世界のあたらしいルール「SDGs」は未来を変えるヒント。千葉商科大学 教授・笹谷秀光氏インタビュー。
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世界のあたらしいルール「SDGs」は未来を変えるヒント。千葉商科大学 教授・笹谷秀光氏インタビュー。

「SDGs」言葉としてはかなり浸透したものの、まだまだ本格的に取り組めていない企業も多いのではないかと思う。今回は、「CSR/SDGs」を専門的にコンサルティングを行う笹谷秀光氏に、SDGsとは何か、あらためてお話をお聞きした。

笹谷氏は、国家公務員から一般企業での経験に加え、千葉商科大学の教授として教鞭も振るわれている。幅広い視点からSDGsを理解している笹谷氏の貴重なお話、企業だけでなく、一個人としても楽しんでいただければ幸いだ。

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笹谷秀光/行政経験(農林水産省・環境省出向・外務省出向など31年間)、ビジネス経験(伊藤園で11年間)、学術経験(千葉商科大学・博士(政策研究))という「産官学」すべてを経験しています。この実践経験を活かし、サステナビリティ、企業の社会的責任、地方創生などのテーマに対応します。特に、ESGやSDGsに対応した企業ブランディングと社員士気の向上を通じた企業価値を高めるためのサービスを提供します。アドバイザー、コンサルタント、講演など幅広く活躍中。https://csrsdg.com/

SDGsの専門家になるまで。

-笹谷先生のキャリアからお聞きしたいと思います。

笹谷:職業人生とは面白いもので、農林水産省に31年勤めることからキャリアがスタートしました。人事院には公務員の海外留学を支援する制度があったので「フランスおよびヨーロッパの経済事情」をテーマにフランスに2年滞在しました。その時に現地をめぐる中で人々のライフスタイルにカルチャーショックを受けた経験が、私の現在の活動につながっていると思います。

-そこから、現在に至るまでを教えてください。

笹谷:帰国後、外務省に出向し米国大使館のワシントンDCに赴任してから対外交渉のポストが多くなり、その後環境省にも出向し、クールビズや温暖化対策を担当しました。モントリオールに気候変動交渉に参加し、役人キャリアの最後は、関東森林管理局長として、国有林の管理を担当しました。

-ずっと気候変動や国際関係にまつわるお仕事をされていたんですね。

笹谷:えぇ。その後は、株式会社伊藤園に入社しました。ここでの取締役などでの経験が、現在の仕事につながっていると思います。

-伊藤園では、どのようなお仕事をされていたんですか?

笹谷:ちょうど入社は2008年、リーマンショック直後だったので企業としても立て直しを考える時期でした。伊藤園は「お客様第一主義」を掲げる企業でしたので、顧客接点を再構築することが私のミッションでした。そのひとつのアイデアとしてCSRの世界標準をビルトインして「世界のティーカンパニー」を目指すことを提案したんです。

-世界基準のCSR …かなり難しい課題ですね。

笹谷:えぇ。最初はそれこそ「それは、本当にビジネスに役に立つのか?もっとビジネスの根幹にヒットするようなアプローチをしてもらいたい」…という意見もありました。ですが、2010年に国際標準化機構(ISO)が企業を含む組織が社会的責任に配慮した活動を行う上での指針を示す、「社会的責任に関する手引き(ガイダンス)」ISO26000を発行したんですね。その中で「CSRは本業でやることを主軸にしろ」と打ち出したんです。本業の中でCSRを組み込むことで、ビジネスとの連携は容易になると考え、伊藤園でも前向きに取り組むことになりました。

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-本業でやる?

笹谷:えぇ。いわゆる経済活動の一環の中でCSRを実現しろということです。それまでのCSRはどちらかというと慈善事業という側面が強かった。儲かった時だけ寄付をするような、慈善事業、フィランソロフィーに分類されるような活動と位置付けられていました。ですが、それは企業の利益に左右されるのでどうしても継続性が弱い。環境ウォッシュとして捉えられるような活動も多かった。乖離していた利潤の追求と社会貢献を同時に叶えるビジネスモデルを構築しようということです。結果的に、社内の業務内容に様々なイノベーションが起きるので会社としても取り組みやすいんですね。

-なるほど!

笹谷:2011年には競争戦略の潮流からも、マイケル・E・ポーター教授が「クリエイティング・シェアド・バリュー=共通価値の創造」を提唱しました。これもまた企業が本業で社会に貢献していくという考え方で、ISO26000に通ずるアイデアだったんですね。こういういくつかの背景に基づいてCSRやCSVと呼ばれる活動を伊藤園のビジネス内に実装していきました。

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-実装時にご苦労された点は?

笹谷:苦労は大小様々ありましたが(笑)。一番大きかったのは、「シェアド・バリュー」だとか、横文字が多くて肚落ちした活動にならなかったんですね。そこで、私の方で日本人が大事にしてきた「三方良し」という単語に置き換えたことでプロジェクトにドライブがかかったと思いますね。

-あぁ確かに「自分良し・相手良し・世間良し」の三方良しはシェアドバリュー的な考え方ですね!

