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地質学から考える大量絶滅と気候変動。寒冷化の可能性。東京大学名誉教授 磯﨑行雄氏インタビュー。

地質学の研究は、地球が歴史上何度もの大量絶滅を繰り返してきたことを明らかにしている。
近年、気候変動によって私たちの生活は変わり続けている。この時代、私たちが何をするべきなのか、磯﨑行雄氏にお聞きした。取材時は、非常に繊細な温暖化のお話をファクトと仮説を丁寧により分けながら、時にデータを元に丁寧に語っていただけた。ぜひ、最後までお読みになっていただきたい。

磯﨑行雄:理学博士。1978年大阪市立大学理学部卒業。山口大学助手、東京工業大学助教授を経て、2000-2021年 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授。2007年アメリカ地質学会フェロー、日本地質学会賞。2019年日本地球惑星科学連合フェロー。現在:東京大学名誉教授、大学院総合文化研究科特任研究員。

磯﨑:チバニアンってご存知ですか?

-チバニアン?

磯﨑:「国際標準模式地」と呼ばれる、ある地質時代を代表する模式的な地層が観察できる崖のことです。昨年、千葉県市原市の地層がこの「国際標準模式地」の一つに選ばれたんです。これによって新生代の一時期、約77万4千年前〜12万9千年前までの時代がラテン語で「千葉の時代」を意味する「チバニアン」と名付けられたんですよ。

-へー!すごいですね!

磯﨑:日本は地震大国なので、過去に海底で堆積した地層がその後も乱されずに残ることは稀なんですが、ちょうど2つの地質年代の境界をまたいだ連続的な地層が奇跡的に残っていたんです。日本は、欧米に比べて地質学の歴史が浅い国なので、チバニアンは日本から世界に提示できる初めての例となりました。このような異なる地質時代の境界が、今日のお話で大事になります。

-今日はよろしくお願いいたします。

磯﨑:お願いいたします。

大量絶滅で時代が変わる。

-すごく簡単な質問からお聞きしたいんですが、先ほど出てきた新生代〜とかカンブリア紀〜とか、時代が細かく分かれているのは、なぜなんですか?

磯﨑:世界のあちこちの地層の崖を、私たち地質学者の先輩たちがハンマーで叩いて、世界中から化石を集めて、その積み重なり順序を基に、過去の地質時代を区分したのです。現在では、多くの地質時代の境界について、その前後に溜まった火山灰などを放射線年代測定することで、各々の地層が何億何千何百万年前のものであるかまでわかるようになりました。

-何か基準があって、細かく分かれているんですか?

磯﨑:地層のつみ重なり順序と、各々の地層からの産出化石を整理すると、化石の種類がある地層区間ごとにバサッと入れ替わっていることが分かります。例えば、古生代の地層からは三葉虫というカブトガニのような動物、中生代からはアンモナイトや恐竜、新生代は私たち哺乳類と、活躍した化石動物の種類が違います。

-なぜ生物って、そんなにバサッと入れ替わっているんですか?

磯﨑:その理由が実は「大量絶滅」なんですよ。特に大きな絶滅は5度起きていて、「ビッグファイブ」と呼ばれています。前の時代の化石生物が、ある境界を境に別の生物に入れ替わることを具体的に確認することによって、ある地質時代と次の時代という大きな区分ができるのです。

-え!全部絶滅なんですか??

磯﨑:そうです。地球の歴史から見ると、絶滅というのは決して珍しい事ではなく、規模の大小は様々ですが、最近の5億年間だけでも20〜30回は起きています。◯◯紀というのは、◯◯代の間にもっと小さな絶滅が複数回起きた結果、区分されたわけです。
絶滅といっても、全ての生物が死滅するわけでなく、しぶとく生き残る生物達がいます。しばらくするとそれらが絶滅後の環境に適応できるニュータイプの生き物として多様化します。しばらくすると絶滅する…。地球はこのプロセスを繰り返してきました。

-なるほど!

絶滅の理由は、隕石?火山噴火?

-それほど頻繁に地球では絶滅を繰り返してきたことに驚きましたが、どんな理由で絶滅するんですか?

