバウンド需要全体が消滅してしまったということの方が問題ですね。

-利用者の多くが訪日外国人のお客さんだったという事ですが、今はどういった方が利用されているのでしょうか?

藤永:今はほぼ日本人の利用者ですね。使用目的としては長期宿泊や海外からの一時帰国時の滞在場所として利用されている方が多い印象です。隔離期間の二週間をとりあえず民泊で過ごし、その後ご自宅へ戻られるというような。勿論、国内の利用者で自主隔離として利用される方もいます。あとは海外で働いている方がご家族で帰国されて仮住まいとして利用するケースですね。実際に、海外の商社マンで一旦帰国されたはいいけど、その後の会社の動向が定まらず判断が下らない状況下だった為、日本で賃貸物件を契約するわけにもいかず民泊に滞在される方もいました。そういった今までになかった部分でのニーズは増えている印象ですね。民泊としての利用というより長期滞在型の施設として民泊を利用するといった様な。

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-ハードは同じでもニーズや使用方法が変化するのは興味深いです。

藤永:そうですね、特に置いてあるものやアメニティ類は変化させていないんですが、ニーズに合わせてその分消毒や除菌には力を入れています。空気清浄機も設置しました。打ち出し方としてもそういった部分を前面に出す事で、なんとか繋いでいるような状態ですね。

-コロナ以前と比較すると売上にはどのくらいの変化があったのでしょうか?

藤永:家賃、光熱費、Wi-Fi、運営費、といったランニングコストがけっこうかかるのですが、給付金も踏まえてなんとかそこらへんをカバー出来るくらいは捻出しました。不幸中の幸いで、弊社は戸建て物件を多く運営していた為、ホテルや小さい民泊物件などがカバーできないコロナ禍のニーズに応えることが出来たのかなと思います。

-民泊利用において戸建ての強みとはどういったところにあるのでしょうか?

藤永:個人で利用するのであればホテルでの長期滞在も快適だと思いますが、例えば子供が二人いる四人の家族だとしたら、ホテルで一人ずつ四部屋となると相当コスト的にも嵩むと思いますし、普通の家(戸建て)に住むように宿泊が出来る事で解消されるストレスはあるかと思います。これは本当にたまたまなのですが、運営する物件が帰国者のニーズに合っていて本当に助かりました。

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-帰国者、日本人利用者のニーズが増えているとのことですが、外国人と比較して「民泊」という言葉は知っていてもサービスそのものの認知度は高くないような気がするのですが、何か国内利用者に向けて発信されている事などはありますか?

藤永:そうですね、その辺は地道ですが面を増やす作業を繰り返しやっていくしかないかなと思っています。やはり日本人で「二、三ヶ月広い部屋に住んでみたいなー。」と思ってすぐにairbnbのサイトにアクセスして民泊を探す方って現状では多くないと思うんですよね。なのでとにかく色んな所に広告を出して存在に気づいてもらう他ないと思っていて、その辺りを愚直にやっています。例えば今だと「一時帰国」という検索ワードので一番上に表示される特設サイトに掲載して頂くとか、「自主隔離二週間」というパッケージを大々的に出しているサイトさんに載せて頂くとか。当たり前と言えば当たり前の事なんですが、同じ物件でも出し方を変えるだけでヒットして予約に繋がるので、地道にやってます。PRについては、自社で行うよりも集客を頑張っている会社さんの力を頼った方が、今はいいかなという考えですね。

これからの民泊

-ワクチン開発が進行したというニュースに伴いairbnb株が上向きになったとの事ですが、そういった部分に対してどのようにお考えでしょうか?

藤永:今後いずれ回復するのは間違いない分野だとは思っています。ただ重要なのはその「いずれ」に向けてどうするかで、今はとにかく「耐える」時期。耐える為の販路を広げなくてはいけないですし、除菌対策をアピールして選出されやすくするといった当たり前の動きも大事にしなければならないと思っています。あとは、やはり「民泊」と言うと、宿泊施設としてクオリティが達していないんじゃないかというようなネガティブなイメージや、うるさい、なんかよくわからなくて怖い等という漠然とした不安な印象により抵抗がある人も多くいると思うので、そういったイメージから切り離す意味でも、きちんとコンセプトを立てて作りこんだ環境を提案していくような動きも試していきたいなと思い動いている段階です。

