見出し画像

信頼とビジネス。スタートアップを拡張させるローカルコミュニティの構築。Timewitch代表 三浦氏・岡田氏インタビュー。

近年のスタートアップの一つのかたちとして、とてもユニークな企業がある。その名は「Timewitch」。そのビジネスモデルは端的に言うと、世界中を舞台にローカルなコミュニティを作り上げて、国内企業の生産性向上に寄与するものではないかとすら思う。
誰にでも考えつきそうで、でも誰にもできないビジネスモデルを作り上げたTimewitch。信頼関係をベースに、アイデアと気づきから始まったビジネス構築のヒントを、Timewitch代表 三浦氏・岡田氏のインタビューから学べるかもしれない。

(写真左から)株式会社TImewitch代表取締役・三浦健之介氏/同じく代表取締役・岡田崇氏

↑Timewitch公式サイト。

Timewitchのサービスとは?

-まず、Timewitchは、どんなサービスかあらためてお聞きしてもいいですか?

岡田:日本時間22時までに資料作成をご依頼いただくと、日本と7~14時間時差のある国々に住んでいる日本人スタッフが日本時間の翌朝8時までに資料を作成して納品するサービスです。時差を使うことで、日系企業の方々が寝ている間に仕事を進める環境を提供しています。

Timewitchの資料作成ビフォーアフター。資料が一晩で洗練されて届く。
(出典:https://timewitch.jp

-もう少し詳しくお聞きしてもいいですか?

岡田:日本では深夜ですが、7~14時間時差がある国…例えばブラジルでは日中です。なので、日本で寝ている間に地球の裏側で作業を進められるんです。日系企業にお勤めの方からすると、寝ている間に資料が作成されて届くので、まるでサンタクロースが資料という名のプレゼントを届けに来てくれたかの様な体験をしていただけます。逆に海外で働いている現地日本人スタッフ(Timewitchでは”Witcher”と呼ぶ)にとっては場所の制約なく日本の仕事を受けていただけます。

-日本のクライアントと海外のWitcher、双方にメリットがあるんですね。シンプルかつ、すごくユニークなビジネスモデルです!

誰にも真似できないサービスの構築。

-それにしても、かなり人的なリソースと時差を掛け合わせたアナログなサービスですね。

三浦:創業理由に近い話かなと思うんですが、岡田と二人で創業するときに、唯一無二なサービスを創りたいと思っていたんです。例えば近年流行っているSaaSスタートアップに顕著だと思うのですが、テックに特化していくと、優秀なサービスを生み出しても類似の競合が次々と生まれて薄利多売の経営方針となってしまい、その果てにフリーミアム導入という方向で無料化競争が生まれて…というケースを良く目にしますよね。

-確かに一つの課題に対して、プラットフォームが乱立して、おっしゃるような競争になる状況は散見されるように思います。

三浦:えぇ。もちろんすべてのサービスというつもりははないですが、「テックはコピーされやすい」という側面があると気がついたんです。自分達が作ったサービスがコピーされて、よくわからないうちに資本主義的な競争原理に巻き込まれていく…みたいな絵が見えた時に嫌悪感が拭えなかったんです。

-いろいろな綺麗事はあれど、苛烈な競争ですもんね。

三浦:じゃあ僕たちでしかできないサービスってなんだろう?コピーされないシステムってなんだろう?って考えて行き着いたのが、アナログなサービスだったんですよね。

-どんなところから発想したんですか?

三浦:僕が元々海外旅行が好きで留学経験もあったため、特に日本からある程度時差のある欧米諸国に友人が多かったんですね。そういう友人とパンデミック禍で情報交換していると、「仕事が無くなってしまった」という話を良く聞いていたんです。そういう友人と何か仕事をできないかなと思っていたんです。そういうやり取りの中から”時差を利用したら寝ている間に日本の仕事をしてもらえるんじゃないか?”って思いついて、これはすごく意義のあることなんじゃないかと思い起業するに至りました。

-パンデミック禍で思いついた、ポジティブなアクションでもあるのは素晴らしいです。

三浦:パンデミックの中でブラジルの感染者数が多かったのが、事業を発想できた一端だったかもしれませんね。僕自身ブラジルの格闘技カポエイラを習っていたりサッカーが好きだったりとブラジルに関心が強かったので、当時のブラジルの「失業率が高いために感染拡大よりも経済活動を優先せざるを得ず、その結果感染が拡大し当時世界で2番目の死者数を出してしまったという状況」をとてもネガティブに感じていました。社会課題というと大袈裟かもしれませんが、現地の友人たちと仕事をシェアできないかというソーシャルな意識が芽生えましたね。

事業化への障壁と二人だからこその事業モデル。

-実際の事業化において障壁はなかったんですか?

