地方都市から描く経済と脱経済の間。安達鷹矢氏インタビュー。
兵庫県 丹波篠山福住。江戸時代までは宿場町として愛されてきたこの町は、大阪・京都・神戸の大都市から車で1時間半かかるいわゆる地方部だ。
この町を舞台に、歴史的なまちなみを活かしながら、独特な価値観を持つ「職人」が集まり、緩やかな「地方創生」が進んでいる。
その中心で活動される株式会社Local PR Plan 代表の安達鷹矢氏に、これからの地方の在り方についてお話をお聞きした。
住んでいるからこそ、現実的な地方の問題を解決できる。
-安達さんは元々楽天グループなど大手でも勤務されてたそうですが、なぜ地方での活動を手掛け始めたんですか?
安達:元々大学ではマス・コミュニケーションを専攻していました。自分が何を伝えるべきか考えながら、地方をバイクで巡っていたんですが、その際に地方ならではのすごくいいモノや、本物と呼べるような技術があるのに、それらが思ったように広まっていないことに疑問を感じたんです。どうにか伝えていけないかと思っていたんですよね。
-なぜ丹波篠山市福住だったんですか?
安達:大学時代にキャンプに連れて行ってくれたり、色々とお世話になっていた社会人の方がいらして。その方が株式会社NOTE(当時は一般社団法人ノオト)で丹波篠山市の古民家再生事業を手がけ始めたんですね。そのタイミングで「一緒にやらないか?」と声をかけてくれたので、移住することを決意しました。地方創生をやりたいというよりは、学生時代から考えていたことができそうな面白い仕事じゃないかと思って移り住むことになったんですよ。
-移り住んでまでコミットするなんてすごい決意ですね。
安達:住む場所が変わることには抵抗がないですし、面白い仕事があるならそこに行こうという感覚なんですよ。企業に所属していた時代も配属希望で北海道・沖縄・鹿児島って書いたくらい、行ったことのない場所に行ってみたいと思っていたんです(笑)。
-(笑)。地方創生って、色々な文脈で語れると思います。実際、都市部に住んでいると、地方の何が問題で、何を再生すべきなのか見えづらい部分ってあると思います。
安達:実は、地方創生しなきゃって使命感みたいなものはあまりないんですよ。マクロな視点で見た時に都市部に人と機能が集中している弊害はあると思います。地方が失われると、じゃあ「誰が生産するの?飲み水の管理はどうするの?」と、かなり困った事態は起きると思います。そういったマクロ視点での問題はありますが、私としては住みたいところに住んでみて、目の前の問題を自分たちの力で解決していっているだけなんですよね。
-それが、外から見ると「地方創生」みたいに捉えられてしまうということですね。
安達:「地方創生」って社会課題みたいな角度で語られますが、実は行政みたいな目線で見ると、現実的な解決方法がきちんと描かれていないんですよね。例えば一つの目標として「人口を増やす」みたいなことが掲げられていたりするんですが、本来は人口を増やすのではなく、人口が増えた結果の「価値の生産量を増やして納税額」っていうのが正しいと思うんですよ。なので、人口が増えることだけを目標にすると、むしろあまりいい状況を生み出さないと思うんです。地方創生の計画において、人数だけをKPIにしているのは論外だと思いますね。
-確かにむやみに人口を増やしても仕方がないですよね。そういう状況もあって「地方創生」ってちょっとふわっとした問題になっているのかもしれませんね。
安達:実際、KPIの設定を間違えて、移住者の数だけで「人が増えた」って喜んでいたりするんですが、本来的にはその土地で事業を伸ばし、価値を生み出して法人税をたくさん納税してくれる人や、働きながら子どもも産んでくれる若年層が増える方が、地方にとってはプラスになります。
私自身も行政に提言をすることはあるんですが、その辺りの目標設定と現実の齟齬が大きな問題だったりしますね。なので、私としては「地方創生」みたいなぼんやりした社会解決を手掛ける気はありません。自分の住む町を良くする、その道程で、解決できそうな社会課題があれば解決できればいいなと思うくらいなんですよ。
-なんかふんわりと「地方創生」として捉えると、本当の問題には気が付けないのかもしれませんね。
安達:私はこの福住に移り住んでもう10年以上経ちます。実際に住んでいる身からすると、地方創生って言葉として一人歩きしているようにも感じますね。
-例えば、都市部からフェスティバルを企画したり地方をチアアップするようなプロジェクトもありますが、安達さんが10年以上地域に住みながら地方を盛り上げるのはなぜですか?
