エコーチェンバー可視化システムで世界の終わりに気がつけるか。東京大学/鳥海不二夫教授インタビュー。
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エコーチェンバー可視化システムで世界の終わりに気がつけるか。東京大学/鳥海不二夫教授インタビュー。

コロナ禍で、SNSを舞台にデマや炎上といったネガティブな事象に拍車がかかる中、「エコーチェンバー可視化システムβ版」をリリースした東京大学大学院工学系研究科教授・鳥海不二夫氏。Twitterアカウントでログインするだけで誰でも無料で使えるこのアプリは、自分自身がどれくらいエコーチェンバー現象の中にいるのかを見える化してくれる。ここ数年注目を集める「エコーチェンバー」についても改めてお話をお聞きした。

海辺

鳥海不二夫:計算社会科学者。1976年生まれ、長野県出身。東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻博士課程修了。2021年より東京大学大学院工学系研究科教授。専門は計算社会科学で、SNSや炎上の定量分析研究で知られる。http://syrinx.q.t.u-tokyo.ac.jp/tori/
↑今回、鳥海先生が作成したエコーチェンバー可視化システムβ版。Twitterアカウントがあれば、無料で使える。

ロボット・心理学を経て計算社会科学へ。

-鳥海先生のキャリアをお教えください。

鳥海:元々はロボットを作りたくて東京工業大学・工学部制御システム工学科で制御工学を学んでいたんですが、その後計量心理学の研究で博士号を取得し、現在の「計算社会科学」を専門的に研究し始めました。

-「計算社会科学」ってどのような学問なんですか?

鳥海:計算社会科学とは、基本的には社会科学をコンピュータサイエンスの力を使って研究する学問です。AIですとか自然言語処理など、今までの社会科学では扱っていなかったテクノロジーやいわゆるビッグデータを使って実験・研究をします。大きな目的は社会科学と同じで「社会の在りようをきちんと理解すること」とご理解いただければ。私たちは未だ、自分たちが所属している社会について知らないことが多いんです。

-「社会の在りよう」をデータから紐解くと。

鳥海:えぇ。現代は今まで扱えなかった膨大なデータ…移動データや、位置情報、購買情報など、あらゆるデータを貯め込む時代になりました。例えば、江戸時代の人々が実際にどのような暮らしをしていたか、現代に生きる私たちでは想像しきれない部分はあります。でも、今の人々の行動に関してはかなりのデータが残っているので、未来の人々は私たちがどのように暮らしていたのか、我々が江戸時代の人のことを理解しているよりもはるかに詳細を描けると思いますよ。

-なるほど。社会科学って私たちの生活にもなにか関連があるんですか?

鳥海:計算社会科学はデータから社会を観ようという研究ですが、データから社会全体がどのようなものかをきちんと描きだすことで次のフェーズである、どういう社会にしようかということが見えてくる。例えば、人の移動データをきちんと取得することができれば災害時に被災者を支援するシステムを作れるかもしれませんし、混雑予測などはすでに社会実装されています。現在の社会の在りようを正確に分析することでより良い社会を描くための研究でもあります。

-その中でも、鳥海先生の専門はどういった内容なんですか?

鳥海:私は、人間の集団・行動を分析して、社会とはどういうものなのかを理解することを専門としています。

-それにしても、ロボットの研究から心理学…社会科学と様々な研究をされてきたんですね。

鳥海:ロボットって言うことを聞いてくれないんですよ。正しく動かない要素がたくさんある。機構・回路…ひとつ間違うだけで動かないので、面倒になってしまって(笑)。そこで人間を対象にした心理学をはじめてみたら、人間もまるで言うことを聞かないんです。心理実験の際、丁寧に内容を説明しても、絶対違うことをやる。それと比べるとデータは、そこに存在しているものを研究するので、とても研究しやすいんです(笑)。

-なるほど(笑)。

鳥海:私自身の興味の対処は人間にあるのかもしれません。コミュニケーションであるとか社会の動き、みんな知っているようで実は知らないということを、人々の行動のログであるデータを使って明らかにしていこうとしています。

エコーチェンバーとは何か?

-鳥海先生が作った「エコーチェンバー可視化システム」のことを聞く前に、あらためてエコーチェンバーってどうやって理解したらいいでしょうか?

鳥海:人間は様々なコミュニケーションを日夜行なっていますよね。その中で、誰しも嫌な意見とか不都合な意見は聞きたくないわけです。気の合う仲間と和気藹々と過ごしたほうが楽しいですよね。自分と意見の合いそうな人を取捨選択していって、自分と似たような価値観を持った人とばかりつながっていたほうが心地よいと感じられます。そうすると、自分の思想や発言に同意が集まりやすくなります。これ自体は本人にとっては心地よい空間となります.自分が意見を言った時に周りからやまびこ(エコー)のように同じ答えが返ってくると、自分の意見は正しいんだと安心できるわけですね。ただ、周囲が同じような価値観を持っていることで、違った価値観に気がつけなくなってしまうという問題があります。自分の周りの意見を皆が支持してくれる正しい意見だ,という信念が強くなり,その信念と合致しない意見や価値観を受け入れられなくなったり、世間一般では受け入れられない価値観を受け入れてしまうことがあります。これがエコーチェンバー現象です。

-SNSでのコミュニケーションが活発になってから、このエコーチェンバーが問題になりやすいと捉えてらっしゃいますか?

