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不必要な格式やしきたりへのこだわりを失くし町寿司文化の存続を目指す。出張寿司「鮨川」 代表 ・ 早川太輔氏インタビュー

寿司。説明が不要なくらい日本人に慣れ親しんだソウルフード。まわりを見渡せば、回転寿司、高級寿司、テイクアウト専門の路面店、スーパーでもコンビニでもデパ地下でも、ありとあらゆる価格帯とバリエーションの寿司を手に入れる事が出来る。そんな中「出張寿司職人」という店舗を構えずに寿司を提供するスタイルの寿司職人がいる事をご存知だろうか?早川太輔氏は、都内近郊であれば、その身ひとつで寿司を握りに行く出張寿司職人。老舗酒屋の角打ちスペースにクラウドファンディング(達成率211%)で寿司カウンターを設けるなど、フレキシブルに寿司を拡散させていく職人は、寿司の在り方について今何を思うのか。お話を伺った。

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早川太輔:出張寿司職人 回転寿司職人、IT系会社員を経て、西麻布で修業ののち出張鮨職人として独立。不必要な格式、しきたりを壊し新しく美味い鮨を目指す。

待たずに行く。それが出張寿司のスタイル

ーまずは出張寿司「鮨川」の営業形態について教えてください

早川:大まかには、二パターンあるのですが。個人のお宅や小規模のパーティに握りに行くパターンと、BARや酒屋さんなどのフードメニューの少ないお店へ寿司のオペレーションをしに行く事です。パーティへの出張のシチュエーションとしては主に、家族周りのホームパーティや、友人同士の集まり、会社の内部での催事などですね。お店への出張は、単発の場合もあるのですが、提携して月に何回か開催みたいな感じで定期的に握っています。

↑鮨川のスケジュールはこちらをチェック
【料金体系】
・個人宅などへの出張は、200貫(4万5千円〜)が基本料金(追加可)でオファー可能。
・提携先のお店での定期出張寿司ではキャッシュオンで一貫ずつのオーダーが可能(開催店によりセット内容等異なります。)

ーフリーランスでスタートされていますが、なぜ「出張」寿司だったのでしょうか?

早川:今の出張寿司を始める前は、新規で出店した西麻布の寿司屋で握っていたんですが、土地柄もあって価格帯も高く、一見さんが入りづらい。予約の入っていない日はお客さんが一人も来店しない日もあって、その時にお客さんを待つ辛さを嫌というほど味わったんです。そういうこともあって、独立したら待つのではなくこちらから行く寿司屋をやろうと決めていたんです。

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ー独立は勇気のいる決断だと思うのですが、出張寿司への勝算はあったのですか?

早川:実は西麻布の寿司屋に勤めている頃から平行して、知人の家で握ったり、知り合いのお店で握ったり、今やっているような事に近い事を始めていて、独立しても採算がとれそうな見通しはたっていたんです。あとは人に雇われる事も嫌になっていたので(笑)。
今のような形でスタートしました。

ー個人宅に出張寿司を行う一方で、定期的に握る場所として、クラウドファンディングを利用して酒屋さんの裏に寿司カウンターを作られたと聞きましたが、どのような経緯があったのでしょうか?

早川:杉並区阿佐谷にある「酒ノみつや」という酒屋さんなんですが、元々は西麻布の寿司屋の取引先だったんです。そこのお店は酒屋の裏で立ち飲みが出来る「角打ち」と呼ばれるスタイルで営業されているのですが、乾き物以外のフードメニューがなかったんです。出張寿司職人として独立するタイミングでそこの店主から「毎月定期的に裏で寿司を握りませんか?」とお声がけいただいて、そういった流れでクラウドファンディングを立ち上げて、寿司のオペレーションができるように改装したんです。今でも月に何度か、定期的に握りに行っています。

自分の寿司は脇役でもいい

ー鮨川のお寿司のコンセプトはなんでしょうか?

早川:日本酒に合う寿司」がコンセプトです。シャリは一口サイズよりもう少し小さめで、寿司を肴として食べて、お酒も入るような小ぶりのサイズにしています。程よく日本酒に合うように、シャリには赤酢を使用しているのも特徴です。あとは、お客さんの飲む・食べるの邪魔をしないように、醤油もこちらで塗ってから出すようにしています。

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ーなぜ日本酒に合う寿司なのですか?

