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オルタナティブな教育。フリースクールという選択肢。ヒューマン・ハーバー主宰 木村清美氏インタビュー。

「フリースクール」。いわゆる公的な義務教育外の選択肢として知られてきているが、いったいどういうものなのだろうか?
30年近くにわたって香川県高松市でフリースクール「ヒューマン・ハーバー」の運営を続けてこられた木村清美氏にお話をお聞きした。フリースクール全国ネットワークの新代表理事にも就任された木村氏のフリースクールのお話、お子様のいらっしゃらない皆様にもぜひご一読いただきたい。


木村清美:1996年 9月16日に香川県高松市でフリースクール「ヒューマン・ハーバー」設立以来 主宰者として活動。 2001年1月、フリースクール「ヒューマン・ハーバー」を母体とする親の会が NPO法人四国ブロックフリースクール研究会設立。2001年 NPO法人フリースクール全国 ネットワーク設立当初から理事を就任、 2024年NPO法人フリースクール全国 ネットワーク代表理事に就任。

↑こちらが、フリースクール全国ネットワークの公式ホームページ。

-木村先生は…

きよみ:フリースクールでも「きよみさん」「きよっぺ」とあだ名で呼ばれているので、そう呼んでくれたら嬉しいです(笑)。フリースクール「ヒューマン・ハーバー」を始めた頃に、「先生」って呼ぶのが苦手な子がいたんです。それ以来、「先生」っていうのは禁止しているんですよ。

-では、きよみさんと呼ばせていただきますね。

きよみ:えぇ。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

-きよみさんは、28年前に香川県高松市でヒューマン・ハーバーというフリースクールを開校されたわけですが、なぜだったんですか?

↑こちらが、フリースクール ヒューマン・ハーバーの公式ホームページ。

きよみ:元々は東京生まれ、東京育ちなのですが、28年前に高松に移り住むと、いわゆる不登校の子ども達がとても暗い顔をしていることに気がついたんです。私自身も学校に行かずに研究者だった父と海外を回る時期もあったので、学校に行く/行かないというのは、個人の選択の一つでしかないと思っていたので、すごく驚いてしまったんですよね。

-確かに不登校児童って、現在でもネガティブに捉えられがちですよね。

きよみ:東京に暮らしていた頃は、当時でも比較的学校に行かなくてもいいという価値観があったと思うんですね。高松に限らず、当時のいわゆる「地方」はまだまだ閉鎖的で「学校に行かない」という選択肢が、この世の終わりのように扱われてしまっていたんです。

-それで、フリースクールを作ろうと思われたわけですね。

きよみ:その状況をなんとかしたいと思って、アメリカの「オルタナティブスクール」と呼ばれる学校を見学に行ったんです。

-すごい行動力ですね!

きよみ:5つの学校を見学させていただいたんですが、そこには公立の学校を出ていない子ども達が生き生きと過ごしている姿がありました。驚いたのは、比較的難しい、政治的・社会的な問題を小学校低学年の子から、高校生までが全員でディスカッションしていたことです。こういうことこそ、子どもの成長・子どもの学ぶ姿だと感動しました。

-それはすごいですね。

きよみ:見学中に、ある学校の校長に「あなたは何がしたいの?」と聞かれたので、「私は香川の子ども達にオルタナティブな教育の場を提供したいと思っています。でも私にはお金もネットワークもない。なので、こうして見学させていただいて、今後の参考にしたいと思っているんです。」とお答えしたんです。
そしたら「何を言ってるの!じゃあいつになったらお金とネットワークができるの!?そんなことは全く関係ないから、帰ったらすぐにやってみなさい!」って背中を押してくれたんです。

-力強いアドヴァイスをいただいたんですね!

きよみ:えぇ!とても素晴らしい出会いでした。それで帰国して、一週間後にヒューマン・ハーバーを立ち上げたんです。

ビジネスでもなく、ボランティアでもない。

-フリースクールって今よりももっと知られていなかったでしょうし、大変だったんじゃないですか?

きよみ:物件もいくつも断られて、大変でした。特に当時は、香川に来たばかりでしたから、地域の人からも理解を得るのが大変でした。時には新興宗教の団体ではないかと疑われることもあったんです。
ある新聞記者の方が活動に理解を示してくれて、記事として取り上げてくれて初めて子ども達が集まり出したんですよ。

-そうして、経営が始まったわけですね。

きよみ:経営ではないんですよ!一つだけ、誤解しないでいただきたいのが、私は28年前にヒューマン・ハーバーを始めてから、一度もお金を得たことはないんですよ。ですから、私にとって仕事とは少し違うんですよね。

-えぇ!?ボランティアということですか?

きよみ:私自身は、ボランティアという意識でもないんです。子ども達と過ごすことで、自分自身も一緒に成長できることが嬉しくて、28年間続けてきたんです。
システムを少しお話しすると、家賃や光熱費、スタッフのお給料などは親御さん達と話し合いながら決めています。その上で、必要な会費を親御さん達に負担していただくようにしています。

-失礼ですが、きよみさんの生活はどうされているんですか?

