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私たちは魔法を信じ続けられるのか。越境マジシャンJONIO氏インタビュー。

マジック・手品・奇術。その歴史は古く、一説によると4000年もの歴史があるという。 これほどまでに長い期間、私たちはマジックに魅了されて来た。 現代では、CGやVRなど「なんでも叶える魔法」とも呼べるかもしれないデジタルがかけるマジックも日常的に増えてきた。そんな現代において、古典的なマジックがどのような可能性を秘めているのだろうか? 自ら「越境マジシャン」と名乗り、言語の壁を超え、教育にも関わり、時には企業とも緩やかに連携し、世界中を盛り上げるJONIO氏に、これからのマジックの可能性について聞いてみた。

JONIOは、日本チャンピオン(2014)であり、プライベートのVIPパーティーなどで ショーをする傍ら、自らのシアターを持ち、独自のショー、創作、表現、企画、公演など を行いマジックの新たな可能性を発信し続けている。 日本人離れした顔と体格で他のマジシャンとは一線を画すマジックを行う。 特に、髭を使ったパフォーマンスは世界を見てもJONIO以外では類を見ない 独創的なものである。 卓越した技術に裏打ちされたその独創性と圧倒的な パフォーマンス力を評価され、各方面のメディアに多数出演中。

↑JONIO氏のマジック、ぜひ映像でもご覧ください。

【出典】JONIO Magician Channel

マジシャンになるまで。

-そもそもなぜマジシャンになられたんですか?

JONIO:僕が10歳の頃…2002~2004年にマジックブームがあったんですね。マリックさん、前田知洋さん、ふじいあきらさん、ピエールさん、セロさんが毎日のようにテレビに出ているような状態で。元々興味があったのですが、このブームがきっかけになってはじめました。

-確かにそういう時期はありましたね!

JONIO:正確に言いますと、すごく仲の良かった友人がある日マジックを習得してクラスの人気者になっていたのを見て(笑)。僕も負けたくなくて、マジックの本を買ってはじめたんです。なので、目立ちたがり屋の見栄から始まったと言っても過言ではないかもしれません(笑)。好奇心も人一倍強かったので、マジシャンにはうってつけの性格だったのかもしれませんね。

-先ほどのマジシャンの名前をお聞きしても「魔術師」然とした方から、少しお笑い要素もある「エンタテインメント」に寄せた方など様々なタイプのマジシャンがいますよね。

JONIO:それでいうと僕は、エンタテインメント寄りだと思います。マジックはその名の通り「魔法の再現」。皆さんが「魔法」と認識しているようなこと…例えばものが浮かんだり、不可能だと思われていることや、常識の外側を擬似的に再現するのがマジックです。本質はファンタジーなんですが、それを楽しんでいただくためにはエンタテイメントにしないといけないと考えて今のスタイルにたどり着きました。

-なるほど。

JONIO:どんなスタイルでも、エンタテインメントではあると思いますが、スキルデモンストレーション寄りなアート表現ではなく、どちらというと場のデザインと呼べるような感覚が近いですね。僕は”その場にいる全ての人が気を使わずに楽しめる”空間であって欲しいと思っています。そのために空間をデザインするイメージで自分自身のショーを組み立てています。

-空間をデザイン?

JONIO:そうです。アートとデザインの違いは、クライアントがいるかいないかだと思います。常にお客さんとともに空間を創り上げていくのが僕のスタイルです。なので、アートではなくデザインというのが分かりやすいかと思います。


越境マジシャンとは?

-JONIOさんは、自ら「越境マジシャン」と名乗られていますよね。普通のマジシャンとの違いを教えてください。

JONIO:これは、単純に国境を超えて活動するという意味はもちろんですが、様々な枠組みを超えた活動をしてきたので広義の「越境マジシャン」と名乗っています。

-どんな活動をされてきたのですか?

