パンデミックで加速する老舗のアップデート。銀座松崎煎餅8代目・松崎宗平氏インタビュー。
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パンデミックで加速する老舗のアップデート。銀座松崎煎餅8代目・松崎宗平氏インタビュー。

銀座で200年以上の歴史を刻み続ける老舗・銀座松崎煎餅。その8代目を継ぐ松崎宗平氏は、本店のある銀座を愛し、店を愛し、次の世代へ繋ごうとしている。経営者として、組織や業務の合理化や、ECサイトの立ち上げなどIT化を加速。天災、戦災を乗り越えてきた老舗をパンデミック禍においてもアップデートし続ける松崎氏の話を伺った。

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<プロフィール>松崎宗平:1978年、東京都中央区出身。 松崎煎餅8代目。 グラフィックデザイン、ウェブデザインの仕事を経て、現在は株式会社松崎商店(屋号:銀座 松崎煎餅)の代表取締役社長。 松崎煎餅は創業1804年(文化元年)。バンドoysm/SOURのベーシスト。

創業200年の老舗を継ぐまで。

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↑銀座松崎煎餅現在の銀座本店。

-『銀座 松崎煎餅』は1804年創業。その8代目である松崎さんですが、まずはお店を継ぐまでのお話を聞かせていただけますか?

松崎:学生時代、テレビ局系子会社でFlashを使ってアニメーションを作ったりグラフィックデザインをするアルバイトをはじめました。その後、その会社のデザイン部門がなくなることになり転がり込んだのが、とあるITベンチャー企業で、アルバイトを経て正社員になりました。その後、銀座 松崎煎餅に入社することになります。

-もともと、家業を継ごうと考えていたのですか?

松崎:親父からは一度も「継いでくれ」と言われたことがありません。ですから自由に仕事を選び、自由に音楽活動もやってきましたが、将来的に継ぐというのは、なんとなく自然なこととして考えていましたね。転職の際の就職面接でも、「僕、いずれは煎餅屋を継ぐと思うので、それまでの間この会社で、社長業を見させてください」と言ったのを覚えています。7年くらい社長の動き方を見せてもらいながら働いたのは、今でもすごく役に立っていると思いますね。

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-「継ぐ」と決めるまでには、相当な覚悟が必要だったのでは?

松崎:んー。覚悟って、何もないところからするから必要だと思うんですよね。でもずーっとその環境にいたら覚悟って感じではないんですよ。例えば、ギタリストが「1週間後にライブでギターを弾いてください」と言われたら、何の覚悟も要りませんよね?でも、「三味線を弾いてください」と言われたら覚悟が要るじゃないですか(笑)。つまり、置かれている環境からの落差のデカさが、覚悟のデカさに比例する。そういう意味では、生まれた時から煎餅屋だったので、覚悟というのとは少し違うかな。単純に、好きな仕事についたというイメージです。

-実際に継いでみていかがでした?今や事業承継が社会問題になっています。2代目に引き継ぐことさえ大変なのに、8代目ってすごいことです。

松崎:継ぐことだけに目を向ければ、脈々と築き上げたものをそのまま引き継がせてもらえるので、楽な部分もあると思うんです。事業承継で大変なのは継いでからです。社員たちから本当の意味での「社長」と認めてもらえるように、今も日々トライしていますね。

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本店を移転。楽しむための経営判断。

-実際にどんなトライをしてらっしゃるんですか?

松崎:実は今年(2021年)銀座の本店を移転することにしたんです。同じ銀座でも東銀座の歌舞伎座近辺に、今よりも広い店舗を創ります。

-え!?このコロナ禍で本店を移転ですか!?どういった意図で?

松崎:シンプルにいいますと、楽しいことをしていたいってことなんですけど(笑)。

-え!?すごく大胆な経営判断ですよね!?

松崎:僕はうちの煎餅も、会社も、スタッフのこともすごく好きなんですよ。だからできる限り会社を長く繋いでいきたい。この目的を果たすためには、自分自身はもちろん、スタッフ全員が楽しく仕事できる環境が何よりも重要だと思うんです。会社を繋いでいく手段として、過去を継承しながらも、新しい形を作るのは真っ当な手段とも言えると思うんですよね。

-考えはすれど、実際にアクションに起こせる経営者は少ないように思います。

松崎:もちろん、コロナの影響はすごく大きいんですよ。だからこそ、昨年の夏、コロナを言い訳にしないと自分の中で決めたし、スタッフにも伝えたんです。文句を言ってもはじまらないですし。未来に繋げるためのアクションのひとつとしてトライします。

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『銀座 松崎煎餅』のフィロソフィー。

-老舗には、基本的に守るべき伝統みたいなものはあるんですか?レシピですとか…。

松崎:実は、味に関しては、守るべき絶対的なものはないんです。時代に合わせてチューニングしてきました。味を大事にする店や、型が決まっている老舗もありますが、銀座 松崎煎餅が守らなければいけないのは、フィロソフィーなのかなって。

-フィロソフィー?

