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選挙を正しくエンタメ化すること。当事者として参加すること。宮原ジェフリー氏インタビュー。

選挙を「楽しむ」人はそう多くないと思う。シリアスな問題の数々に加えて、制度の複雑さ、候補者の多さ。「東京都知事選挙 2024」を目前に控えた今、私たちは選挙をどのように捉え、楽しめばいいのか、『沖縄<泡沫候補>バトルロイヤル』の著者 宮原ジェフリー氏にお話を聞いてみた。

宮原ジェフリー:1983年東京都生まれ。琉球大学法文学部人間科学科卒業後、那覇市のNPO法人前島アートセンター事務局、武蔵野美術大学美術館職員、実践女子大学人間社会学部助手などを経てフリーランスキュレーターとして活動するかたわら、ライターとして選挙の情勢分析記事や選挙制度に関する記事などを寄稿している。特に大手メディアでは取り上げられることが少ない候補者や政治団体の取材・執筆を得意とする。

-宮原さんが選挙に興味を持たれたきっかけから教えてください。

宮原:母親の影響で中学生の頃に好きになりました。選挙の時期になると新聞に候補者一覧が掲載されますよね。結果と照らして、誰が当選したとか、落選したとかを楽しんでいました。
当時から、新聞・テレビではほとんど取り上げられない候補者がいるなって気になっていて。90年台後半から、インターネットでそういう候補者の声も拾えるようになってきたので、2ちゃんねるなんかに張り付いて、色々な情報を拾って分析していました。

-いわゆる「泡沫候補」ですね。

宮原:わかりやすいので、書籍のタイトルにも使ってはいますが、近年は「泡沫候補」と括るのは、敬意が欠けてるので、別の言い方に換える取り組みも進んでいるんですよ。「独立系候補」「インディーズ候補」と呼ばれることもあるんです。

-では、今回は「独立系候補」と呼ばせていただきますね。宮原さんは、そういった「独立系候補」の情報までを集めてらしたんですね。

宮原:いわゆるマニアなんです(笑)。鉄道マニアとかと一緒です。電車の写真を撮りにいくようなイメージで、選挙演説に行ってみたり、インタビューさせていただいているうちに、仕事になってしまったんですよね。

宮原ジェフリー氏の著書『沖縄<泡沫候補>バトルロイヤル(ボーダー新書)』

-ご著書の『沖縄<泡沫候補>バトルロイヤル』を拝読したのですが、特定の政党や主張に肩入れすることがないように書かれていますよね。

宮原:私も自分自身の主張はもちろんありますが、選挙そのものの魅力を伝えたいと思っているんですよ。

-今日は、選挙の現状と魅力をお聞きしたいので、よろしくお願いいたします。

ハックしながら作られてきた、歪な選挙制度。

-『沖縄<泡沫候補>バトルロイヤル』にも「独立系候補」が多く登場しますし、今回の2024年の都知事選では、56名もの候補者がいます。近年の選挙はかなり混沌とした印象があります。

宮原:今回の都知事選に限って言いますと、端的にいうとNHKから国民を守る党(以下 NHK党)の影響が大きいのかなと思います。約半数がNHK党ですからね。NHK党は、良くも悪くも画期的と考えています。選挙制度そのものをハックしようなんて、考えついても誰もやらなかったことを現実にやっているわけですから。

-選挙制度そのものをハックするのは、問題ないんですか?

宮原:法的・制度的には問題ない範囲で活動していると思います。不謹慎だと責めることは簡単なんですが、一定の票が集まることも事実ですから、安易に否定するのも違うと思うんですよ。選挙制度の歪みに気がつく意味では、有益だとも思っています。

-どういうことですか?

宮原:選挙の制度を作るのは政治家だけができる仕事です。ということは、選挙に勝った人しか制度を作れませんよね。自分達が勝てる制度だから変えたいとは思わないわけです。

-現在の選挙制度で勝てる人しか政治家になれない。

宮原:例えば、一つの問題を挙げてみます。選挙期間は、都道府県知事選は17日間、短い町村議会選は5日しかないんですよ。もちろん選挙期間以前でもグレーな活動をされる方も多いですが、無名の候補者がたった17日で知名度を上げるのは、なかなか難しいと思います。

-ちょっと無理ですよね。

宮原:有権者サイドも、その短い期間で56人から選んで決めるなんて、無茶だと思うんですよ。結果的に、都知事は1995年の青島都知事誕生以来、著名人しか当選していないわけです。期間が長ければいいとも思いませんが、短期間で選ぼうとすれば、元々著名な方には有利ですよね。

-確かに。

宮原:この一例をとってみても、その任についてる方や、ある一定の知名度のある方には、都合のいい制度でしょうが、本当に有権者のためになっているのか?という本質的な議論はされてこなかった。NHK党は、それを根底から考え直すきっかけにはなっているようにも思いますね。そもそも公職選挙法自体が「べからず法」なんて言われることもありますからね。

-「べからず法」?

