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ローカルで丁寧にものを売ること。こだわり商店・店主 安井浩和氏インタビュー。

東京・早稲田にある「こだわり商店」をご存知だろうか?決して広いとは言えない店内には、他ではあまりみない独特の商品ラインナップが並ぶ。そのひとつひとつは全国から、名前の通り「こだわって」集めた食品たち。独自の美学とローカル愛に根付いたこだわり商店・店主の安井浩和氏にお話を聞いた。

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【Profile】安井浩和/早稲田の街で『産地直送』『食べて旨かった物』を集めた『こだわり商店』を運営。平日10時〜21時、土曜10時〜18時、日祝祭お休み。向かいには当店の食材を使った飲食店「都電テーブル」もオープン。 大隈通り商店会会長。

子供の頃の商売体験が、今に続く。

-安井さんは、生まれも育ちも早稲田なんですよね?

安井:祖父の代から早稲田という土地にお世話になっています。祖父が戦争から帰ってきて、これからは粗食でなく動物性タンパク質が必要になるだろうと鶏肉を扱うお店をはじめたんですね。そこから、総合食肉問屋を商いとして始めました。昭和50年代に父が食品系だとかお菓子とか、様々な食材を扱うお店にしたんですね。要はスーパーマーケットのような形態にしました。

-かなり先見の明がおありですね。

安井:そうですね。僕が生まれたのはちょうどその頃、昭和53年でした。それ以来、早稲田という町とともに生きてきたんです。3歳くらいの頃から玉ねぎやジャガイモ袋詰めから店頭販売まで、スーパーの手伝いをしているような暮らしだったんですよ。

-もう生まれついての商売人ですね(笑)。

安井:そうなんです(笑)。決定的だったのが、小学生の低学年の頃の体験でした。年末になると、賞味期限が近い商品を業者さんが卸してくれるんですが、「これを全部売ったら、お年玉を倍にしてあげる」と親父に言われて。値付けから売り方まで、すべて任されて(笑)。それを店頭で売りさばくというのが、今につながるくらい強烈な商売体験でした。

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-かなりすごい体験ですね。

安井:すごいですよね。店頭に商品を山積みにして「いらっしゃいませ!」と元気に声を出しても全然売れなかったんです。それで「年末でみんないっぱい買い物をしたいだろうから、必要なものを全部買ったあとの出口で売るのはどうだろう」と考えてやってみたんですけど…これもまぁ売れないわけです(笑)。

-そうなんですね(笑)。

安井:最終的には、「元気にやらないで、寒そうに、ちょっと同情を引くように売ってみよう」とやってみたら、これがすごく売れて(笑)。みんなすごく同情してくれて買ってくれたんですよ(笑)。1日数十万円売り上げるようになったんです。

-すごいアイデアですね(笑)。

安井:お客さんの皆さんから「偉いね」「頑張ってるね」と褒められるわけです。この褒められて、お金をいただけるという体験が強烈な原体験として残っています。そんな実家だったもので、高校生の頃から現場に入っていたので、もう大学時代もずっとお店で働き続けていたんです。なので、普通に考えると、買っていただいた方が感謝するものですが、感謝されてモノを売るということを今に至るまで一貫して続けてきているのが僕の仕事だったりします。

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丁寧に売る「こだわり商店」ができるまで。

-スーパーマーケットでの体験からご自身で「こだわり商店」を作ったのは、なぜだったんですか?

安井:父のスーパーはすごく順調に成長していました。僕が20歳のとき、親父が運営していたスーパーの店長を任されていました。肉は自家製製造で、魚も職人さんを雇ってかなり大きくシステマティックで。早稲田を中心に8店舗ほどを経営していました。でも、スーパーってなかなか特色を出しづらいんです。どのお店でも置く物もあまり変わりませんし。

-なるほど。

安井:ちょうどその頃、父が商店街の会長として、ピーク時には年間260回も全国各地で講演していたので、とんでもない量のお土産を持って帰ってくるわけです(笑)。ある時に30キロもの精米されたお米が送られてきてしまって、家族でも食べきれないしこれ…どうしようと。味はめちゃくちゃ美味しかったんです。そしたら父が「売っちゃえ」と。しかも「丁寧に売れ」っていうんですね。

-「丁寧に売る」?