松崎:「一枚一枚、心を込めて、手を抜くな」。これは祖母からも親父からも言われ続けてきました。地に足をつけて、丁寧に商いをしていくということです。「丁寧に作るとコストもかかるし、大きな利益はないかもしれない。けれど満足してもらえるものを作る」という意味だと受け取っています。そういうフィロソフィーこそが、守るべき伝統なんじゃないかと思うんですよね。

-ブランドとしての信用こそが価値であると。

松崎:そうですね。それから、祖母や親父は「常に売場にいろ」とも教えてくれました。うちに代々受け継がれてきたのは“作るDNA”ではなく、“商いのDNA"と言えるんじゃないかな。実際、店に立ってみるとお客さまの顔が見えて、コミュニケーションが生まれて…っていうのが僕はすごく好きなんです。血筋なんでしょうね。

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老舗であり、ベンチャー企業でありたい。

-松崎さんは、銀座という土地にかなり愛着があるそうですが、なぜですか?

松崎:理由の3~4割は「生まれ育ったから」。あとは単純に「好きだから」。「好き」の3割は「土地が好き」。いろんなショップが立ち並んでいて、こんなに便利でキレイな街はないですよね。質を愛している。そして残りは「銀座で働いている人が好き」ってことなんですよね。

-コロナ以前は、その銀座本店を旗艦店として、全国に店舗展開したいという夢を掲げていたと思いますが、今後の方向性は?

松崎:もちろんその夢は今もありますが、今はやるべきではないと思い、ビジョンから考え直している状況です。

-簡単でいいので、今考えてられることを教えてもらえませんか?

松崎:簡単に言うと、老舗和菓子屋の看板を守りながら、ベンチャー企業へとシフトする。そういうビジョンで攻めるのが、僕ならではの強みかなと。考えている最中ですが、ITにストロングポイントを置いて、唯一無二なフィールドで勝負する。そして、働くみんなが、我武者羅にチャレンジできて、年齢差・性別の格差を超えて活躍できる環境創りもしていきたいなと思っています。

-老舗にして、挑戦者のポジションってすごいですね。

松崎:実は、銀座 松崎煎餅に入社した直後にも、一度トライしているんですよ。合理化、IT化を一気に進めて、それこそ一部上場目指してみようとか…とベタなベンチャー企業思想をビジョンとして描いていたんです(笑)。ですが、2016年にコンセプトストアの松陰神社前店をオープンした時に、祖母が「会社を太くするのではなく、細いままでも長く繋がるように。細く長くね」と言っていたのをふと思い出したんです。それで会社の文化を守りながらゆっくりと成長する方向にしようと考えを変えた。

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↑コンセプトストアとしてオープンした松陰神社前店。

-ベンチャー的な戦い方を一度は考え直したということですね。

松崎:はい。ところが、パンデミックもあって日本も世界も経済が混乱状態になって。もう一度、思考を整理する必要があった。自分のできることはなんだろうと。最終的に自分自身の強みは、「バランスを取ること」ではないかと思ったんです。だとすると「細く長く続けること」と「ベンチャー企業のダイナミズム」のバランスって実は取れるんじゃないかという考えに至りました。

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-バランスを取りながらベンチャー企業へとシフト。移転はまさにその手法の一つということですか?

松崎:そうですね。しかも、屋号を変えようと思っているんです

-え!?屋号も変えるんですか!?

松崎:『銀座 松崎煎餅』という店名は、束縛が多い気がして。銀座という「土地」にも「煎餅」にも捉われている。ずっと抱えていたそのジレンマを「解き放つ」のが、今回の移転のテーマです。和菓子業界としての伝統を守りつつも再構築できればと考えています。ただ、もちろん銀座という土地や煎餅という商品に守られてここまで来ているので、そこはうまくバランスをとりますよ(笑)。

-勇気のある決断、楽しみにしています。実店舗の一方で、松崎さんはIT企業でのキャリアもあるので、ECサイトの運用なども活用されていますよね?

