爬虫類を飼うこと。生き物の全てを好きでいること。ちゃんねる鰐氏インタビュー
100種類以上の爬虫類に加えて、魚類・鳥類・昆虫など、幅広い生き物の飼育動画が楽しめる生物系YouTubeチャンネル「ちゃんねる鰐」をご存知だろうか?
2023年には爬虫類好きが高じて「深谷爬虫類館」をオープンした。登録者数100万人目前の今、ちゃんねる鰐氏に生き物を飼うことや動物との距離感についてお話をお聞きした。
-所狭しと並んだ生き物たちはまさに圧巻ですね!たくさんの生き物に直接触れられることも驚きました。
鰐:ありがとうございます。
-深谷は地元だったんですか?
鰐:出身は東京の八王子近辺なので、縁もゆかりもないんですよ。
-もっと地方のご出身かと思いました。
鰐:東京都内とはいえ、近くに高尾山があったり自然が多い環境で育ちました。子供の頃から魚や虫を獲るのが好きだったんですよ。
-こちらの深谷爬虫類館、すごく独特な作りですよね。
鰐:元々私設の昆虫館だったそうです。あちこちを探して、この館と出会って運営を始めました。今は、だいたい100種類以上は展示していますね。
-それだけ種類が多くなってくると、把握できなくなりませんか?
鰐:それは流石にないです(笑)。自分の飼いたい生き物しか飼っていないので、全てきちんと覚えていますよ。規模が大きくなっても、自分が好きじゃないとお世話も続きませんからね。
飼育は魚類からスタート。爬虫類は社会人になってから。
-子どもの頃に魚類の飼育から始まったと動画でも話していらっしゃいましたね。
鰐:最初に飼ったのは縁日で獲ってきた金魚でした。学生の頃はお金もそんなに使えないので、魚を中心に飼っていましたね。
-爬虫類は、意外にも社会人になってから飼い出したそうですね。意外とキャリアが短くてびっくりしました。
鰐:ずっと飼ってみたいと思ってはいましたが、魚に比べると個体価格も飼育設備も高かったし、飼育も少し難しいんですよね。
社会人になって、爬虫類を飼っている同僚に色々と教えてもらったんです。爬虫類の飼育をできるくらいのお給料ももらえるようになったので、ちょうどタイミングが良かったんですよね。飼い始めてみたらどっぷりハマっちゃって(笑)。
-飼い始めてからは、すごい勢いで個体が増えていった感じですよね。
鰐:爬虫類は、餌やりや排泄物の片付けなどのお世話が思ったよりも少ないんです。蛇なんかは1ヶ月に一度餌をやればいい子もいるくらいなんですよ。飼ってみるとお世話することがすごく少ないんです。
-そうなんですね。
鰐:もっとお世話をしたいのに、やることが少なくてヒマなんです(笑)。そうするとだんだんと数が増えていっちゃうんですよ。爬虫類の愛好家は、多くの種類を育てるようになる人が多いですね。犬猫のように運動するスペースも必要ないので、ケージが徐々に増えていきました。
-当時は、飼育費用や諸経費はお給料だけで賄えていたんですか?
鰐:爬虫類の購入代金、ケージなどの諸経費、餌代や光熱費を含めてもそこまでではなかったですね。あまり飲み会に行くタイプでもないですし、他に趣味があるわけでもないので、無理せず楽しめていました。
-動画配信しよう!ってわけでもなく、本当にプライベートな趣味として飼われていたんですよね?
