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バグ・エラーはなくならない。これからのデザインの着地点。デザイナー吉田雅崇氏インタビュー。

あらゆるメディアで、手描き文字を使ったデザインを見かける事が多くなった。意識していないと見落としがちな文字のデザインだが「可愛い。」「かっこいい。」と瞬時に目を奪われる事も少なくないのではないか。手描き文字を活かしたデザインを得意とし、本連載(Less is More)の題字・ロゴのデザインも手がけているデザイナーの吉田雅崇に話を聞いた。

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吉田雅崇(VAV):デザイナー。1988年福島県生まれ。武蔵野美術大学卒。lyrical schoolのアートワーク、グッズのデザインをはじめ、アーティスト、バンドのCDジャケット、MVのグラフィックやグッズ、広告やアパレルブランド、店舗のロゴ等を手がける。SUEKKO LIONS©で定期的にZINEの刊行も行なっている。

成り行きでフリーランスのデザイナーになった

-はじめにデザイナーになった経緯を教えてください。

吉田 : きっかけは武蔵野美術大学に在学中に、友人達とフリーマガジンを作り始めたことです。そこにデザイナーとして参加していました。

-その後、そのままフリーランスのデザイナーへ?

吉田 :デザイン事務所への就職も視野に入れていたのですが、東日本大震災によって色々と計画が崩れてしまうんですよね。

-2011年3月ですね。

吉田 :長い時間を費やして制作してきたフリーマガジンの校了スケジュールなどが大きくズレ込んだりして、そういう事もあって就職するタイミングを逃したというか。

-なるほど。

吉田 : 自主制作と周りから頼まれている半仕事みたいな事をこなしている時期が続いて、そうこうしているうちにだんだんと仕事の量が増え始めて、10年くらい経過してしまいました。(笑)

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-なるほど。とても自然な流れでキャリアをスタートしている吉田さんですが、約10年のあいだに仕事内容で変化した部分はありますか?

吉田:デザインの仕事を始めた最初のうちは、全体にまるごと関わるような案件が多かったんです。CDを例に挙げると、ジャケットのデザインだけでなく、ブックレットや盤面はもちろん、現場でのディレクションや制作の手配。デザインしたCDやグッズの物販スタッフとしてライブ会場に立ったりもしてました。

-そうなんですね、まさにまるごとですね。

吉田:その頃の制作の意識としては、情報を綺麗にまとめたり、余白の上手な使い方をする事を優先していて、自分のカラーをあまり前に出さなかったんです。出さなかったというより、スキルや経験値的に出せなかったという感じが近いですかね。

無記名な仕上がりを意識した作風とは?

-最近では、ロゴなどをはじめ一目で吉田さんの仕事だとわかるものも多いと思うのですが、そういった表現は抑えられていたんですね。作風が変化するきっかけはあったのですか?

吉田:案件が増えていくにつれ「○○風なデザインをお願いします。」という依頼が多くなりました。例えば、「カレッジ風なデザイン」でラフを10種類作るためにパターン出しを始めるんですが、自分でも差や違いがわからなくなってきて。それで試しに学生時代に作っていたような自分の手の動きの癖を活かしたパターンも取り入れ始めたんです。

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↑卒業制作のZINE『労災』

-「○○風」という話が出ましたが、ロゴを「○○風」で提案する際に気を付けられている事はありますか?

吉田:っぽくなりすぎないようには意識しています。具体的に説明すると、インターネットで「カレッジ風」と検索して上位にでてくるような純度の高い「ザ・カレッジ」といった印象のものから、どんどんズラしていくようなアプローチのかけ方をしてますね。

-最終的にはどこで着地させるのでしょうか?

