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小さな社会への出入り口を失わない為に。駄菓子屋いながき店主・宮永篤史氏インタビュー

そういえば昔通っていた駄菓子屋が閉店していた。これから先、駄菓子屋はすべて姿を消すのだろうか。放課後にもなれば、目的もなく集合するボクらの拠点だったあの場所が、失われていく未来はいささか切ない。全国津々浦々、現存する300箇所以上の駄菓子屋を巡り、自ら「駄菓子屋いながき」を開業した宮永篤史氏に、駄菓子屋の今とこれからについてインタビューを行なった。

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宮永篤史 : 駄菓子屋いながき店主。1979年生まれ。経営していた学童保育を事業譲渡し、その後、息子と二人で日本一周駄菓子屋巡りの旅へ。超高齢化や後継者不足、利益率の低さなど、店主から語られる昔ながらの駄菓子屋の窮状を知り、なんとかこの文化を未来に繋げられないかと埼玉県加須市に駄菓子屋を開業。発達障害のシングルファザー。駄菓子屋ライターとしてTABIZINEにも執筆中。

駄菓子屋は、子ども達に経済を体験させる為のツール。

-早速ですが、どういう経緯で駄菓子屋をはじめられたのですか?

宮永:少々長くなってしまうのですが。

-大丈夫です、是非よろしくお願いします。

宮永:元々は学童保育を経営していたんですが、指導員をやりながら学童の中で、子ども達に社会の仕組みをシミュレーションさせられる方法がないかを考えていました。

-それはいったいなぜですか?

宮永:様々な子ども達と接する中で、社会経験不足になってしまっている子たちと沢山出会ったのがきっかけです。たしかに、子どもの育つ環境を考えてみると、0歳児から保育園、小学校に上がると学童に預けられる。というシステムで外の世界に触れる機会自体が少ないんですね。

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↑駄菓子売り場に隣接した飲食可能スペース。このスペース、元はハンコ屋さんだったそう。

-たしかに言われてみるとそうですね。

宮永:そこで、学童の中に経済を経験できる仕組みを作れないか。と考えました。経済と言うと大げさかもしれませんが、簡単に言うと一人で買い物が出来る様になる仕組みです。

-そこに駄菓子を持ち込むわけですね?

宮永:そうなんです。学童内に擬似的に駄菓子屋を作りました。そこだけで使用可能なオリジナル通貨を作成して、おやつの時間になったらその通貨を利用して買い物が出来るんです。一日の内に使用できる金額は固定されているので、子ども達は、その中でやりくりを考えなければいけません。毎日それを繰り返す事で、自然とお金の計算が出来るようになるんです。子ども達は勿論、保護者の評判も大変よかったんです。

-楽しそう、それは人気の出そうな学童ですね。

宮永:学童と聞くと、「親の仕事の都合等で仕方なく預けられる場所。」というネガティブなイメージが先行しがちなのですが、「とにかく楽しくて行きたくなるような学童」を作ろうと。その目標は自分の仕事に対するモチベーションでもありました。その結果、はじめ3人だった児童が100人を超える規模になりました。

-すごい!

宮永:嬉しい話ですが、100人を超えるとさすがに個人では手が回らなくなり、法人に事業を譲渡する事にしたんです。勿論、擬似駄菓子屋のシステムは引き継いでもらっています。

-事業譲渡後にそのまま駄菓子屋さんへ?

宮永:学童に持ち込んでいた私物の10円ゲーム機材を撤去しなくてはいけなくて、倉庫利用目的で建物を購入しました。その場所がお店もできるような形態だったので、そこで駄菓子屋をスタートしてみようと決めていました。しかしすぐに開店したわけでなく、息子と一緒に全国の駄菓子屋さんを訪れる旅に出る事にしたんです。駄菓子屋業界をリサーチする事も旅の目的だったのですが、息子を連れて行きたい場所や会わせたい人が沢山いたんです。ちょうど自分も暇になったし、息子も保育園児だったので、長い旅行をするなら今かな、と。

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↑一部屋をぐるりと一周囲うほどの10円ゲーム機の台数。元々は学童で使用していた宮永さんの私物。

「駄菓子屋じゃ食っていけない。」


-なるほど、小さい頃に色んな駄菓子屋を巡れるなんて夢のようですね。

宮永:これも自身が、学童にいる子ども達を見ていて気づいたことなんですけど、子ども達の話の内容が、テレビやゲーム、YouTubeばっかりなんですよ。どこへ出かけた。とか、何を食べた。という話を全然聞かなくて。そういう部分に危機感を抱いていたのもあって、自分の息子には、実際にその場所に行って、買ったり食べたりの経験を沢山させてあげたかったんです。

-貴重な経験だと思います。駄菓子屋さんの先輩である方々からは、何か開業に向けてアドバイスをもらったのですか?

宮永:駄菓子屋を巡って話を聞けば聞くほど、新規でお店を開業することを反対されました。「駄菓子屋じゃ食っていけないよ。」と皆が皆、口を揃えて言うんです。(笑)

-それでもめげずに開業されるのは、相当勇気のいることだと思うのですが?