鰐:ユーチューバーとして活躍する気は、全くなかったですね。完全なる趣味でした。動画配信を始めた当初は、ユーチューバーがこんなに一般的になるとは思ってもいなかったので、本当に餌代の足しになればと思っていたくらいです。
-あれよあれよと登録者数も100万人直前ですね。(2024年12月現在)
鰐:登録者数5万人を超えたくらいで、当時の給料と同じくらいの収益になったこともあって、YouTube一本に絞りました。当時の勤務先がかなりハードな職場だったこともあって、ひとまず辞めたいなって気持ちが強かったんです(笑)。
-とにかく辞めたかったんですね(笑)。
コミュニケーションが取りにくい動物との関係。
-鰐さんは、爬虫類・魚類・鳥類・昆虫ですが、犬や猫などの哺乳類に比べるとコミュニケーションがとりにくそうな動物を飼われている印象があります。
鰐:僕の場合、いわゆる犬猫のような愛玩動物・パートナーという存在ではなく、かっこいい怪獣を鑑賞するような感覚で飼っているんですよ。
-怪獣ですか。
鰐:小学生の男の子って、怪獣好きな子は多いじゃないですか。潜在的に怪獣が好きな人は多いと思いますが、大人になると怖いとか気持ち悪いって感じて苦手になる方が多いと思います。僕はそういうこともなく、子どもの頃のままの感覚で今に至っているんですよね。
-とはいえ、フィギュアとは違って生き物ですから、大変じゃないですか?
鰐:飼育を始めるきっかけは”かっこいい”なんですけど、飼っていくうちに愛嬌のある仕草や、可愛いところもだんだんと見えてきて、愛玩動物的な愛着も湧いてきます。だから、お世話も楽しいですし、どの生き物にも愛情がありますね。
-愛玩動物は、名前をつけて飼育される方が多いと思いますが、鰐さんはあまり名前をつけてらっしゃいませんよね?
鰐:つけないポリシーがあるわけではないので、すごく気に入った数匹には、名前をつけている子もいますよ。犬猫でしたら、名前を呼んで反応してくれますが、爬虫類は呼んでもあまり反応してくれないので、つけなくても問題ないかなって(笑)。そんなわけで、自然と名前をつけていないだけなんです。
-コミュニケーションが取りにくい動物がお好きなんですか?
鰐:そうかもしれませんね。爬虫類なんかは、お世話をしてもこちらに愛情を向けてくれるということもないので、お世話だけすればあとは勝手に楽しんでくれています。犬猫なんかだと、散歩させたり、遊んであげたりもしないといけませんからね。僕が飼ったとしても、遊ぶ時間も作れないときもあるし、寂しい思いをさせてしまうかもしれない。それはかわいそうですよね。それに比べると爬虫類は、放っておいてもかわいそうどころか、勝手に幸せそうにしてくれているから、僕にとって飼いやすいというのはあるかもしれません。
-なるほど。
鰐:僕は犬もいつか飼いたいと思ってはいるんですけど、やっぱりかまってあげられるかな?って躊躇しちゃいます。
-ちなみに爬虫類はコミュニケーションってできないんですか?
鰐:全くできないというわけでもなくて、人間を認識くらいはしていると思います。危害を加えないやつだ…くらいには思ってくれているのかなと。そういう意味では、コミュニケーションとれているのかもしれませんね。爬虫類の中でも頭のいい子は、人に触られたいと思っている子もいますよ。そういう子はやっぱり可愛いですね。
-レッドテールキャットの動画を拝見すると、なんか魚類にも感情があるように見えたんですよね。
鰐:ある程度の感情もあると思いますし、人に慣れたり、環境に慣れるということはあると思いますね。あの子も、連れてきた当初よりはリラックスしてくれているように思います。
仕事になっても、生き物が好きな気持ちは変わらない。
-初めは趣味としてスタートしたわけですが、今ではスタッフの皆さんと館を運営していたり、仕事にもなっているわけですよね。何かしら感覚は変わりましたか?
鰐:あんまり変わってないと思います。ずっと動物が好きだという思いで、そのまま続けていられているんですよね。
-これから、深谷爬虫類館は、どんなふうに進化していくんですか?
鰐:まずは頑張って維持していけたらと思っています。でもまぁ、維持するだけでなく、何かしらしていかないと、とも思うんですが…うーん。どうしましょうね(笑)?
-(笑)。
鰐:予定とか計画とか、全然ないんですよ。その時に飼いたいと思う子を飼うっていうだけです。そこは趣味だった時と変わりませんね。色々な方から連絡をいただいて、引き取るケースもありますが、基本的に自分が飼いたいと思う子だけをお迎えしているんですよ。
-今、飼ってみたい動物はいるんですか?