笹谷:そうなんです。ただし、日本では「陰徳善事」と言われるように「善行は人に知られないようにやる」という美学がありました。ですが、グローバルから見るともっと良いことは発信すべきだと思いましたので、伊藤園時代から今に至るまで「発信型三方良し」を提唱しています。こういった活動をまとめているうちに、アカデミアのほうにも入っていくことになり、現在は千葉商科大学の教授として教壇に立っています。

-笹谷先生のキャリアは、そのままSDGsが誕生するまでの歴史のようです。

笹谷:SDGsが国連で生まれたのは2015年9月25日です。どうも日本では或る日突然生まれたもののように考えられる方も多いのですが、先ほどお話ししたCSRやCSVの集大成として、国際的な潮流の中で生まれました。意図せず、この潮流を私自身、身を持って経験したことで、企業や団体におけるSDGs活動についてコンサルティングを手がけています。
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SDGsは広告ではない。

-先ほど「発信型三方良し」と仰りましたが、発信型というのは、広告的な意味合いですか?

笹谷:SDGsは、国民の50%以上がすでに認知しているので、目新しさもなく広告的な訴求力はすでにあまりありません。むしろ広告的に使うことは、企業リスクにもなりやすい。企業で当然やるべきこととして取り組むものです。発信型というのは、受信・発信をしやすくなるツールと捉えるといいと思います。SDGsのマークをつけるだけで、双方の理解がスムーズになりますし、同様の問題意識を持っている仲間と出会え、イノベーションが起こる。そういう意味で「発信型の三方良し」なんです。

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グローバルと日本。SDGsの進捗。

-日本でSDGsが本格化したのはここ数年のイメージがありますが、世界とは差がありますか。

笹谷:かなり差はありましたが、現在は急に差が埋まってきていると考えています。

-実際、日本でのSDGsが遅れをとった理由はなんだったとお考えですか?

笹谷:実は、2015年の段階で当時の総理が国連演説でSDGsにコミットしているんです。なので、スタート自体は諸外国と一緒なんですが、同時に「途上国への支援」も約束したので、これがSDGsを総合的にとらえにくくする元でした。発信の仕方が悪かったのが日本でSDGsが遅れた理由のひとつだと思います。

-あぁ「いつもの海外支援」だとか「慈善事業」みたいに思われてしまった。

笹谷:そうなんです。「Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標」という訳し方も良くなかったです。途上国支援や開発系の企業以外は自分ごととして捉えにくい意味になってしまった。国連は非常に分かりやすく世界に伝達するためのパブリックリレーションを築き、世界での認知度は一気にあがりその意図が正しく理解されていった。結果日本だけが先進国から遅れを取りSDGs後進国になりそうになった。

-世界ではSDGsが全然違う印象だったんですね。

笹谷:そうですね。古くから日本には先ほどお話した「三方良し」ですとか、「もったいない」「おすそ分け」というSDGsに通ずるようなマインドがあると考えています。日本の長寿企業は元々「誰一人取り残さない」に近い発想で、経営が設計されていました。だからSDGsは当たり前だという感じで捉えてしまったんですね。

-あぁ。SDGsと言われても「今更感」があったのかもしれませんね。

笹谷:そう思いますね。

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ESG投資とSDGs。

-世界的にはESG投資の流れもありますよね。

笹谷:その通りですね。これもやはり日本は遅れを取っています。ここ数年で日本の投資家もESG投資を学び始めていますが、グローバルでは2006年には国連がESG投資を推奨し始めていたんですね。

-15年も前からですか!

笹谷:2006年に国連のアナン事務総長がESG を投資プロセスに組み入れる「責任投資原則」を提唱しました。当初は、懐疑的だった投資家達も2008年のリーマンショック以降で社会的な責任を持つ企業の価値を見直さざるを得なかった。これによって世界のESG投資額全体に占める割合(2018年)が、ヨーロッパ約50%、アメリカ1/3を占める一方、そんな中日本はなんと、2%しかESGを基準に投資していなかったんです。

-2%…?驚くほど少ない。

笹谷:こういった投資家の動きを見ても、グローバルとかなり差はあると思います。ただ、世界最大の投資機関でもある日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が積極的にESG投資をスタートしています。ESGの判断にSDGsをチェック項目として、いわば企業の格付けを行うので、日本でもようやく投資家を中心にESG投資が本格化してきたと思いますね。

-どうも、こういった投資の観点から見ますと、上場企業がSDGsに取り組む意味はわかります。中小企業がSDGsに取り組む必要はどうお考えですか?