安井:えぇ。要は自分たちでちゃんと調べて食べてうまいっていうことをお客さんに伝えながら物を売っていくってことをしてみようと。ただただ山積みにして値段をつけて売るだけでなく、ちゃんとそのものの美味しさを丁寧に伝えて売ることをやってみようと。そうして米を売ると、お客さんからの声もすごいんですよ。それは生産者さんにもフィードバックできますし、売る側も買う側もみんなから感謝されるわけです。

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-なるほど!購買を通したすごく良い循環ですね。

安井:ちょうどその頃、こんなことがあったんです。スーパーマーケットってAランクの商品だったら100坪くらいのお店に並べるもの…Bだと200~300坪…Cだと500坪クラスというように、商品がA〜Cまでランク分けされているんですね。それぞれ、売場面積に合わせて売るものが概ね決まっているんです。都心部って郊外に比べるとどうしても売り場面積が狭いから、Cランクの商品はあまり取り扱ってないわけです。

-郊外でしか取り扱ってない商品に目をつけたんですね。

安井:そうです。そこでCランクの商品を片っ端から食べてみたんですよ。ほとんどがピンとこなかったんですけど、ひとつだけ、あるメーカーのカップラーメンが驚くほど美味しかったんです。それを100ケースおろしてもらったんです。

-いきなり100ケース…!すごい量ですよね。

安井:メーカーさんにも「絶対売れませんよ!」って言われました(笑)。そのカップラーメンをお店にドンと積んで「店長が選んだめっちゃうまいカップラーメン!」ってプラカードを付けて売ってみたんですね。そしたら…これが全く売れなかったんです(笑)。

-(笑)。

安井:でも、1週間経つとポツポツとお客さんが「あのカップラーメン、もう売ってないんですか?」と声をかけられるようになったんです。タイムラグがあっただけで、そこからは結果的に100ケースがあっという間に売れたんです。結果的に関東で一番そのカップラーメンを売っているお店になったんです。

-すごい!

安井:でも、全国で見ると、そのカップラーメンはあまり売れ行きが芳しくなく、美味しいのに製造されなくなってしまったんです。そういう、他のスーパーで売っていない商品を増やそうと頑張っていたんですが、大体半年もせずに欠品していってしまう状況だったんです。そんな時に、先ほどのお米の生産者さんと出会ったんですね。そうすると、生産者さんは色々と売るためのアレンジを一緒に開発してくれるわけです。小売用に1キロの袋を作ってくれたり、パッケージデザインも一緒に開発できたりと。この生産者さんと直接やるっていうのは、すごいことだなと気がついたんです。お客さんもすごく喜んでくれます。これをもっとしっかりやりたいと。

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↑生産者と一緒に作り上げたお米は今でもお店を入ったすぐの所に陳列されている。

-確かにそれは、すごいことですね。

安井:そうこうしているうちに、スーパーを父から引き継ぐという話になったんですね。僕は「継がない」という選択肢を選びました。もう自分が納得したもの以外を売りたくなかったんです。もちろん、そのままスーパーでできるんじゃないの?とも言われいましたが、できないんですよ。僕が売りたいと心から思ったものだけを売ることをやりたいと思ったんです。

-すごい決断ですね。

安井:そこからがすごい大変で、店舗数3店舗テナント8店舗の従業員を解雇して、店を閉じるわけです。しかも、地域ではある程度インフラとしても機能しているわけです。なので、お店の内外から相当叩かれました。全部整理したころには、死にたいとすら思ったんですね。

-かなり追い詰められても、ご自身の夢に進まれたんですね。

安井:家族にもすごく助けられました。それほどの思いではじめたのが、この「こだわり商店」なんです。

食を考える、選択肢のひとつとして。

安井:平成19年の2月、僕はフリーになって全国の車で回ることからはじめました。色々な地域の仲間に自分のやりたいことをプレゼンして回ったんですね。そうすると、いろんな地域の人たちが一緒にやろうよって言ってくださった。オープン当初はアンテナショップみたいな形も考えたりしましたが、ひとつの地域だけですと、季節によって商品供給が安定しない問題もあるので、他の地域のものも取り扱ううち、「地域」ではくくれないほどの商品数になりました。今では、全国60以上の地域から1,500を超える商品を取り扱っています。

-すごく大変でもありそうですね。

安井:そんなことないですよ。自分たちで食べて美味しいもの、食べて欲しいなと思うものを扱うことは、売る方も買っていただく方にも安心なものです。リピーターも多いですし、「美味しいよ」「こないだのあれ美味しかったよ」っていうやりとりは、なにものにも変えがたいコミュニケーションです。今、こだわり商店では、僕だけじゃなくスタッフやパートのみんなで試食して、実際にみんなが美味しいと思うものだけを売っているんです。そうすると、お客さんとのコミュニケーションももっと深くなります。

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↑安井さんならではの、実感のある手書きポップも、コミュニケーションの一環。

-こだわりの基準ってあるんですか?