宮原:してはいけないことが羅列してあって、していいことは文章としては明記されていない。ですから、「これは違法ですか?」と選挙管理委員会に問い合わせて、初めてわかることが多いんです。経験の浅い新しい候補者は分からないことも多いので、やはり新しい政治家は生まれづらいです。

-そもそも制度そのものが歪なんですね。

宮原:今まで当選してきた政治家も、不完全な「べからず法」の隙間を縫って、ハックしながら選挙制度が作られてきたとも思います。もちろん、程度はありますが。

-ハックすることで、状況を変えるかもしれないんですね。

宮原:本来は問題が明らかになってから、泥縄式に変えていくのでなく、選挙制度自体が危機に瀕していると認識して広く議論をしていくべきなのかなと思いますね。海外の選挙制度に学ぶでもいいですし、トライアンドエラーをしていければいいのではないでしょうか。

選挙はエンタメか?

-面白半分で立候補しているような「独立系候補」がいたり、ある種のエンタメ化しているように感じているんですが、どうお考えですか?

宮原:エンタメの定義にもよりますが、「熱狂するもの」と捉えるなら、それは選挙の本質を捉えているようにも思います。あまり軽くするつもりはありませんが、選挙は候補者がみんなに顔と名前を覚えてもらい、なるべく多くの投票を集めるゲームのようにも捉えられますからね。本来エンタメっぽいものなんだと思いますよ。

-なるほど。

宮原:沖縄県の選挙の古い記録に、カリスマ的演説をしていた候補者の話があります。当時、その人の演説を見にいくことは、ある種の娯楽だったそうです。芝居の一座が来るとか映画を見にいくとか、そういう感覚だったんでしょうね。
私自身も、選挙を好きになったきっかけの一つが、久米宏のニュースステーションやビートたけしのTVタックルだったわけです。冗談を交えながら政治を楽しむコンテンツって意外と多かったと思うんですよね。

-あぁ確かに、そういう楽しみ方はありましたね!

宮原:小泉政権(~2006年)くらいまでは、そういう文化があったと思うんですが、それ以降は政治と大衆の距離感が変わったように思います。少なからず両者の対立みたいなものが生まれたと思いますし、震災などでシリアスにならざるを得ないこともあったと思います。

-なんか、政治を茶化してはダメな風潮になってしまいましたよね。

宮原:現在は、その揺り戻しとして過激にエンタメ化しているのかもしれませんね。

-SNSなどの影響も大きいのでしょうか?

宮原:シンプルに考えれば、大きいと思います。例えば、ブラックボックスだった大物政治家の人間らしい素顔が見えるのは、SNSの良いところかもしれませんが、それすらマーケティング・戦略の一環として有権者の囲い込みに使われている印象がありますね。

-そう聞くとちょっと怖いですね。

宮原:それまで見聞きできなかった「独立系候補」の発信を拾えるようになりましたし、小さなイシューにスポットを当てる意味では有益だと思いますが、これにも問題があると思っています。

-どのような問題ですか?

宮原:例えば、現在なんらかの陰謀論めいた公約を掲げている候補者も数名いるわけです。そういう候補者が、SNSの小さいクラスターとつながったりすると良くない影響力を持ってしまったり、間違った情報が拡散してしまうことがあるんですよ。

-なるほど。

宮原:私も仕事柄、全候補者の発言を調べていますが、陰謀論的な公約を調べ始めたら最後、どんどん陰謀論の深みにハマってしまう構造になっていると思います。そのまま、沼にハマってしまう有権者もいらっしゃいますからね。


-SNSがそう言った沼へのきっかけになってしまうかもしれませんね。

宮原:私たち発信者側も気をつけないといけないと思います。知らずにそういったフィルターバブルに加担していることもあると思います。WEBメディアもPV数稼ぐために、偏りのある報道になってしまうケースもあります。
それぞれのメディアが、発している言葉の信頼性、オーサライズをしていくような発信を心がけないといけないと思っています。

-宮原さんは、どんなことに気をつけていますか?

