僕たちは狂わないために、いびつさを取り戻す。uni'que代表・若宮和男インタビュー。
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僕たちは狂わないために、いびつさを取り戻す。uni'que代表・若宮和男インタビュー。

「仕事」「ジェンダー」「経済」など、社会のあちこちで問題が噴出している昨今。こういった問題も提起するだけでなく、実際に事業として解決を考えているのが、株式会社uni'que(ユニック)の代表・若宮和男氏だ。東洋経済「すごいベンチャー100」にも選出されたuni'queはその名の通りユニークな会社だ。「女性が主体となった事業開発」「全員複業を持つこと」というルールの元、新規事業を次々と排出している。ユニークな事業とこれからの社会、今の思いについてお聞きした。

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若宮和男:(起業家/アート思考キュレーター) 建築士としてキャリアをスタート後、東京大学にてアート研究者となる。NTTドコモ、DeNAにて複数の新規事業を立ち上げ、2017年uni'que創業、2018「すごいベンチャー100」選出。新規事業、アート思考、ダイバーシティ、コミュニティ関連でメディア掲載、講演など多数。著書に『ハウ・トゥ・アート・シンキング』『アート思考ドリル』

uni'queができるまで。

-若宮さんのキャリアからお教えいただけませんか?

若宮:もともと建築畑で、都内の設計事務所で4年ほど働いていたんですが、美学芸術学やメディア論の研究のために大学に入り直しました。その後一般の企業でモバイルインターネット領域の新規事業立ち上げを経験した後に起業して今に至ります。

-美学芸術学を志したのはなぜなんですか?

若宮:ちょうど設計の仕事をはじめた98年頃は、バブル後でクライアントの予算が少ない時期でした。今なら限りある予算って面白いと思うんですが、当時は若さもあって予算のなさを自由度のなさと感じて、建築業界にポジティブにはなれなかったんですよね。それと、建築って「強・用・美」という3大要素で成り立っていますが、日本の場合「強・用」の側面にウェイトが多く、「美」についてはそこまで意識されないケースが多かったんです。なので、「美」にあらためてフォーカスする意味でも美学芸術学を学びなおしました。

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-起業されたuni'queはその名の通り、とても不思議な会社ですね。

若宮:「もっと世界をユニークに」というヴィジョンを掲げています。それに基づいてユニークな新規事業を数多く生み出すための事業会社です。起業から一貫しているのが女性が主体で事業を起こすことですね。もう1つが、働き方も組織に合わせて人が生きるのではなく、人に合わせて組織のビルディングをすることはできないかと思い、全員が複業を持つことをルールにしている会社です。

-実際に事業はどのようなことを手がけてらっしゃいますか?

若宮:「Your」というインキュベーション事業がベースになって多数の事業を運営しています。「スタートアップ・アトリエ」と呼んでいるんですが、事業アイデアがある女性をオープンに募集して、新規事業立案から立ち上げ、独立まで、フルコミットで伴走します。今も年に4〜5本ほどの自社新規事業が立ちあがっています。「起業支援会社」と書かれることもあるんですけど、「支援」でなく「社内で一緒に立ち上げる事業会社」ということにこだわっています

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なぜ女性を主体の会社に?

-uni'queは、なぜ、女性が主体の会社にしようと思われたんですか?

若宮:前提として、生物学的な女性に限った話ではなく、社会的なマイノリティというイメージで捉えていただければと思います。例えば、スタートアップと言われる界隈って90%以上が男性なんです。こういった単一の色で作られた世界は窮屈で、価値観が偏ると考えているんですよね。抽象的ですが、世の中に今まだ足りない色を少し足すようなイメージで、女性やマイノリティがのびのび活躍できる環境や事例をつくりたいと思ったんです。

-どうして、そういった考えに至ったのですか?

