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熱海に失われた青春を再び。お土産から地方再生を考える。ハツヒ株式会社代表・横須賀馨介氏インタビュー。

「お土産」と聞いて頭に浮かぶものはなんだろうか。銘菓、置物、ステッカー、キーホルダー。もらって素直に喜べるもの、そうでないもの様々だ。お土産を選ぶ際の基準も色々で、職場の人数に丁度いいもの、相手が好きそうなもの。もしくは、自分自身の思い出として…。

様々なシーンを想定し「お土産」を真面目に考え、地方の持つ魅力を伝えるツールとしてクリエイティブや提案を行うハツヒ株式会社の代表取締役 横須賀馨介氏にインタビューを行なった。

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ロゴTシャツから提案するオリジナルお土産

ーまずは横須賀さんの事業内容を簡単にお聞かせください。

横須賀:「観光地や日常のハレのシーンをもう一度、青春させる」という事をテーマに、主に観光PRとお土産プロデュース、ブランド再生を行う事業です。

ーお土産プロデュース?

横須賀:その町の歴史やシーンを作ってきたお店(個人店、ホテル、喫茶店、レジャー施設)にフィーチャーして、Tシャツやプロダクトなどのお店オリジナルのお土産を制作して提案する事業です。

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ーなにかきっかけがあったのですか?

横須賀:今一緒に組んで活動しているライターやデザイナーの仲間が、熱海の老舗ホテル「ホテルニューアカオ」が、熱海の観光風景を作っているひとつのファクターである事に着眼して「ニューアカオのロゴの入ったTシャツがお土産として手に入ったらいいなー。」と発案したのがきっかけです。そのアイデアを元に僕がプランニングをして、一緒にアカオさんに提案書を持ち込んだんです。

ーアカオさん側のリアクションはどうだったのですか?

横須賀:「これが本当に魅力的で需要あるの?」といった感じでした。というのも、昭和時代からロビーで使用しているカーテンやカーペットやソファなどを含め、イメージのリニューアルを検討されているタイミングだったみたいで。自分たちとしては、積み重ねてきた歴史や先代の想いなどが宿ったホテルニューアカオのそのままの雰囲気を次の時代にも引き継いでいってほしいな。と思っていたので、どうにかその流れを食い止めたかったんです。アカオさん側にもご負担にならないよう最初は小ロット少数から提案させて頂いたのと、オリジナルのお土産の開発をするだけのお土産業者という立ち位置ではなく、ホテル自体のブランディングやPRや熱海の観光PRも同時に行っていくという提案もさせて頂いて、試しに売り場に置いて頂いたら即完売したんです。

ーすごいですね。

横須賀:その成功例をきっかけにお土産売り場全体のリニューアルも任せて頂く事になり、こちらとしても商品を拡充させていきたかったので、手ぬぐい、トートバッグ、バスタオル、キーホルダーと様々なオリジナルグッズを制作しました。アカオさんにはアカオリゾート公国という系列グループがあり、その中のロイヤルウィングというホテルさんの売り場も作らせて頂けることになりました。

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↑ホテルニューアカオのロゴTシャツ。ホテル売店のみの販売で現時点で600枚以上の売上がある。

横須賀:これはアカオさんをはじめとする全国の宿泊施設やレジャー施設さん等と取引させてもらう中で気づいたのですが、「観光」って3つの段階に分解すると、まず広告(宣伝物)を目にして行き先を決める。そして目的地に着いて観光・サービスを味わう。最後にお土産を買って帰る。に大まかに分けられるんじゃないかと。例えば経費を削減しなければならないといった時に一番先にカットされつのは前後の二つで、この事はサービスの質を守る為には仕方のない事なんですけど、実は前後二つが人を呼び込む為には重要で、ロゴTシャツなどは、お土産がそのまま広告になるので、そこに注力しましょうってご提案はさせて頂いてるんです。

ーたしかに人が着用していたらどうしても気になってしまうデザインですよね。

横須賀:若い人に限らず、その施設を昔から利用されているリピーターの方やファンの方にも人気が出た事が面白かったですね。アカオさんに限らずですが、創業時からあるロゴの持つ魅力に、内部で長く働かれている方ほど気付いていないというケースが多い事も発見でした。その為、クライアントによっては新しく今っぽいシュッとしたものに作り変えたグッズの提案を望まれるケースもあるんですが、僕らとしては、そうではなく古くからあるものを再編集して長く愛されるロングセラーを作っていきましょうと提案させて頂いているんです。

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お店を始めることから考えた横須賀氏にとっての「広告」

ーそもそもになるのですが、なぜ「お土産」だったのでしょうか?