宮原:ジャーナリストとして、各候補者を差別せずに話を聞くということが大事かなと思いますね。
以前「私はキリストの生まれ変わりだ」なんて突飛なことを言って出馬する候補者へのインタビューをしたことがあります。失礼ながら、私も最初は面白半分だったんですが、話を聞いてみるとその方なりの問題意識や主張がありましたからね。

-「泡沫候補」と括って軽んじることなく、きちんと報道しようと。私たちが情報をきちんと得るためにどうしたらいいと思いますか?

宮原:フィルターバブルがない分、新聞や雑誌などの紙メディアの発信にも注目したいところですね。自分自身もアナログなメディアで執筆はすごく大事にしています。つまらない結論かもしれませんが、さまざまなメディアをバランス良く使って情報を得るしかないと思いますね。

候補者が増えること。投票率の問題。

-候補者が増えることで、良いことはありますか?

宮原:候補者は「私は当選したらこういうことをします」と公約を立てますから、主張がわかるわけです。でもそれは裏を返せば主張していないイシューについては、他の候補者と比較することでしか分かりませんよね。候補者がたくさんいることで、それまであまりスポットの当たっていない問題について考えるきっかけになります。さまざまな問題から、候補者の比較がしやすくなるのはいいことかなと思います。

-候補者が増えることで、投票率があがったりはしないんですか?

宮原:候補者が多くても、投票率に影響があるわけでもないと思いますよ。そもそも私は、投票率が上がるのが、必ずしもいいこととも思っていないんですよね。

-そうなんですね。投票率が低いことって良く問題としてあげられているように思います。

宮原:「おもしろい」とか「盛り上がってる」という理由で投票にいく人が増えても、いい結果にはつながらないように思うんですよね。一番真っ当な投票行動は、一人ひとりが、きちんと政策を比較して、考えて、一番良いと思う候補者に投票することですよね。

-あぁ。そうですね。

宮原:一番顕著なのはガーシー氏の当選ですね。あの現象は私にとってもとても衝撃でした。投票用紙にガーシーと書いた写真をアップすると本人がリツイートすることで投票を促したわけです。そのコミュニケーションの楽しさはわかりますが、それで投票率が上がったところで意味があるのだろうかと思います。投票行動に至るまで真面目に考えた過程や、投票することへの思いこそが大事だと思うんですよ。

-無闇に投票率が上がればいいというわけではないと。

宮原:私は無理矢理選挙に行かなくてもいいと思います。選挙に思い入れがある人ほど、行かないことを非難したりしますが、行かない人には、行かない人のリアリティがありますからね。

-投票しないリアリティ?

宮原:以前インタビューした方で「緊張してしまったり、精神的に選挙にいけない」という方がいらっしゃいましたし、選挙に参加しない人にも、それぞれ固有の問題があります。数は少なくても、そういう声をきちんと拾っていかないと、本当の意味で選挙に行く人は増えないんじゃないかと思います。

-あぁ。選挙に行かない人の声もちゃんと聴こうと。

宮原:例えば、市区町選などでは「子供ができてから選挙に行くようになった」という方が多いです。保育園の待機児童問題など、自分自身のリアリティと直結しているからこそ、投票行動に積極的になるわけです。そういうきっかけで投票に行く方がいいと思うんです。

-問題意識があってはじめて、投票の意味があるのかもしれませんね。

一人ひとりが、この状況に責任を持っている。

宮原:選挙に熱くなりすぎる人たちって、ある意味では選挙に期待しすぎているようにも思うんですよ。選挙はゴールではないですから。

-当選後こそ重要だと。

宮原:選挙って政党や、保守/リベラルみたいな大きな思想の中で一票を投じるわけでなく、究極的には「人」を選んでいるわけです。大まかに賛成できる人に入れるしかないから、自分と100%ピッタリ合う政治家なんていないんですよ。ですから、当選後に期待通りの働きをしてくれているのか、きちんとウォッチする必要はあるでしょう。

