メディアLess is More.を振り返る。株式会社インフォマート・Less is More.編集長 園田林太朗インタビュー。(後編)
あけましておめでとうございます。Less is More. by Infomartを本年度もよろしくお願いいたします。
新年最初の投稿は年末に引き続き、Less is More. の編集長、株式会社インフォマート園田林太朗氏インタビュー。後半は今までの記事を振り返るインタビューをお届けする。ぜひ、今までの記事と合わせて楽しんでいただきたい。
園田林太朗:株式会社インフォマート 戦略営業部長。当メディア「Less is More. by Infomart」編集長を務めつつ、紙の請求書を電子請求に切り替えるべく多方面で奔走中。日本サウナ学会員、来世までビール主義者。
過去記事を振り返る。
-今回は、初回から11月末までに配信した記事を一挙に振り返り、総括をしていただこうかと。
園田:かなり重そうな企画ですが、行ってみましょう(笑)。
1.ソーシャルディスタンスで失われた物語を、僕たちは再構築する。科学文化作家・宮本道人氏インタビュー。
-記念すべきインタビュー記事1本目は、〈ディスタンス・アートの創作論〉の宮本道人さんでした。
園田:宮本さんには、私も実際にお話しさせていただきましたが、多岐にわたる知識をディスタンスアートという切り口でまとめてらして。知識の濁流というか(笑)。膨大な情報量を、時代性を持ってわかりやすく伝えてくれているように思います。
2.常時接続で失われた孤独。あるいは「長い思考力」。哲学者・谷川嘉浩氏インタビュー。
-次は、哲学者の谷川嘉浩さん。前半でPVは気にしないという話がありましたが、それにしてもこの記事はすごく「スキ」していただきましたよね。
園田:今でも記事へのアクセス数が伸び続けているんですよね。時代が哲学を求めているとはいえ、タイトルにはご本人の肩書きとしての〈哲学〉という単語があるだけ。それでも読まれているという事実から、多くの人が「哲学や心理学が漠然とした不安に答えてくれる」と思っていることを裏付けているように感じます。
3.AIが愛を翻訳できる日は来るのか。翻訳家・小宮由氏インタビュー。
園田:数字の話はしないと言いながら…これはもっと多くの方に読んでいただきたい!
-これもじわじわ「好き」が伸びていまして。息が長い記事ですよね。
園田:一過性ではない記事を作れているのかなと思いますね。
4.DIYバイオが既成概念を失わせる。バイオハッカーふぇちゅいん氏インタビュー。
-ふぇちゅいんさんは、インタビューをさせていただいた方々の中である意味では一番尖っていたかもしれませんね。
園田:尖りすぎて、個人的には大好きな方ですね。このあとに度々登場してくる〈DIY〉的要素をここで初めて出せました。その後、彼のTwitterもフォローしているのですが、つぶやくニュースのチョイスも独特で面白いです。
5.「不便」の中に、失われない価値観がある。多次元型焚き火台【RAPCA】制作者・黒川氏・日野氏インタビュー。
-この頃、コロナ禍で家でアウトドアを楽しむ方が増えた時期でもありましたよね。園田さんから、今アウトドアで面白い記事作ろうって言われた記憶があります。
園田:そうそう(笑)。家の中でテントを張ったり、ベランピングらしきことをしながらリモートワークをするという(笑)。そもそもは、ステイホーム期間におうちキャンプをしている人たちがいるというニュースを見たのが発端なんです。「なぜわざわざ不便なことをするの?」という疑問に、焚き火台【RAPCA】が答えてくれました。
6.家のない暮らしは、未来を規定せず生きること。アーティスト・村上慧氏インタビュー。
-これ、本質的に最もLess is More.らしい記事になった気がしています。誰しもLessしたくないものをLessしているという。
園田: 村上さんは、生活と定住は別物ではないかと世に問いかけている人なのかな、と思いました。
-ある意味では最先端の生き方なのかもしれないですね。
園田:行動だけ取ればアドレスホッパーに近いけれど、全然違いましたね。「定住」ということを考えるきっかけになりました。移住とかリモートとか、どこに住むかってことが世間的にも変化する中で、別の可能性があるように思いましたね。
7.境界領域を失くせ。士業の未来は、ディレクションへとシフトする。税理士・大久保圭太氏インタビュー。
園田:大久保さんは、リリース後にポッドキャストなども聴かせていただいて。税理士らしからぬ税理士さん。
-士業の業界でゲリラ戦を繰り広げているような方でしたね。これまでのラインナップとは角度を変えて、カタい職業の方にアプローチしてみるのも面白いなと。そういう話からスポットを当てた方でした。
園田:税理士自体が広告活動を行うことが許されたのが、今から約20年ほど前だったと思います。そのわりに変化のない業界だと思っていたら、大久保さんみたいな人が出始めた。すごくいい変化だと思いますね。