横須賀:少し長くなりますが、経緯をお話しします。実は2017年から2019年までみやげと憩いの店「論LONESOME寒」というお店を熱海に構えたんです。

↑「論LONESOME寒」の公式インスタグラムアカウント。

横須賀:僕は元々東京で会社員をしていて広告業界にいたのですが、ある日、広告批評の天野祐吉氏/島森路子氏「広告20世紀」という本と出会い、その中で広告の歴史を振り返っていたんです。明治時代頃まで遡ると今大手として成功を治めている菓子メーカーも化粧品会社も、最初は小さな一件のお店からスタートしていて、創業者自体が「広告マン」として躍進したからこそ今に繋がっている。という事に気付きました。そこで自分も本当に広告が好きで広告を知りたいのならお店をスタートするところから始めなきゃいけないんじゃないか。という考えに至り会社員を辞めて熱海に移住してお店を始めたんです。

ーすごい決断ですね。

横須賀:お店を始めることは決めていたのですが、どういったお店を展開していくのか、具体的なプランなど決めないままに移住した為、お店作りはコンセプトを練る為のフィールドワークから始めました。熱海を巡る中で、今では閉店してしまったお土産屋の「中野名産展」のおばあちゃんと出逢い、熱海の最盛期の頃のお話や、お店を始めた経緯、観光地で商売の事など様々なお話を聞かせて頂きました。そういった事を繰り返す中で、日本のお土産文化を築いてこられた方々の想いを次の世代に引き継ぐようなお店を作りたいと思うようになったんです。それに加えて、忙殺されていた東京での生活で疲れ切っていた心を熱海が癒してくれているのにも気づいて、熱海に恩返ししたいというような気持ちも生まれてきたんですね。そういう流れがあって、お店のコンセプトを「みやげと憩い」とすることに辿りついたんです。お土産としてのTシャツとライター、そしてそれを宣伝するお店のポスターを作るところから始め、人と人とが繋がって、熱海の観光に関わっていこうと思いました。

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↑論LONESOME寒(2017-2019)の営業時の写真。現在は株式会社ハツヒの事務所及び在庫管理場所として使用されている。

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左:広告批評アーカイブ 広告20世紀 天野祐吉/島森路子
右:鎌倉スーベ二イル手帖 沼田元氣
※【沼田元氣氏の鎌倉スーベ二イル手帖、憩いの写真帖(画像なし)は、「お土産とは誰かを想うことから始まるもの。」という現在の横須賀氏のマインドの基礎を築くきっかけとなった本。】

みやげと憩いの店「論LONESOME寒」を経て「お土産」への考え方は変わりましたか?

横須賀:2017年に開店させて2019年に「論LONESOME寒」の実店舗は一旦閉店させたのですが、その土地に伊吹を吹き込む。みたいな役割を果たせたのではないかと思っています。お土産を軸に、お店を展開させていく中で「飛びます(熱海)」「パソコン音楽クラブ1stアルバム【DREAM WALK】リリースパーティ(熱海)」「森 道 市場(愛知)」「Eureka(群馬)」「富錦樹台菜香檳/Fujin Treeポップアップ(台湾)」など熱海での主催の企画展・イベントからアジアや地方のフェス的なイベントなどにも積極的に参加させて頂いていろんな人と繋がる事が出来て、それを機に、全国から熱海(論LONESOME寒)」を目掛けて沢山の若いお客さんが遊びに来てくれるようになりました。オリジナルのお土産を展開することで沢山の人が熱海を好きになるきっかけを作れたという実感が湧いて、お土産の素晴らしさを再確認出来ました。

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ーなるほど。では一旦区切りがついたというか、実店舗を用いてやりたかった事は出来たという感じなんですね。

横須賀:まだまだお店としてやってみたい事は色々あるのですが、第一章としてはそうですね。「論LONESOME寒」を展開したことでオリジナルのお土産を制作するノウハウは身についたので、今度はそれを活かして、熱海の街に恩返しが出来ないかなと思いました。熱海にある個々のお店のお土産をプロデュースすることでその店の魅力をお客さんに伝えられないかな。と考えるようになったんです。自分自身が熱海に移住してからお世話になった個人店が沢山あったので、そこへの恩返しの意味も込めて売上として貢献したり、PRをして熱海全体を盛り上げる動きをやってみようと。

ー「実店舗」も、「お土産」も、観光地を盛り上げる為の横須賀さんの「広告」のやり方のひとつの手段という事ですね。

横須賀:そうですね。オリジナルのお土産を開発するブランド名を「LEGECLA(LEGEND CLASSICS)」としているのですが、それはあくまで観光PRをお土産開発を通してやっていくブランド事業。「ハツヒ株式会社」の事業の中のひとつといった位置付けになります。ハツヒ株式会社の大きな目標は熱海に限らず、「もう一回、日本全国やアジア各国の文化・シーンを元気にする・青春させること。」なんです。お土産はその為のひとつの武器である事には間違いないのですが、土地土地によって、店々によって、問題は様々あるので色んなアプローチやクリエイティブ、アウトプットから再生できる方法を探っています。

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LEGECLA(LEGEND CLASSICS)」ハツヒ株式会社内のお土産開発ブランド事業。タグに熱海の海がデザインされている。
LEGECLA(LEGEND CLASSICS)」公式インスタグラム

ーどういった課題が多いのですか?

