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科学で「ととのう」。失われた身体感覚を取り戻す。日本サウナ学会代表理事・加藤容崇氏インタビュー。

タナカカツキ氏が提唱した「サ道」、そして「ととのう」という概念が登場した瞬間は、エキサイティングだった。得体の知れなかった感覚に名前がつくことで、私たちはサウナの新しい楽しみを知ることになり、産業としても一気に広がった。忘れ去れていた身体感覚を取り戻すように、年々加熱するサウナブーム。その核心にあるものは? そして「ととのう」の正体は? 医学的・脳科学的な見地からサウナを研究し、「医者が教えるサウナの教科書 ビジネスエリートはなぜ脳と体をサウナでととのえるのか?」をダイアモンド社から出版、「ととのう」を数値化するデバイス開発まで手がけている日本サウナ学会代表理事の加藤容崇氏に話を聞いた。

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プロフィール:加藤容崇
(慶應義塾大学医学部腫瘍センター特任助教・日本サウナ学会代表理事・通称サウナ教授) 群馬県富岡市出身。北海道大学医学部医学科を経て、同大学院(病理学分野専攻)で医学博士号取得(テーマは脳腫瘍)。北海道大学医学部特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード大学医学部附属病院腫瘍センターにて膵臓癌研究に従事。帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターや北斗病院など複数の病院に勤務。専門はすい臓がんを中心にした癌全般と神経変性疾患の病理診断。また、病理学、生理学にも詳しく、人間が健康で幸せに生きるためには、健康習慣による「予防」が最高の手段だと言うことに気づき、サウナをはじめとする世界中の健康習慣を最新の科学で解析することを第二の専門としている。サウナを科学し発信していく団体「日本サウナ学会」を友人医師、サウナ仲間と作り、代表理事として活動中。

「医療×サウナ」ビジネスモデルとしても新しい。

-まずは、加藤さんがサウナに注目することになったきっかけを聞かせていただけますか?

加藤:サウナ自体はもともと普通に好きだったんです。ただその頃はササッと入って、汗が出たら水風呂には入らずシャワーで流して出る、みたいな入り方をしているに過ぎなかったんですね。そうしたらある日、コミュニティFM「渋谷ラジオ」のある番組で、科学・医学的な見地からサウナを解説してくれというオファーをいただいたんです。

-元々のご専門が病理学ですもんね。

加藤:そうなんです。そこでサウナ業界で有名な秋山大輔さんともご一緒させていただいたんですが、収録中、〈ととのう〉とか聞きなれない怪しいフレーズがたくさん出てきて。医学的に解説しながら、どこか「うさん臭いなぁ」とも思って(笑)。

-確かに体験していないと、怪しい感じはしますよね。

加藤:そうそう、とにかく医師としては受け入れがたい話が多くて(笑)。「話を誇張してるんじゃないか」と疑いつつも、その時は可能な限り医学的な解説をしたんです。その収録後にメンバーにサウナに連れて行かれたのが、今に至るまでサウナにハマったきっかけになりました。僕としては、サウナに入った経験がないわけじゃないし、入浴後のリラックス効果に毛が生えたようなものだろうと侮っていたのですが、彼らと一緒に入ってみると、「あれ、なんか変な感覚がする」と、 明らかにお風呂に入った後とは違う感覚になったんです。そこで「研究したら面白いかもしれません」という話をしました。実は、彼らも自分たち自身の怪しいイメージは自覚していて(笑)

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-自覚してたんですね(笑)。でも、「いい」と実感もしていた?

加藤:そう。「いい」のは確かだから普及したいけれど、きちんとした裏付けがないから一部の人にしか響かず苦戦していたそうなんです。そこで、〈日本サウナ学会〉を創設することにしました

-学会というスタイルを取ったのはどうしてですか?

