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世界のどこかに理解者がいる。仮面屋おもて 大川原脩平氏インタビュー。

世界中のトラディショナルな仮面から、現代作家の仮面まで取り扱う仮面・マスクの専門店「仮面屋おもて」。ズラリと仮面が並ぶ店内は、怪しく、神秘的な雰囲気に包まれている。

店主を務める大川原脩平氏は、なぜこの不思議なお店を開いたのか。お話をお伺いした。

大川原脩平:舞踏家。株式会社うその代表。 2014年、仮面専門店をオープン。日本最大級のマスクの展示即売会TOKYO MASK FESTIVALの発足をはじめ、仮面に関する総合的な活動を行っている。 仮面をはじめ、さまざまな物品を取り扱う「ディーラー」としての顔を持ち、専門店を複数経営。“たばこのふりをしてトランプを販売する”うそのたばこ店などもその一環。

「仮面屋おもて」をはじめるまで。

-大川原さんは、仮面屋おもての店主というだけでなく、さまざまな活動をされていますよね。元々は舞踏家として活動されていたそうですね。

大川原:私自身の活動の原点は舞踏です。現在も舞踏家としての活動は継続しています。さまざまな舞台に関わらせていただきましたが、舞台での活動だけでは生計が立たないので、演劇講師や、企業研修などの応用芸術・応用演劇と括られるような活動をしていました。私が特殊だったのは、ジャグリングや手品なども手がけていたことですね。

-すごく幅広いですね。

大川原:私はクラウン、いわゆる道化師に関心があったので、そういった技術も一通り身につけていたんですよね。

-舞踏家だった大川原さんがなぜ、仮面の専門店を手がけるようになったのですか?

大川原:自分が仮面をつけて踊ったり、活動した体験から興味・関心を持ちました。舞台にはさまざまなプロップス(小道具)がありますが、舞踏は基本的に身体だけで表現することが多く、直接的にモノと関係を結ぶ機会はそれほどないんです。そんな中、仮面だけはモノと身体表現がダイレクトに関係していると感じました。

-体験から興味をお持ちになったんですね。

大川原:舞踏の技術というのはなかなか体系化して伝えづらいものです。それが、プロップスを通すことで、技術を体系化して勉強しやすくなるんですよ。
そういう理由で仮面・マスクを専門的に学んでいる中、坂爪 康太郎という作家と出会い、お店創るに至りました。

-作家さんとの出会いが大きかったんですね。

大川原:それまでは、伝統的な仮面、演劇用のマスクについて学んでいましたが、彼のマスクはコンテンポラリーアートの文脈に分類されるアートピースでした。本人はアフリカの伝統的なマスクに影響を受けたと話していましたが、当時の私にとって、全く見たこともない未知の造形で、かなりの衝撃を受けました。それで、何か一緒にできるんじゃないかと思ったんです。

-そういったはじまりがあったんですね。

大川原:私は、仮面を実際に使って踊るので身体表現のメソッドについて教えることができ、彼は美術の分野で新しい仮面の造形にチャレンジできる。そのタッグが組めたので、2014年からWEBで販売し始めました。それから2年くらいで、良い物件との出会いもあり、店舗を作ることになったんですよ。

大川原さんの後ろの白いマスクが、坂爪 康太郎氏の作品。

仮面をどのように使うのか。

-アートピースとしての仮面って、イメージ的には飾ったりコレクションするもので、使用して踊る物でないような気がしますが、舞踏家の大川原さんにとってどういうものなんですか?