吉田:既視感があるようで無いラインと言いますか、ジャンルにぎりぎりカテゴライズされないところまで崩せたら、なんとなくそこが落としどころかもしれません。あとは抽象的な僕のイメージの話になってしまうんですが。

-はい、是非。

吉田:割と国道を車で走っている時のイメージが近くて。想像してみてほしいのですが、国道って何気ないありふれてる風景が続きがちですが、たまにふと目を惹かれる看板やお店のロゴがあるじゃないですか?そこに存在しているデザインって何なのかを考えてみると、超最先端であったり、逆に物凄くビンテージであるものではない気がしているんですよ。どう形容するのが的確か分からないんですが、年代も作者も不明な、どことなく無記名な仕上がりというか。

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-風景の中に自然と存在しているけれど、どこの誰が制作したのかわからない。と言うような感覚であっていますか?

吉田:そうですね、そこを強く意識しているかもしれません。なのでこれから新規でオープンする「新しいお店のロゴ」の案件でも、「既にその場所に少し前から存在していた」ような存在感を意識してデザインしています。言い方を変えると、クライアントから与えられている情報に、条件や設定を自分で足していって架空のお店を想定して、そこにアプローチしていくようなやり方をしています。

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ー企業案件も多く請け負われている吉田さんですが、個人での案件と企業での案件で取り組み方に違いはありますか?

吉田:制作に対する基本姿勢は変わりませんが、企業から求められる案件はどの部分にフックが転がっているかわからないので、できる限り手を使ってアイデアを出すことに時間をかけます。小さなアイデアでも一旦ラフに起こしてみる作業をやった上でふるいにかけていきますね。これは自分に限ったお話しではないかもしれないのですが。

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上:ラフ段階のスケッチ
下:手描きのラフのファイリング

吉田:最優先は勿論クライアントの要求に一番近いものを提案することですが、そこから少しズラした案、正反対のもの、自分の作風が強く出ているものの計4パターンほどを最終的に提案させてもらう事が多いです。

手描き文字のデザインの今とこれから

-吉田さんを含め、企業が個人のクリエイターにアートやデザインの案件を直接依頼するような時代の流れがあると思うのですが。

吉田:そうですね。企業側がSNSやWEBを通じて、個人のアーカイブへアクセスし易い環境になっている事が大きいと思います。また、自分達の世代は、アナログな技法を一切使わずにPCのみでデザインを完結させる事も出来た一方で、個人のクリエイターによって手描き文字が沢山作られていた時代への憧れを抱いている層も多い世代だと思っています。なので供給数とそういった流れとがマッチしているのはあるかもしれませんね。

-風通しが良い印象ですね

吉田:企業側が直接クリエイターにアクセスできる事は概ね良い事だと思います。そういう流れはもっと盛り上がれば良いですよね。これは何もデザイン業界に限った話でなくて、楽曲でも映像でもどんな業界においてもそう思います。

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-それではこれからの事についてお聞きしたいのですが、今後デザインの業界にはどういう流れがくると思いますか?

吉田:んー。ちょっと話が逸れてしまって、これからという話でもない様な気もするのですが、「バグをどう解釈するか。」というのはデジタルでもアナログでもあらゆる手法の中で共通のテーマのような気がします。

-どういった意味でのバグでしょうか?

吉田:例えば、市役所や学校で配布される資料って、その施設や環境にあるフォーマットからしか生み出されないズレだったり潰れがあると思うんですけど、そこに対してはどんなに意識的であってもコントロール不能な部分だと思うんですよね。そういった部分をどう利用するか、勿論無視するという選択肢もあると思いますが。

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-なるほど、少し専門的な話のような気もするのですが、その点において吉田さんが何か工夫されている点があれば簡単に教えてください。

吉田:自分の場合は、制作した素材(ロゴやグラフィック)が、自らの手から遠く離れて想定していない使われ方をしても、ある程度強度を保てるように、付き過ぎてしまった手垢を落とすような作業を最終的に行うようにしています。

-例えばどのような事でしょうか?