若宮:元々、青森出身なんですけど、ヤンキーカルチャーの中で過ごしていたんですね。

-今の若宮さんからは想像できませんが(笑)。

若宮:そういう時代だったことにしておいてください(笑)。ヤンキーカルチャーって、いわゆる男性ばかりの単一カルチャーなんです。強さで張り合って歯止めがきかなくなったり、支配関係の中で全体主義に狂っていくんですよ。

-あぁ!なんかヤンキーってこう男たちの内輪ノリで、周りから見るとおかしなことになってたりしますもんね(笑)。

若宮:そうなんです(笑)。そこで単一の思考ですとか単一の嗜好・属性だけが集まるカルチャーの気持ち悪さ・怖さを体験したのが大きかったんです。全体主義の危険性って究極言うと戦争もそうだと思うんですけど、単一カルチャーがどれだけ狂いやすく、危ういものかを身を以て知ったんですね。その一方、家に帰ると4人兄妹で、僕以外が女性というバランスの家庭だったんです。この両方の世界にいたことでモノカルチャーの危険性と価値観の多様性の大事さに気がつくわけです

-なるほど。

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若宮:こういう集団のバランスって一度気がつくと社会に出てからも、ずっと気持ち悪くて。新規事業を手がける部署で働いていた際も、部署内に1割くらいしか女性がいなかったんですね。女性はただでさえ手を挙げづらいうえに、決裁権のあるマネージメント層はほぼ100%男性。そもそもおじさんたちにはニーズが理解できなかったりして、可能性があっても「わからない」ということで、決裁が下りないわけです。

-あぁ…。

若宮:特性の属性の人たちが理解できないだけで新たな可能性が世の中に出ないって、めちゃくちゃもったいないことだ」と思ったんですね。これが起業のきっかけでもありました。日本は、すごく単一カルチャーに陥りがちな気質があるように思います。同調圧力や数の論理の元マイノリティの意見が潰されたり、とりこぼされているアイデアがたくさんあると感じますね。良く「両目で見ましょう」というのですが、自分の物差しだけでなく、利き目でないほうも活用することで、視野が広がったり距離感であるとか奥行きがつかめると思うんですよね。

-なるほど。

若宮:あとひとつ言うと、社会貢献のためにやっているわけでなく、みえていない価値にきづくところに事業機会もあるから手がけているということです。ボランティアではなく、ビジネスとしてきちんと経済もサステナブルに続けられるのも大事。続けられるからこそ単一カルチャーを少しずつカラフルなイメージにできると考えています。

-「女性」というのを事業としても謳うことについてはどうお考えですか?

若宮:「女性」と謳うことで、二項対立を生み出したり、それ以外の属性を無視してしまうのではないかと言われることもあります。それはおっしゃる通りで、でもまだまだ男女間での環境的な不平等がものすごくあるので、今はまだ「女性」という冠を付けるべきかなと思います。もう少し権威勾配が薄れて「女性」とつけないのが当たり前になる時代になってくれればと思っていますし、その先には女性に限らないマイノリティ発の事業も含め、「起業のダイバーシティ」をもっと増やしていきたい

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社員全員「複業」をルールに。

-次に「社員全員複業」というのも極端でユニークな制度ですね。雇用契約はどうなっているんですか。

若宮:日本の法制度上、2つ以上の雇用があると非常に手続きが面倒ですので、正社員だけでなく業務委託だったり個人の状況に合わせてフレキシブルに契約しています。

-uni'queにおける複業の定義はあるんですか?

若宮:単純に2つ以上の企業に属しているのはもちろんですが、「学業」や「ママ業」として産休・育休であっても「複業」として定義しています。実際に育休中に弊社で複業で事業を立ちあげた事例もあるんです。

-すごいですね!

若宮:新規事業やスタートアップって、なんとなく「24時間全投入で成し遂げる」みたいなイメージがありますけど、そのやり方だけが正解じゃないと思うんです。アートのことを考えて欲しいのですが、優れたアートピースの価値って働いた量と生まれる価値って比例しないケースが多くあります。だから、費やした時間で価値が決まるというのはそもそも幻想ではないかと考えています。

-あぁなんかそういう根性論みたいのは根強くありますよね。

若宮:えぇ。そういうイメージ自体が、そもそも男性主体で構築されているように思います。働く時間の総量を基準とされると、出産をしない男性のほうが有利です。育児もまだまだ女性が担当しているケースがほとんどですし。そういった不均衡を無くすためにも、会社への価値貢献と時間を切り離すことは重要だと思います。

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-それにしても、「複業」を絶対的なルールにしたのはなぜなんですか?