加藤:日本サウナ・スパ協会などの業界団体はあるものの、国内にサウナを研究するためのプラットフォームがまだ存在しなかったからです。それから、研究費を獲得するためでもありました。「サウナの研究」というと、リラクゼーションなのか予防医療なのか目的が判然としないため、国から助成を受けづらいです。だからきちんとサウナ研究を行うのに十分な科学研究費が期待できないんですよ。ですが、サウナ好きの皆さんと知り合うと、会社経営者をはじめとする富裕層が割と多かったんですね。そこで、「そもそも自然科学の研究とは、裕福な経営者から資金をもらって、自分たちがやりたい研究に熱を注ぐ」というモデルだったら研究費が捻出できるんじゃないかと。

-あぁパトロン的なモデルということですね。

加藤:はい。パトロンが学者に「お金を出すから面白いこと研究してみなよ」と支援し、面白いことが分かったら教えてもらって喜ぶような、そんな文化がかつては存在していたわけです。それでいいじゃないかと。

-日本だと、パトロンというのが成立しにくい状況でもありますよね。研究費をパトロネーゼで取得する手法は、実際にあるんですか?

加藤:ほとんどないですね。アメリカには寄附文化がありますが、日本は国からの研究費が大部分。しかも、権威ある学会に発表される成果の大部分は税金によって行われているにも関わらず、スポンサーである市民にはそこで何をやっているかまったく伝わっていませんよね? 市民と専門家の乖離が大きく、説明義務が果たされていないわけです。僕は、そこの部分をきちんと発信したいと思ったので、このパトロネーゼの方法を選択しました。医学界の新しい切り口にもなると思いますし、スポンサーと研究者、社会と専門家の距離感が再定義できるはずです。

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〈ととのう〉とは〈元気〉になることである。

-サウナ文化が長らく定着してこなかった理由のひとつに、アングラ文化の匂いがしていたことも影響していると思うんです。

加藤:確かに、おじさんたちが酔い覚ましに入浴しているとか、無理して長時間サウナに入って倒れるとか、よくない風習が未だにありますよね。そういうイメージが付きまとっていたことも、怪しさを助長させたかもしれませんね。

-万人が興味を持つきっかけとなったのが、タナカカツキさんの『サ道』だった気がします。

加藤:『サ道』のように、一般の人たち向けにその利用価値を翻訳し始める人たちが登場した。それがブームの発端だったと思います。僕がラジオに呼ばれたのも、そのブームの一環じゃないかと。

-そんな中、研究に真剣になったのは、やはり加藤さん自身に「これはいい」という〈実感〉があったからですか?

加藤:間違いなく、そうです。研究をはじめるのに、一番大事なのって「実感」なんです。実感がなかったらそもそも研究への情熱も起きない

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-その実感こそ、〈ととのう〉という感覚だったんでしょうか?

加藤:〈ととのう〉という感覚ですが、当初、僕は言葉だけが先行しているものだと考えていて。というのも、僕以外の人が〈ととのう〉とどうなるか話しているのを聞いたとき、僕が感じている〈ととのう〉感覚とは違うと思ったからです。皆それぞれが違う感覚を感じながら、同じ言葉で括っている気がしていました。その疑惑が晴れないので、実証実験をすることにしたんです。

-どんな実験をしたんですか?

加藤:スッキリする感覚とは、脳の機能が変化することなんです。ですので、それを可視化してみようと思い、MEG(Magneto Encephalo Graphy)という機械で30名の脳をスキャンしました。もしサウナで得られる感覚がみんなバラバラで個別の現象であれば、30名分のデータを合わせて解析すると一致したデータにはならないはず。ところが、脳の波形が全員だいたい似たような変化をしていたんです。よくよく考えると、サウナに入っている間の行動自体は皆、一緒なんですよね。熱い部屋に入って、冷たい水風呂に入って、休憩する…という行動に加えて、個々の人体構造にも大差ないとすれば、現象自体はそれほど変わらないのです。

-では、なぜそれぞれが別の感覚を感じているのですか?