早川:日本酒を出すお店で働いていた事も関係していると思いますが、自分の好みも大きいかもしれません。少し大げさな言い方になるんですが、寿司は主役でなくて良いとも思っているんです。

ーそうなんですね。

早川:中心に会話やお酒があって、その場を彩るような形でお寿司が存在してくれるのが理想の形ですね。

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ー早川さん自身がお酒のオペレーションを行わないことも関係していますか?

早川:そうですね、勿論一人なので作業量的に無理っていう理由もあるんですが。お酒のオペレーションには、おもてなしする側へのリスペクトがあるので、あくまで鮨川は、そこから一歩引いた立ち位置からホストのお手伝いをする。というような意識でいます。小さい頃から目立つ奴の側にいるようなタイプの子だったんで、自分の性格的なところも関係してるかもしれません(笑)。

ーなるほど。レギュラー開催で出張寿司を行なっている提携先のお店では、ただ単に寿司を握るだけでなく、様々な企画を行われているとお聞きしたのですが。

早川:定期的に握らせてもらっているお店の枠で、「寿司合コン」(予約制で参加者を集い、早川さんが寿司を握る)「利き酒、利き寿司会」(お酒の銘柄や寿司ネタの味利きをする)などを行いました。あとはイレギュラーで提携先のお店ではないのですが、音楽ライブでライブ会場のケータリングのような感じで寿司を振舞ったりもしました。

ーなるほど、多様ですね。中でも利き酒、利き寿司は、食に関する知識も増えて面白そうです。

早川:利き寿司は、同じネタで天然のものと養殖のものを用意して、それぞれ味の違いを味わってもらうような内容で行いました。酒も寿司も知ってもらって食べた方が、より味わい深く感じる事が出来ますし、何よりそういった話題が酒の席に似合いますからね。そういった企画は、お客さんとの会話の中から自然と発生して開催してるものが多いですね。知人の女の子に「出会いがないんだけど。」と相談されてやってみたのが「寿司合コン」です。音楽イベントの方も、ミュージシャンの方から「俺たちが歌うから、そこで寿司出してよ。」って言われてライブ会場で振る舞う事が決まったり。寿司は意外とイベント事と相性が良いんです。

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早川:寿司はあらゆる食べ物の中でも気軽に食べれるものだと思ってます。うちの寿司は醤油を塗って出すので、そのまま何もつけずに食べられるし、箸もいらない、手元を見なくても口に運べるから、ライブの様な演者に集中したいイベントとも相性が良い。

ーなるほど、そういった視点で寿司を捉えた事がなかったので新鮮です。

早川:先ほど、寿司は主役でなくて良いと言ったのですが、寿司も酒も同じくらい好きで、何よりそれを人が楽しんでいる様子を眺めているのが好きなので、イベントもそういう全ての要素がミックスされてトータルで楽しめる空間が出来ている時が嬉しいですね。

ー耳馴染みのないような珍しい寿司ネタを用意されているのも、その場を楽しんでもらうような仕掛けのひとつでしょうか?

早川:珍しい魚は仕入れの値段を抑えられるのもそうですが、珍しいってだけで話のネタになるじゃないですか?何よりそういった話題が酒の場に合うと思っているので。だから同じグレードで味も良いならなるべくなら、まだあまり知られてないような魚をチョイスするようにしてます。

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↑事務所にて。オオニベ(宮崎)の仕込みの様子。

ー握る場所を固定しない理由があれば教えてください。

早川:出張寿司で提携しているお店は複数あるのですが、月一開催くらいで各店を回るのが理想ですね。月一回だとその店のお客さん的にも特別感が味わえますし。収益的な面の話をすると、やはり毎日連続して同じ店で展開してしまうと下がってしまうので、月一くらいが売り上げが集中して良い感じなんです。お店側も月一というレア感で集客を稼げるし、うちからしてみれば各店をまわることで、それが毎日続くように開催出来るので、高収益をキープ出来る。お互いにとってメリットがありますね。

【定期的に出張寿司を行なっている提携先のお店(取材時現在2020/9月)】
酒ノみつや(阿佐ヶ谷)、アトリエ/atelier (下北沢)、やまちゃん(新宿御苑)、岸田屋酒店(長津田)、三益酒店(赤羽)、麹町いづみや(半蔵門) など、ほとんどが酒屋さん。

気取らずに行ける、ほんのちょっとだけ特別な町寿司

ー気軽に楽しめるような配慮を随所で感じるですが、それは狙いですか?

