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「光合成をやめた植物」と多様な生態系の在り方。末次健司氏インタビュー。

「光合成をやめた植物」と聞いて、きっと驚かれると思う。どうやって生きているの?それは植物なの?この不思議な「菌従属栄養植物」の研究をされている神戸大学大学院理学研究科教授 末次健司氏にお話をお聞きした。

末次健司(すえつぐ・けんじ)
:神戸大学大学院理学研究科生物学専攻教授、同大高等学術研究院卓越教授
、1987年、奈良県生まれ。2010年、京都大学農学部資源生物科学科卒業。14年、京都大学大学院人間・環境学研究科相関環境学専攻博士後期課程修了、博士(人間・環境学)。15年、京都大学白眉センター特定助教、神戸大学大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座特命講師。18年、同講師。19年、同准教授。22年10月から現職。

-末次さんは、なぜ菌従属栄養植物などの「光合成をやめた植物」を研究されるようになったんですか?

末次:奈良出身で、子供の頃から自然の中で遊ぶのが好きでした。当時から哺乳類のような大きな動物ではなく、植物や昆虫のように手にとって観察できる、比較的小さな生き物に惹かれていたんです。

-昆虫採集とかですか?

末次:どちらかというと、コレクションはせずにじーっと観察するだけでしたね。生き物同士のつながり、生物相関作用に小さな頃から興味があったんです。当時から、「光合成をやめた植物」のギンリョウソウなどは森でみていましたし、不思議だなって思っていたのが、現在の研究に繋がる原体験かもしれませんね。もちろん、当時は植物か菌類かわかっていたかどうかも怪しいですけど(笑)。

-(笑)。

末次:その後、大学に進学すると演習林(学習する学生たちに教育の場を提供することを目的として設置された森林)にも、菌従属栄養植物が生えていたので、研究しはじめたんです。「光合成をやめた植物」は、菌類に依存しており生育環境が限定されるため、いわゆる普通の植物と比較しても受粉過程での動物との関係がどのように変化しているのか不思議に思っていました。元々、生き物同士のつながりに興味がありましたので、専門的に研究を深めたんです。

-元々の興味にもピッタリだったんですね。

末次:変わった姿をして変わった環境にいるから、きっと変わったことをやっているんじゃないかという単純な考えですけどね(笑)。

-(笑)。今日は「光合成をやめた植物」について色々お聞きしたいのでよろしくお願いいたします。

末次:よろしくお願いいたします。

光合成をやめた植物は「植物」なんですか?

-光合成をやめた植物は、すごく不思議な姿をしていますが、これは植物なんですか?

末次:そうです!でも、なかなか一般的にはそれすら理解し難いですよね(笑)。「植物」の定義もなかなか難しい問題もありますが、シャジクモ類あるいはそれに近縁な緑色の藻類から分岐してきた「陸上植物」を「植物」と定義した場合、この「光合成をやめた植物」はれっきとした植物と言えるんです。ちなみに「光合成をやめた植物」は、他の植物に取り付いて養分を奪う「寄生植物」と、キノコやカビの仲間から養分を奪う「菌従属栄養植物」に大別することができます。このうち寄生植物は、世界最大の花をつけブドウ科のつる植物に寄生するラフレシアなどが存在しており、それなりに有名だと思います。一方で菌から養分を奪う菌従属栄養植物はあまり研究されておらず、つい最近まで有機物から直接栄養を得ているとの誤解を受け腐生植物と呼ばれていました。本日は、光合成をやめた植物でもこの菌従属栄養植物に焦点をあてて紹介したいと思います。

-とても植物とは思えないような姿です。

末次:わかります(笑)。見た目からすると、キノコなどの菌類に誤解される方もいますが、植物です。DNAから見ても明らかで、光合成をやめた植物は、「陸上植物」にきちんと内包されます。キノコや菌類は遺伝子的には私たちのような動物に近いんです。実はキノコなんかは、ほとんど動物のすぐそばから枝分かれしていることがわかるんですよ。

-へー!

末次:それに比べると光合成をやめた植物は、皆さんが日常的に目にする植物…桜やつつじといった植物から枝分かれしたものです。光合成をやめた植物として代表的なギンリョウソウなんかは、ツツジの仲間なんですよ。

こちらがギンリョウソウ。(提供:末次氏)

-この不思議な光合成をやめた植物には、どれくらいの種類があるのでしょう?

末次:文献によって幅があるのですが、大体600~880種くらいと言われています。菌類がいないと生きていけないので、暗くてじめっとした熱帯を中心に分布しています。日本は温帯域に分類されますが、雨も多く夏は高温多湿なので、やはり多くの種が生息していて、60種程度が知られています。

-光合成をやめてどうやって生きているんですか?