JONIO:そもそも、プロマジシャンをはじめてしばらくは、企業のパーティやイベントなどクライアントのご依頼でマジックを披露していたんですね。マジック業界では、そういう仕事は収入にもなりますし、すごく重宝します。でも、本当にそれでいいんだっけ?と思ったわけです。僕が来るから皆さんが来てくれるわけでなく、人が集まる場所のひとつのコンテンツとして呼ばれ、僕のマジックが消費されるような感覚になってしまった。本当に僕は望まれているのだろうかと。

-あぁ。なんかそれは辛いですね。

JONIO:それで、一度そういう仕事を全てお断りしていた時期があるんです。もちろん、収入は減るので、ワンマンショーを企画したり、普通のマジシャンがやらない場所でマジックをしてみることにしたんです。その中で、多様な仕事のスタイルが生まれました。それこそ、観ていただける世代によっても楽しませ方を変えたり、パフォーマンスだけでなく教育のフィールドにまで活動が広がりました。

京都精華大学での特別授業

ベトナムでの活動

-まさに様々な枠を”越境”してきたわけですね。

JONIO:そうです。そういうこともあって単純に、国境を越える意味の越境ではなく、拡大解釈してあらゆる枠組みを越えた活動をしたいということで「越境マジシャン」として活動しています。


-色々な枠組みを超えるってすごく勇気も入りますよね。

JONIO:単純に僕が天邪鬼なだけかもしれません(笑)。みんながやらないことにトライしたいんですよね。例えば、コロナ禍でオンラインのマジックってネガティブに捉えられたりしてたんです。

-あぁ「ライブでやってこそだろう!」みたいな。

JONIO:そうです。でも僕はかなり早い時期に、ショーやレクチャーイベントにトライしたんです。「きっとオンラインでも面白いことができるはずだ」と思って。今では大きな企業なども同様のコンテンツを当たり前に取り組むようになったので、僕がコンサルタントとしてご一緒させていただいています。業界全体でもマジシャンの可能性というのを探るのが、僕の役割なのかなと思っています。

好奇心が多様なマジックの世界を実現する。

-そういったイノベーティブな活動って、理解を得るまでに時間がかかりますし、大変かと思います。何がJONIOさんを活動の基になっているんですか?

JONIO:一言で言うなら好奇心ですね。例えば、ベトナム奥地のベンチェという村からご依頼を頂いた時も、好奇心に任せて行ってきました。車で4~6時間もかかるんですよ(笑)。頭で考えたらしんどいんですけど、どうしても好奇心が勝ってしまうんです(笑)。自分が好奇心と熱量を失わない活動を心がけています。

-そこまで熱量を失わずに好奇心を持ち続けられるのは何故なんですか?

JONIO:好奇心を保つ原動力は”多様性”と言えるかも知れません。マジシャンってある意味では”「傾(かぶ)いている人”なんですね。もともと会社に入って毎日出勤するような、いわゆる普通の生活ができない変わり者のはずなんです。ですが、結局はマジック業界のルールや常識に巻き取られて、歌舞けていない。マジシャンはイノベーターであるべきだと思いますし、マジシャンの活動が多様になると感じたら積極的に関わっていきたいと思っています。それが、僕の好奇心の素です。


-業界内のルールや常識を越えるのは、素晴らしいですね。

JONIO:例えば、数年前からベトナムだけでなく、バンコクなど東南アジアでマジックを広める活動をしています。世界的に見ても東南アジアは経済的成長の余地がある地域なのに、僕がはじめた頃はほぼ誰もやっていなかったんです。なんとなく日本のマジック市場で食えてしまうので、リスクを背負ってトライするマジシャンがすごく少ないんです。マジシャンは基本的に空間があって、観客さえいれば仕事として成立します。なので、もっと多様な働き方ができる可能性があると思います。

-おっしゃる通り、空間から創ることができれば、すごく可能性がありそうですね。

JONIO:本当にそうなんです。僕が一つ創った例がわかりやすいと思うのですが、子供用のフォトスタジオとコラボレーションする仕組みを創りました。

-フォトスタジオとコラボ??

JONIO:フォトスタジオっていう空間に、楽しんで欲しい子供という観客がいるってことなんですね。じゃあマジックで楽しんでもらう様子を写真に撮影しようと。これは、ひとつ仕組み化して、マジシャンの新しい仕事になっています。

マジックは直感的なファンタジーへ。

-マジックって、ネタバレも増えていますし、歴史と共にアップデートしているんですか?