宮永:反対されればされる程、むしろ反骨心もあってやる気は湧いてきましたね。本気で取り組めば駄菓子専業でもやっていけるだろうと、根拠のない自信がありました。しかし、その考えは甘くていざ店をスタートしてみると薄利すぎて全然無理。(笑)

- 予想以上にシビアな現実が。(苦笑)

宮永:はい。皆がやめておけと言う理由を身を持って感じました。具体的な話をすると、10円の駄菓子って仕入れ値が8円なんです。10円で売ったとして一本あたり2円しか利益が出ないんですよ1万円稼ぐのに5000個売らなきゃいけないという。。

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-たしかにそう考えるとかなり厳しい世界ですよね。しかし事業計画の段階で、なにか生き残っていく勝算みたいなものはあったのですか?

宮永:僕の場合は少し特殊で、学童事業の売却益があるんです。なので収入の柱は別にあって、一応それだけで生活はできなくない状態です。それでもはじめのうちは、そこに頼らず専業の駄菓子屋としてやっていく方法を探りました。

-解決の糸口は見つからなかったのでしょうか?

宮永:駄菓子屋いながきで問屋業に近いことをやって、学校や子ども会など毎月まとまった量の納品先を確保できれば駄菓子一本でやれなくもないかな。という考えにも辿り着いたのですが、それだと自分がずっと店番をやるわけにはいかなくなるので、自分のやりたい駄菓子屋のイメージではないかなと。

-なるほど。今まできちんと目を向けた事がなかったのですが、専業の駄菓子屋って存在しないんですね。

宮永:現在、全国にある駄菓子屋300箇所以上を訪れていますが、純駄菓子屋(専業)は、ないに等しいと言っていいかもしれません。おじいさんおばあさんがやっているような一見純駄菓子屋に見えるお店も、収入的には年金の上に成り立っていたりします。

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過去の自分を救える自分になる。


-そもそもなんですが、宮永さんがそこまで駄菓子屋にこだわる理由とはなんですか?

宮永:駄菓子を買うだけなら、別に駄菓子屋じゃなくてもスーパーやコンビニで済む話なんですが、駄菓子屋のポテンシャルってコミュニティの中心になれる事だと思うんです。駄菓子屋には、くじとか10円ゲーム機など射幸心を煽るものがあって、そして買った物をすぐに消費出来るスペースがあって、そういうところを真ん中に置きながら子ども達の文化や人付き合いが形成されていく。それを見守る役割として店主が存在する。この形が子ども達の成長過程において必要だと思っているんです。

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上:飲食可能スペースのテーブルはゲーム筐体型、細かい所に宮永さんの遊び心は散りばめられている。1PLAY 100円で実際に遊べる。
下:喫茶店風の駄菓子のメニュー表。「子どもって背伸びしたいじゃないですか。」と宮永さん。大人の真似ができる工夫のひとつ。

-お話を伺っていて思ったのですが、学童経営の時代から一貫して宮永さんには、親や先生以外の大人という立場から子どもと向き合う事を軸にされているように感じます。

宮永:おっしゃる通りです。自分が発達障害だという事も関係してくる話なのですが、こんな大人が近くにいたらあの時救われたな。という存在に自分自身がなりたいんです。もっと言えば「過去の自分を救ってあげたい。」という気持ちが強くあります。

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-その思いが宮永さんのエネルギーになっているのですね。

宮永:そうですね。自分が人と比べても失敗が多い幼少期を過ごしたので。今ここを経験してくれてる子ども達が大人になった時に「あの店のあのおじさん、変な人だったけどよかったな。」って思ってくれたら本望というか。それが薄利でも駄菓子屋をやるモチベーションですかね。

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↑レジ下の水槽は、子どもが覗き込みやすい低めの位置に設置。

トラブルはしっかり抑止する。


-色んなご家庭のお子さんと触れ合う機会が多いと思いますが、親御さんとのトラブルって起こったりしないものですか?

宮永:今のところ、いながきでは起こっていません。それは自分の学童で働いていた時の経験が、完全にアドバンテージになっています。今のところ大失敗はしていないので、しばらくはこのやり方で接していっていいのかな。という風に考えています。

-リスクヘッジと言いますか、気をつけてるとこはありますか?

宮永:今こういうご時世というのもありますけど、いながきに置いている商品は個包装されている物のみ取り扱っています。とにかく子どもはなんでも手にとりますからね。衛生面には特別気を使っています。店の見た目は、雰囲気も重要だと思っているので古い建材や、什器を多く使用していたり、看板も前の店舗のものをそのまま利用しているんですが、古いけど綺麗をキープ出来るよう、不潔にならないよう心がけています。保護者の目は厳しいですからね。

-それと、いながきには防犯カメラが沢山ついていますよね。

宮永:これは万引き対策です。万引きとの付き合い方はそれぞれお店ごとにあると思います。旅中も「とにかく万引きにだけは気をつけろ。」と、色んな店主に言われましたね。いながきではとにかく抑止するよう工夫しています。防犯カメラはあえて見える位置に沢山付けているし、モニターもお客さんから見える位置に設置しています。捕まえて罰することも間違いだとは思わないんですが、いながきではとにかく万引きは未然に防ごうという考えです。勿論悪質な事が起こった場合は、警察も介入させたりそこは自分なりのガイドラインに沿って対処しますね。