末次:「菌従属栄養植物」という名前の通り、菌との共生をしていますが、その関係がとても不思議なんです。前提として、普通の植物の80%が、菌とやり取りをしています。

-やり取り?

末次:森の地下では、植物が作った光合成産物を菌にあげているんですね。代わりに菌は、リンや窒素、水などをあげています。植物の根と比べて、菌糸は非常に細かいので、効率良く必要な栄養素を集められるんです。植物と菌の間で、こういった物々交換が行われているんです。

-なるほど。

末次:このやり取りは、植物が陸上に上がった頃から続いています。お互いが得をする、とても美しい助け合いで共生の姿です。ですが、植物がどれくらいの光合成産物を菌にあげているかというと約20%くらいだという試算もあります。植物は、このコストをなるべく抑えたいんです。

-なるべく低コストで、必要な栄養を菌からもらいたいんですね。

末次:植物もサボりたいんです(笑)。

-(笑)。

末次:でもなぜこの「サボリ」がまん延しないかというと、普通の植物の場合、光合成産物を渡す量を減らすと、菌もお返しとしてあげていたリンや窒素の供給を減らすという関係があります。このある種の審査があることが、4億5千万年にも渡る、共生関係が続いている秘訣と言われています。
ですが、光合成をやめた植物は、なぜか分からないのですが、なぜかこの菌類側の審査を無効化することができるんですよ。

-えぇ!?

末次:ただで、菌類から栄養をもらって生きているんですよ。すごく不思議ですよね。

どのように進化したのか?

-一方的に菌から栄養をもらって生きているんですね…!どうして、こういった進化をしたと考えられているんですか?

末次:やはり、一足飛びに進化し、こういう形になるわけではありません。光合成をやめるというのは、植物にとっても非常に大きなことですからね。

-そうですよね。

末次:ですので、いくつかの段階を経ていると考えられています。まず、菌類への寄生能力の獲得をしたのではないかと言われています。つまり、一見すると緑の葉っぱを持っていて普通の植物が、光合成しながら、同時に菌類からも養分を得る段階へと進化した。その後、突然変異を経て、光合成能力を失ったと言われています。

-突然変異ということは、ある世代から急に変わったんですか?

末次:それに関しても一足飛びではなく、徐々にという可能性も高いと言われています。というのも、色々な中間段階のものが見つかっているんです。

-中間段階?

末次:葉は緑で一見すると光合成だけでやっていけそうに見えるのに、光合成能力が低下し始めているものや、葉がなく茎だけが緑のものも発見されているんですね。これらは、光合成をやめた植物に至る進化の過程ではないかと考えられています。こうした複数の段階を経て、現在の姿になったと言われていますね。

葉を退化させた「マヤラン」。マヤランの名前は,神戸の摩耶で初めて発見されたことに由来する。少し緑色していることからもわかるように完全に光合成を諦めたわけではなく、特に果実期には25パーセント程度の炭素を光合成で得ていることがわかったそう。(提供:末次氏)

-そういった中間段階のものは、今まさに光合成をやめていっているんですか?

末次:現在進行形で進化しているといっても、数万年単位での話なので、私たちの生きているうちに完全に光合成を止める過程を観測できるかというと、できないとは思います(笑)。

生態系における役割。

-森や林、自然界のサイクルの中では、どういった役割があるんでしょうか?

末次::そこはなかなか難しいところで明確には判明していないんです。ひとつの可能性として、光合成をやめた植物がいる生態系では、共生関係が変化すると考えられます。菌糸のネットワークを通じて、競争力の強い植物に寄生することで、結果的に競争力の弱い植物が元気になるといったことはありえるでしょうね。つまり生態系全体の多様性を上げることに寄与する可能性があります。

-あぁ。強い植物を若干弱めることで、弱い植物も生きられるので、森の多様性が上がるんですね。多様性が上がると、どのようないいことがあるんですか?

末次:ごく簡単にいうと、多様な森は生産力が高いことで知られています。CO2の吸収量が多かったり、バイオマス的な意義はあると思います。とはいえ抽象的ですが、「良い森」を歩いて気持ちいいとか、そういった実感の方が理解していただきやすいかもしれませんね。

-多様な植物が生きやすくなるんですね。

末次:光合成をやめた植物がいるから多様性が高くなっているかはまだわかりませんが、少なくとも光合成をやめた植物が豊かな森の指標になることはすでに証明されています。自分自身で生産せず、言ってしまえば、他の植物から栄養素をくすねて生きているので、そのようなものを許容する余裕のある環境でしか生きていけないのです。