加藤:いい質問ですね! おそらく、サウナから出た後の感覚の受け止め方がそれぞれ違うんです。入力は一緒でも人それぞれフィルターが異なるので違う出力になる、という感じです。

-なるほど。加藤さんの言葉で、〈ととのう〉とはどういう感覚なのか説明していただけると嬉しいです。

加藤:どういう感覚が〈ととのう〉なのか、興味がありますよね?〈ととのう〉って、ひとことで言うと〈元気になる〉ことだと思うんです。実際に自律神経の機能が高まるという意味で、です。

-もう少し詳しくお聞かせください。

加藤:〈自律神経〉は、〈交感神経〉と〈副交感神経〉がバランスを取り合って機能しているのですが、バランス悪く使い続けると、その働きは気づかないうちに、毎日少しずつ落ちていきます。例えるなら、毎日一緒に暮らしていると子どもの身長が伸びたことに気づかないけれど、たまに会う人はその変化に気づけるのと同じです。

-それくらい微妙に自律神経の働きは落ちてしまうんですね。

加藤:そうなんです。私たちが普段仕事をしているときは、〈交感神経〉のほうが働いています。交感神経は一瞬だけパフォーマンスを上げるのに適しているので、長時間使うのは向いていない。無理をさせている状態なんです。なので、仕事のストレスをオフにできずにいると、〈副交感神経〉とのバランスが取れず、ある一定のラインを超えると〈自律神経失調症〉の症状が現れてしまいます

-自律神経の落差は、症状が現れてからやっと気づくほどの緩やかさなんですね。

加藤:そうです。では、どれくらい交感神経を使っているのかというと、仕事で発揮しなければいけない〈交感神経〉のパフォーマンスが30%くらいです。それが、サウナに入る時は極限の100%近くまであがるんですね。

- 100%!

加藤:そう。一気にパフォーマンスが高まるんです。というのも、サウナって「極限状態」なんですよ。100度近いサウナにずっと入っていたら、まず命の危険が伴いますよね?つまり体が死のピンチを察知して、交感神経の機能が急上昇するんです。

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- 体が「ここはちょっとヤバイ!死んでしまう!」って思って、機能をフルに稼働させるんですね。

加藤:そして、そのあとの水風呂も同じく「極限状態」なんです。

- あぁ真逆の「極限状態」を味わう。

加藤:そういう通常ではありえないピンチを体に与えたあと、最後に休憩する。そうすると、思いっきり逆側の副交感神経が働き出すことで、自律神経全体のバランスが取れ、平常時のゼロ地点に戻っていきます。このゼロ地点こそ、〈ととのう〉の正体極限状態とその状態から脱した後の、自律神経の振れ幅は、落差が大きいんです。だから、ゼロ地点になった時がハッキリと分かり、人は〈ととのう〉と感じられるわけです。

-なるほど。納得です。

加藤:元気とは、“元(もと)の気(き)”と書きますよね。人が本来のパフォーマンスに戻れたときに「元気になった」といえるのです。なので、何か特別な状態になるわけでなく、「元に戻る」「自律神経がゼロ地点に戻る」ということなんです。ちなみに、「クラクラしてととのった」という人も多いので、要注意です。サウナに入ってめまいがするのは、自律神経の機能が落ちている証拠でサウナに入りすぎなんです。逆効果の証拠と言えます(笑)

- 私自身、めまいを〈ととのう〉と勘違いしていました…(笑)〈ととのう〉理屈は非常に理解できたんですけど、「この状態がととのっているサイン」という具体的に体に目に見える変化は現れますか?

加藤:具体的に挙げるのは難しいですが、〈あまみ〉はそれと言えるかもしれません皮膚に赤と白のまだら模様が浮き出るんです。あまみは、医学用語で〈動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)〉と言います。通常、動脈から流れる血液は毛細血管を経て静脈に至るんですが、血が流れるペースが遅いんですよね。ところが、サウナ室に入ると早く体を冷やさないといけないので、迅速に血流のペースを速めるよう調整しなければならない。そのために、毛細血管をスキップして動脈と静脈が直接繋がっている部分があるんです。普段は神経がその蛇口を閉めているのですが、水風呂で閉められたあと、外気浴中に蛇口が開かれるとこの動静脈吻合がある部分だけ赤くなり、ない部分は白いまま。その結果、皮膚にまだら模様ができます。つまり、この模様がきれいに出ると自律神経がうまく調整できているということなので、〈ととのう〉と言えるかと

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いますぐサウナに入りたくなる、加藤流「サ道」。

-ちなみに、サウナ学会で推奨している初心者向けの入浴方法はありますか?