横須賀:それはもうあちこちで言われている事ですが、観光プロモーション(PR)・ブランディングと事業継承の問題ですね。観光プロモーション(PR)・ブランディングは、日本中どこにでもその地域の魅力が存在している事は確かなのにそれが適切に伝わりきっていないということ。事業継承に関わる跡取りの問題は日本全国あらゆるところで、大きな課題です。お店がなくなってしまったら、そこの地域の素晴らしい光景がなくなってしまうので、例えば、自分たちが仲介してお店や企業を結びつけたり、お店やお客さんを繋げるコミュニケーションの仕組みを開発する事で、お店が存続出来るのであれば、そういった座組みをつくってあげるところから関わっていくような動きもおこなっているところですね。

ー事業継承の問題とは少しそれてしまうのかもしれないのですが、再度シーンを盛り上げるうえで、どのような事が重要だとお考えですか?

横須賀:そこに関してはけっこうシンプルに考えていて、そこで提供しているサービスやブランドが本当に素晴らしいものなんだという事を現地で働く人たちに再認識してもらって、気持ちのスイッチをもう一度入れてあげる事に尽きると思います。これは現地のお店(個人店、ホテル、喫茶店、レジャー施設)の人たちと関わっていく中で実感した事なのですが、一度シーンが衰退した事でとにかく自信を失ってしまっている方々が多く見受けられるので、自分たちの役割は、その自信を取り戻してもらうように働きかけることですね。

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横須賀:ゆしま遊技場さんという射的屋さんがあるんですけど、ここは射的でポイントを貯めるとそのポイントに応じた景品がもらえるんです。景品は置物やぬいぐるみなど様々だったのですが、このお店の看板のグラフィックやロゴへの先代の想いがとても魅力的だったので、それらを用いたTシャツをまず作らせて頂いて、そのお店の景品として取り扱って頂いているんです。そこで出来たグッズを自分たちが都内の百貨店さんの催事などに持ち込んだり、メデイアに取り上げてもらったりする事で、現地に引き込む仕掛けを作ってあげて色んな角度からゆしま遊技場さんを楽しんでもらえるような働きかけをしました。

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左:ゆしま遊技場ロゴTシャツ
右:ゆしま遊技場にあった看板からグラフィックをおこしたTシャツ
共に射的の景品であり、都内の催事などでも展開されている。

現在の熱海、これからの熱海。

ー横須賀さんが2017年に初めて熱海に移住されて3年が経ちますが、変化を感じていますか?

横須賀:最近の二、三年で観光客は随分増加しています。それにはJRの終着駅が「熱海行き」になった事も大きいのですが、先代や次世代の方々が街づくりの土台をしっかりやった結果がついてきていると思います。現在では、観光自体は盛り上がってきていて、次のフェーズとして二拠点の為の場所「熱海で暮らす」事を提案する流れもあるんです。もともと別荘地としての需要はあったのですが、コロナの影響もあって、ワーケーションの為だったり、実際に拠点を熱海に移す方も急増しています。ハツヒ株式会社としても若い人達が街に増えてほしいので、熱海のリゾート不動産屋さんと一緒に色々な仕掛けを作っている最中ですね。

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ーお話をお聞きして、横須賀さんが2017年に自分のお店を始めるところからスタートし、熱海にある個人店舗や施設、そして熱海全体に関わっていく流れが分かったのですが、原動力は何なのでしょうか?

横須賀:僕は光景やシーンを守りたくてずっと広告をやっているようなイメージでいるんです。それには自分の原体験が大きく関わっています。僕の育った田舎は、個人経営の店が多く、自身もお米屋の息子として育ちました。大切にしていたレストランが閉店したり、同級生の実家もお店を畳んでいくような流れの中で育って、そういう時に生まれる悲しみって行き場がないというか気持ちの捌け口が存在しないという事を経験してきたので。かつて良いシーンがあった場所を救いたいという強い思いはそういうところからきています。

ーありがとうございました。

これからの世界で失いたくないもの。

ー最後の質問です。横須賀さんにとってこれからの世界で失いたくないものとは?

横須賀:色んなものに惑わされずに、自分が「良い」と思う感覚や価値観ですかね。良いと思った瞬間、その時点で、そこに自分の個性や感性が存在しています。良いと思うってことにはそこに少なからず自分の芯や思いや今まで生きてきた背景があるってことです。何か行動を起こすと色々と批判の対象になってしまうことが多い世の中ですが、自分や大切な守りたい人が良いと感じるものを強く信じることって、これからとても大事なことだと思っています。皆さん、自分が本当に大切にしたいものをこれからお全力で守っていってほしいです。

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Less is More.

インタビュー前に指定された待ち合わせ場所の喫茶店「マリリン」に向かうと、そのお店のママと談笑されている横須賀氏がいた。聞けば、打ち合わせや仕事場にもよく使用しているお店だという。その身を置く事から始めた横須賀氏なりの広告は、遠回りをしているようで、その場に起こっている課題を見定める為に必要な道のりである事だと思えた。「元気を失った場所をもう一度青春させたい。」と大きくてまっすぐなメッセージを唱えながらも、「しっかり収益として貢献出来る仕組みを作る事が、僕らの出来ること。」だと仰る。横須賀氏が盛り上げる熱海からこれからも目が離せない。

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(おわり)





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