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↑あえて剥き出しに設置されている防犯カメラ

-犯罪を抑止したり、必要な場合は叱ったり、正しい事ではありますが、きちんと向き合うと、体力的にも精神的にもカロリーを消費しますよね。

宮永:そうなんですよ。特に他人を注意してくれる大人って減ってきちゃってるじゃないですか。怒る側も怒りづらいし、怒られる側も怒られ慣れてないし、でも子どもを育てるには絶対に必要な事なんです。まぁ、叱ると言っても、最低限レールからはみ出さないように見守るだけなんですけどね。別に、子ども達にこういう大人になってほしいってのはなくて、自分に合ったやり方を自分で見つけられる力をつけてくれたら良いなと。

兼業こそが駄菓子屋文化を残す唯一の糸口。


-300件以上駄菓子屋を巡られてるとのことですが、他にはどのような店舗形態があるのですか?

宮永:色んなパターンがあるのですが、クリーニング屋、釣り具店、珍しいタイプだと宝くじ売り場との兼業というのがありましたね。飲食系だと、鉄板焼き、おでん、玉せんの販売と駄菓子を組み合わせているタイプも多いです。夫婦で小さなお子さんがいる家庭などは、旦那さんが会社員で、奥さんが自宅で子どもの面倒を見ながら駄菓子屋をやり始めたというケースなどもありました。

-見聞された様々なパターンの駄菓子屋の中に、これからの未来に文化を残す為のヒントはあったのでしょうか?

宮永:駄菓子屋は代替わりしない業種なので、はっきり言って無くなっていく事は防げないと思います。なので駄菓子屋の文化を継承していくには、新しい兼業の形を見出して新たに店を開業していくしかないんです。そのモデルケースのひとつに「いながき」がなれたら良いなと思っています。最近駄菓子屋ライターとしてもお仕事を頂いて、そういうこともスタイルのひとつとして有りかなと。

「駄菓子屋探報」駄菓子屋ライターとしての宮永さんの連載。

-いながきは、これからパワーアップされる予定などございますか?

宮永:キッチンのリフォームが完了次第、焼きそばや鉄板焼きのメニューの販売を考えているところです。10円ゲームの機材をお祭り時に貸し出す等、主張店舗的にポップアップのような動きもやれたらいいなと思っています。

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↑珈琲好きの宮永さんは、焙煎珈琲も親御さん向けに提供する準備をすすめているそう。勿論子どもが背伸びをして飲んでもOKとの事。

-駄菓子に求心力があるのが確かな分、新しい形態の駄菓子屋も増えていってほしいですよね。

宮永:いながきは所謂町の駄菓子屋と違って、近くに小さな規模の小学校しかない為、遠方から車でやってくる親子連れのお客さんの割合も大きいんです。大抵は親がインターネット経由で情報を知って、お子さんを連れてきて、今度は子どもがまた行きたいと言ってくれてリピートしてくれる。そのような循環が生まれているのも駄菓子屋の持つ力のような気がします。そういういながきの姿を見て、影響を受けてくれる人がいたら、それ以上嬉しい事はないです。

そう考えると「駄菓子屋」まだまだ可能性ありそうですね。

宮永:就労継続支援B型 ってご存知ですか?障がいをお持ちの方を預かる施設の一角に駄菓子屋を作って、障がいを持つ方に駄菓子屋をやってもらうような就労支援と組み合わせるやり方も起こっています。あとは介護施設でもお年寄りに店番をしてもらって、外部の子どもたちが買い物に来ることでコミュニケーション量を増やし認知機能の改善に繋げる試みも行われています。そういうところでも駄菓子からコミュニティが生み出されることは証明されていると思いますし、そういったかたちで生き残っていくことができれば、不滅になれるのではないでしょうか。

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これからの世界で失いたくないもの。

-最後の質問です。宮永さんにとって失いたくないものは?

宮永:楽しいことを何も考えずに楽しむという事ですかね。
SNSで公開したいとか、友達に自慢する為とか、自分が良いと思ったものを純粋に楽しんで、自分の中で収めることって減ってきてるように思えます。
よそむきに楽しむのではなくて、純粋に楽しさに没頭する事って、大人の方が不得意ですからね。そういう気持ちって失くなってほしくないですね。

Less is More.

取材時、学童の頃から宮永さんの所へ来ているという一人の高校生の男の子が店内にいた。飲食スペースの天井の張り替え作業など、DIY作業を手伝っているとの事だった。ドライな言い方をすれば、客と店主という関係性だが、その場所にしか存在しないコミュニティの上に成り立っている関係性であることも確かだ。駄菓子屋という公共でも教育機関でもない、カテゴライズしにくい場所にしか発生しない渦を巻き起こせるのは、宮永さんのような子どもの視点とそれを見守る視点、その両方を高い解像度で保てる人なのかもしれない。

(おわり)


photo:kamedamokei


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