加藤:人それぞれのコンディションによって違うんですよね。サウナの効果を安定させるためには神経の状態を測る必要があるので、僕の場合はGARMINの腕時計で心拍数を測っています。金属製のものは熱くなって火傷するのでNGですが、ラバータイプのスポーツモデルだったら熱でも壊れませんしサウナ室でも着けていられます。でも、機械に頼らずとも簡単に脈拍は測れますよ。

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-ぜひ、教えてください。

加藤:サウナ室で体にかかる心臓への負荷は、軽い運動に相当します。なので、キツくない程度の運動をしたときの自分の脈拍数を覚えておいて、それに達した時にサウナ室を出た方がいいです。

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-あぁ脈拍を測っておくんですね。

加藤:脈拍数と同じテンポを刻む歌を見つけておくと分かりやすいですよ。僕の場合、脈拍数が120~130なので、フジファブリックの『若者のすべて』を目安にしています。サウナに入ったと同時に、脳内で歌い始めて、曲のテンポと心拍数のリズムが同調してきたら出るようにしています

-今すぐサウナに行きたくなりますね。怪しさではなくて、数値などに置き換えることで、自分に何が起きているのか、知りたくなる。

加藤:試したくなったでしょう(笑)

-ストレスフルな現代社会において、現代病と呼ばれるものがあれこれ囁かれていますが、サウナブームの背景にはそういったものを改善しようという動きも影響しているのではないでしょうか。

加藤:影響、あると思います。まだ検証段階なので、あくまで参考としてお聞きください。実際、冒頭にお話ししたMEG実証実験の最中、うつ病の方と一緒にサウナに入って、体調が改善したのを目の当たりにしたことがあります。効果はあるのではないかと思うので、今後、科学的に明らかにする価値はありそうです。サウナの発祥地のフィンランドでは、サウナにたくさん入る人は、入らない人と比べてうつ病のリスクが70%減少すると言われています。ただし、「サウナに行ける時点でそもそもうつ病じゃない」可能性もあります。調査対象となった人が選別されている可能性は否定できませんので、これからの研究に期待してください。

-フィンランドは日照時間も少ないので、それもサウナ文化に影響していそうですね。

加藤:そうですね。北方に位置するフィンランドですと、夏と冬の日照時間の差が非常に大きく、生活リズムが保ちづらい。いつも決まった時間にサウナに入るようにしておけば、体にリズムが刻まれる。これもうつ病対策には大事な効果なんですよね。

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-生活リズムを守り続けると、医学的にいいことがたくさんありそうな気がします。

加藤:それを実証するために、心電図をつけた実験もしていまして。24時間、体に装着したまま過ごしてサウナに入った日とサウナに入らなかった日の体の変化を計測しています。具体的に見たいのは、睡眠の質と、生活リズムですね。

-コロナ禍でテレワークが推奨され始めてからというもの、生活リズムが乱れているという話題が出ていますから、タイムリーな実験ですね。

加藤:ええ。人間はもともと1日1時間ずつ夜型になっていくと言われています。気づいたら昼夜逆転の生活になってしまう。すると、社会生活に戻れなくなり、週1~2回でも出勤できなくなってしまうんです。ですから、生活リズムを日々調整することが大切。その点、決まった時間にサウナに入ることで一定の睡眠時間が保てるなら、生活リズムを乱さずにいられます

研究の最終目標は、病気を予防すること。

-サウナ学会の研究…エンタメとしても優れていますが、こうして深くお話をお聞きするとかなり本格的な「研究」ですね。加藤さん自身、この研究の先にどのような未来をみていらっしゃるんですか?