松崎:土地に縛られずお買い求めいただけるのは単純に便利ですよね。実は、移転を検討している時、大きな店舗に引っ越すか、本店をWEBにするかの二択で悩んだんです。

-本店をWEBに?! それは面白いですね!

松崎:屋号を変える意味のひとつは、いずれは本店機能をWEBに移行することも視野に入れてのことなんです。

-現段階では、最終的にデジタルではなく、リアル店舗への移転を選んだ理由は?

松崎:やっぱり、店が好きだからでしょうね。お客さまの顔を見たい。今のデジタルでは、ちょっと物足りないんですよ。オンラインでも、マンツーマンで接客できるコミュニケーションツールだとか、オンラインでもできることはあるけれど、限界もあるし。

-お話を伺っていると、ご自身でもおっしゃられるようにバランス感覚が絶妙な気がします。

松崎:社員からすると危なっかしい社長ですよ(笑)。だからこそ、コミュニケーションのバランスには、何よりも気をつけないと、と思っています。

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食文化はシンプルな方がいい。

-松崎さんは「食文化」に言及されることも多いですよね。

松崎:現代では、ライフスタイルが多様化し個々人で「食べないようにするもの」が増えているし、どんどん食にかんする情報を求められたりします。例えば、こういう砂糖が良い!とか、小麦は食べない方が良い!とかね。食文化って本来は「楽しくシンプルで美味しいもの」でいいと思うんですよね。それを「適切な量を食べていれば健康でいられます」でいい。好きな食べ物を素直に「好き」と言える人でいようよってことなんですよね。誰もが健全に、自分の美味しいと思うものを胸を張って「美味しい」と言える文化が「食文化」のあるべき姿ではないかな。

-最近ですと、SDGsですとか、キャンセルカルチャーなども文脈もありますよね。

松崎:銀座松崎煎餅でも企業として「我々にとってカーボンニュートラルをどうとらえるか」とかって話しを出したりはしていますが、その答えをブランディングのためにPRはしたくないと思っているんですよね。SDGsなども含めて、果たして企業として、どこまで向き合うべき課題なのだろうか?と考える部分はあります。僕個人としてはペットボトルを買わず、水筒を持参するようにしているんですね。それは、「ペットボトルが環境に良くないなら使わない」というシンプルな理由からで、自慢することでも、人に強要するものでもない。自分にできることがあればそれでいいと思うんですよね。もちろん、本当に徹底していて、そこを追求する企業を否定する気はまったくないし、それはすごいことだと思いますよ。そこに向かうことにも肯定的です。

-個人で解決するべき問題と企業で取り組む問題がありますよね。

松崎:例えば、ECサイトというのも便利と裏返しに、ひとつ課題を抱えていたりします。遠くのお客さまに商品をお届けするためには、煎餅が湿気ないようなビニールが必要で、割れないようにするために缶が必要になる。結局、距離を埋めるために、本来いらいないものが増えるんですよね。じゃあ、徒歩圏内のお客さまに向けて食を提供しようと思えば、全然販売形態は変わりますよね。

-あ、街のお豆腐屋さんみたいなことですね?

松崎:あ、そうそう。それを煎餅屋に当てはめてみたらどうだろう?というアイデアはあって。例えば東銀座の新店舗では、そういう環境問題なども含めた答えを模索する場所としても機能するといいなと思っているけれども、どこまで追求できるかはまだ未知数です。

-そういう実験の場としても実店舗が機能するのは素晴らしいですね!

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銀座松崎煎餅が見る夢。

-そんな松崎さんが、この先に見据えているのは、どんな夢ですか?

松崎:働いている人もお客さまもハッピーでいてくれたらいいな。コロナ禍で、先代とも店をたたむことも考えました。でもその時に、店と店に関わるみんなを守りたいと真っ先に思ったんです。まだこの看板でやれることはたくさんあると思うんですよね。

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これからの世界で失いたくないもの。

松崎:「愛」かな。例えば、銀座が好きで、ここで働き、店を守り続ける。食べ物も、好きなものを食う。すべては「愛=好き」という感情が原動力になっています。だから、「愛」は最後まで失いたくないですね。

Less is More.

パンデミックを好機と捉え、ポジティブなアクションで老舗をアップデートする松崎氏。伝統を何よりも大事にするがゆえ、スクラップ&リビルドを恐れずに未来へ向かう。繊細で軽やかなアクションは、すべての人々が見習うべきではないか。今年オープン予定の新しい本店では、きっと素敵なことが起きるはずだ。

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(おわり)



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