安達:例えば、フェスティバルのようなカタチで大きな成果を出すこともあるので否定するべきものではないとは思います。ですが、地方創生ってごくシンプルにいうと「経済を発展させて、人や町が持続可能に発展する」というだけなんですよね。一瞬のお祭りとして大きな風を吹かせたとしても、すごく意義深いこととは限らないんです。そういう意味では、自分のやっていることと、そういった外部によるプロジェクトは住み分けて考えていると思います。
-なるほど。
安達:卑下して言うわけではないのですが、私たちは天才ではないんです(笑)。エリアが持っている課題や特徴、クセみたいなものを掴むのは、すごく時間がかかります。一発で地域の課題が分かる、異次元の天才みたいなコンサルタントもいらっしゃるかもしれませんが(笑)。自分の暮らしている町が、少しずつダメになってしまうから、自分たちで何をできるかって考えることが出発点なんですよね。
-あくまで、住民自身でエンパワーメントしていくべきだと。
安達:完全に何も考えずに地方移住をしてきてもどうかと思いますし、かといって超天才が集まるエリアでもありません。そういう方は都会でも難なく暮らせますからね(笑)。僕みたいに中途半端な程度に先が見通せて、よくわからないトライをしたい人たちが地方に来て、リアルな状況をきちんと理解して粛々と一つずつ積み上げていくしかないと思うんです。一方、都市部の目線で、地方在住の尖った人をピックアップしてあげるのも大事かもしれませんよね。
-すごく冷静に現実を考えていらっしゃるんですね。
広義の「職人」が活躍する町へ。
-安達さんが考える理想的な地方のあり方について教えてください。
安達:前提として「地方」っていう大きな括りでは答えが出ないと思っています。エリアごとに問題も違うので、丹波篠山福住に限って話しますね。
-色々な地域のヒントにもなると思うので、ぜひお願いします。
安達:福住は、京都・大阪・神戸などの都市部から車で1時間半くらいのエリアです。この立地条件は、一泊で旅行に行くついでに立ち寄るような町なんですよ。そういう町なので、皆さんが立ち寄った際に楽しめるような、クオリティの高い食やプロダクトを作れる「職人」を集めることを実施しています。
-「職人」?
安達:福住は「創造的職人宿場町」をコンセプトとして掲げています。ここでいう「職人」というのは「アーティスト」に近い意味で使っています。マーケットに対して何かを作っているというよりは、誰にも理解されないけど、いいこと・ものを手掛ける人、そのための技術を高めていく人を「職人」と総称しているんです。
-すごく広義で「職人」と使われているんですね。
安達:例えば、教育を手掛ける人や、環境負荷の少ない作物を作る農家さん、景観保全に関わるスキルのある方も「職人」と呼んでいるんですよ。
-へー!面白いですね。
安達:そういった特殊で独特な技術を持った「職人」が100人移住し、この町で開業して、それぞれのお店やサービスで年間1000人のお客さんを町の外から呼び込めるとすると、単純計算で年間10万人が訪れてくれる町に成長します。結果的に観光、交流、消費で年間10億くらいのGAPが生まれる見込みですね。これを持続していくことで、自立した町になることが目標です。
-GAP??
安達:私たちは、GDPではなく、GAP=Gross Area Productという指標を設けていて、この地域の成長の一つの指針ですね。
-かなり具体的な施作ですが、これは全て計算しながら進めているんですか?
安達:実は、日々、困っていることをバラバラと一貫性なく問題解決してきて、まとめて言語化できたのは最近なんです(笑)。
-そうなんですね。どのように取り組んできたんですか?
安達:まず、最初のステップは、移住促進でした。福住エリアの空き家を把握して、移住したい「職人」とマッチングしました。移住に関する改修工事のサポートや、開業に関するコストコントロールについても、私たちの方でできる限り支援することで、優秀な「職人」を集めることを手掛けました。
-至れり尽くせりな移住ですね。
安達:ステップ2は、移住・開業したお店への誘客やリピート施作などのサポート、イベント企画などの仕掛け創りを手掛けました。
現在は、ステップ3として位置付けていて、エリア全体でビジョンの統一、戦略的にエリア全体で協力し合う体制づくりを手掛ける真っ最中です。こうして、町全体で俯瞰して考えるステップに至って、ようやく自分たちの施作をまとめて話せるようになったんですよ。
-こういった施作は、地域一丸となって推進しているんですか?