早川:他所を批判するわけではないんですけど、寿司の高級化があまりに進みすぎてるなぁとは思います。お寿司食べて「5万円」とかになっちゃうと気軽に行けないじゃないですか。僕自身としては客単価はお酒代込みで5千円〜1万円くらいが丁度良いかなと。寿司は「日常だけどちょっと贅沢」くらいのポジションにしておきたいなって思うんです。あまり特別すぎない感じ。

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ーそれはなぜですか?

早川:高級思考の店舗や回転寿司とか100円寿司は増加傾向にありますが、それはもう別の路線で、いわゆる町寿司って減ってきてると思うんですね。ちょうど良い値段の寿司屋。店主の高齢化など色々事情はあると思いますが、特にコロナの影響もあって沢山閉店しちゃっているし。しっかり町に根ざして、酒とも合うお手軽な寿司屋が存在してないと日本の寿司文化が廃れていくような危機感があるんですよね。

ーコロナの話が出ましたが、鮨川にもダメージはあったんですか?

早川:完全に廃業を覚悟しましたよ(笑)。緊急事態宣言あたりはバタバタと予約はキャンセルになって、4月5月は出張で握る仕事はゼロになりました。規模が全て10人〜15人くらいで、あの時期は少しでも人が集まるとNGだったので。

ー回復はいつ頃からされたのですか?

早川:6月頃から少しずつ回復してきて、身内だけや小規模で少し集まろうみたいな流れからか予約も復活してきました。ちょうどその頃、当日キャンセルをされた日があって、魚の仕込みも全て終えた後のキャンセルだったので、流石にこれはどうしようもないなと思ってSNSで呼びかけてみたんです。「仕込んだ魚が沢山あるので、都内ならどこでも届けます。」って。そしたら思いの外注文が殺到してしまって、それで急遽折詰の寿司弁当にして宅配したんです。その試みは良い感触があったので、お盆の時期も限定で注文を請け負ってみたり、今後も年末年始など機会があれば行なってみようかな、と思っています。新しい武器がひとつ増えました。

ー怪我の功名じゃないですけど、幸いしたんですね。

早川:割と適当に転がった事が良い方向に向かうことがあって、うちのガリもそうなんですけど。ある日お客さんに「早川さんってガリも作るよね?」って言われて反射的に「あぁ作れるよ。」って。なんとなくその場の雰囲気で答えたものの新生姜もない時期で、さてどうしようってなって、それで試行錯誤して美味いガリが出来上がって、今じゃうちの定番になってます。

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↑自家製のガリの仕込み。「生姜をスライスから仕込むとこは珍しいんじゃないかなー。」と早川さん。

ー鮨川も出張以外の展開を考えられてるのでしょうか?

早川:店舗を構える予定はなくはないですね。今、鮨川には三人の板前がいるんですが、それでも手数が不足している状態で板前を増やしたいなとは思っています。板前自体を増やして行きたいという思いが根底にあるので、そういった流れから、日替わりで握り手が代わるような寿司屋を展開するのはありかなと思っています。

ー出張寿司からスタートして店舗を出す流れは面白いですね。

早川:というのも、一人で始めた出張寿司が収入的にも安定し始めて、これから展開して継続していくには自分の単価を上げるか、人を雇うか、というフェーズにきていて。それで昨年、法人化して職人を二人増やしたんです。自分の理想とする日常使いの寿司を沢山供給したいし、町寿司も増やしたいので、しっかり町に根ざして、酒とも合う、寿司屋を作りたいな。ってのはぼんやり思っています。勿論、お客さんをビックリさせるような鮨川ならではの仕掛けも織り交ぜられたらと、考え中です。

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これからの世界で失いたくないもの。

ーでは、最後の質問です。この先の未来に、早川さんが失いたくないものは何ですか?

早川:それはもう寿司ですね。あとは「ワイワイ」。人と人が集まってワイワイすることはなくなってほしくないですね。コロナ禍で一度は減少した個人宅への出張寿司が徐々に回復したことから見ても、やっぱり人間みんな集まってワイワイしたりすることを我慢できないと思うので。

Less is More.

江戸鮨の起源を調べてみると、諸説はあるが出張寿司らしい。出張寿司や立ち食いの屋台から始まり、店舗型が増えてきたのだという。今となってはそちらの方が珍しく、一見奇をてらった作戦のようにも思えるが、予約フォームのサービスなどを駆使し、現代人の生活様式に合わせたサーブの仕方をする鮨川のやり方は、寿司本来を正しくアップデートした形式のひとつと言えるのではないか。

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(おわり)



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