鰐:飼いたいと思っていた生き物は、ほとんど飼えているので、あとは何だろうな…。甲羅が世界一キレイだって言われているホウシャガメを飼いたいと思ったりしますが、そんなに大きな夢はないです(笑)。
-最近では、生物でなく、昆虫標本を100万円以上使ってコレクションしてらっしゃいますよね。
鰐:生きてはいませんが、やっぱり元は生き物なんで標本も面白いですよね。生き物の全てが好きなんですよ。造形にも感動しますし、こんな生き物がいるんだって感動して集め出しちゃったんですよ。
-本当に生き物に感動し続けて今も活動されているんですね。
鰐:そうですね。生き物が好きって言っても、色々な方がいらっしゃいます。造形の好きな方や、生態に興味がある方、中には味が気になるって方もいらっしゃいます。僕の場合、その全てに興味があるんですよ。生態も造形も、味も知りたい。生き物の全てが好きなんですよね。
-アマゾンに行かれた際も、釣り上げた魚たちを調理して食べていましたよね。
鰐:愛玩的に動物が好きな人たちからすると、ちょっと変な感覚かもしれませんよね。
-すごく不思議な感覚ですが、どうしてそこまで興味があるんですか?
鰐:何でしょうね。本能的なものなのかもしれませんよね。生まれた時からそうなんじゃないかと思いますよね。遺伝子的な…。
-ちょっとお聞きしたいのが、一方で生き物を大事に飼いつつも、餌としてネズミやヒヨコなんかを与えたりするじゃないですか?飼う生き物と食べさせる生き物って、割り切れるものですか?
鰐:最初は、やっぱり抵抗はありましたけど、だんだんと慣れましたね。餌として必要な生き物にはあげざるを得ませんから。人間も、豚を見たら可愛いって思うのに食べますよね。そういう感じで、どこか割り切っているんだと思います。
動物のように、ありのままでいたい。
-ちょっと変な質問かもしれませんが…鰐さんにとって人間ってどういう存在なんですか?
鰐:人って、嘘ついたりするじゃないですか(笑)。動物は、本音だけで生きているし、本当にありのままじゃないですか。それが好きなのかもしれませんね。いや、なんか思想が強いと思われちゃうと困りますけど(笑)。あえて言うなら、そういう感じなのかもしれませんね。
-あぁ。なんか、動物ってただただ生きてるって感じもありますよね。
鰐:人間って考えすぎて行動できないこともありますよね。やりたい時にやりたいことをやるっていう動物みたいな感覚でいたいとは思っていますね。
-そんな鰐さんが、これからやってみたいことってなんですか?
鰐:まだ行ったことのない国に行ってみたいと思います。今までショップで買って飼育してきた子たちの野生の姿を見にいきたいと思っています。
-動画も楽しみです。深谷爬虫類館は、少しずつ拡大はしていくんですか?
鰐:ここも少し手狭にはなってきているので、もっと広くしたいな、とは思います。一匹一匹の環境も広くしてあげたいですし。でも、これ以上大きくすると公共事業のようになってしまうので、僕らの力だけではなかなか難しいと思っています。
-動画はもちろんですけど、書籍など様々な活動で飼育や捕獲の楽しさを、様々な年代に発信してらっしゃいますね。
鰐:そうですね。特に爬虫類とか両生類って世間的にはまだまだ気持ち悪いって思われているんですよね。中には、蛇だというだけで駆除してしまう人もいるくらいです。そういうのは、やっぱり生き物好きとしては悲しいことなので、できる限り生き物の魅力を発信していけたらいいなと思っています。
これからの世界で失いたくないもの。
-では、最後の質問です。鰐さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?
鰐:生き物が好きって気持ちです。ビジネスになると、生き物を商品としてしか見れなくなる方もいらっしゃると思います。それは悪いことではないかもしれないけど、僕自身は原点でもある生き物が好きって気持ちだけは失いたくないですね。
Less is More.
館内の生き物を見つめる視線がとても印象的だった。ベタベタしすぎず、とても愛おしそうにも見える。あの動物との距離感は、なんだかとても不思議だなと思った。
動物との距離感が教えてくれるものはとても多い。実際に深谷爬虫類館の亀たちを触っていると不思議とそんな気分になりました。
(おわり)