安達:もちろん「職人」だけでなく、農家さんや地域に長く住んでらっしゃる皆さんにも説明しながら進めています。
-地域の皆さんへの説明って、かなり大変なことなんじゃないですか。
安達:はい(笑)。おっしゃる通りで、最初は言語が違いすぎて、特に長く住んでいらっしゃる皆さんには全然理解されませんでした。でも、それも私たちが都会で話す言葉を常識だと思ってコミュニケーションしていたからなんですよね。地方からすると、ずっと住んでたところにいきなり来て歩み寄れって言うのはやはり筋違いなことなんですよ。なので、きちんと丁寧に説明しながら、少しずつ理解を得るようにしています。お互いの前提を擦り合わせていくことが大事なんです。
江戸時代のライフスタイルを現代に。
-「職人」も少しずつ増えてきて、すごく上手く行っているように見えますね。
安達:福住は、江戸時代までは「宿場町」として栄えていました。大名行列が来ると、町でたくさんのお金を使っていたそうです。対照的に普段は静かな日常で、田畑を耕して生活コストを抑えるような生活スタイルだったそうです。私は、この生活スタイルをどうやって現代に復活させ、アップデートできるかを考えているんですね。古民家があって、田畑が広がって…という風景は、当時から今まで変わっていません。
-あぁ。宿場町としての生活スタイルに合わせて作られていった町だし、それに最適化された建物や町が残っているんですね。
安達:その通りです。江戸時代のライフスタイルをベンチマークしているので、経済がずーっと成長してスケールアップしていくようなあり方は、あまりこの町に向いてないと考えています。大名とは言いませんが、数少なくても良いお客さんがきちんと来ていただけて、それに対して「職人」が本当に自分の作りたいものを作って売っていければいいと思うんですよ。それ以外の日常は、慎ましく静かに暮らす。そういう暮らしに幸福を感じられる町にしたいんですよね。
-土地に根付いている生活スタイルを現代的なアップデートするのはすごく面白いコンセプトですね。
安達:本当にそう言う感じですね。4~5年前くらいから、これを強く意識して活動してきました。これは、自分の実体験から感じたことでもあります。私はこの地に来た当初は、給料から見るとすごく減ったんですよ(笑)。でも、家賃などの固定費もすごく少ないし、好きなことだけやっていても死なない環境だったんですね。今では好きなことをやり続けることでなんとか食えるようになりました。
-まさにご自身も「好きなことで、生きていく」ような成功体験ができたんですね。
安達:同じような感性の「職人」が集まってきてくれているので、結果的にこれって江戸時代の福住のライフスタイルなんじゃないかというところに行きつきました。
-「職人」の移住は、何か基準があるんですか?
安達:現状は、職人のプロダクトにおける作り込みや将来性を加味しながら私たちが判断しています。ふんわりと何かをやりたいと考えていても、経験値がなく夢だけ描いて移住するのは、長期目線で見るとあまりいいことではないと思うんですね。
-例えば「定年後はカフェをやりたいと思ってたんだ」みたいな感じですね。
安達:むやみにハードルを上げているわけではなく、何かしらのスキルがあればいいとは思うんです。例えば、ずっとパティシエをやってらした方が「カフェをやりたい」というのは、領域が近いのでうまくいきそうですよね。全く未知の領域の夢を叶えるのは、なかなか難しいですから。
-確かにそうですね。
安達:福住では、魅力的な「職人」がいることで、単純に移住したいと考えてくださる住民も増えてきているんです。産業側をきちんと整備して発展してこそ人口も増えるんですよね。
-福住をモデルとしてお話いただきましたが、同じような地域創生モデルって他の地方でも可能だとお考えですか?
安達:もちろん、地域ごとに特性は違いますが、エリアによっては可能だと思います。例えば、私の場合、自身の出身地でもある高槻市の中心から離れた商店街の再生とかなら、エリアの特性を理解しているのでできるかもしれません。10年くらいかけて経験したことは、全てのエリアとは言いませんが、ある程度は他のエリアには要素を抽出して、きちんと分析をすれば展開できるんじゃないか、とは思いますね。
とはいえ、地域の開発をするなら、やはり「住む」っていうのはすごく重要だと思います。自分自身が住んでるからこそ、「職人」にお声がけしてもご納得いただけると思うんですよね。
拡大と成長の行方。
-現在の年間GAP10億を達成して、拡大し続けていくようなイメージでいらっしゃいますか?