8.科学で「ととのう」。失われた身体感覚を取り戻す。日本サウナ学会代表理事・加藤容崇氏インタビュー。
-これは、園田さんから「サウナを取り上げろ」っていう命令がくだったトップダウン企画でしたね(笑)。園田さんご自身も サウナ、思いっきりハマっている公私混同企画からはじまりました(笑)。
園田:そうそう(笑)。私自身もサウナ学会員ですからね。サウナブームでさまざまなメディアに顔を出している加藤さんですが、常に「病気をなくしたい」というポジションを取っていらっしゃる。サウナってどうしても面白おかしい側面の記事が多いけど、未病っていう切り口でここまで掘り下げてインタビューしている他のメディアの記事もあまりないですよね。貴重なお話が聞けたように思います。
9.ジェンダー”論”と向き合ううえで、いかに現在地を見失わずにいられるか。ヒラギノ游ゴ氏インタビュー
-どうでしたか? ジェンダー論。
園田:話すことへのアプローチの仕方や言葉選びが、とってもセンシティブな方でしたね。そこからも、非常に難しい社会問題なんだと感じました。書籍や映像、様々な推薦作品をまとめてくれたのって、多分、ヒラギノさんだけです。啓蒙というと雑な言い方にはなりますが、ジェンダー論が広がっていってほしいという強い思いを感じましたよね。
-「難しい問題だからこそ、楽しんで解決しよう」というメッセージも感じました。あと、権威勾配の話。言葉は知っていましたが、これは企業側も考えなきゃいけない領域ですよね。
10.小さな社会への出入り口を失わない為に。駄菓子屋いながき店主・宮永篤史氏インタビュー
-駄菓子屋は、気づいたら社会から失われていっていましたよね。派手なニュースもあまりないですし。それを復興しようと動いているのが宮永さんでした。
園田:今でも10円、20円で買えるお菓子屋さんはありますが、駄菓子屋の雰囲気とまた違いますよね。インタビューでも「駄菓子屋だけで成立するはずないんですよ」って言っていましたよね。「そうなんだろうな」と誰もが感じていることをハッキリと言ってくれた。失いたくない文化の1つですね。
11.その時代・その瞬間の熱を失わないことを「伝統」と呼ぶ。能楽師・武田文志氏インタビュー
-このインタビュー前後で、お能の印象は変わりましたか?
園田:まず、能も狂言も歌舞伎も、その違いを学んでいても曖昧だったんですよね。そう言う前提で、記事を読んで、改めてお能は神事なのだと理解するわけです。本物を観たときにどういうことを考え始めるのか、今後の自分に期待しています。(本インタビュー直後にお能を観覧いたしました。)
12.バグ・エラーはなくならない。これからのデザインの着地点。デザイナー吉田雅崇氏インタビュー
-デザイナーの吉田さんは、Less is More.のロゴを手がけてくれた方でもあります。デザインの話、どうでしたか?
園田:「既視感があるようで無いもの」をつくりたいっておっしゃっていたと思います。もしかしたらそこには世代間ギャップとの戦いもあって、音楽で言うとシティポップが見直されているのと近いものを感じました。「リアルタイムで知らないけど懐かしいと感じるもの」って、今の時代に本質的に必要とされているのかもしれませんよね。
13.フラット化する世界から失われた景色。そして、ウィズコロナの旅とは? 旅行作家・グラフィックデザイナー・蔵前仁一氏インタビュー
-ちょうど2020年に発行された蔵前さんの著書『失われた旅を求めて』にインスパイアされてのインタビューでした。
園田:印象的だったのは、コロナ禍についての話。世界ではマラリアやペストやチフスや、コロナ以前からもっと恐ろしい感染症にさらされている国があるって。自分たちに余裕がなくなると、かくも世界が見えなくなるのかと。ハッとさせられましたよね。
14.多様な人が集う、ゲームセンターを失わないために。ゲーセンミカド・池田稔氏インタビュー
園田:これは、社内の反応でいうと、ゲームセンターを知ってる世代と知らない世代できっちり意見が割れたんですよ。
-世代間ギャップがある中でも、ある程度みなさんに興味を持っていただけたのは、すごく真面目に経営をしている部分かなと。「筐体つくるの?!」って。
園田:今後は「ゲーセンがゲームをつくるしかない」って。すごくポジティブでビジネスとしても面白いと思いました。実は…私も買っちゃったんですよね~基盤を(笑)。
ー園田さんが基盤買ったのはスタッフ一同びっくりしました(笑)。
15.不必要な格式やしきたりへのこだわりを失くし町寿司文化の存続を目指す。出張寿司「鮨川」 代表 ・ 早川太輔氏インタビュー
園田: 料理人が店舗を持たず、作業できる場所をブッキングしてっていうゴーストキッチンってありますよね。美容師業界にも同じようなものがある。それを、もう少し肌感のある形ですでに実現されている。クラウドファウンディングなどの活動も含めて、伝統をアップデートしている印象がありましたね。
ーゴーストキッチンもそれこそコロナ禍で改めて注目されましたね。
16.クラフツマンシップが、失われたレシピを蘇らせる。伊良コーラ代表・コーラ小林氏インタビュー