きよみ:私は、ヒューマン・ハーバーの活動が終わった後に、日本画家としての仕事をして暮らしています。フリースクールを始めた頃は、今よりも豊かでない家庭も多くありました。そういう家庭からお金をいただくというのは、私の価値観にはフィットしなかったんです。

-あぁ。素敵な考え方ですね。

きよみ:ビジネスや経営として考え出すと、子どもの人数をお金で換算したくなってしまいますから、それも嫌だったんです。お金は否定はしませんが、ともすれば人の心をざわざわさせる原因にもなりますからね。色々な方法がありますが、ヒューマン・ハーバーについては、そういう運営方法を選択してスタートしたんです。

子ども自身が選ぶこと。

-あらためて、フリースクールについて教えてください。

きよみ:子ども達の教育の場として、大きく3つあります。一つがいわゆる「学校」もう一つが「フリースクール」あとは「ホームエデュケーション」。大別するとこの3つが子どもたちの選択肢です。自分に合った成長方法を自分で選ぶことができると考えています。
フリースクールは、子どもの成長のため、子どもが安心安全に成長できる場として運営されています。

-どの選択肢でも義務教育の範囲である小・中学校の卒業資格って取れるんですか?

きよみ:もちろんです!所属している学校に出席認定を申請し、教育委員と校長が認めてくれれば、卒業資格は取得できます。ある程度きちんとしたフリースクールであれば、何にも心配はないと思います。卒業認定を求める親御さんもいれば、求めない親御さんもいらっしゃるんですよ。

-フリースクールってその名の通り、学校ごとにかなり違う教育をされていますよね。

きよみ:おっしゃる通りすべてのフリースクールごとにカラーが違います。ある程度、平準化された教科学習を取り入れる学校もありますし、ヒューマン・ハーバーのように全く勉強をしないフリースクールもあります。

-全く勉強をしない!?

きよみ:そうなんです(笑)。勉強をせずに沖縄まで42日間かけて自転車で行くというようなこともやりました。
子どもは、遊び尽くすと、自然と学びたくなるものなんです。内なる欲求と言いますか、遊び尽くすとゲームにも飽きてきて、自然に勉強に興味を示す子どもが多いです。突然勉強に興味を示し始めて、研究者として活躍して世界中の学会で発表したり、難関校に入る子もいるんですよ。

-子どもが学びたくなるまで遊ばせてあげるフリースクールもあるんですね。

きよみ:そうなんです。私たちのようなフリースクールもあれば、最近では、不登校児童の増加に目をつけた営利目的のフリースクールも増えてきてきているので、選ぶのがなかなか難しくなってきています。

-どのように、フリースクールを選ぶといいですか?

きよみ:子どもが自主的に選ぶと、自分にフィットするケースが多いように思います。

-ふむ。自分で選ぶ…?

きよみ:現代の子ども達はネットで調べたりして自分で選択することが多いんですよ。ヒューマン・ハーバーにも、大半の子がそうやってたどり着いてくれるようです。やっぱり子どもの勘ってすごいものなんですよ。親が探すのでなく、寄り添って、探し方を教えてあげるといいのかもしれませんね。

-子どもに選択権を持たせることはいいことだと思いますが、同時に子どもの判断の危うさみたいなものもありますよね?

きよみ:我が子のことを信じるというスタンスが大事なんじゃないかと思いますね。子どもには、それぞれの成長スピードやタイミングがあります。だから、親はとにかくそれを信じて、本人の選択に寄り添うしかないと思うんですよ。もし、一つのフリースクールでうまくいかなくても、そこでの経験は次に活きますから、自由に変えていけばいいと思いますよ。

-あぁ。変えられることもフリースクールの良さなんですね。

きよみ:子どもとゆっくり「将来は何をしたいの?」「じゃあ3年後何をしたいの?」って少しずつブレイクダウンして話してあげるといいと思います。無理にでなく、子どもの声にゆっくり、耳を貸してあげる。答えはきっと子どもの中にあります。親が意見を言ったり、主導権を持つことは、なるべく避けた方がいいと思うんです。実際に子どもたちの話を聞くと、自分の将来について、大人以上に考えていることがわかると思いますよ。

不登校も選択肢のひとつでしかない。

-フリースクールに注目が集まる理由の一つとして、近年の不登校児童の増加があると思います。

きよみ:コロナ禍以降、特に増加しましたね。教育に限った話ではなく、コロナの影響で人間同士の関係性がまるで変わってしまった。人間社会にものすごい歪みを生み出したんじゃないかと思っています。

-文科省のデータでも30万人近い児童が不登校だと言われています。

きよみ:気をつけないといけないのが、不登校はネガティブな問題ではないということです。学校に行かない子が増えた、というだけで、悲観的なことではないと、私は捉えているんですよ。

-どういうことですか?