安達:悲観的に聞こえるかもしれませんが、福住に限って言えば、拡大はそこまでしていかないと考えています。大きな理由としては、宿場町の街並みは国の保存地区になっているんです。制約がすごくあるから、新築を建てられませんし、大手企業が参入しにくい土地なんですよ。裏を返せば、むやみに拡大しないでいられるんですよね。
-あぁ。制約が急速な拡大の歯止めとしても機能しているのは、すごくユニークですね。
安達:100人の職人が移住してきてくれたら、大体この町の空き家は飽和状態になると思うんです。それ以上は空き家がないので人口も増えようがない。そういうエリアなので、拡大にもある意味では限界があるとは思いますね。
-そういうエリア特性だからこそ、急激に不動産価値が上がったり、大手が参入して開発が起きたりしにくいのは、いいことなのかもしれませんね。
安達:少し、大きな視点で考えると、日本って人口が減り続けていますよね。今後、私はもっと都市部に人口集中すると予想しています。都心は、日本人のごく一部の富裕層と、外人の富裕層が暮らす町になり、その他大勢の日本人は、地方に住みながら都市部に働きにいくか、地方で何かしらの生産をしていくことになると思っています。
-なるほど。
安達:そういった未来予想において、福住はある意味ではレジャーとして訪れる地域になれたらいいなと思っているので、プロダクトアウトなモノづくりをする「職人」の移住を推進しています。例えば吹きガラスの作家さんも1脚 数万円するようなワイングラスを作ったりしています。「職人」の技術力を高めながら、それに合わせて価値も高めていくことはできます。ものすごく観光で賑わう必要はなくて、独自の技術を高め、それに価値を感じていただけるお客様が定期的に来てくれる町が理想的だと思うんですよね。
-そこに住む人たちの技術力の醸成によって、ゆっくり右肩上がりに成長していけるモデルなのかもしれませんね。
安達:日本全体を考えても、今後急激に景気が良くなる見込みもないですから、急激な成長は望めないと思っています。そういった状況で、金銭的な成長を追いかけて行っても幸福度とはあまり関係ないと思います。全ての人には当てはまらないとは思いますが。
-それはそうかもしれませんね。
安達:都市部では、どれだけ稼いだら幸せになるのか、疑問を感じながら日々の仕事をしている方って多いと思うんですよね。
-それは、感覚としてありますね。
安達:稼ぎ続けて幸せになるモデルは、稼いで消費して、もっと仕事をして…っていうある意味では無限ループみたいな状態なんだと思うんです。福住に来てくれる職人は、「好きなことを続けていたら、お客様が喜んでくれて、しかもきちんとお金も頂けて幸せだな」みたいな価値観があるんですよね。経済的な成長が基準でなく、そういう価値観の人たちが増えていく地域にしたいんですよね。
-それは素晴らしいですね。
安達:あえて「職人」の幸せを定義するなら、「自分の納得できるモノづくりを100%できていて、それが評価されること」だと思います。自分自身も、都会で会社員として毎日ずっと働いて成長して…っていうのはすごく違和感があったんです。大きな企業で、大きなプロジェクトを手掛ける幸せというのももちろんあります。でも、そういう経済システムにハマらない人も当然いますよね。自殺者の増加もそういった状況に関係ないとは思えないんですよね。
自分自身もそうだったように、お金に困らなかったら何がしたいんだろう、何ができるのかって向き合うことが大事だと思うんですよね。自分のやりたいこと・やってみたいことを極限まで高めることが幸せであって、儲けを基準にする世界でなくてもいいんじゃないかと思うんですよね。
-いわゆる資本主義とはちょっと違う選択肢を持てる場所なのかもしれませんね。
安達:資本主義って、これから変容するとは思いますが、現状を見ると競争によって一部の天才や富裕層を生み出し、その一部をその他大勢が支えるような側面があると思うんですよね。実際に国家としてもそういったシステムを推進していると思います。でも本当は、様々な場所から多様な才能が生まれ、それらがシナジーを生み出した結果として、GDPを底上げするモデルだってありえると思うんですよね。特に日本はそういう経済モデルに合うのかもしれません。そういうことがこの町を舞台にできたらいいなと思うんですよね。
-お話をお聞きすると、オルタナティブな可能性を地方都市に感じますね。
安達:競争が好きな人もいると思いますし、それはそれでいいと思います。でも、少なくとも私はこれからの日本ではそれが楽しい価値観だとは思わないんですよね。私たちの地域も、衰退と隣り合わせな状況ですから、誰しもを理想的に救えるとは考えていません。でも、やりたいことをやって幸せに暮らせる人がたくさんいる地域だといいなと思っています。経済と脱経済のちょうど間くらいの立ち位置だといいですね。
自分達の文化に胸を張っていくこと。
-地方ってこれからどういった立ち位置になるとお考えですか?
安達:ネガティブに考えると、先ほどお話したように地方と都市部の格差が広がっていくと思いますが、この状況を楽観的に見ると、ヨーロッパの歴史ある国のようになり得る可能性もあると思うんですよ。
-どういうことですか?