加藤:僕の最終目的は「未病」つまり病院に患者さんが来なくなること。現代の日本の医療は投薬治療に頼りすぎている傾向があるのですが、根本に目を向けると、誰も病気にならないことに力を注ぐのが最善策であるはずなんです。僕は慶應大学ですい臓がんの研究も進めています。すい臓癌は少しずつ治療成績が上がってきてはいるのですが、それでも癌が進行してしまうと完治は難しいです。進行してしまうと厳しいので予防や早期発見に着目していて、「サウナ」のような伝統的な健康習慣にそのヒントがあるのではないかと思って研究を行っています

ー予防医学・未病は昨今、注目のトピックとなっていますし、予防が実現できれば医療財政の逼迫も解消していけるのではないかと期待しています。そういう意味で、サウナは未病のうちに健康を取り戻す良いきっかけになるといいですね。

加藤:そうなんです。医療費や医療財政の問題。日本には、色々な問題がありますよね。その解決方法のひとつとして、病気になってからの対処ではなく、病気になる前に、いかに楽しんで病気になりづらいカラダを作るか。ということを考えていかないといけません。そのひとつの手段として「サウナ」なんですよね。何よりも気持ち良いですし。

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ー楽しんで、病気になりづらいカラダを作る。

加藤:サウナはさきほど言ったように、サウナでうつ病や、認知症、心筋梗塞など循環器系の病気を予防できる可能性があります。それに向けてサウナで医療界にイノベーションを起こしていきたいですね。

-その研究の一環として今、〈ととのう〉を数値化できるデバイスを開発しようとしていますね。

加藤:はい。その意図はですね、〈健康〉を測る指標が作りたいからです。現在って〈病気じゃない状態=健康〉という考え方ですよね?それだと、ギリギリ病気じゃない状態でも、「健康」ということになるますよね。私たちは、健康かどうかを病気かそうじゃないかで判断しがちです。ところが本来、健康ってそういうものではありません。

- 健康診断の数値などで判断できるものではないのですか?

加藤:健康診断の数値は、病気かどうかを仕分ける<病気値>にすぎないんです。数値ギリギリで病気寸前の人もいるかもしれません。それは、〈健康〉ではないですよね?

- 確かに、数値上で、病気をあぶり出す効果しかないかもですね。

加藤:〈ととのう〉を数値化できれば健康値として使えるのではないかと考えているんです。〈ととのう〉は皆に共通の現象。そもそも〈元気〉になった状態ですからね。今どれくらい健康で元気なのか…感覚に頼ることなく、数値として管理できる仕組みの1つとして、デバイスを開発中です。

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↑自身を被験者として、デバイスを実験中。

-もともと「なんかいい」というような感覚から始まった研究なのに、すごい発展ですね。研究者として、加藤さんはそういった数値と実感値をどう捉えていらっしゃいますか?

加藤:僕は、実感が伴わない現象は芯を食った理解ができないです。実感できていれば身近なものとして捉えられますし、身体感覚に落とし込めるわけです。では、なぜデータを取るかというと「納得したいから」。実感値・感覚値という主観が優先で、それを心の底から納得して、より楽しむために客観的に数値としてデータを揃えるようにしています。

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-東洋医学の見地からしても、サウナってすごくユニークだとか?

加藤:めちゃくちゃユニークですね。鍼灸は紀元前に中国で生まれてから今も基本はそのまま受け継がれているのですが、その発端は、運動もせず酒池肉林の生活をしていた皇帝を「長生きさせよ」という命令に従うためだったと言われています。学者たちが、今で言うビッグデータを集めたのですが、残念ながらデータで保管することはできず、紙に記録するしかなかったわけですよね? そこに書かれた膨大な情報を記憶し、自由に引き出せる人間がいなかったため、代わりに、記録から見出した原理原則が普及し、そこから病の根源と治療法を類推できるような学問モデルをつくったのです。それが、「経絡」というもの。