磯﨑:恐竜の絶滅は、ご存知の方も多いと思います。

-隕石が落ちたとか聞いたことがありますね。

磯﨑:そう!中生代の白亜紀という時代の最後に、巨大な隕石が落ちたことによって大規模な絶滅が起きて、中生代は終わりました。巨大隕石が衝突した北米南西部を中心に高温で森林が丸焼けになったり、地球を数周も回った巨大津波が起きたと推定されています。衝突現場以外にも様々な影響が及び、地球全体の生物の多くが死滅したんです。

-壮絶な状況ですね。そうして中生代から新生代へと切り替わったんですね。

磯﨑:この隕石衝突という説明は、1980年、僕が大学院生の頃にアメリカで発表された説でした。その精密な証拠と解釈の雄大さに本当にびっくりしました。地球上の生物の運命が、地球の外からの力で決まってしまうことに愕然としたわけです。このような解釈が出る以前から、過去の生物は何らかの大きな環境変化で絶滅したのではないかと考えられてきましたが、具体的証拠なしの想像に近い説が多かったのです。

-どのような根拠から、隕石衝突と大量絶滅が証明されたんですか?

磯﨑:中生代・新生代境界の地層に限って、地表にはほとんどない「イリジウム」の濃集が見つかったんです。イリジウムは、極めて貴重な白金の仲間の元素です。そんな元素が大量絶滅時の地層にだけ溜まったのは異常なことだったんです。それから研究が始まり、最終的にはそのタイミングにできた巨大な(直径200 km)クレーターがメキシコで発見され、隕石衝突事件が実証されました。

-それにしても、壮大なお話です。

磯﨑:白亜紀末の恐竜絶滅は皆さんよくご存知の通りです。ただ、恐竜は巨大な生物ですが、他の生物に比べると個体数は少なかったのです。もっと数が多かったアンモナイトやプランクトンが世界中で絶滅したことの方が生物全体にとってより深刻でした。何故、海の動物がそれほど影響を受けたのかという謎については、その当時の地球環境変化の研究から多くのことがわかります。

-他の絶滅についても、隕石衝突が原因なんですか?

磯﨑:他の時代の絶滅境界の地層からは、イリジウムが全く出てこなかったのです。なので、他の4つの絶滅の原因は長い間分かりませんでした。近年では、古生代末(ペルム紀末)の絶滅原因は「巨大火山噴火」だったのではないかとみる説があります。

-ペルム紀は大規模な火山噴火で絶滅したんですか?

磯﨑:ロシアのシベリアに、めちゃくちゃ巨大な火山噴火がおきたという証拠が見つかっています。東西および南北に2000 kmにも及ぶ地域が短い期間に厚い溶岩に覆われました。

-2000km!!!本州が1500kmなので、それより広域なんてすごいですね。

磯﨑:火山噴火の際には溶岩だけでなく大量の火山ガスが出ます。その中に多く含まれる二酸化炭素が大気に放出され、その温室効果が途轍もない温暖化をもたらして、当時の80%以上の海の動物を死滅させたと想像する研究者たちがいます。

ペルム紀の大量絶滅と地球温暖化。

-このペルム紀の大量絶滅は、現在起きている地球温暖化の問題解決のヒントになるのではないかと言われていますよね。

磯﨑:おっしゃる通り、多くの研究者がこの説を温暖化と絡めて語ることが増えましたね。僕自身は、過去の絶滅原因の説明するためにグローバル・ウォーミングを想定するという解釈は、ナンセンスだと思っています。少し気をつけて語るべきですが、決して私達の日常生活におけるSDGsや気候変動対策のすべてに反対しているわけではありませんよ。

-グローバルウォーミングについては、どのようにお考えですか?

磯﨑:現在の地球が温暖化しているというのは動かすことができない観測事実です。この100年間、平均気温が上がり続けてきたのは、データを見れば明らかです。ただ、その原因が、人間活動によるCO2だけの問題かというと、そうとはいいきれません。
大気CO2による温室効果も、同様に確実な物理過程です。僕が問題だと思うのは、こうした事実や物理法則は良いとして、それだけをつまみ喰いして「人間が排出したCO2だけが原因で最近の温暖化が起きている」という風に議論がすり替えられていることです。

-あぁ。そうすると他の原因に目が向きにくくなりますよね。

磯﨑:巨大火山噴火によるCO2増加で温暖化するという論理だけ見ると、古生代末の絶滅原因研究は、温暖化対策の参考になるように見えますが、 実際には大気CO2だけが地球環境変化の全てを決めるわけではありません。それゆえ、その頃に巨大噴火が起きたというだけでは、古生代末の絶滅原因を説明できないのです。そのことを知らないと「現代も古生代末と同様ににCO2で温暖化して、多くの生物が絶滅するかもしれない」という短絡的な議論に陥ってしまうわけです。

