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多様に拡張するアルコール飲料の未来。shizuq・齋藤久平氏インタビュー。

Less is More.by info Mart Corporation

アルコール業界が大きな分岐点を迎えている。パンデミック以降、気軽に飲みに行く文化が薄れてしまった中、低アルコール・ノンアルコール・微アルコール飲料などの多種多様な商品が増え、飲みの場も変化している。

そうったアルコール業界の未来や現在の変化について、アルコールを中心に飲料全般のプロデュース・ディレクションを手掛けるshizuq・齋藤久平氏にお話をお聞きした。

Profile:齋藤久平/1983年神奈川県鎌倉市生まれ。神田外語学院英語専攻科卒業後、東京プリンスホテルに就職。
10年間レストランサービスに従事し、2014年に独立。
現在はshizuq代表として『各地の水を探究し、癒しの雫を届ける』を命題に、専門スキルや知見を活かしながら飲料全般のプロデュースや企画提案をおこなう。ソムリエ、薬膳ハーブ酒ソムリエJr.、ハーブティーソムリエ、温泉ソムリエの資格あり。

アルコール・飲料全般をプロデュース・ディレクションする仕事。

-まずは、齋藤さんのお仕事について教えてください。

齋藤:shizuqという屋号で、メーカーからご依頼いただいてカクテルのレシピ開発や低アルコールカクテルの商品監修など、飲料・ドリンク全般の幅広いプロデュースやディレクション、アドバイザーを手掛けています。国内のワイナリーと組んでワインの開発などもしているので、かなり幅広くてなかなか一言では言えないのが悩みの種です(笑)。

-飲料全般のプロデューサーと捉えるとわかりやすかもしれませんね。どのようなキャリアだったんですか?

齋藤:20代はホテルでサービスマンとして10年ほど飲食業に従事しました。その時にソムリエ資格を取得したのをきっかけに、ワインを本格的に掘り下げたくて、独立しました。

-元々はソムリエとしての独立だったんですね。

齋藤:独立当時は「ソムリエ」というような、分かりやすい肩書きでしたが、ことソムリエ業界を見ると、先輩たちの経験量の多さに壁を感じてしまったんです。同時にソムリエとして成功しても、ある程度ゴールのカタチが見えてしまうので「どうなんだろう?」と。

-あぁ。なんかいわゆるメディアでもお見かけするソムリエのような成功パターンってありますよね。

齋藤:そうなんです。「あれ?ワインは好きだけど、ソムリエとして成功するのが自分自身の夢だっけ?」と考え直した結果、もっと幅広く”飲む楽しさ”全般を表現するべきなのではないかと思って色々な活動をはじめました。

-”飲む楽しさ”?それは味わいということですか?

齋藤:味わいももちろんですが、味を突き詰めるとバーテンダーさんですとか味わいに特化した専門家がたくさんいらっしゃいます。私は「どこで/誰と」楽しむかというような5W1Hに基づいて、その場やニーズに合わせた最適な飲料を創ることで”飲む楽しさ”を追求することがしたかったんです。実は皆さん、味って記憶に残りにくいんですよね。それよりは味を楽しんだ時のシチュエーションを含めて体験として覚えていることの方が多いんです。

-よっぽど美味しいものしか記憶に残らなかったりしますもんね。味を伝えるのも難しいですし。

齋藤:そうですね。飲料を楽しむことは個人の嗜好にもよります。美味しいと言われているものでも、好みと違うことって往々にしてありますよね。体験というのは、どのような背景で生まれたのか、どのような場で、どのような料理とマリアージュさせるのか…そういった周囲のインフォメーションを丁寧に伝えることで、記憶に残る体験として味わいがデザインできると考えています。

-それはアルコール飲料に限ったことではないんですよね?

齋藤:もちろんです!ワイン、クラフトビール、日本酒…アルコール飲料って、それぞれにすごく強いファンがいて、繋がりやすいですよね。それはそれで良いことですが、人と人がつながる場としては、お酒を飲めない方も排除しないコミュニティの方がいいですからね。そういうわけで、幅広いドリンク全般を手掛けることになってきたんです。

低アルコール・ノンアルコール・微アルコール?楽しみ方が拡張するお酒業界。

-そんな中で現在のアルコール飲料の状況をどう考えておられますか?

齋藤:市場から見ると、パンデミック以前からアルコールを飲まない若者が増えているとか、出荷量が減っているといったデータもありますが、個人的には市場全体のスケール感はそんなに変化がないと捉えています。一方で商品ひとつひとつの中身や、質の面ですごく大きな変化が起きているんです。

-大きな変化!?

齋藤:近年の技術の進歩によって、かなり多種多様な商品が発売されています。それによって選択肢が広がっていることは、すごく面白い現象だと思いますね。今では、低アルコールやノンアルコール、微アルコールなども日常的に目にするようになりましたよね?そういった商品の多様化に、時代背景が絶妙にマッチしていると思うんです。

-時代背景?

