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「池袋シネマ・ロサ」がみる映画館のこれから。ロサ映画社 代表 伊部知顕氏インタビュー。

東京 池袋で約80年間もの長きにわたって映画文化を支えてきた「池袋シネマ・ロサ」。この歴史ある映画館は、映画産業の波を超えて、今メジャーの映画配給と別の道を模索している。

2024年3月に代表取締役に就任した伊部知顕氏に、これまでの歴史と、これからの展望についてお話いただいた。また、「池袋シネマ・ロサ」は、日本の総合アミューズメントビル「ロサ会館」の一角で運営されている。この歴史あるアミューズメントビルについても合わせてお聞きした。

伊部知顕(いべさとあき):ロサの創業者・伊部禧作氏から数えて3代目、池袋駅西口に近い大型アミューズメント施設「ロサ会館」を運営する株式会社ロサラーンド取締役として活躍中。2024年4月に株式会社ロサ映画社 代表取締役社長も兼任。

-まずは、池袋シネマ・ロサの歴史からお聞きしてもいいですか?

伊部:昭和21年に、製薬会社を営んでいた祖父・伊部禧作がはじめました。
祖父は、戦後復興において娯楽が持つ役割は非常に重要だと、考えていたそうです。

-昭和21年というと1946年ですから、まさに終戦直後ですね。戦後の日本で映画って一般的なものだったんですか?

伊部:実は、戦前にも無声映画や、大正ロマンを扱った作品、アメリカ映画は、モガ・モボ(モダンガール・モダンボーイの略称。 大正末から昭和初期の流行の先端をいった洋装の男女のこと)と呼ばれる人たちにとって、数少ない娯楽・文化としてかなり根付いていました。むしろ、戦中の僅かな時期だけ、相手国の映画が楽しめなかっただけなんですよ。データで見ると、戦中が一番儲かったみたいですね。

-へー!戦中においても映画は、庶民にとっての数少ない娯楽だったんですね。

伊部:そのようですね。映画ファンは、戦中に楽しめなかったアメリカ映画を渇望していたようで、戦後のシネマ・ロサは大隆盛しました。その資金を元に1968年に娯楽を集めたビル…今でいう「アミューズメント総合施設」を作りたいということで、ロサ会館の開業に至りました。

シネマ・ロサがあるロサ会館。ゲームセンターからビリヤード、ボウリングや飲食店まで、さまざまなコンテンツを楽しめるビルだ。

-すごい挑戦的ですね!

伊部:挑戦的ではありますけど、あまり戦略的な計算はなかったんじゃないかと思いますね。その証拠に、オープンしたはいいけど、テナントが全く集まらずに倒産しかけていますから(笑)。

-そうなんですね(笑)。

伊部:それも当然で、当時は住居の1階を店舗貸しする「仕舞屋(しもたや)」と呼ばれる賃貸の形態くらいしかなくて、「テナント」なんて考え方がありませんでしたからね。そもそもロサ会館自体がほぼ日本初のアミューズメント施設だったんですよ。

-まだ、アミューズメントが産業として成立してなかったんですね。

伊部:オープンと同時にピンチで、大変な苦労をしたそうです。祖父も私の父・季顕(ロサラーンド株式会社代表取締役社長)に「なんとか考えないと、建築費が払えないぞ」なんて話していたらしいです(笑)。

-確かに戦略的ではなかったことがわかりますね(笑)。

伊部:そんなわけで、父が当時仕事先で紹介頂いた太東貿易の代表ミハエル・コーガンさんと掛け合って、ピンボールやクレーンゲームを置いたゲームゲームコーナーを作りました。ダメだったらすぐ撤去できるだろうという考えでした。これが現在のタイトー・ステーションの1号店なんですよ。

-あぁ!太東=現在のタイトーですね!

伊部:今もとてもいい関係を築いていますよ。

-ちなみに当時の池袋ってどんな雰囲気だったんですか?