-火山噴火もCO2増加も事実だけど、絶滅の原因かどうかは証明できていないということですね。

磯﨑:ペルム紀絶滅の原因は諸説ありますが、過去の海水準変動のデータは、絶滅当時に大きな海水準低下が起きたことを記録しています。温暖化なら海水準は上昇するはずですが、観測事実は正反対の結果を示しています。私達は、実は地球規模の寒冷化が絶滅の一番大きな原因だったと考えています。では、なぜ地球寒冷化が起きたのか?
ここから先は、まだ完全には実証されていない段階なので、ちょっとSFじみた話だと思って聞いてください(笑)。

海水位と歴史を照らすグラフ。

-1つの可能性としてお聞きします。

磯﨑:私たちの研究チームは、すでに論文として発表もしているのですが、古生代末の絶滅当時の地層から、ヘリウムという元素(ガス)の異常なシグナルを見つけました。通常のヘリウムという元素は、4Heで占められていますが、この元素の同位体である極めて稀な3Heが観測されたのです。3Heは、太陽系ができた際にできた元素で隕石などには多く含まれます。でも、今の地表にはそんな昔の奇妙なガスは残っていません。そんなに稀な3Heの濃縮が絶滅時の地層からだけ発見されたので、これは宇宙から何らかの影響があった証拠だと考えています。

3Heの観測結果。

-あぁ!それこそ隕石衝突を証明する初期でイリジウムが見つかったような段階なんですね。

磯﨑:でも、先ほどのイリジウムの説明は、直径10 kmくらいの巨大隕石が高速で地球に衝突したというものですが、3Heについては同じような解釈はできません。なぜなら隕石の高速衝突が起きると、衝突地点は大変な高温度になり、隕石中に含まれていた軽いヘリウム(ガス)は、簡単に宇宙空間へ逃げてしまうからです。そこで、3Heを地球に持ち込んで地層中に保存するためには、ヘリウムを含んだ微小な塵が宇宙からゆっくりパラパラと地表に降り注いだのではないかと考えています。このような塵が大量に落ちている間は太陽の光が遮られ、地球規模で寒冷化する可能性があります。でも、分析した地層には、その塵そのものが多分小さすぎてまだ見つけられていません(笑)。

-研究がどうなるのか、楽しみですね!それにしても、宇宙の話まで出てくるのはすごいことです。

磯﨑:過激すぎるかもしれませんが、あまり地球上だけで考えない方がいいのではないかと思っているんですよね。

-先生はペルム紀の大量絶滅の原因は、温暖化よりも寒冷化の可能性が高いと考えられてきましたね。

磯﨑:僕は地球外原因を考えて、絶滅を含む地球での事件を全て統一して説明する「プルームの冬」仮説を提唱しました。

-「プルームの冬」?

磯﨑:ごく簡単にお話しすると、地球の温暖化・寒冷化の大きな原因は、地球に降り注ぐ宇宙線の多い少ないが決めているという考えです。超新星の爆発などに由来する宇宙線が強いと、地球の大気分子が電気を帯びるようになり、その分子の周りに水蒸気が濃集して、雲の粒ができやすいことが知られています。なので、宇宙線流入が多い時は曇り空が続き(寒冷化)、少ないと毎日ピーカンの天気(温暖化)になるはずです。一方、地球内部ではプルームという巨大で間欠的な物質移動が起きているのですが、それが地球の磁場の強さを変化させます。磁場が強い時は宇宙線をはねかえしますが、弱くなると大量の宇宙線が地球大気に侵入します。つまり地球内部の磁場強度の変化と地球表層の温暖化・寒冷化が対応しているという統一的解釈です。

-宇宙線の影響で、万年曇り空になってしまうんですね。

磯﨑:銀河宇宙線の強弱よりも、もっと大きな影響があると考えているのは超新星爆発によって生まれる「暗黒星雲」の通過です。暗黒星雲は太陽系を包み込むほど大きさを持つ巨大な雲状の塊で、向こう側の明るい星の光を隠すのでそう呼ばれています。実際には微小な塵の集合体で、太陽系が巨大な暗黒星雲にすっぽり包まれると、太陽光がブロックされて地表が冷え込んでしまう。天文学の観測データと比較すると、過去の超新星爆発と絶滅の時期との間に対応があるように見えるので、さらに研究を続けています。

-そのチリの塊が、先ほど塵のように降り注いだ3Heなのかもしれませんね。

超新星爆発はコンスタントではなく、時期によって爆発的にできる時期がある。この時期と5回の絶滅の相関について研究を続けている。

磯﨑:先に紹介した「宇宙線・雲仮説」という研究もあって、宇宙線はスーパーカミオカンデなどで計測もされていますから、これから色々なことが明らかになるといいなと考えています。

-仮説とはいえ、めちゃくちゃ壮大なお話でワクワクしますね!