鳥海:エコーチェンバー自体はSNS以前のリアルな場でも起きていましたが、SNS登場以降で可視化されたというのはひとつあります。あとは、普通に暮らしているだけでは、同じ意見の仲間を見つけるのは、そんなに簡単なことではありませんでしたよね。歩いて探すわけでもないですし(笑)。例えば雑誌の読者投稿コーナーなどで、同好の士を見つけるくらいしか手段がなかった。SNS以降は、そういった同じ意見や同じ価値観、同じ趣味の仲間を見つけるのが簡単になったことで、エコーチャンバーが起こりやすくなり、注目されるようになったのだと思います。

-なるほど。

鳥海:SNS以前でも、例えば宗教団体が起こした事件などは、エコーチェンバーが引き起こしたとも言えるかもしれません。SNS以降で可視化はされましたが、SNSはあくまでツール。SNSが悪いというような論調も見かけますが、それはちょっと違うと考えています。

「エコーチェンバー可視化システム」とは?

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↑エコーチェンバー可視化システムでは、タイムラインのエコーチェンバー度/タイムラインコミュニティ/フォロー関係のエコーチェンバー度/リツイートのエコーチェンバー度などが可視化される。

-ようやく「エコーチェンバー可視化システム」のお話ですが、そもそもどういった目的で作られたんですか?

鳥海:実のところTwitterのAPIを眺めていて、作れそうだから作ってみたのですごい崇高な目的があるわけではないんですよね。というとありがたみがないので、エコーチェンバー…情報の偏りは誰しもあるわけで、それが見える化することで気づきを得ることができるんじゃないかと考えたということにしておいてください。

-実際にどのように可視化したり、情報の偏りを表示させるんですか?

鳥海:ごく簡単にいいますと、Twitter全体のツイート…あらゆる全アカウントフォローし、神のように俯瞰した状態があるとします。それと比較して自分自身のアカウントのタイムラインでどれくらいズレた発言をしているのか、偏った人をフォロー・リツイートしているのかを比較すると言うシステムです。

-全てのアカウントとの比較…すごいですね。実際リリースして、どんな反応でしたか?

鳥海:皆さん概ね楽しんでいただけたようで良かったです。平均に収まっていればエコーチェンバーではないとしているので「人並みだった」と安心される方が多かったですね。反応というのとは少し違うかもしれませんが,ウィキペディアのアクセスログを見ると、アプリをリリースしてからウィキペディア日本語盤の「エコーチェンバー」へのアクセスがめちゃくちゃ増えてました。なので、エコーチェンバーという言葉を広める意味では成功だったかなと思いますね。

-確かに、私もウィキぺディアを見ました。

「エコーチェンバー可視化システム」と分断。

-SNS上では特に意見の食い違いからいわゆる分断が起きやすくなっているように感じています。そういった問題を解決する手段としても「エコーチェンバー可視化システム」は有効なのかなと感じました。

鳥海:情報って言葉は、取り扱いが難しいですが…ここではニュースサイトなど人が知るべき狭義の「情報」という意味です。そういった狭義の情報をどのように取得し、理解し、取捨選択するのかということを考える必要性が出てきていると考えています。

-なるほど。

鳥海:こうした情報の取捨選択する際にエコーチェンバーが働くことで、本来だったら得られるはず、得られたはずの情報がそもそも自分の手元に来ないということが問題になります。もし仮に、偏りなく情報を見ることができたら手に入ったはずの情報が手に入らない。私たちはそういった超俯瞰的な視点を持ち得ないので、そういった手に入らなかった情報が手に入っていないことにすら気がつかない。この気づけないという所が、最大の問題だと思っています。気づけないから,自分が得ている情報がすべてだと思ってしまい,異なる価値観の存在に気づき辛くなってしまう可能性があります.ですので、エコーチェンバー可視化システムを使うことで、自分が知らない情報があるということに気がつけるきっかけになったらいいなと思っています。

-知らない情報があると気がつけるのは面白いですね。

鳥海:このシステムを使ってくれた方の感想の中に「自分はこんなに偏っているはずはない。自分は満遍なく情報を見ているんだ。」というものがありました。そういう方にとっての世界に存在する情報はそこで終わりなんです。自分自身が、その先に広がりのない、閉じた世界にいることに気がつかない。それはやはり健全とは言えないと思います。ただ、こうやって可視化システムで見える化しても頑なに「自分は大丈夫だ」と考えてしまう方もいるので、なかなか難しいものですね。