三浦:一つ問題と言えるのは、海外にいるWitcherの体制を構築するには、日本の深夜に誰かが稼働することが必要だったんです。

-確かに、現地のWitcherをマネジメントするのは、日本の深夜になりますもんね。

三浦:そうですね。しかし昼は昼で日系企業からの相談に応えないといけません。僕一人で24時間働くわけにいかないので、岡田に日中を任せることにしたんです。これこそ二人で起業した強みですね。

-日中は岡田さん、深夜は三浦さんというシフト制になったんですね。

三浦:そうなんです。実際の資料作成フローについても、僕がボストンコンサルティンググループに所属した際にかなり学術的に学んだ資料作成ノウハウをWitcherに徹底的に教育しているので、クオリティ的な部分も真似されにくいと思っています。僕と岡田、そしてWitcherと、かなり人間同士の信頼関係に紐づいたシステムなので、コピーされにくい事業モデルだと思います。まとめると、海外にパイプがある、日中を任せられる親友がいる、圧倒的なクオリティを出せる。この3つの要素を組み合わせているので、僕らならではのコピーされない事業を構築した自負はあります。

-三浦さんの事業を聞いて、岡田さんはどう思われたんですか?

岡田:実は、最初は「何言ってんだろう?」って思ってたんですよね(笑)。

全員:(笑)。

岡田:僕は三浦と比べると、海外への渡航経験とかも少ないですし、家族とか地元とか小さなコミュニティを大事にしてきたので、グローバルな発想に最初はピンときませんでした(笑)。ただ、ものすごい熱量で三浦が推してくるので、「まぁやってみるか」と思ったんですよね。

-実際に事業を進めてみて、どうでしたか?

岡田:実際に事業化をする中で「時差を利用して寝ている間もビジネスが進むって魔法みたい」だよなって思ったんです。この今までに無い新しい世界観を創るということが、自分の中でも腑に落ちていって、次第に魅力を感じるようになったんです。

信頼関係をベースに生まれるビジネス。

-こうしてお聞きすると、結構お二方の信頼関係というのがすごく大事なピースだったのかなと思います。

三浦:最初に起業意思があったのは僕だったんですね。岡田は幼馴染で仲が良かったんですが、元々音楽畑にいたり、全然ビジネス的な属性ではなかったんです。ちょうど僕が起業を考え始めた時期に、岡田も音楽に行き詰まりを感じているタイミングだったので、1年くらい毎週一度必ず二人でランチミーティングするようにしていたんです。お互いの将来のビジョンとかを1年間毎週しっかりプレゼンし合い続けるところからTimewitchが生まれているんですね。

元々二人は、幼馴染。

-1年に渡るブレスト!

三浦:1年も続けると、意志も自然と揃ってきますし、具体的な事業がなくてもこうして二人で子供の頃のように話し合えていること自体が楽しいんじゃないかと思えてきたんです。その結果、「何をやるかよりも、この二人で何かをやったらとりあえず楽しいのでは?」ということからスタートしているので、スタート時点から他の企業とは少し違う部分かなと思いますね。

岡田:本当に1年間、無理矢理ランチミーティングをしていたんです。三浦がアフリカ旅行に行っていた時も、ランチはしませんでしたが、電話でミーティングしました。「今ナミビアで高熱を出している」とか言ってましたよね(笑)。

三浦:そうだったね(笑)。

想像を超えてサービスが広がっていく。

-時差を利用して、海外でも働けるというのは、世界規模で国をまたいだノマドワークを可能にしますよね。

三浦:実は、サービスを構築してからそれに気がついたんですよ。

-意外ですね!