-豊かな森でないと存在できないというのは、面白いですね。

末次:屋久島での調査では、150年以上伐採された形跡がない森だと、非常に多くの種類が見つかることがわかっています。実際にそういう森には、他の絶滅危惧種も多く存在しています。光合成をやめた植物は、私たち人間に、そこが豊かな森だと教えてくれる象徴的な生き物と言えると思います。

森でのフィールドワークが調査の基本だ。(提供:末次氏)

-末次さんは、森の保護・保全活動にも積極的に参加していますよね。

末次:結局、こういった植物を守ろうとすると、努力が必要ですから。菌って目に見えないので、保護が非常に難しいんです。

-そうなんですね。

末次:植物が全く生えていない状態から、陽樹が生えて、極相林に至るまでを「植生の遷移」といいますよね。実は同じく菌にも遷移があります。ですから菌は同じ場所にずっといるわけではありません。ということは、菌と共に生きる光合成をやめた植物を守ろうと思うと、狭い範囲でなく森全体や広い範囲を保護する必要があるんです。

-すごく大変なんですね。

末次:そうなんです。保護区のようなものを設けてスポット的に保護するだけでなく、かなり広い範囲の保護活動が必要なんです。なので、私もそういった森の保護・保全活動には積極的に参加しているんです。

-人工的に生育できたりはしないんですか?

末次:光合成をやめた植物にも2つのタイプがあります。1つは落ち葉や枯れ葉を分解している菌に寄生するタイプ、こちらは難しいですが、なんとか栽培できるものもあります。でも、もう1つの生きた木に寄生している菌に寄生するタイプについては、そもそも木が必要なので、基本的に栽培は無理ですね。

-やはり森全体の広い範囲で保護していくしかないんですね。

末次:皆さんにも観察してもらいたいと思いつつ、知識のない人がずかずか森に入っていくことが困ることもあるんです。というのも、光合成をやめた植物は、非常に繊細で人間が森に入るだけでもいなくなる種類もいます。

-そんなに繊細なんですね!

末次:例えばタヌキノショクダイの仲間だと、採取せずに調査のためだけに森に入っただけで、翌年10分の1まで数が減ってしまったことがあります。光合成をやめた植物は、菌糸のネットワークに依存しているので、それが切断されると栄養の共有ができなくなるんです。

非常に貴重なタヌキノショクダイ。(提供:末次氏)

-見てみたいとは思いつつ、気をつけないといけませんね。

末次:探してみようと森を荒らすのは、なるべく抑えたいですね。程々の距離感が大事です。ギンリョウソウなどは、比較的親しみやすい、会いにいきやすい種類です。里山などで観測できることもあるので、まずはこの辺りに出会えると面白いかもしれませんね。

遺伝子調査が明らかにすること。

-先ほど、ツツジから進化した〜というお話もありましたが、そういった進化の過程はどうやって明らかにするんですか?

末次:葉が退化しているとはいえ、パーツごとに詳しく見れば近縁種であることが形で分かることもあります。一方、光合成をやめる以前のご先祖様との姿とあまりに変わってしまっているものは、DNA解析などの最新技術も取り入れながら、進化の過程を明らかにします。DNA調査をすると菌類との関係も明らかになったりするんですよ。

-そういうこともわかるんですね。

末次:光合成をやめた植物は、キノコの子実体でなく、直接に目に見えない菌糸を取り込んで栄養を取り込んで、消化し栄養としているので、菌との関係が分かりにくいんですよね。しかし光合成をやめた植物の根のなかには、菌が取り込まれているので、その根から菌のDNAを取り出すこともできるのです。

-歴史的にどのくらいの時期に生まれたかも判明しているんですか?

末次:それも遺伝子配列の変化を調査することで、どれくらい古くに分岐したのか分かります。ただ、光合成をやめた植物は、種類と場所によってもそれぞれ違う歴史を持っていて、古いものですと1億年くらい前に進化したものもあります。

-かなり古いものもあるんですね!それにしても、遺伝子の調査からいろいろなことがわかるんですね。

末次:一番メジャーな種類である「ギンリョウソウ」も、遺伝子調査で面白いことが分かったんですよ。ギンリョウソウ自体は、日本からヒマラヤといったアジアで良くみられる品種ですが、霧島にだけキリシマギンリョウソウという、花が紅色をした品種があります。地上部だけ見るとギンリョウソウと色以外はあまり変わらないので、別種とは誰も思わなかったんです。

こちらがキリシマギンリョウソウ。(提供:末次氏)

-あぁ。ちょっとした環境で変わったのかなくらいに思っていたのですね。

末次:ですが、地下の形を見ると、かなり形状が違っていたんです。これが普通のギンリョウソウです。こちらが霧島のギンリョウソウ。根っこの形態がまるで違いますよね。

ギンリョウソウの形状。(提供:末次氏)
キリシマギンリョウソウ。(提供:末次氏)