JONIO:実は、基本的なオチ…今も昔も「コインが消える」「カードが当たる」というマジックの結果、起きることに関しては変わっていないんです。

-言われてみれば確かに…!

JONIO:マジックは基本的には思い込みや常識を利用しています。なので、そこが変わってなければ現代でも通用する古典的なマジックはたくさんあるんです。でも人間はどんどん賢くなっているので、オチが同じだとしても、裏側がどんどん複雑に重層的になってきていますね。昔だったら、シンプルな仕掛けでコインが消えれば驚いてくれたんですが、一つの思い込み・常識だけでは成立しなくなってしまいました。二重三重に工夫しています。

-それだけ複雑になってきているマジックですが、未来にどのような可能性があると考えていますか?

JONIO:ちょっと回りくどいのですが…先ほどマジックの本質は魔法の再現だとお話ししました。魔法を再現することを、大きく分けると2つのマジックに分けられると思っています。ひとつは”論理的なマジック”で、もうひとつが”直感的なマジック”です。例えばカードマジックなんかは、「選んで→混ぜたのに→当たった!」という思考のプロセスを踏んでいるので、論理的に驚かせています。これが”論理的なマジック”です。

-あぁ!なんか「あれ!?さっきのカードここにいれたのに!」みたいな。

JONIO:そうです。もうひとつは、普段の常識や論理から外れていること。わかりやすい例として、自然物理法則に逆らっている…例えば「重いものが浮かんでいる」これって直感的に「なんで!?」って感じますよね。これが”直感的なマジック”です。


-確かに同じマジックでも、全然違いますね。

JONIO:マジックの未来を考えた時に、可能性があるのは、この”直感的なマジック”の方向だと思っています。

-それは何故ですか?

JONIO:論理的な不思議さは、マジック以外で代替え可能なコンテンツが溢れているんですね。例えば、映画やドラマなどのエンタテインメントも実は論理的に作られてたマジックと言えると思います。関わる人数もバシェットも違いますし、精度も仕掛けもアナログなマジックでは敵わない側面がある。

-エンタテイメントとして比較したら、そうかもしれませんね。

JONIO:極論を言いますと、話題のメタバース空間では、マジックって成立しないんですよね。VRだったら、なんでもありの空間ですから。だからこそマジックは、生きてきた常識を覆すような体験を与えるために、”直感的なマジック”でファンタジーを演出していくべきだと思っています。

-あぁ。もう見えてる空間すべてが論理で組み立てられていますもんね。

JONIO:実際にVR登場以降、悲観的なマジシャンも多いのですが、体感としてのマジックは価値がますます高まると思いますね。仮想空間が進むほどリアルの価値があがると、様々な業界で言われています。仮想空間では満たせないものが人間にはあると思います。それこそ昨年度はみんな楽しんでいた「zoom飲み」も、あまりやらなくなってきていますよね。

-確かに!

JONIO:空気感や熱量、触覚に訴えかけるには、現代はまだ技術が届かない。それを見ても人々の価値は、未だリアルにあるのかなと思います。映像最適したマジックが成立するように、メタバースに最適化したマジックも生まれるとは思います。ですがそれは、現在のマジックとは別軸になっていくと思いますし主流にはならないと思っています。少人数の観客に対してマジシャンが至近距離で演じる”クロースアップマジック”は、お客さん参加型なのでコミュニケーションが必須です。お客さんとのコミュニケーションないクロースアップマジックは、“誰もいない森で木が倒れたら音はするのか”という問いみたいなものです(笑)。観測されていないから、起きていないのといっしょですからね(笑)。

-観測者なしでは成り立たないということですね(笑)。

JONIO:ええ(笑)。特にクロースアップマジックに関しては、お客様もエンターテインメントの一部なんです。同じマジックでもお客様が変わると別ものになります。これは、映像・演劇など観覧型エンタテインメントとは違うインタラクティブな側面ですよね。没入型演劇、イマーシブシアターや脱出ゲームなんかはすごく近い感覚を得れると思いますが、マジックはこういった体験型のエンタテインメントのひとつとして捉えるべきなんです。