伊部:まぁ、私もまだ生まれてませんでしたが(笑)。聞くところによりますと当時から「新宿」「渋谷」と並んで「副都心」と位置付けられていましたが、池袋には昭和30年代にもまだ闇市が残っていたそうで、開発は若干遅れをとっていたようです。
ロサ会館がある西口には、豊島師範学校(現学芸大学附属小学校)や移転前の成蹊大学、立教大学などがあったので、学生たちで賑わっていましたし、少し離れたところには池袋モンパルナスと呼ばれるアーティストのコロニーがあって、アートの土壌もありました。

-そうなんですね。

伊部:一方の東口には、まだ巣鴨拘置所(通称「巣鴨プリズン」)があったので、現代ほど明るい雰囲気ではなかったと思いますね。

-まだまだ開発途上の街だったんですね。

伊部氏がまとめた「戦後池袋の娯楽文化とロサ会館」。(「大衆文化」第十五号 別冊/発行所:立教大学江戸川乱歩記念文化研究センター)

映画館は試行錯誤の時代へ。

-話を映画館の方に戻させてください。ロサ会館として事業拡大した後も、現在に至るまで映画館は大事にされてきたんですよね?

伊部:私たちにとっては、祖業ですからね。ただ、映画館もロサ会館の一つのコンテンツ、つまり「アミューズメント」の一部として捉えていたのかもしれません。そもそも、祖父自身も映画が大好きだというわけでなく、そもそも映画に詳しい同級生に現場の支配人を任せてました。

-あぁ。映画に過度な思い入れもなかったのかもしれませんね。経営的にも俯瞰してみれていたからこそ、続けてこれたのではないでしょうか?

伊部:祖父は製薬業が主でしたからそれはあったのかもしれませんね。

-1975年からは、過去の名作を楽しめる「名画座」としても運営されていましたよね。

伊部:色々なことやってるんですよ。マニアックなフランス映画に力を入れていた時期もありましたし、あまり大きな声では言えませんがポルノに力を入れてた時期もあったそうです。実は、その時期にすごく儲かってたなんて話もあるくらいです(笑)。

-いつの時代も欲望には逆らえないですね(笑)。

伊部:稼げればいいってもんでもないので、やめましたが、ともかくかなり色々なことを試してきました。

-なぜ、それほど色々な挑戦をされてきたんですか?

伊部:シネコンの影響はすごく大きかったと思いますね。シネコン以前は、東宝さんや松竹さんなどの大手配給会社との関係性で成り立っていました。
そういった大手配給会社が、自前の映画館を持ち、ビジネスとして拡大していく中で、池袋シネマ・ロサのような小さな映画館は配給の優位性が下がっていきました。やむなく、色々な試行錯誤をしていかないと生き残れなかったんですよ。

-試行錯誤をせざるを得なかったわけですね。

伊部:池袋にもここ4~5年で東口にTOHOシネマズさんやグランドシネマサンシャインさんといった大型シネコンができました。それによって、上映作品数や座席数が大幅に増え映画館の比重がが完全に東口に移行してしまったんですよ。だからこそ、当館はは実験的かつ独自性を帯びらざるを得なかったんです。

インディーズ映画は活路になるか?

伊部:メジャー配給会社の役割は、煎じつめて言うなら「広報・広告」なんです。メジャー配給会社やシネコンと私たちのような小さな映画館は、そもそも産業構造が違う。「映画館」という括りで、現在はシネコンと同じ土俵で語られてますが、どうにかそこから離れたいわけです。
私たちがお預かりしてる作品はメジャーの作品のようには大きなプロモーションができないわけですから、敵うわけがない。だから、もっと根本から考え、変えていかないといけないと思っています。

-なるほど。

伊部:誤解して欲しくないのは、メジャー配給会社とは役割が違うというだけで、敵対視するわけではありません。助け合いながらやっていくことが必要だと思っていますよ。

-具体的には、どんなことを変えていけばいいのでしょうか?

伊部:私は、インディーズ映画を切り口に変えていきたいと思っています。近年、撮影機材や手法が進歩したことで、インディーズ映画制作する裾野が広がったので、たくさんの作品が生まれています。
そういった状況を背景に池袋シネマ・ロサでは、2018年から「インディーズフィルム・ショウ」というのをはじめました。まだまだ規模は小さいですし、宣伝もきちんとできてないんですけどね。

-「インディーズフィルム・ショウ」?