大川原:お店のスタンスとしては、アートピースとして創られた仮面であっても、どうぞご自由にお使いくださいと考えています。その上で、私が考えるのは、作家さんがこのほうが美しいと思う造形状の都合があり、一方で使う側の都合もあるわけです。当然そういう制作者と使用者の軋轢のようなものは、昔からずっとあったと思うんですよね。ただそういう軋轢は歴史の中であまり語られていません。

-あぁ。段々と両者が擦り合わせていくことが続いていたのかもしれないということですね。

大川原:実際にアートピースを想定して創られたものを実際につけて踊ると、必ず何かしら不具合が出ます。それをお互いが時間をかけて擦り合わせていくことで、双方がリスペクトし合う健全な関係を作り上げていったのではないでしょうか。例えば、現代の能楽師と能面を作られる面打ちは、非常に健全な関係ですが、そこに至るまでにはかなりの軋轢があったのかもしれませんよね。

-なるほど。

大川原:さまざまな作家さんや演者がいますから、考え方は自由だと思いますね。特に最近は、自分の創作意図通りに使って欲しいという作家も多いです。逆に仮面をつけて活動することを含めて、作品の一部と捉える作家もいます。

-アートピースとなると、ある種の投資として購入される方も多いのでしょうか?

大川原:二極化していると思いますね。アートピースとして投資も視野に入れてご購入される方もいらっしゃいますし、舞台用/コスプレ/仮装などの実用として購入される方、完全に分かれてらっしゃると思います。

-お店では、能面などをはじめ、トラディショナルな仮面も数多く扱っていますね。

大川原:えぇ。現在は8割以上が海外のお客様ですが、トラディショナルなものを買い求めに来られる方は非常に多いですね。

-能面や狐の面なども多いですが、日本の仮面は人気なんですか?

大川原:世界中に仮面のコレクターはいらっしゃるようで、日本らしい仮面を求める方が圧倒的に多いですね。ただ、トラディショナルな仮面を求めていらっしゃるというよりは、単純に日本らしいお土産として考えてらっしゃる方が多いと思います。

-日本の仮面は世界的にみても何か特殊なんですか?

大川原:日本が特殊というわけではないと思います。能面のもととなったとされる舞楽や伎楽が大陸由来なので、もとをたどれば、特段特殊とは言えない。世界には儀式的に使った仮面を燃やしてしまう文化もあるんですが、日本にも儀礼に使った衣装や面を燃やす文化は多くあります。
ただ、日本は第三者が後生大事に面を保管してたりするのでそういう流れはちょっと特徴的かな、と思っています。

取材当日も、日本の仮面を買い求めに、数多くの外国人観光客がいらしていた。

仮面とは、現象である。

-大川原さん自身は、過去のインタビューで「仮面とは、アイデンティティが揺らぐ”現象”と捉えている」とおっしゃっています。モノではなく”現象”だと考えてらっしゃるんですか?

大川原:例えば演劇の中で布切れを一枚被るだけで、役者の気持ちは変化します。その現象こそ「MUSK」「仮面」だと考えています。

-あぁ。モノによって変化するところまでが仮面だと。

大川原:パプアニューギニアには「ハウスタンバラン」と呼ばれる、仮面を保管するための精霊の家があります。ハウスタンバランは、その家自体が精霊として考えられています。内部は精霊の体内であり、家自体が仮面と捉えられているそうです。つまり、仮面というのは何か決まったカタチやモノを指すのではなく、現象とか概念だと思うんですよね。

世界から注目された【プロジェクト「あの顔」】。

-2000年に、仮面屋おもてで、一般公募した方の顔データを40,000円で買取り、その顔をもとに製作される超リアルマスクを販売するという【プロジェクト「あの顔」】企画で、世界中で話題になりましたね。

大川原:元々、ハイパーリアリスティックなマスクを事業として手がける方出会い、一緒に何かをやってみようと企画プロデュースしました。私は、ハイパーリアリスティックなマスクアーティストとして、誤解されているんですが、私は実際には企画のプロデュースをしただけなんですよ。

こちらが「あの顔」。店内に置いてあり、ちょっとだけ不気味なイメージもあった。

-アートインスタレーションみたいな印象がありました。

大川原:海外でも現代アート的なメディアで取り上げられることはありましたが、多くはエンタメニュースとして取り上げられることの方が多かったですね。マスコミはいつもネタを探しているので、取り上げやすい企画だったんでしょうね。

-どのように考えられたんですか?