-ちょっと怖い状況ですね。

鳥海:私は、偏っていること自体を否定しているわけではないんです。誰しも大なり小なり、偏っています。でも、その偏りは認識するべきではないかと思っています。そもそも自分が偏っていないと思う人がいたとしたらその時点でだいぶ偏っているんではないかと思います。例えば、デマを拡散するようなアカウントって、全体で見るとほんの数パーセントなんです。でも、その数パーセントは確実に存在している。本当に偏りのないアカウントであれば、そういったデマでさえタイムラインに出てこないとそれは偏ってないとは言えませんよね。だけど、そうはなっていない。おそらく偏ってない人はいないんです。

-偏ってない人はいないと聞くと、少し安心しますね。

鳥海:情報過多の時代と言われるように、情報が溢れかえっていて、一人の人生では見きれないくらいの情報が溢れています。情報可処分時間と呼んでますが。人間は1日に平均1時間くらいしか情報収集のために使わないと言われています。情報が増えれば増えるほどこの1時間の意味が変わってきますよね。数十年前だと新聞を隅まで読むと、知りたいことも知りたくなかったことも含めて大体1時間で多様な情報が得られたのではないでしょうか。一方で、ウェブの情報量は新聞に収まるレベルではないですから、取捨選択の手段として検索や情報推薦などに頼ることになります。その結果、自分の欲しい情報だけで1時間が終わってしまうんですね。それはコミュニケーションでも同じことが言えて、SNSを使って自分の好きな人の情報を集めるだけで、情報可処分時間を消費してしまっている。

-情報可処分時間の過ごし方でどんどん偏ってしまう。

鳥海:これは、人間の欲求と結びついた根源的な問題とも思えます。自分の欲求に従った1時間を過ごす…その居心地の良さの副産物・代償がエコーチェンバーであるとも捉えることもできるわけです。

-なかなか根深い問題ですが、こういった問題はなにかシステム側・プラットフォーム側で対策できることはあるんですか?

鳥海:システム的に無理やり解決する方法はいろいろ考えられていますが、おそらくそう簡単には解決をする方向には向かわないと思います。先ほど言った通り、情報収集行動は、根源的な欲求にしたがっているわけで、偏りのない情報が観れることは実はあまり望まれていないんですよね。居心地の悪いことをわざわざする人は少ないですから。これには経済的な理由も絡んできますよね。

-経済的な理由?

鳥海:結局プラットフォームを運営しているのは企業で、そのほとんどが広告モデルを基盤に利益を生み出している。なので、顧客の興味を引くような記事をできるだけ提供しなければいけない。顧客が望まない情報を与えるわけにはいかないわけです。その結果として、個人の趣味嗜好にあう情報が提供され偏りが増幅されるという構造が存在します。このような経済構造はアテンション・エコノミーと呼ばれており,情報の偏りを生み出す要因の一つといえるでしょう。

エコーチェンバーとどう向き合うか。

-鳥海先生ご自身は、エコーチェンバーに陥らないようにされているんですか?

鳥海:前にも言った通り,前提として、エコーチェンバーの中にいること自体は、悪いことではないんですよ。例えば、食事で考えてみると、誰しも目の前に好きなものと嫌いなものがあったら好きなものを選んで食べますよね。だからと言って、好きなものだけを暴飲暴食すると体を壊しますし、肥満になったりします。

-なるほど!

鳥海:情報についても同様で、現代社会はそういう暴飲暴食期というか、好きな情報だけを食べて太りきっているような状態と考えることができます。自分が何を食べているか、そして足りないものは何かを理解することが重要ですよね。それを理解したうえで、好きなものを食べたり、苦手なものを栄養のために食べたりすることも必要なんだと思います。自分自身が、甘いものを食べ過ぎているな…と理解することが重要で、気がつくことで行動にもつながりますよね。

-「エコーチェンバー可視化システム」は、そのきっかけにもなりそうですね。

鳥海:その通りです。まさに健康診断に近いツールとも言えます。偏りに気がつくきっかけになってもらえるとよいですね。SNSはネガティブなこともありますが、本来的には人と繋がるためのシステムです。それは、基本的には幸せなことだと思うんですよね。インターネットで、同じ価値観の集うことはとても良いことです。だからこそ、自分以外の人が持つ価値観も同様に認め、理解しあえるようになるとよいなと思います。そう簡単な話ではないでしょうが。

これからの世界で失いたくないもの。

-では最後に、これからの世界で失われてほしくないものを教えてください。

鳥海:こういう、ちょっと意識の高い質問は、苦手なんですよ(笑)。諸行無常の世の中で、遥か未来、最後には地球は太陽に飲み込まれて全ては失くなってしまうと思っているので。その意味では、それまでの間くらいは私のような意識の低い系の人たちが生きていけるといいなと思います(笑)。

-そんな(笑)。今日はありがとうございました。

Less is More.

鳥海氏は、要所要所で煙に巻きつつも、非常に真摯にお話いただく姿が印象的だった。一番印象的に残るのは、鳥海氏はずっと人間の在りようを考えてらっしゃる哲学者のようにも見えたということ。そして、自分自身を理解しようとしないことを「世界の終わり」と表現されたことが、深く心に残っている。

(おわり)


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