伊部:インディーズ映画の中でも、配給会社がついていない作品には、発表の場がないんです。そういった作品をレイトショーの時間帯に上映しています。上映を通して、制作スタッフやキャスト自ら集客や興行までを経験してもらっています。これからの映画文化を支える人々の学びの場になるといいなと思うんです。

-素晴らしい試みですね!

伊部:いずれ、ビッグになって帰ってきてくれたら…と願っています(笑)。

-(笑)。

伊部氏は、わざわざ当メディアに併せて私物の「LESS IS MORE」Tシャツでお越しいただいた(笑)。

-興行的には、うまく行っているんですか?

伊部:ビジネス的にはかなり厳しいです。当館のような200席近いキャパシティの映画館では一週間フルハウスにし続けるのはかなり難しいです。

-なかなか大変なのですね。

伊部:やはり経営の側面から、シビアにならざるを得ないこともあります。一方で、明らかに客入りは悪いと予想できても、挑戦したい作品もあります。
だから、お預かりした作品を、我々ももっとアピールする必要がありますし、インディーズ映画制作側と二人三脚で集客の努力していかないといけないですよね。

-あぁ。映画館も、制作チームも共に集客を頑張らないといけない。

伊部:そうするには、一つ一つの作品に丁寧に向き合うことが必要ですが、デジタル化で上映作品が非常に多くなっているので、現状難しくもあるんですよ。

インディーズ映画と作品のデジタル化。

-デジタル化ですか?どういうことですか?

伊部:以前は、リールで上映していたので、1日で一つの劇場で2作品の上映が限界だったんです。デジタルデータでの上映となると、リールを変える手間もないので、いくらでも作品が上映できるんです。

-データを変えるだけでいいから簡単なんですね。

伊部:それでも作業があるので簡単ではないですが(笑)。なので、多い日は一つの劇場で5作品近くを上映することもあるくらいです。作品の消費サイクルがどんどん速くなっていて、それらを宣伝するだけでも、大変な労力で、現場がどんどん大変になります。

-あぁ。デジタルで楽になるかと思いきや、結果的に大変なんですね。

伊部:良い側面、悪い側面、どちらもあると思います。ただ、当館としては、自分達が魂を込められる作品に絞り、制作者ともがっぷり四つに組んで、魂を込めた上映にシフトしたい。そのためにも今の状況は改善しないといけませんよね。

-そうできたら、とても素敵ですね。

伊部:いいことやっても、それをしっかりとビジネスにしないと続きませんからね。僕はインディーズ映画が儲けられないとも思っていないんです。

-インディーズ作品で成功した事例はあるんですか?

伊部:「カメラを止めるな!」はK’s cinemaさんと、池袋シネマ・ロサの2館上映をきっかけに火がつきました。制作予算約300万円の作品が、最終的に興行収入30億円を超えたわけですから、成功事例と言えると思います。「カメラを止めるな!」の制作スタッフやキャストは、毎日のように舞台挨拶に来てくれたり、興行への意識も非常に高い皆さんでした。

-成功の裏にすごく泥臭い努力もあったんですね。

伊部:他にも「14歳の栞」も素晴らしいあり方だと思います。2021年の公開以降、未だにソフト化していないんですよ。安易にソフトや配信せずに、映画館に足を運び、見て体験してもらうことを非常に大事にされている作品だと思います。

-アイデア次第でも、色々な可能性があるんですね。

伊部:えぇ。「14歳の栞」は今年も当館で上映しましたし興行としても成立しているロングラン作品です。映画館は、クオリティが高くて長く上映できるものを常に求めていますから、こういう作品はすごく可能性を感じます。

-メジャー配給とは別の可能性はまだまだあるわけですね。

伊部:うちでの上映をきっかけに、地方の映画館で上映されることもあるんですよ。池袋シネマ・ロサがインディーズの登竜門のようになれたらいいなと思っていますね。一部ではなってるかもしれません。

小さな映画館の人格を創ること。

伊部:ところで、逆にお聞きしたいんですが、池袋シネマ・ロサをはじめとする小さな映画館って、何やってるか分かりづらくないですか(笑)?