-「コーラって、つくれるんだ!」って驚いて取材したんですよね。
園田:たしかに。自家製ジンジャーエールは聞くけど、自家製コーラは「秘伝のタレ」的なものだからできないと思っていました。意外と身近なところで、見逃している当たり前を見直すきっかけになったように思います。
-クラフトの流れは、いろんなジャンルでまだまだありそうですね。
17.豆腐から考える。多様性を失うことない未来。豆腐マイスター・くどうしおり氏インタビュー
園田:驚いたのは、豆腐メーカーとまちの豆腐屋さんは敵対していないというくだり。よく考えたら、あらゆる業界で同じようなことが起きているように思って。そういう問題をとても緩やかに解決できる意見ですごく面白かったですね。
-輸入大豆についても明るく言及されているのは意外でした。くどうさん、『まいにち豆腐レシピ』という著書も発売されたばかりなので、みなさま是非ですね。
18.民俗学・文化人類学が再創造する、あらゆる文化が溶け合う未来。SF作家・柴田勝家氏インタビュー
園田:今の世界ではありえない話も、2~3個歯車が噛み合ったらありえるかもよ?!という世界を描いていらっしゃいますよね。柴田さんは、キャラクターにばかり注目が集まってしまいますが、本当に真面目で真摯な方ですよね。あとは、文化人類学ってこれからもっともっとビジネスのフィールドでも注目を集めると思うんですよね。
-はい、そう思います。文化人類学という視点も面白かったなと。
19.失われた物語の復興。揺らぐ世界で空想を守るために。ショートショート作家・田丸雅智氏インタビュー
-2回連続で、作家さんが続きました。
園田:この時点での、Less is More.ど真ん中のインタビューだなという気がしたんですね。田丸さんの強い思いを原動力に、広がって欲しい思想があって…現在の活動を理路整然と語ってくれた。
-企業や行政と絡んでいる点も興味深かったですね。
園田:そうそう。そこも絶妙な距離感で、両立してらして、素晴らしかったです。
20.熱海に失われた青春を再び。お土産から地方再生を考える。ハツヒ株式会社代表・横須賀馨介氏インタビュー
園田:Lessしそうなロゴや施設を上手に使って売上にコミットしているというのはすごいですよね。しかも、移住から始まるという。
-逆に、まさにコロナ禍だからこそ考えるヒントになりますよね。地方にいながら都会的な仕事ができる人が多くなっているので。
園田:すごい思い切りがいいなと思いますね。でもインタビューを読むと、一か八か感はなかったので、すごくビジョンがしっかりしていたんだろうなと。こういう形で事業にフルコミットするのは、今のあり方としていいのかもしれないですよね。
21.「笑い」が起こす分断。マーケティングを超える普遍性。肩書きなきクリエーター・菊池良氏インタビュー。
園田:菊池さんは、「世界一即戦力な男」や、LIG時代のことを知っているビジネスパーソンも多いので、普段とは違う人たちが読んでくれている印象ですね。まだまだ(インタビュー当時は)リリースしたばかりなので、楽しみですね。
-さて…21本。振り返ってみて、いかがでしたか?
園田:いまだに、「こういうメディアです」と、一言で言い切れない感がありますね(笑)。そして、全ての記事が印象的なので、21本もあるようには感じませんでした(笑)。
これからの世界で失いたくないもの。
-では、最後に編集長にもお伺いします。これからの世界で失いたくないものは?
園田:自分がいいなと感じたことに、勇気を持って踏み込んでいくことかな。このメディアを始めたのもそうです。失いたくないのはこの姿勢ですね。
-園田さんの場合、それをナチュラルにやっている気します。
園田:この15年くらいの間に言われた言葉でいちばん大事にしているのが「率直」なんです。「率直」って、素直とも、我儘とも違う。率直な態度で勇気を持って踏み込んでいくことを何よりも大事にしたいですね。ひとまずは、ご登場いただいた皆さま、読者の皆さま、本年度もどうぞよろしくお願いいたしますということで(笑)。
ー今年から、Less is More.は毎月第一・第三水曜日リリースになるとお聞きしました。
園田:はい。良質な記事をもっとじっくりリリースしようということで、チーム全体で決定しました。少し更新頻度は落ちますが、その分良いものをリリースできればと思いますので、お楽しみにですね。
Less is More.
年末〜年始と初めての前後編でお送りしたLess is More.の内幕、いかがだっただろう?編集チームが運用当初から貫いてきたのは「PV数って本質的ではないから、Less is More.に関しては、本質的な議論や、問いが生まれるメディアであろう」ということ。園田氏は、不明確な未来を掴むために、インフォマートという企業を背負いながら、飄々と勇気を持って未来のために動いている。
その姿が少しでも伝わったのなら、とても嬉しいことだ。これからも、どうぞLess is More. by infoMartにご期待ください。
(おわり)