末次:地上に出ている茎の高さも、根っこもの長さも違いますし、細かく見ると根の形状も全然違います。私は、これは別の種類なのではないかと思ってDNA鑑定をしてみました。

-あぁ。遺伝子で見てみたんですね。

末次:そうすると、キリシマギンリョウソウは、霧島だけではなく、近畿や中部地方にも分布していることがわかりました。これらを遺伝的クレード(分岐群)でまとめるとギンリョウソウとは別の種類だったんです。次に、別種ということは、寄生する菌もギンリョウソウとは異なるのではないかと調べると、見事に別の菌に寄生することがわかりました。

-すごい!でも、花は同じような形なんですよね。不思議です…。

末次:両者ともトラマルハナバチが花粉の運び手だったんです。寄生する菌が違っても、花の形は花粉を運ぶ昆虫が同じなのであまり違っていないのです。

-へ〜!面白い。

末次:小噺的に面白い話がもう1つあります。この研究でキリシマギンリョウソウが寄生する菌の種類が判明したわけですが、その菌は中国にしか生息していないと思われていた菌だったんです。

-実は、日本にも同じ菌がいたことがわかったんですね!

末次:これは、研究の副産物的に明らかになったんですけど、面白いですよね。こういった話からも、光合成をやめた植物が、森全体の結びつきの中で生きていることがわかりますよね。

-確かにお聞きすると、菌や昆虫、非常に広い生態系の結びつきが分かりますね。

末次:菌類のネットワーク含めて、私たちのような生き物とは全然違いますよね。こういった、生態系全体として振る舞っていると思っています。超個体と言われたりしますが、植物は植物単体では成り立たないのです。ネットワーク全体で生きているというのは、すごく面白いですよね。

-この光合成をやめた植物は、世界的にも研究が進んでいるんですか?

末次:光合成をやめた植物の研究者は、世界的にもまだまだ少ないですね。基本的に、こうした基礎科学は欧州・アメリカが強いのですが、むこうには光合成をやめた植物が、あまり生えていません。そういう意味では、日本には地の利もあり、優位性もあると思います。

これからの研究について。

-末次さんは、これからどのようなことを研究されるんですか?

末次:長期的には、菌類との共生関係を理解したいと思っています。どうやって菌類を騙しているのか、それがわかると、生態系の関係がもっと深く理解できると思うんですよね。

-何か技術的に転用できる可能性はあるんですか?例えば、食用として販売できるとか…。

末次:オニヤガラやツチアケビなどを薬として食べる文化はありますね。栄養豊富で、滋養がありますが、味はそんなに美味しくはないかもしれませんけど(笑)。

-そうなんですね(笑)。

末次:技術的な転用という意味では、あまり考えていませんね。私はどちらかというとunknown unknown(未知の未知)を明らかにしたい、「誰も知らなかった生き物の世界を覗きたい」という思いで研究しています。なのであまり直接に利潤を追い求めることはそれほど行っていません。一方で、こうした研究を面白い、不思議だと思ってくれる方がたくさんいて、それはありがたいなと思っています。基本的にこうした基礎科学の研究は、芸術や文化に同じく、人間の生活をちょっとたけ豊かにする作用があると考えています。

-素敵ですね!

末次:世界はまだまだ謎や不思議に溢れています。自然界の不思議を1つでも多く明らかにしたいと思います。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。末次さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

末次:探究心ですね。追い求めていく心。フィールドワークとかは、まさにそうかもしれません。基本的には、基礎的な学問を面白い・興味深いという感性で研究を進めていきたいと思いますし、それが許容される世の中であってほしいですね。

「月刊たくさんのふしぎ」2023年9月号"「植物」をやめた植物たち"は、末次さんが執筆された。小学生3年生にもわかりやすく、大人にも楽しめるよう、平易に書かれたテキストに合わせて、貴重な写真も数多く掲載されている。
詳しくはこちらから。
上記の『「植物」をやめた植物たち』を読んで、もっと深く知りたいと思った方は、『もっと菌根の世界』もオススメ。著者の1名として、末次さんが光合成をやめた植物と菌とのせめぎあいについて、突っ込んだ解説を行っている。なおこちらはちょっと難しめで基本的には大人(高校生も頑張れば読める)というレベル設定。
詳しくはこちらから。

Less is More.

1つの豊かな生態系の中でひっそりと栄養を盗み、弱い植物たちと多様に暮らす「光合成をやめた植物」。
とてもたくさんの示唆に富んでいるように思うこの生き物に学ぶことは多いように感じた。

今回、オンラインでお話をお伺いしました。

(おわり)

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