きよみ:学校に来なくても、専門的な知識は、どんどん学びやすくなっていますよね。ネットでも勉強できますし、アプリやAIなど、ツールも増えています。そういった、学校以外の学びを選択する子も多くいると思うんですよ。学校以外の選択肢を選んでいるだけだと思うんです。

-あぁ。学校に行かない=ドロップアウトではないということですね。

きよみ:それは、すごく古い発想なんじゃないでしょうか?フリースクールであろうが、自宅であろうが、その子に合った場所を選んであげればいいと思うんですよね。学校に行かないことで、どんな不安がありますか?

-自分の子どもが不登校だったら…勉強は独学できても、学校のような集団生活の場に行かないことで、コミュニケーションが苦手になってしまうのではないかと不安になってしまいますね。

きよみ:気持ちはとてもよく分かりますが、現状の義務教育の現場は、先生たちのキャパシティを超えるほど業務が山積みです。コミュニケーションを学ばせてあげられるほど細やかな配慮ができないケースも多いんですよ。そういう意味では、フリースクールのような選択肢もあると思いますし、自宅で学ぶ際も家族できちんと会話をし、育てていけば、コミュニケーションの問題も心配ないと思いますよ。

-あぁ。学校に行っていても安心かどうかはわからないということですね。

きよみ:義務教育の場は、教育現場が疲れてきているので、子どもに目を向ける時間が少なくなっていると思います。本当は、教える時間を制限するとか、担当する生徒数を減らすとかするべきだと思います。日本社会全体で、もっとそういうところに投資をしていただかないと、日本の未来はどんどんダメになってしまうのではないかと危惧しています。子ども達も、思ったより大人の姿勢をみているものですよ。子ども達も政治家の不正ニュースに怒っていますからね!

-あぁ。大人としてちゃんと胸を張れることをしていきたいですね。

きよみ:私自身は、子ども達が学校に行かないことで、社会の歪みに必死に警鐘を鳴らしているようにも感じています。一生懸命に体を張って不登校しているんですよ。子ども達は、私たちが思うよりも自分達の将来を真剣に考えているんです。

色々な選択肢を選びながら学ぶ。

-日本のもう一つの問題として「少子化」があると思います。きよみさんはどのようにお考えですか?

きよみ:そもそも女性が働けるだけの社会環境が整っていませんからね。子どもを育てるための時間も余裕もない。もっと、社会環境をきちんと整えていくしかないですよね。
子どもたちがたくさん生まれて、健やかに育って、さまざまな業界で活躍できるように、大人たちがゆっくりと見守るしかないのではないかと思います。目先のことばかりを問題にする政治については危惧しています。

-公立校以外の選択肢って、とても魅力的な反面、お金がかかるイメージもあります。そうすると、教育格差を生むことにも繋がるのではないかと心配しています。

きよみ:現実的にそういった問題はあると思いますね。先ほども触れたように、不登校児童の増加に伴って、利益重視のフリースクールも増えています。業界として発展していることは良いと思いますが、ぜひフリースクールを運営する側も、子ども主体できちんと、子どもの将来を開くために行動して欲しいと思っていますね。

-ちょっと心配な状況ですね。

きよみ:ヒューマン・ハーバーでは、経済的に苦しい家庭には、減免措置を取っていたり、そういう制度を取り入れているフリースクールも多くあると思います。ですから、安心していただければと思いますよ。

-色々な選択肢があるのは心強いですね!

きよみ:子ども食堂や、大学生による学習のボランティアもあります。多方面に渡って、直接的な支援や援助を探して、フリースクールやホームエデュケーションと組み合わせながら育てるのは選択肢の一つだと思います。

-なるほど!

きよみ:子どもの成長って、本当に奇跡だと思います。何者にも変え難いんです。だから、子ども達と接することによって得られる喜びってものすごいことなんですよ。大人達も頑張りすぎずに子育てを楽しんでもらえたらいいですよね。

目線を合わせて話すこと。

-子ども達とコミュニケーションする際に大事にしていることはありますか?

きよみ:よく、小さな子どもの目線に合わせてしゃがんで話してあげますよね。ああいうことです。大人でもなく、子どもでもなく、人間としてお互い尊敬し合う存在として接してあげることです。何よりも大事なのは、「あなたの命」ということを、伝えてあげて欲しいですね。

-ありがとうございます。

きよみ:ヒューマン・ハーバーでも、親の研修で褒め合うことを意識的にしています。コンプリメント研修って言うんですが、褒め合うと大人だって生き生きとするんです。大人でさえ、嬉しくなるんだから、子どもだって喜ぶのは当たり前ですよね。毎日一つでいいからコンプリメントするようにしてみてください。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。きよみさんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

きよみ:自由です。やりたくないことや、やらなくてはいけないことはありますけど、全ての人が自由を保障されないと、平和にはならないと思うんです。私はお金も、なにもなくてもいいから、自由だけは失いたくないですし、誰もが自由であるといいなと思います。

Less is More.

「不登校は、子ども達の選択肢の一つでしかない」言われてみると、その通りだ。大人としてでなく、人間として子ども達と目線を合わせ、話を聞き続けること、忘れずに過ごせたらと思う。

(おわり)


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