-いわゆるツボですね。

加藤:そうです。 当時、体には血が巡っているということは知られていたので、どこを刺激するとどう人体が変化するかという自然現象を理解するために、血と同じように『気』というものが体に巡っていると考えて、当時の科学レベルで自然現象を理解するためのモデルを作り学問が体系化されたんです。それが中国鍼灸の礎なのですが、現代の科学技術の観点で見ると全く理解できません。結局、鍼灸師さんたちは、そのことを経験として知りながら治療をしているんですね。で、ここからが面白いところなんですが、サウナに入った人の脳をMEGでスキャンしてみたとき、活性化する領域と、鍼で鎮痛効果を狙ったときの変化のパターンが似ているんです。

-すごい。とても面白いですね。

加藤:ですよね。東洋の鍼と北欧のサウナ、遠い国の文化ですが、実は人体に共通する共通の原理原則を利用した治療法なのではないかと。

-それを体系化して新しい医療が生まれる可能性もあるということですか?

加藤:そうなんです。紀元前の中国でやったように、現代の技術でビッグデータを集めて、デバイスとアプリなどを通じて、広く普及できたら結果として予防に繋げられるのではないかと考えています。理想は、病院に来る人がゼロになること。病院の職員である僕が、そう言うのもナンですけど(笑)

コロナ禍におけるサウナの楽しみ方は?

-さて、コロナ禍でテレワークも進み、人々の〈身体感覚〉がますます失われてきています。サウナで元気を取り戻そうと言いたいところですが、この状況下で「サウナに行って大丈夫なのか?」とも思います。実際は、どうなんでしょうか?

加藤:そもそも、感染症対策は人間に対してではなく〈場所〉に講じるべきなんですよね。サウナ室という場所について言うと、ソーシャルディスタンスは絶対に保ち私語は慎むべき。そして、実は換気はしないほうがいいです。なぜかというと、まず、空気中のコロナウイルスは70℃で5分間経つと感染性を失うことが一流の医学雑誌『ランセット』で報告されています。そのうえで、1時間あたりの換気回数を示すACHという値を温度に換算して計算すると、1分おきにサウナ室内の空気を全て入れ替えているのとほぼ同等なんです。むしろ換気をすると温度が下がり、ウイルスを不活性化できません。もちろん、どんなにコロナ対策しても感染リスクはゼロにはならないので100%感染しないわけではありませんが、少なくともきちんと対策を講じた場所に行くべきです。感染した人を責めてもマイナスの効果にしかなりません

-しっかりと感染症対策をした施設を見つけることが大事なんですね。そのうえで、皆さんにサウナをどう楽しんで欲しいですか?

加藤:サウナ好きの方々は、フィンランド式がいいとか、ドライサウナはダメだとか、さまざまに論争を繰り広げていますが(笑)〈ととのう〉ためにいちばん大事なのは、それぞれが好きなサウナに入ること。実は、体がしっかり温まるまでサウナ室に居られるかどうかは、サウナ室で感じる快適性に拠ります。だから、ポジティブな気持ちでいられるようなお好きなサウナを選択して、しっかり体を温めて下さい。どんなサウナが好きかは人それぞれです。

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これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。加藤さんにとって、これからの世界で失いたくないものは何ですか?

加藤:ホスピタリティですね。コロナ禍で今、社会全体に距離がありホスピタリティが下がっていると思います。集まることがリスクである一方、集まるならリスクを上まわる利点を見出そうという意識も大事なのではないでしょうか。つまりそれは、優しさや楽しさをみんなと共有したいということかもしれません

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Less is More.

サウナは、現在「バブル」と行ってもいい状況だ。ただ、そのほとんどがエンタメとしての捉え方で、業界全体はやがて怪しさに紛れてシュリンクしてしまうかもしれない。そんな中、社会問題を解決する手段の1つとして、サウナを捉える加藤氏の視点は、より幅広い人をサウナ文化へと誘い、やがて「未病」へとたどり着くかもしれない。何より、この実感とデータの扱い方こそが、今の社会に一番必要なことかもしれない。何はともあれ、サウナに行ってみよう。

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(おわり)


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