齋藤:例えばSDGsなどの広まりによって「多様性」にまつわる議論が広がりました。それに加えてパンデミックによって、それぞれが個人の好みに立ちかえる時期でもありましたよね。

-確かに、ステイホームで色々な趣味を模索したりしましたよね。

齋藤:私自身も、より何を飲みたいのかを選んで買うようになりました。自分で取捨選択して選ぶことが重視される中、ちょうどアルコールが多様化して時代と絶妙にマッチしたと思うんです。「(あえて)飲まない生き方=ソバーキュリアス」、アサヒビールが提唱する「適切なお酒やノンアルコールドリンクをスマートに選べる=スマートドリンキング」という考え方に注目が集まっているのも、こうした時代背景と技術革新がマッチした結果だと思います。価値観の面から見ると、現在はアルコール飲料にとって分岐点だと捉えられる。今までのように「乾杯はビール」というような文化が薄れて、コミュニケートする場においてそれぞれの求める飲料を多様に選ぶ時代になってきています。

-だからこそ、ノンアルコール飲料や低アルコール飲料って意味があるんですね。

齋藤:低アルコールやノンアルコール、微アルコールって、私も含めてアルコールを楽しめる人からすると「お酒の代替物」として捉えてしまいますよね。私も最初は「全然アルコール感じないし、なんだこれ?」って思っていたんですよね。

-あぁ。なんかついつい中途半端なものとして捉えてしまいがちですよね。

齋藤:お酒が好きだと、どうしてもアルコールの入っている/入っていないというような0か100かで考えてしまいます。でもその度数でアルコールを感じる人もいるんです。飲まない人からすると3%はすごく強いんですよ。アルコールが飲めなかった人が0.5%を飲んで、お酒を飲んだ充実感と感動したという声もあります。そういった方もいることを知るのは、すごく大事ですよね。例えば、本当は飲みたいけど量は飲めないですとか、強くないけどほどよく酔っ払いたいなど、様々な人がいるんです。そういった人からすると、ピンポイントに幸福度をあげてくれる素晴らしい商品だと思うんです。”選べる”ということが何よりも素晴らしいことなんですよね。

-これからも、アルコールの多様化は進むと考えていますか?

齋藤:これからは、アルコール度数ももっと細かく刻まれた商品が増えるかも知れませんね。既に檸檬堂とかは、すごくニーズに合わせて味と度数を掛け合わせて発売してくれています。それぞれの味とアルコール度数にファンがいるというのは、これからのアルコール飲料の在り方として、すごくいいなと思っています。現在プロジェクトとしても、関わっているので世界中の低アルコールやノンアルコール、微アルコール飲料を飲んでいますが、飲めば飲むほど、素材や生まれた背景が本当に多様なんです。まだまだ発展途上ですし、この市場が拡大することで、お酒に対する価値観もレンジが広がるので、市場全体にとっても良いことだと思いますね。

これからの飲料を楽しむ場について。

-アルコールを含めた、飲料を楽しむ”場”ってこれからどうなっていくと思いますか?

齋藤:パンデミック以降で顕著なのは、少数で楽しむ場が増えたことですよね。もちろん一部、以前と変わらず多数のパーティやイベントなどをしている方もいらっしゃいますが、本当に親しい人と飲む、必要ない人と飲まないという文化が根付き始めているかなと思います。パンデミック以前は、なんとなく繋がっている人と、なんとなく飲むような文化があったように思いますが、それはもう失われて始めているのではないかと思いますね。

-なるほど。

齋藤:SNSなどで、なんとなく繋がっている方っていますよね。僕自身もそういう方とはもう飲まないと思うんですね。逆に大事にしたい人との飲み会は重要度も幸福度も増しています。豊かな時間と場をどうやって創るか、それぞれがもう一度きちんと考え出した。その一端として、お酒以外の楽しみ…例えば、キャンプやサウナ、釣りなど趣味を大事にする方も増えています。有限な時間の使い方として豊かで自分らしい時間とは何か、再考する文脈の中で、アルコールや飲料を楽しむ場は一つの手段に過ぎないと考える方が多くなったのではないでしょうか。

-これからは、アルコール・飲料のありようが変わっていくのかも知れませんね。

齋藤:アルコールに関して言えば、元々嗜好品ですしなくてもいいモノですよね。生きるためだけに食べたり飲んだりするだけで、幸せなのかというと、現在の日本では幸福とは言えないと思うんですね。そういった幸福感を、手軽に高めてくれる促進剤としてはすごく未来があると思います。さまざまな趣味との掛け合わせもできますし、他の嗜好品よりも簡単に手に入りますよね。共通言語としてのアルコールは、本質的に変わらないとは思います。

飲料文化をより強く・多様にしていくために。

-齋藤さんはこれからどのような活動をされるんですか?

齋藤:あらためて場作り・コミュニティ作りをはじめたいなと思います。小さくても強固な人間関係を築けたらいいなと思いますね。一人一人に素晴らしい体験をしていただくことで、きっとそれは親しい誰かに伝えたくなると思うんですよね。そうすることで、強度を保ったまま広がるような活動をしたいと考えています。結果的に、飲料文化をより強く・多様なものにできると思うんですよね。

-あぁ素敵ですね。

齋藤:もう一つは、もっと旅をしながら仕事をすることですね。さまざまな人や場所からインスピレーションをもらうことが私のアイデアのもとにもなっています。例えば、ワインって畑に行かないと分からないことがすごく多いんです。そういった現地に行かないと語れないストーリーを知ることは自分の成長にもつながりますし、伝えたみなさんの価値観も変えてくれると思っているんですよね。

これからの世界で失いたくないもの。

-では、最後の質問です。齋藤さんがこの先の世界で失いたくないものはなんですか?

齋藤:「(直接的な)つながり」です。人と人とのつながりは、絶対に失いたくないと思っています。メタバースなどデジタル上で自分の人生を100%消費することは、幸せからどんどんと遠くなるのかなと思います。私自身もゲームがすごく好きなので、そういう時間もあっていいと思いますし、否定はしません。ただ、リアルな場でのつながりというのは、もっと意識的に大事にするべきだと考えています。

Less is More.

アルコールはさまざまな選択肢が増えている。何を選んでどう楽しむのか。
日常的に目にする商品の数だけ、そこに多様な人がいることを想像させてくれるのは、とても素晴らしいことではないかと思う。
これから、何を飲み、どう楽しむのか、より取捨選択して暮らしていくことが大事だとあらためて考えさせられるお話だった。

(おわり)

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