温暖化?寒冷化?

-とはいえ、データ上も、体感としても温度も上がっていますし、現在起きている温暖化は、すごく怖いなと思います。

磯﨑:安心材料になるかどうかわかりませんが、歴史的に見ても、人類が大量の化石燃料を使うより以前にも温暖化した時代は何度もあったんですよ。

-そうなんですね!

磯﨑:10世紀あたりの中世の記録をあたると、日本もヨーロッパもほぼ現在に近いくらい温暖であったことがわかっています。ちなみにグリーンランドって、今では氷の島で知られていますが、なんでグリーンランドという名前がついたのか分かりますか?

-当時は、凍っていなかったんですか?

磯﨑:そうなんです。バイキングの祖先が農業をして定住していたという記録があります。そして、その後、ヨーロッパに小氷河期が訪れました。ロンドンを流れるテムズ川は、16世紀には冬の間凍りついていたという記録があります。毛皮商人が氷の上で秋から春までずっと商売をしていたなんて記録まであるくらいです(笑)。

-(笑)。

磯﨑:要は、人間誕生後の歴史だけを見ても、見事に温暖期と寒冷期を繰り返してきました。自然現象の観点から見ると、現在起きている温暖化もそんなに特別なことではないのです。
ただし、現在の温度上昇はちょっと急激すぎるというのも事実です。確かに気温の上昇速度は歴史上観測にないスピードで上がっているように見えるので、私も人間活動の影響は完全に無視できないと考えています。

-なるほど。

磯﨑:私が伝えたいのは、人間活動による影響と地球全体が持つ長い周期の変動、この2つがオーバーラップしていることです。地球の周期を考えると、人類は目の前の温暖化だけでなく、やがて起きる地球寒冷化にもきちんと備える必要があると考えています。

-寒冷化にも備えないといけないんですか?

磯﨑:地球は約10万年周期で温暖化・寒冷化を繰り返しています。一度のサイクルの中で、比較的温暖な間氷期1万年・とても寒い氷期9万年という割合で分かれています。これは非常に規則正しく、その記録の美しいグラフが示されています。現在は、間氷期の最中なんですが、実は始まってから1万年が経過しようとしています。

-えぇ!?地球のサイクルからすると、そろそろ間氷期が終わりそうなんですか?

磯﨑:はい。いずれ遠からぬ将来に氷期が来るので、地球寒冷化はほぼ確実に起きます。1万年続く間氷期に入って、もう1万年がすぎたわけです。
じゃあ、その寒冷化が明日来るのか、来年来るのか…それは明言できません。
因果関係が必ずしも明確でないにしても、CO2による温室効果で温度が上がっているのは事実だと思いますが、地球の周期といったマクロな視点から考えると、いつ訪れてもおかしくない氷期にも注意をしないといけない。さまざまな視点からリスクを想定するのが大事だと思います。

-温暖化も怖いですが、氷期が来たら怖いですね。

磯﨑:しかも、今までのサイクルに照らすと、氷期が始まれば9万年も続くわけですから。

-氷期になったらどうなるんでしょうか。

磯﨑:人類の歴史から見ても、気候が寒冷な時期には食べ物がなくなるので、民族の大移動と戦争が起こります。風土病も持ち込むので、パンデミックも起こります。
中国の歴史を見ると、歴代王朝が倒れたのは決まって寒冷期でした。温暖期は、食べ物も豊富で、人々も割とのんびりやっていけるんです。でも、寒冷期になると食べ物が取れなくなる飢饉、そして暴動が起きて、その時の王朝が倒れたんです。

-確かに寒いと食物も育ちませんからね。それにしても、来るとしたらいつ来るのか、恐ろしいですね。

磯﨑:寒冷化の予測に有効なのが、太陽黒点の数と言われています。黒点数と寒冷化には対応があり、綺麗な11年周期でアップダウンします。増えた時のピークの高さは、数十年から百年オーダーのもっと大きな山や谷を作ります。最大の山ができた時期が最も太陽が元気で、地球が温暖化したことが過去の記録から読み取れます。20世紀は大きな山に当たり、温暖化が起きましたが、21世紀に入り、今ピークが下がり続けています。2035年に谷底になりそうで、その頃が小氷河期になる可能性もあると言われています。