三浦:事業のスタートにおいて、言語や文化の壁が少ないWitcher数名と事業を進めていたんです。しばらくするとWitcherのみんなから「海外で仕事に困らない」と感謝されるようになってきたんですね。

-現地の企業で働くのはハードルが高いですもんね。

三浦:次にTimewitchが認知されはじめると「仕事がある状態で、海外で暮らしたい」という人がWitcherとして参加してくれるようになったんです。そういうお話を聞く中で「世界を巡ったり、長期滞在をしながら経済的に安定しながら暮らせる=新しいライフスタイルを提供できるサービス」だと、Witcherの皆さんに気がつかせてもらったんです。

-自分達が思ったよりも大きな事業モデルだったんですね!

三浦:今ですと20カ国を超える国でWitcherが活躍してくれています。今では、世界一周旅行をしながらTimewitchの仕事をしてくれるWitcherもいます。

-そうなんですね。ただ、距離がある分、現地のマネジメントなど大変な部分も多いのではないですか?

三浦:もちろんまだうまくいかない部分はありますが、すごく面白いことも起き始めているんです。最初はお金ベースでTimewitchに参画して下さる方が多かったのですが、次第に「好きな国で楽しく働いている人のコミュニティを創る!」というTimewitchのヴィジョンに共感してくれる方々が増えてきて、いつの間にか海外在住日本人のコミュニティと化してきているのです。現状でもアンケートを取ると僕らのヴィジョンに共感しているWitcherが7割を超えているんですね。

-距離感があるのに7割の共感はすごいですね。

三浦:そうなんです。これは僕が狙った訳では無く、自然と起きた現象だったので、途中からこの現象に合わせて、ヴィジョン共感型人材を中心にWitcherとして採用する方針へシフトしました。そうすることで、Witcherのコミュニティがさらに醸成されていったのです。

-自然とコミュニティになってきたんですね。

三浦:そうなんです。住む場所に縛られない日本人達が、自然とヴィジョンに共感して出来上がったこのコミュニティは、サービス提供側の僕らからしても計算を超えた不思議なネットワークなんです。こういった変化に伴って、マネジメントにおいても組織改造し、少しずつWitcher達に権限移譲することで自律的なワンチームとして機能し始めています。

-アナログなサービスならでは、計算を超えていくのは面白いですね。

三浦:今では、現地のWitcher同士で食事をしていたりするらしいですし、僕自身も世界中に友達が増えていくような感覚なんです。

岡田:僕は海外に1人も友達がいなかったのに、今では100人以上います(笑)。毎日がイノベーションです。中国の華僑ネットワークみたいなコミュニティを構築しているように思えてきているんですよね。

これからの仕事のあり方と未来の社会像。

-日本におけるクライアントの拡大についてはいかがでしょうか?

岡田:サービスローンチから程なくして「寝ろ。」っていうキャッチコピーがプチバズすることでクライアントが増えたんですが、今では日々納品している資料のクオリティの方で信頼を得てリピートしてくれるクライアントが増えました。スピード納品なのにクオリティが高いことで、資料作成をアウトソースするメリットを感じていただけるようになって事業が拡大していっている状況です。

SNSでもプチバズを起こした広告。コピーには、当時の二人の思いが詰まっているという。(出典:https://timewitch.jp/)

三浦:ジョブ型採用を取り入れる企業が増えているので、得意領域に特化するために資料作りをアウトソーシングするという受注の流れもありますね。僕たちの納品物のクオリティの高さから、アウトソーシングする社内文化を作るきっかけにもなったと感謝もされましたね。

-そうやって自社の業務をアウトソーシングしていくと、雇用や仕事というのが変容していくようにも感じるんですが、お二方は「仕事」「労働」というものが、未来においてどのようなものになるとお考えですか?

三浦:極論、ある意味では仕事がなくなっていくといいなと思っているんです。日本では総じて「仕事=誰かが嫌なことをやることで対価をもらえる」って捉えている方が多いと感じます。そういう意味での仕事はなくなるといいなと思いますし、なくなるべきだとも思っています。

-なるほど!