-えぇっと・・・正直に言いますと・・・「はい」・・・(笑)。

伊部:そうですよね(笑)。お客さまから指摘されることもあります。僕自身でさえ、どういう映画館なのか、まだ十分説明できません。劇場のアイデンティティが一般的に認識されてるように思ってません。業界内では認識されてると思いますけどお客様が認識してるのかは疑問です。なんかマニアックな映画やってる映画館だな位の認識なのではないでしょうか?

-劇場のキャラクターということですね。

伊部:そうなんですよ。先ほどお話ししたように、上映作品も多くなっていますし、すごく分かりづらいですよね。私が代表になってから約二ヶ月ですが、少しずつこの分かりにくさを改善していきたいと思っています。

-どんなことを改善する予定ですか?

伊部:一番大きく変えないといけないのは先ほど言いました「映画館のアイデンティティ」を形成することだと思っています。

-「映画館のアイデンティティ」?

伊部:シネマ・ロサにはどんな個性があって、どんな映画館なのか、もっと分かりやすいコミュニケーションにしていかないといけないと思うんです。例えば、ポスターや掲示板のフライヤーにちょっとした吹き出しをつけてみるとか、スタッフ一人ひとりが日常業務の中で工夫していくことが大事だと考えています。

-映画館の人格は、関わる人々によって創られるということですね。

伊部:えぇ。知らなかったいい映画に出会える個性的な場所でありたいし、そのためには、私たちがお預かりした作品をわかりやすくお客様に伝えるための努力をしないといけない。
そういう映画館にするために、スタッフ一人ひとりが、日々誇りを持って働くことが大事だと思っています。
シネマ・ロサは、映画業界においては、歴史もあって、ある程度の認知もされていると思いますが、世間一般から見るとまだまだ知られていませんからね。

-そうしてこそ、シネコンと楽しみ方の差も描けるのかもしれませんね。

伊部:そう思います。舞台挨拶やゲストスピーカーをお呼びしてのイベントなども企画しているんです。近々、LGBTQについて学べるイベントなども開催予定です。
シネマ・ロサに来てよかったと思ってもらえるように、映画だけでなくその周辺の体験価値もデザインできるといいですよね。

-映画館の個性や人格は、映画以外のところでも伝わるのかもしれませんね。

伊部:「体験」というのはすごく大事にしたいですね。映画館では、全く知らない人同士が、同じ映画を見て、泣いたり笑ったり、自宅ではなかなか再現できない音響を体験できます。スマホも開かずに2時間も作品世界に没入できるのも、現代では貴重な体験かもしれませんよね。

-確かに。

伊部:もちろん世代によっては、それを価値と思わないかもしれませんが、私たちはそういう「体験」こそ伝えていきたいと思っています。単純にいい映画を観ると、スカッとしますからね(笑)。

-しますね(笑)。

伊部:僕の考えるアミューズメントって、そういうスカッとするようなものなんです。私たちの強みは、映画館だけでなく、ビル全体にゲームセンター・ビリヤード・ボウリングなどのアミューズメントがあります。どれもスカッとするでしょ(笑)。

-(笑)。お祖父様と同じく、映画館はアミューズメントの一つと捉えてらっしゃるんですね。

伊部:ロサ会館は、「モダンセンスアミューズメントセンター」というコンセプトを掲げてスタートしました、ここ10年くらいで僕は「アミューズメントライフスタイルセンター」へと変えてきました。もっと皆さんの日々の営みの中で、ロサ会館にフラッと立ち寄って気分良く帰って欲しい。お客様のライフスタイルの一部になれたらと思っています。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。伊部さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

伊部:「ヒューマンタッチ」、つまり人間同士の触れ合いですね。日本の現在の諸問題を見るとコミュニケーションの不全が、社会の立ち行かなさの原因になっているのではないかと思っています。
これからは、もっとコミュニケーションや、そこで起きる感覚・感情を大事にしていきたいですね。人間同士の触れ合いは、傷つくこともありますけど、大切な感情を呼び起こしてくれるトリガーにもなります。サービスにおいても、もっとコミュニケーションを大事にしていきたいです。

Less is More.

シネコンとは違う、映画館とアミューズメント施設のあり方、いかがだっただろう。
映画文化を守っていくためにも、小さな映画館にぜひ足を運んで欲しいと思う。きっと新しい体験ができるはずだから。

(おわり)


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