-なるほど。

宮原:社会の接点は選挙だけではありません。自分達の考えを実現するために、当選者にどのように圧力をかけ、どのように変革を促していくかこそが大事なんですよね。例えば、選挙だけでなく、政策提言やデモなどにも積極的に参加していかないと、理想とするような政治の状況にはなっていかないと思うんです。社会問題を政治家だけに委ねるのでなく、それぞれが当事者として色々考えて行動していかないと、変わらないと思います。「一人一人が、この状況に責任を持っている」と思うのがスタートではないかと思います。

選挙を正しく楽しむために。

-お恥ずかしながら、選挙制度ってものすごく複雑で、正直全容を理解しているとは言えなくて。

宮原:その気持ちも良くわかります。私も、どうにかならないかと考えたこともあります。YouTuberとかに面白い解説動画とかで伝えて欲しいですよね(笑)。アワードとかやったら、意外とみんな分かりやすくなるかもしれないですね。

-面白いですね!

宮原:私たちが、税金や移民といった、さまざまな政治的イシューについて考えたり、話し合える、なんらかのプラットフォームがあればいいなと思うんです。

-話し合う場や土壌作りということですか?

宮原:そうです。普段の会話の中で、特定政党の名前を出したり、政治の話をするだけでもちょっと場の空気がピリッとしたりしますよね。そもそも話し合う土台がないんですよ。

-宮原さんは、ポッドキャストや、イベントなどを通して、そういう場作りをしていますよね。

宮原:ありがとうございます。そういった活動に加えて、これから選挙を担う子供たちへの教育に力を入れていきたいなと考えています。

-どういうことですか?

宮原:選挙権のある大人は、基本的な制度について中学校の公民で習っているはずなんです。義務教育で伝えているので、公的な教育としてなかなかこれ以上の伝え方は難しくも思っています。一方で、これからの選挙を担う子供たちには、もっと色々な入口を作ってあげられたらいいなと。

-入口?

宮原:私自身がそうだったように、政治や選挙について、趣味的に興味を持ってくれる子がいたらいいなと思うんです。クラスに1人鉄道が好きな子がいるように、政治や選挙が好きな子がいてもいいと思うんですよ。政治には、面白い面もたくさんあるので楽しい入口を作れたらいいなと思っています。

-政治を正しくエンタメ化していくということですね。

宮原:「人体の秘密」とか「宇宙の謎」とかと同列で、子供向けの学習漫画にしてもいいかもしれませんし、さまざまな「独立系候補」などもきちんと扱った「政治家名鑑」みたいな伝え方もあるかもしれません。そういった色々な取り組みで政治や選挙、社会制度のことを理解した人を増やさないと、話し合う土壌どころではない。制度が分からないから変えようがないわけです。だから、制度を理解できるよう活動して、少しずつでもいいから変えていけたらいいなと考えています。

-選挙を楽しむコツを教えてください。

宮原:いつも、サッカーのワールドカップのように楽しめばいいとお伝えしています。優勝するチームを予想する時に、自分は日本代表を応援していてもリアルな状況から考えると「今回はイングランドかな〜?」とか「スペインかな〜?」って思うこと、ありますよね。

-応援はするけど、現実的に勝てるかどうかは別だと。

宮原:トーナメントの組み合わせとか、ワールドカップ全体の中でどう勝つか、負けるかを考えますよね。そんな中で、どのチームを応援するのか、どう応援するのかを楽しむわけです。スポーツ観戦のように一票を投じるのは、一つの楽しみ方ではないかと思いますね。

-確かに自分の応援している方が、負けても、4年後までの成長を楽しめるように思いますね。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。宮原さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

宮原:「批評」ですね。私自身、もともと現代美術の批評も手がけています。現代美術も選挙も、小難しくてちょっと倦厭されることの多いジャンルなんじゃないかと思うんですね。

-確かにそうかもしれませんね。宮原さんは、なぜそういうジャンルが好きなんですか?

宮原:どちらも、コミュニケーションから生まれるものでなく一人の人間から表出した表現や言葉であるから、興味があるんです。そういう一人で紡いだものを、どう捉えていくのか、どう言葉として返していくのか。そういう対話を大事にしたいと思っているんです。それが批評ではないかと考えています。

Less is More.

宮原氏は、とても楽しそうに選挙と政治のことを話してくれる。取材後に話してくれた「独立系候補」の面白いエピソードの数々は、誰もが思わず爆笑してしまうほどだった。
シリアスなだけでなく、笑顔で選挙に興味を持ってこそポジティブな投票行動ができるのではないかと思った。

(おわり)

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