大川原:「パーソナルな身体情報である顔を売買する未来」という、ひとつのフィクショナルな世界を考えることから始まりました。これは、映画や小説などのSF作品としては、古典的でありふれた設定ですが、それを現実の世界で実際にやると面白いのではないかと思ったんですよ。

-現実世界で、パーソナリティの売買をやってみるんですね。

大川原:「売る」というのは、経済活動として当たり前ですが、顔を「買う」ということがやりたかったんですよ。普通に考えたら買い取る意味はありませんが、あえて損してまで買うということが、行為としてやってみたかったんですよね。

-40,000円で買い取るわけですから、結構リアリティのある金額ですよね。

大川原:最初募集をかけた時に100~200人くらいの応募がありました。実際にたくさんの顔を買い取る企業があったらそれは楽しいことですよね。それが企画のモチベーションでした。

-世界から注目が集まったのはすごいですね。

大川原:本当に買い取ったことで広がっちゃったというのはありますね。未だに海外のお客様には「あの顔」を求めてくるお客様もいらっしゃいます。海外では、いまだに顔を買い取る企業だと思われていて、今でも毎日のようにメールが届きます。顔の買い取りは現在も進行していますが、一般募集はしていません。

新しい文化を創ったわけではない。

-現在は、仮面屋おもてを中心に、日本最大級のマスクの展示即売会TOKYO MASK FESTIVALを開催しています。仮面を着けた来場者もたくさんいらっしゃますが、こういった場を創ったのはなぜなんですか?

大川原:正直にいうと、かなり必要に迫られてなんですよね。私自身は、仮面を被りたいという気持ちは全然ないのですが、やはり被りたいという方々はたくさんいらっしゃいます。その需要にお応えして場を創っているんですよ。

-仮面をひとつの文化として、盛り上げる意図がおありなのかと思いました。

大川原:私の感覚としては、もともと仮装を楽しんでいた方、楽しみたい方、仮面で遊んでいた人は、世の中に割と多くいらっしゃったと思うんです。言葉や空間で括ることで、一般にも理解していただきやすくなっただけで、私たちが新しい文化を創ったわけではないんですよ。私自身の反省でもあるのですが、「仮面屋おもて」を創ったことで元々多様だった仮面文化を良くも悪くも一括りにしてしまったように感じています。

-あぁ。仮面屋おもてが、仮面文化を創ったように誤解されることもあるんですね。

大川原:元々楽しんでいた方がいらっしゃったんですよ。

-イベントも、特に仮面文化をどうこうする意図ではないんですね。

大川原:元々あった文化が時代と共に広がったり衰退したり変化はしていくと思いますが、私自身はそういうことにあまり関心がないといいますか、どうなってもいいですね(笑)。お店が存続していって欲しいとは思いますが、私がマスクをどのようにしたい/していきたいというのはありませんね。モノだけでなく世の中には現象としてのマスクはたくさんありますからね。

ディーラーを名乗る意味。

-大川原さんは、仮面屋おもてでの活動を「ディーラー」を名乗ってらっしゃいますよね。

大川原:ディールという言葉には、ものを取り扱う、販売する、分配する、という意味に加えて「振る舞う」という意味があります。多くの意味が重なり合う、とても興味深い言葉です。

-確かに「振る舞う」の意味もありますね。

大川原:一時期、舞踏家として日常での振る舞いにすごく関心があったんですよ。舞台上でのパフォーマンスではなく、日常生活で人間がどのような動きや振る舞いをするのか。ここ数年は、舞台での舞踏を行わず、日常的にモノを売るという振る舞いをしているんです。

-あぁ。大川原さんは、お店の運営なども舞踏の一環として捉えてらっしゃるんですね。

大川原:社会全体の動きや、道を歩いている人でさえ、それは身体活動ですし、舞踏といえるかもしれません。

-ディーラーの活動の一環として、仮面屋おもて以外にも”たばこのふりをしてトランプを販売する”「うそのタバコ店」も手がけていますよね。こちらもユニークですが、どういう意図で創られたんですか?