安達:イタリアとかギリシャのようにGDP的に見ると著しい成長していませんが、なんとなくプライドを持って楽しそうに胸を張って生きているように見えませんか?あまり悲壮感がなく、気楽に生きているような(笑)。
-あぁ。なんかわかります(笑)。
安達:日本においても「日本の地方のライフスタイルって最高でしょ?」って思えたらいいんじゃないかと思います。結果的にギリシャやスペインのようにデフォルトすることもあるかもしれませんが(笑)。
-笑い事ではありませんが、確かに(笑)。
安達:ギリシャやスペインって実際に暮らしている人々を見てる限りは、デフォルトしてもそんなに深刻な影響があるようには見えないんですよね。それは、人々の幸福の基準が経済ではないからじゃないかって思うんです。フィンランドやスイスもまた別の幸せそうな国だと思いますし、世界には日本とは全然違う価値観で生きている国がすごく多くありますよね。
-結局一人一人の心の持ちようなのかもしれませんね。そういった心持ちになるにはどうしたらいいとお考えですか?
安達:日本にしかない独自の文化に、ちゃんと誇りを持ってかっこいいと思えることだと思いますね。やっぱり宿場町の建物とかかっこいいと思いますもん。日本の文化はシンプルにかっこいい。自分達の文化にきちんと胸が張れると、都市部の価値観って、欧米に追従するだけで魅力がないものに見えてくると思うんですよね。
-何で日本の独自文化に胸を張れなくなっているんでしょうか。
安達:アメリカ的な経済モデルや成長を追いかけようとしてるからじゃないかな。例えば、GDPって新築がどれくらい建ったかで測る指標があるんです。新築を建ててないとGDPって上がらないらしいんですね。福住が実践していることって、GDPみたいな経済指標からすると真逆のことをやってるとも言えると思うんですよね(笑)。
-本当にそうですよね(笑)。何しろ新築が建てられないんですから。
これからの福住。
-これから未来に向けてはどのようにお考えですか?
安達:当時の街並みを少しずつリノベーションしながら使っていきたいと思います。梁や建具なんかは当時のまま残すべきですが、トイレやお風呂はきちんと現代の施設にした方が過ごしやすいですよね。便利なところと風情を残すところをきちんと考えながら次世代に残していきたいと思います。この風情の部分は、ある程度マーケットのニーズに合わせて残していくべきでもあるので、そういった判断は私の仕事の一環かなと思いますね。
-安達さん自身は、福住に住み続けるご予定ですか?
安達:50代くらいまでは、ここで暮らしたいと思いますね。ただ、私自身が色々と決定権を持ちつつあるので、利権化することがあってはならないと思っていますし、長く住むことで老害的な立ち位置になってしまうことは避けたいです。一箇所に留まることはいいことですが、やっぱり自分自身でも経験値で語ってしまうことって、10年やってきた今でもなくはないので、気をつけたいですね。
-これからの夢があれば教えてください。
安達:自分の家族、特に息子に恥じないことをやっていたいと思います。それと、スタッフが幸せに暮らせるようにしていきたいですね。全然具体的ではないのですが、いつか海外でも同じように挑戦してみたいなぁと考えています。
-本日はありがとうございました。
安達:福住では「職人」たちが苦手とするバックオフィス業務、経理ですとかIT系のサポートができる組合組織を作る真っ最中です。まだまだリソースが足りていません。ぜひ、バックエンドを手掛ける「職人」に興味がある方が連絡してくれたら嬉しいです。
これからの世界で失いたくないもの。
-では、最後の質問です。安達さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?
安達:一つは「街並み」、もう一つは個性です。この二つがあれば私たちの町はずっと楽しくいれると思います。現在、都市部のホワイトカラーの仕事がAIに奪われるみたいな議論がありますよね。
既存の仕事は、その通り失われていくかもしれませんが、AIからすると「何でそんな非生産的なことやるんだ?」みたいな全く新しい仕事を生み出すためにも「個性」がすごく大事なんですよね。それに、日本ならではの歴史や文化としての街並みを掛け合わせれば、ずっと幸せに暮らせる地方ならではの新しいモデルができると考えています。
Less is More.
安達氏の語る地方創生は、すごくリアルで、でもすごく夢があると感じた。未来に対する諦念ではなく、現在をどう肯定しながら生きていくか。何に夢中になり、何をするのか。非常に本質的な「幸せってなんだろう」というところから考えるきっかけになるようなインタビューだった。
(おわり)