吉田:デザインの専門知識を持たない人が、イベントのチラシ作成に自分のロゴを使用したとしても、なんとなくその画面が成立するような仕上がりになるようなことをイメージしているという感じですかね。バグやエラーと共存しても雰囲気を保てると言いますか。逆にそういう場面において、そのロゴ自体に自分の手垢が付き過ぎていると、使われ方を制限してしまう様な気がしています。なので最終的なアウトプットは必ずパソコンを通して、意識的に線から手書き感をある程度削り落としています。ニュアンスの話になるので少々分かりにくいかもしれませんが。。

-いえ、どことなく先ほどの、国道のお話と共通している部分があるかと思います。

吉田:それには恐らく自分が若い頃から魅力を感じる物があまり変化してない事が関係しているかもしれません。古着のTシャツが好きだったりするのも、プリント位置もプリント自体もかっちりしすぎていないのに何故か雰囲気を保てている部分に惹かれているところが大きいと思いますし。

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↑吉田さんが普段から収集されている物の一部

シルクスクリーンプリントの技法にバランス感覚のヒントを見出す

-安易な質問になってしまうのですが、そのバランス感覚やセンスの部分って身に付けようとして身に付くものなのですか?

吉田:そういうズレの持つ魅力には気づいていたのですが、それを自分の表現に落とし込めそうだなという感覚を掴んだのはシルクスクリーンを体験した事が大きいかもしれません。

-シルクスクリーン?

吉田:版画の手法のひとつなのですが、簡単に説明すると特殊なメッシュ素材にデザインを焼き付けて、インクを通すことでそのデザインがプリント出来る様になる印刷方法です。

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↑吉田さんの製版されたシルクスクリーンの版と道具

吉田:大学時代、友人に誘われて版画サークルでスクリーンプリントのやり方をレクチャーしてもらって、試しにオリジナルのデザインをプリントしてみたんです。その時刷り上がった物の中に、今まで自分が魅力と思っていた部分と重なる感覚がありました。とても不思議なんですが、製版する前の手元にあるデザイン原稿では、意図が分かりずらいレイアウトにしか見えないのですが、刷り上がった物を見るとそれがアクセントとなってハマって見えたんです。

-その体験が吉田さんのデザインの肝を形成する要因になっているのは凄いですね。

吉田:そうですね、そこからシルクスクリーンというフィルターを通して自分のデザインの着地点を探っていくような事を繰り返しました。先ほどの手垢の話にも繋がるんですが、個人でシルクスクリーンプリントをやるには、技術的な部分で細かすぎる線はプリント出来ないので、ハッキリした線を使うようになったりと。そういった制約の側面からの影響も受けていると思います。デザインソフトのツールとパソコンの画面上だけではなかなか弾んだグラフィックを作れなかったところを抜け出させてくれたのはシルクスクリーンだったように思います。

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↑これまで吉田さんがデザインされたTシャツや制作物の一部

-ありがとうございます。今後どういったお仕事に興味がありますか?

吉田:最近では、ロゴやグラフィックのみの単発の案件が多いので、本の装丁や雑誌など様々な要素が必要となってくる仕事や、広告や商品のアートディレクションなどに興味があります。

これからの世界で失いたくないもの。

-最後に吉田さんにとって世の中から絶対に失くしたくないものは、何ですか?

吉田:街に存在するいかがわしさや胡散臭さですかね。街の表情が均一化するような流れがとても嫌で、変なスペースや空き地、変な店が失くならないでほしいですね。本来、自分の立ち場であれば、綺麗に整理されていく街の計画側に立って、新しい物を生み出していかなければならないのですが、自分の培ったヴァナキュラーな感覚は、そういう街の看板や風景、喫茶店、古本屋、その土地にしかないコンビニやスーパー、餃子のうまい店とかに育てられた部分が大きいと思うので、失くなってほしくないですね。

Less is More.

「ずれ、エラー、如何わしさ、胡散臭さ」吉田さんの制作の土台となる言葉は、どれも一見少々ネガティブなイメージを持つ言葉ばかりだが、そこに丁寧に接しているように感じた。「超最先端なものや、ものすごくビンテージなものに対するアンテナを立てきれていないから、そういう物に対してアプローチをかけちゃいけない気がする。」という謙虚な姿勢が、街の雑味を正しく摂取し、アウトプットに活かす事を可能とする秘訣なのかもしれない。

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(おわり)

photo:kamedamokei





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