安井:極論を言えば「僕が好きかどうか」になってしまいますね。添加物や農薬を使わないというのも、基準の1つではあると思うんですが農薬を使ってないからいいケースばかりではないんですね。人間も、適切なサプリメントを摂ったほうが健康でいれるように、植物でも一概に農薬が悪いとは言えないんですね。なので、僕の基準としては、「作っている人が好きであること」「作っている人が信用できること」なのかもしれません。

-お客様も取引先も一貫してコミュニケーションを大事にされているんですね。

安井:そうですね。自分の好きな人の商品を、好きな人にオススメして、感謝されるという。基本的には小さな頃から変わらない商売です。

-どんなお客様が多いんですか?

安井:いい意味でちゃんと選択しながらモノを買っているお客さんが多くなったと思っています。日本の食は、選択肢がとても多いですよね。クオリティも高い。大量生産のものもクオリティは高いですよね。そういう中で、自分自身がどんな基準でモノを食べて生きるのかと模索している方はすごく多いように思います。そういうときにそっと背中を押してあげたり、選択肢を提案できるのがこだわり商店の役割だと思っています。

-なんで、食を模索する方が多いと感じてらっしゃいますか?

安井:逆説的に、美味しいもの・グルメに飽きてきていると僕は思っています。結構二分化されているように思います。こだわり商店も、いつも利用してくださる食に興味があるというお客さんと、全く興味がないしお店の意味が分からないという両極端なお客さんがいらっしゃいます。僕としては、食文化を満足させるためではなく、このお店があることで、早稲田という地域が少しだけ豊かで楽しい土地になってくれればと思っているんです。

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ローカルで、サステナブルな商いを。

-かなり、早稲田というローカルを意識してらっしゃいますよね。

安井:もちろん、こだわり商店だけで早稲田を盛り上げられるとは思っていませんが、この街の魅力をお店の魅力でアップできるなら、それはすごくいいことですよね。住みたい街であり、住んでいるみんなの満足度も高ければ、そんな素晴らしいことはないと思っています。そのためにも、こだわり商店ではお客さんとの会話をすごく大事にしていますし、試食もすごくたくさん出すんですね。

-なるほど。

安井:僕はこの街もお客さんも今の商売も好きですし、このルーティンをサステナブルに続けることが目的なんです。すごくシンプルな発想です。

-ただ、続けると一言に言ってもすごく難しいことでもありますよね。事業と考えると、どうしても成長を目標にしていしまいます。

安井:スーパーの経営に携わった経験から、今の考えに至っているのかもしれないですね。スーパーの運営をしている時と比べると、売上も客数も全然違います。スーパーのときは、1日約2000人が30坪のスーパーで、とんでもない金額の消費をしていたんです。それよりも、今はこの街で、色々な人に声をかけていただいたり、挨拶し合えるような今のこの街を楽しんでいるんです。

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-素晴らしい環境ですね。

安井:ひとつの街でずっと商売を続けるのはすごいことなんです。昔から買い物に来てくれるお婆ちゃんがいるんですけど、ある日その方に「なんで、あなたのお店に買い物に来ているか知っている?」と問われました。「あのね、あなたのおじいちゃんのお肉屋さんをやってるときにお肉を買いに行ったら、コロッケをひとつサービスしてくれたの。だからあなたのお店にずっと買い物来てるのよ」って言われたんですよ。

-すごい話ですね。

安井:それ、昭和30年代の話なんです。きちんと心を込めて売るってことは、後世まで続くことだと思います。だからこそ、お客さんとのコミュニケーションに何よりも比重を置いています。こだわり商店の店員には、「レジで買い物する際に、かならず買い物かごの中の一つ褒めましょう」っていうルールがあります。そうすると、きっともっと美味しく食べていただけますし、街全体も活性化するんじゃないかと考えています。

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これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。安井さんがこの先の世界で失いたくないものは?

安井:「笑顔」ですね。娘にも勉強はできなくてもいいからニコニコと笑っているだけの努力をしなさいと伝えています。気持ちのいい笑顔は、素敵なコミュニケーションを生んでくれると思うんです。

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Less is More.

こだわり商店の店内でインタビューをしたのだが、なんとも不思議なコミュニティだった。取材中もひっきりなしに来客があり、インタビューの合間にお客様と談笑を繰り返す。そんな安井氏の姿を見ていると、何かモノを売るということは、とてもシンプルがゆえ、何よりも難しいことなのではなかろうかと考えた。スタッフ全員が、自然と取材後にこだわり商店で買い物をし、ホクホク顔で帰ったのもなんとも不思議だった。

(おわり)


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