笹谷:日本の産業構造上、上場企業が取り組むことは必ず中堅・中小企業にも波及します。2018年頃から上場企業のSDGs実装が加速してきたことで、現在は中小企業が学び始めているようなフェーズに入っていると捉えています。

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SDGsは世界の新しいルール。

笹谷:「SDGsへの貢献」なんて言葉をよく見かけますが、これはそもそもSDGsへの理解が不足していると思っています。そういった一歩引いて「手伝います」というようなものではなく、SDGsは国連加盟参加国193カ国が全員合意のうえ、国連で文書化された世界の共通ルールであることをきちんと認識していただきたいと思います。SDGsは国連採択文書「我々の世界を変革(トランスフォーム)する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」と謳われているように世界を変える知見が盛り込まれた、いわば変革思考と未来思考のためのヒントでもあるんですね。

-あぁ。なんか「やらされている」みたいに思ってしまいがちですよね。

笹谷:きちんと理解し、各企業が本業の中でSDGsの実現を目指すことで、イノベーションが起きやすくなるということをまだまだ理解してしない企業や個人が多い。本当はSDGsは、捉え方によってはツールにもなり得る。それを少しずつ理解してもらえるといいなと思います。

-なるほど。

笹谷:経営資源の4要素として「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われますが、SDGsはこういった全てに関わりがあるように作られているのでビジネスとのリンクが容易です。現状のそれぞれの企業課題や個人の課題をSDGsの項目に当てはめながら考えることで、サステナブルな経済の構築が可能になる。

-シンプルだからこそ当てはめやすいのかもしれませんよね。

笹谷:何度も申し上げますがSDGsは「本業のなかでやらないといけない」。だからこそ、会社だけでなく社員ひとりひとりが全ての人が学ばないといけない。例えば「普段の業務に関係ない」と思われる方であっても、SDGs17項目を見直すと、きっと何らかの関係項目が見つかるはずです。

-企業はもちろん、個人も含めて国際的なルールだと思って学ぶことが必要なんですね。

笹谷:えぇ。SDGsというルールを羅針盤に使ったうえで、気候変動だとか様々な社会問題を考えていくようにすべきです。これからの世界において、あらゆる情報を取捨選択するための羅針盤です。

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SDGsを達成してこそ、独自性を表現できる。

笹谷:私は良くフィギュアスケートに例えるんですが、SDGsは「規定演技」なんです。まずは、当たり前にこの「規定演技」ができた上で「自由演技」にトライできる。例えばモスバーガーは、SDGs17項目と169のターゲットの全ての項目のチェックをした後で、自分たちだけのSDGs18番目”「心のやすらぎ」「ほのぼのとした暖かさ」を世界の人々に”を創りました。

-素晴らしいですね。

笹谷:これも17項目をきちんと学び、理解しているからこそ、独自の「自由演技」ができるということなんですよね。事業見直しからローリンングかけるためのチェックリストとして、まずはこのようなあてはめをやってみてはいかがかなと思います。すべてを網羅して、時には専門家と組んで解決していくことが肝要かと思います。

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SDGs実現で日本はどうなる。

-笹谷先生は、SDGs実現の果てにどのような日本を描いてらっしゃいますか?

笹谷:「結(ゆい)」や「和」などの日本ならではの古くからある相互扶助システムがあったりしますし、日本は、本来的にはSDGs的なDNAを持っていると考えています。それが一つの原因で出遅れたとはいえ、世界を見るとSDGs的なマインドをもともと持つ国は珍しいと思うんです。だからこそ、日本的なSDGsモデルを構築できれば、きっと世界からも注目されると思います。

-なるほど!

笹谷:ですが、島国ということも関係あると思いますが非常に同調圧力が強い。だからこそ、世界のルールSDGsを正しく理解して、実装していくことが大事です。企業や個人という枠を超えて、17項目の目標達成を、未来への結束のための共通言語として捉えるといいのかもしれませんね。

-結束のためのルールと考えると素敵ですね。

笹谷:これから、SDGsネイティブと呼ばれる世代が出てきます。学習指導要領にSDGsが組み込まれていますので、ネイティブスピーカーのようにSDGsの考え方を自在に使える世代が育ってきている。だからこそ、私たちもSDGsを学び、また上手に活用できることが必要とされているんです。

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これからの世界で失いたくないもの。

-では最後に、これからの世界で失われてほしくないものを教えてください。

笹谷:私の好きな言葉に松尾芭蕉の「不易流行(ふえきりゅうこう)」というのがあります。変化に対処しながら良きものや普遍的なものを残すということをどれだけ考えていけるか。SDGsに限らず、この考え方こそ失われてはいけないのではないかと考えています。

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↑笹谷氏の最新著書「Q&A SDGs経営」(日本経済新聞出版)

Less is More.

今回お話をお聞きして、改めてこれはいわゆるCSRでなく世界的なルールの改変だと気が付かされた。あらゆる企業・個人が学び、少しずつSDGsを達成していくことは、世界をもう一度考え直すことに他ならない。笹谷氏のお話を聞いているとそれは、きっとチャンスでありとても楽しいことだと思えた。

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(おわり)


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