大川原:あまり狙いがあったわけでなく、うそのタバコ店、はタバコのショーケースにトランプを置いたら可愛いんじゃないかと思ったんです。そうしたらちょうどオークションサイトで、可愛いショーケースが1万円で出品されていたんです。まぁ…買うじゃないですか(笑)。

-運命的なタイミングですからね(笑)。

大川原:家に置いておくには大きいので、友達のお店にディスプレイしてもらったらすごくいい感じだったんです。軒を借りる形でトランプを売り始めたら、続々と常連や知り合いも増えてきた。仕方なく独立して店舗にしたんですよ。

-仮面にしろ、トランプにしろ、メジャーではないけど、確かに愛好家がいる文化に注目してお店を創られているのですか?

大川原:友達と一緒に何かをやってみようとか、そういう場所があったほうがいいな、ということを続けているだけですね。私自身も、メジャーでない趣味が好きだったり、地方出身なので好きなものにアクセスしにくかった経験があります。ですから、そういう愛好家の気持ちや感覚は自然と理解しているのかもしれませんけどね。

-計算ではなく、割と自然と創っているんですね。

大川原:ちょっと言い方はバカみたいですけど「やったほうがいいことはやったほうがいい」と最近考えているんですよ。自分自身が確かに好きなもの、これが好きだって思えるものには、きっとどこかに同好の士がいるはずなんです。私は、それを素朴に信じているのかもしれませんね。

-世界のどこかに、同好の士がいると信じるのは、素敵なことですね。

大川原:アートなんかもそういうものだと思うんです。どんな金額であれ、世界にたった一人でも、作品が欲しいと思ったらそれで成立するものですよね。

「両替」から考える、価値の交換。

-経済的な算段はあまりしていないのですか?

大川原:現代の経済活動の多くは、ある意味で数字を動かすゲームみたいなものだと考えています。多くの人たちは、お金を増やす、数字を増やすことを面白いことだと思う一方で、お金を使う・減らすことも楽しんでいるわけです。個人的には、どちらも度が過ぎるといいことは起きないと思っています。もちろん、フォーディズムみたいなものも考え方としては理解できますし、私自身も恩恵も当然受けていますから、否定はしませんが、自分自身が興奮できるものではないですね。

-大川原さんは、どんな活動に興奮できるんですか?

大川原:私が最近楽しんでいるのは「両替」なんですね。

-え?両替?

大川原:両替をゲームだと思い込むって活動を2年ほど続けています。1万円札をいつも持ち歩いて、それを出会った人とくずしたり、まとめたりするんです。たまたま持っている小銭を交換するのを、ある種のボードゲームのように楽しんでいます。

-両替が…ボードゲーム…?

大川原:実際にゲームマーケットという国内最大級のアナログゲームイベントで、両替だけをするブース出店しているんですよ。

-両替の楽しさ、詳しくお聞きしても良いですか?

大川原:1万円の価値自体は絶対に変えないぞという遊びなんですけどね。実際にやっていると、小銭が増えてきて嫌だなとか、向こうが提案してきたものを受け入れると何故か喜ばれたり、そういうことが起きるんです。やってみると、何か損したり、得した感覚になるんです(笑)。

-それはなんかわかるような気がします(笑)。

大川原:お金の移動って基本的には数字で表されます。数字的な価値は変わらないはずなのに、明らかにものとしては変わっていて、何かが交換されているわけです。

-あぁ。少しわかってきました。お金の価値は変わらないのに、そこにコミュニケーションが生まれたり、時間を費やしていたり、感情が生まれるっていうのは、不思議ですね。

大川原:最近はその面白みを続けています。数字を積み上げたり、減らしたりすることでなく、価値を創っていく。両替に関しては、絶対にキープするぞっていう活動なんですよ。

-次の機会にぜひ、この両替についてもお聞きしたいです。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。大川原さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

大川原:パートナーですかね。単純にパッと思い浮かぶのは。うん。大事ですね。

Less is More.

大川原氏は、アーティスト、エンタテイナー、経営者、そういった全ての境界に立たれている印象があった。

「やったほうがいいことはやったほうがいい」。私たちは、ついつい成功を目標に何かをはじめてしまうが、ちょっと考えついたこと、やってみたいこと、なんでもないアイデアをひとまずやってみることの大事さを改めて考えてみたいと思った。

(おわり)

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