-確かにインタラクティブなエンタテインメントなのかもしれませんね。

JONIO:ヴァーチャルならではの価値もある。物理的なアクセスがなくなるのはいいことだと思うので、レクチャーやノウハウなど文字情報に起こせるものを伝えるのにヴァーチャルはすごく有益だと思っています。

技術のシェアこそが、鍵。

-JONIOさんは、ワークショップなどを通して、マジックのプレイヤーを増やす活動もされていますよね?

JONIO:はい。日本ですと、どうしても職人の世界と同じくマジックの技術を”見て覚える”文化なんです。一方、マジック先進国ともいえるスペインは共有が当たり前の文化なんですね。あらゆる技術をオープンに共有することで、業界全体が底上げされる。

-業界全体で技術のシェアが当たり前なんですね。

JONIO:日本の”見て覚える”文化を否定することはないのですが、例えばスペインだと、分子ガストロノミーの草分け的なレストラン「エルブジ」は、レシピを地域全体に共有しました。結果それぞれのお店で少しずつアレンジしてレベルがあがる。これは、マジックでも同じことが言えると思います。何より、日本はマジックのスペシャリストは多くても技術が継承されないので、文化として根づきにくい。これを解消するために、レクチャーやワークショップを通してプレイヤーを増やすように活動しています。

これからトライしたいこと。

-すごく多岐に渡る活動ですが、JONIOさんのこれからトライしたいことを教えてください。

JONIO:日本脱出です(笑)。

-(笑)。

JONIO:活動拠点を海外にしたいということですね(笑)。現在は、自分の肩書きや実力といった影響力を元に活動をしているのですが、これをもっとパワーアップさせるために、マジック先進国スペインに行きたい。海外を軸に活動することで、日本の露出も増えると考えています。フランス在住で露出の増えた西村博之さんが一番わかりやすい例だと思うのですが、日本のメディア的にも「スペインから登場」というのは異質さがフックとして際立つと思っています。そのためにも日本脱出はひとつ今後トライしてみたいことですね。

-JONIOさんはオンラインのコンテンツもありますし、ぴったりですね。

JONIO:あとは、単純に日本でマジックを観れる場所を増やしたいと思います。特に子供が楽しめる場を。子供に対してマジックの生の楽しみをどんどん増やしていかないといけないと危機感があります。現代って、ほとんどのエンタテイメントがスマートフォンだけで完結してしまいますよね。ライブの楽しみを知らない、すべてオンラインでいいと考える世代が生まれるかもしれません。これはマジック業界だけでなくエンタテインメント業界全体で、VRよりも深刻に考えるべきだと思います。学校や公共と連携して、もっとマジックを楽しめるための場や仕掛けをたくさん作って行きたいと思っています。

これからの世界で失いたくないもの。

-では最後に、これからの世界で失われてほしくないものを教えてください。

JONIO:感覚…センスを失いたくないですね。視覚・聴覚の体験が増えています。触覚や嗅覚といった感覚を楽しむためにも、ライブやショーはまだまだ重要だと思うんです。
僕は天邪鬼ではありますが、マジックへの愛情が根底にあります。それは僕の根幹ですし、感覚を残すために様々な活動をしていきたいですね。

JONIO氏の最新イベントはこちら。ぜひ生で体感してほしい。

「MAGIC NIGHT @Bar19
出演:JONIO、聖寿 (せいじゅ)
日時:2022/1/25(火) 20:00-Last
会場:Bar19(麻布十番)
チャージ:
通常コース/1,500円(マジックチャージ)+飲食代(税込)
飲み放題コース/500円(マジックチャージ)+5000円(税込)

Less is More.

ステージ上では、コミカルでエンターテイナーなJONIO氏が語るマジックの話は、非常に真摯で常識にとらわれない、まさに「越境」な活動だった。
メタバースも話題の昨今。機会があればぜひライブでもJONIO氏のマジックを体験していただきたい。

(おわり)


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