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藤永:コロナ禍において、「非接触・非対面」で基本的にはスタッフと会わなくて済む。という民泊が持っているポテンシャル自体は、本来であればニーズとだいぶマッチしていると思います。それにも関わらず今現在、市場がいまいちハネ切れていないのは、先ほど述べた「民泊」へのネガティブなイメージに加えて安っぽいという印象に引きずられている部分も大きい気もしてます。そういった点をデザイン面、施設面のクオリティを高めながら、ワーケーケーションへの対応などの機能面の補充など、全体的な部分で魅力をアップすることが重要だと感じています。これまでの民泊とは一味違う民泊、「これって民泊って言うの?」と思われるレベルの施設に改良を加える必然性があると感じていますね。

-たしかにリモートでの仕事が一般化している中、デスクとして民泊を選択するのは良さそうですね。

藤永:これまでは、需要が右肩上がりだったので、特別な事をしなくても他の民泊に比べて少しだけ良い設備を整えてairbnb、agoda、などのプラットフォームに掲載する事さえしておけば、集客は見込めていた世界だったんです。ですが、ブランディングやユニークさ(個性)で差別化を図っていこうかな、と。「民泊だから安いよね。」というイメージから切り離しつつ、利用価値の高い宿泊施設をそこそこの値段で利用できる段階へアップデート出来たらなと思っています。

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助成金・補助金から考える「今求められている事」

藤永:補助金や助成金の申請などに前向きに取り組み始めた事も変化と呼べるかもしれません。色々な問題に直面する中で、こういう対策を打たなければならないなぁ。と調べていると、助成金・補助金にもジャンルが様々ある事に気がついて。自分のやりたい事と助成金・補助金のテーマをマッチングさせていく事を沢山考えた一年だったと思います。例えばシンプルに「非接触・非対面」というテーマがあるとして、ウチの場合だったら内見をリモートで可能にする為に360度カメラの導入や、非接触の部分でスマートロックの導入で申請に活かせるんじゃないかとか。特に長期利用目的の場合、どうしても契約前に内見を行いたいという要望は未だに多く、基本的にはお断りさせて頂いているのですが、断ってしまえば成約率は当然下がってしまいます。そういった部分も360度カメラを用いた素材で内観をサイト上で確認出来ればある程度は補う事が出来ますしね。

-なるほど。

藤永:補助金や助成金って当たり前ですが、お金をばら撒いているわけでなく、当然特定の目的の為に補助を行うという事です。逆に言えば今この状況下で何が求められているのかが、補助金や助成金の申請を行う事で考えを巡らせるヒントにもなりました。勿論申請には手間がかかってしまうのですが、それでも2/3の部分が補助されるってのはかなり大きいと思います。まだまだ先の見えない中で物件のアップデートなどを行うタイミングでもありますが、無駄使いはできないという状況下、非常に補助金や助成金というものは有難いですね。

-ありがとうございました。

これからの世界で失いたくないもの。

-それでは藤永さんに最後の質問です。藤永さんがこれからの世界で失いたくないものを教えてください。

藤永:「五感で感じるもの?」ですかね。オンラインやVRなど、コロナ禍で注目は高まりましたが、やはりどう考えてもアフターコロナで「VR 観光で十分だっ!」という世界になることなんてあり得ないと思うんですよ。それと同じでZOOM飲み会で良いってことにもならないと思いますし。人と会ってそこで過ごす時間とか、集まったり、見て触れて感じて、みたいな事ってなくならないよなーって思うと、「全てがオンラインになります。」って世界は考えにくいのかなと思います。誰の目からみてもコロナが収束した後に「海外にいきたい!」「旅行にいきたい!」って世界中の人達がそうなるのは間違いないんじゃないですかね。そういった意味でも観光業自体はなくならないと信じているので、自分自身も頑張りたいですね。

Less is More.

民泊。空き家問題と急増する訪日外国人の受け皿、その双方を上手く解決出来る手段として急加速的に成長した分野のビジネスと言えるが、その加速度こそがサービスのネガティブな面のイメージを生み出した要因とも思える。藤永氏は、はっきりと今を「耐える時期」だとおっしゃていた。そしてそのスピードが置き去りにした部分に対してしっかりと向き合う姿勢こそが「耐え方」であるとやがて再び差すであろう光を迎える為に今準備出来ることは何か、しっかりと考えていきたい。

(おわり)


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