-先ほど話されていた16世紀のような状況になるかもしれませんね。

磯﨑:もちろん、無駄に恐怖を煽る意図もありませんし、科学者としては「絶対」ということは明言できません。ただ、温暖化の論者が圧倒的に多い中、一般の皆さんが温暖化にのみ目を向けすぎて、寒冷化については全く意識していないのはちょっと怖いと思います。

-現在起きている温暖化は事実として真摯に解決を進めつつ、少し長期的な視点でも考えないといけないのかもしれませんね。

磯﨑:現在の温暖化一辺倒の議論だけが白熱しすぎた状態は、異常と感じています。

私たちは、あらゆる状況を考えておくべきだ。

-磯﨑さんは、これからの人類が絶滅しないために、どうしたらいいと思いますか?

磯崎:一言で言うと、人間が増えすぎていると思います。旧石器時代の遺跡の分布や密度、村落の規模などから割り出すと、世界には推定500万人くらいしかいなかったのではないかという研究があるんですよ。

-そんなに少なかったんですか?

磯﨑:食物連鎖が成り立つ自然の中で、狩猟採集をベースに暮らす動物の一種としては、それくらいが全地球の適正人数なのかなと思うわけです。今は80億人ですから、単純計算で1600倍になったわけです。人間が増えすぎてしまったしわ寄せが他の動物にまで波及しています。その観点から考えると、自然淘汰での多様性減少もやむなしと思ってしまいます。
私たち人類は、自然のエコシステムの中でデザインされてきましたが、そのエコシステムを自分達で破壊してしまった。行く末は、絶滅しかないのかもしれないとも思います。

-お話お聞きしながら、家族の顔が浮かんでしまいました。

磯﨑:私も、今の子供たちやさらに後に続く世代のことは本当に心配です。だからこそ、あらゆる状況に備えておくべきだと思うんです。
そもそもマクロな視点で地球の歴史を見ると、実は現在は異常ともいえるほどCO2が少ない時代とも言えるんです。

-そうなんですか!

磯﨑:地球の両隣にある金星・火星は、誕生の仕方が地球と同じ「地球型惑星」と言われています。原始太陽系円盤から粒ができ、それを元に軌道ごとに星が誕生しました。それらの星と、地球を構成する元素の比率から考えて、地球誕生時は約300気圧もあり、大気中の95%がCO2だったそうです。現在の空気1気圧中の二酸化炭素濃度は0.03~0.04%くらいなので、桁違いですよね(笑)。

-えー!ほとんど二酸化炭素の星だったんですね。

磯﨑:もちろんその時期の地球は、マグマが表面を覆っているような状態ですので、生物は生存できませんでしたが、ともかく地球は元々そういう星だったということです。やがて宇宙空間に熱が逃げて地表が冷え、大気中の水蒸気が水滴として落ちて海ができました。

-なぜCO2が減ってきたんですか?

磯﨑:25億年前以前と以後で、大気の酸素量は劇的に変わりました。光合成をするバクテリアが生まれた結果です。それ以降の地球は、CO2を使ってO2酸素を作り続ける星になりました。なので、私たち人間が生存できるかどうかはさておき、地球の歴史から見ると、現在は、非常に二酸化炭素が少ない時期なんです。それを前提に人類は生まれてきました。ところが人工的に地中から石炭・石油を掘り起こし燃やすことによって、元の地球に戻そうとしているわけで、ある意味滑稽ですらありますね。

-むしろ、今が奇跡のような瞬間なんですね。色々な可能性を想定して、備えていきたいと思いました。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。磯﨑さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

磯﨑:「考えること」です。考えることをやめたら終わりですよね。どんな未来や運命が待っているかわかりませんが、常に人類にとってのベストソリューションは何かを考えていくこと。それをやめたら人間ではなくなってしまうのではないかと思っています。

Less is More.

磯﨑氏は温暖化に限らず、あらゆる可能性に備えておく重要性について話してくれた。
取材後もフィールドワークの重要性や、ご自身の経験をたくさん語ってくれた。例えば、誰もいない野山を駆け回ったことや、金の採掘をしていると勘違いされたこと、一人フィールドワークを終えて暗闇の中で一人考えたこと…研究者の孤独と楽しみについて、詩的に語っていただけたことを心から感謝している。

(おわり)

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