三浦:例えばTimewitchでもWitcherは、嫌なことをやっているという意識がなさそうなんですよね。みんな楽しんでくれていますし、徹底的に教育して僕の資料作成スキルを譲渡した結果、資料作りをクリエイティビティー溢れる仕事だと感じてくれている。そういうWitcherを見ていると、現在多くの人が感じているような仕事の在り方ではなく「仕事=遊び」になるといいなと思います。仕事と遊びの垣根がなくなって「一生遊んでいたら人生が終わった」っていうのが理想だと考えていますね。

-それは、理想的ですね。

三浦:そういった理想のためにも、機械でもシステムでもサービスでも、より早く私たちから仕事を奪って欲しいと考えています。色々なことを手放したその先に、次の時代が自然と立ち上がる。これは、自分自身の体験から実感するんですが、嫌なことや向いていないことをアウトソースしたり、システムに任せたりすることでやりたいことだけにフォーカスできるようになっています。

-実際に実感としてあるんですね。

三浦:こういう大きな流れは、世界的にも不可逆だと考えているので、どうせそういう世界が来るのなら、早く来てほしい。いわゆる「加速主義」ですが僕はこの考え方に共感していて、この大きな流れのスピードを上げることで”人間が本当にやるべき仕事”を考えられる世界が早く到来すると思っています。

岡田:僕もその考えには共感しています。仕事と遊びが同義になれば、その時々で個々人が興味を持っていることがそのまま仕事になり得る世界が来るかもしれない。そのためにも、社会や世界という少し大きな視点で仕事を捉え直すことが必要だと思っています。

-なるほど。

三浦:もちろん、加速の過程において、能力や収入の格差が生まれてしまうこともあると思います。近年では話題にのぼることも多いベーシックインカムのような社会制度を実装すれば誰もが「遊んで暮らす」ことはできるかも知れない。稼げる・稼ぎたい人はきちんと稼いで、そこからちゃんと富の再分配ができればいいと考えています。

-経済的な幸福みたいな軸だけではないですもんね。

三浦:先進国に生まれた人間として、「嫌々働いてお金を稼ぐ時代」の先の時代を後進国に示すことで、後進国が「嫌々働いてお金を稼ぐ時代」を経験せず次の時代に進む、所謂リープフロッグ現象を起こさせる責務がある、と思っています。南の島のような牧歌的な暮らしをシステムがきちんと支えているようなロールモデルを構築するのが、先進国の義務ではないかと。そういう大きな流れの中で、僕たちの事業を進めています。

ローカルなコミュニティが気づかせてくれること。

-Witcherの皆さんと構築したローカルなコミュニティから、どんどん世界の捉え方が変わるのはすごくエキサイティングですね。

三浦:世界中の情報が集まる中で、逆説的に日本の良さも再認識できるんですよね。

岡田:医療費の制度が素晴らしいとか(笑)。

三浦:普段の生活では気がつきにくい日本のポジティブな側面もたくさんあります。まずは実現可能な範囲で、少しずつ世界を変えていきたいと思っています。

これからの世界で失いたくないもの。

-では最後に、これからの世界で失われてほしくないものを教えてください。

岡田:僕は「感動」ですね。仕事の中でも日々あるんですけど、クライアントにも「感動しました」って言っていただけます。お金の付き合いではなくて。事業を一緒にブーストするためのパートナーみたいに考えていただけているのは、僕自身の感動でもあるんで、すごいことですよね。感動がなくなってしまったらつまらなくなっちゃいますよね。

三浦:僕は「人と人の繋がり」ですね。将来的に国や場所に縛られずに生活を営む人も増えると思いますし、既にフリーランスで生きていく、結婚をしない、子供を作らない、といった選択をする方も増えています。これにより個人主義が進んだ結果、孤独が問題になっていると思うんですね。孤独に対抗するために、人間関係の豊かさをどのように構築するかが課題だと思っています。でも仕事という名の遊びがあれば、それが一つの人間関係を構築するきっかけにもなると思っています。人と人の繋がりを、僕はすごく大事にしたいと思っていますね。

Less is More.

スタートアップ企業の中でもアナログに特化したユニークなビジネスモデルを構築しているTimewitchのインタビューはいかがだっただろうか?
ビジネスありきでなく、人間同士の信頼関係を拡張するためにビジネスが機能している姿は、実はこれからのビジネスのあり方として新しいようにも感じた。ビジネスのための人ではなく、人のためのビジネス。
私たちはすでに、ただ信頼できる仲間と集まりローカルなコミュニティを創ることをビジネスと呼べる世界にいるのかもしれないとすら考えさせられるインタビューだった。

(おわり)


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

公式Twitterでは、最新情報をはじめ、イベント情報などを発信しています。ぜひフォローお願いいたします。