若宮:実は、起業当初は「複業推奨」だったんですよ。でも、自分自身が「複業」していないと実感も持てないし、マネジメントもできないなと。それだったら、全員複業でスタートアップしてみたらどうかなって思って、ルール化してみたんです。なので代表の僕自身も複業している(笑)。

-あ、若宮さんも複業なされているんですね!すごい。実際そうやって社内全員が複業を持つことで、どんなことが起きましたか?

若宮:トータルでは、メリットの方が多いですが、まずはリスクからお伝えするとなによりも「マインドシェアをキープしづらい」というのが大きかったですね。どちらかの仕事に意識を持って行かれてしまう。僕自身も起業してすぐに、複業の仕事もプライベートも本業も同時に考えなきゃいけなくなって、混乱の極みでした。「あぁこれが起きるんだ…」と。

-実際、複業をやってみないとわからないことですよね。

若宮:そうなんですよね。でも、これって働きながら育児をしているママさんは誰しもが昔から経験してきたことでもあると思うんです。自分自身も混乱を経験すると、それがいいか悪いかではなくてマインドシェアをキープできるように工夫や発明するしかなかった。

-メリットはいかがでしたか?

若宮:たくさんあるんですけど、一番大きいのはシナジーが起きやすいというのはありますね。単純に全員が複業を持っているのでN倍のつながりを持てるのは大きいです。

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「ジョブ」に捉われない価値軸の創り方。

-実際、複業というのが進むことで「ジョブ型」みたいな議論もありますよね。

若宮:うーん。ジョブ型っていうのは僕の考えとはちょっと違うんですよね。僕はジョブ型ってまだ「工場のパラダイム」のイメージがあって機能分化した一部分を切り出して担当していく感じだと思うんです。その切り出された業務の中でいかに成果をあげるか、役割に人が合わせて評価されるというのが、いわゆるジョブ型の本質ではないかと思うんですよね。

-あぁそもそもジョブとして立ち上がっている時点で、望まれる結論や成果があったりしますよね。

若宮:学校の試験がそうですが、そうすると、結果に対してどうやってスピーディに精度をあげ、成果を出していくかという効率主義的な能力主義になりますよね。でも、定められた役割ありきでそれに合わせている時点で、新しいものが生まれる余白が少なかったりする。それは、僕の考えるこれからの複業とか仕事とは少し違うんです。「ジョブ」そのものを新しく創ることを仕事にするというイメージなんですよね。

-今あるフォーマットでなくて、新しいフォーマットを創ることからはじめるというか。

若宮:そうですそうです。どうやって軸とルールを増やすかということなんです。例えば「100m走」っていうルールの中では足が速い人が価値がありますよね。これは、「足が速い」という軸があるからこそルールとして成立している。でも例え足が遅くても、別の軸…例えば「守備がうまい」っていう軸があればサッカーというルールの中で活躍できます。これからの未来において、もっと多様な価値軸を創ることで、より多くの人が活躍できると考えているんです。

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-顕在化している価値軸がまだまだ少ないということですね。

若宮:うん。そもそも起業そのものがいままでなかった価値や考え方をひとつの軸として経済にコミットさせるという側面があると考えています。例えば、弊社から生まれた事業で更年期をサポートするフェムテックのサービスがありますが、更年期の不調でパフォーマンスが落ちてしまった方がいたとします。それって同じ役割の軸だけで評価するとパフォーマンスが落ちた人になってしまうかもしれませんが、パフォーマンスが落ちたからこそニーズがみえて、同じ思いの人たちを救うための事業アイデアが生まれたりする

-ネガティブなことが価値になるというのは面白いですね。

若宮:むしろ、ネガティブな要素こそが価値軸を創るためのヒントだったり、事業を考えるヒントになる事も多いと思っています。先ほども触れましたが、これからは働いた量と対価・価値が比例しない働き方は増えてくるのかなと思っています。そうすると、例えば、効率性といった価値軸だけだと過小評価されがちなマイノリティ…たとえば障害をお持ちの方が、だからこそ社会に提供できる価値がある。ダイバーシティというのはそんな風に価値軸自体を増やすことだと思うんです。

-「ジョブ」とか現在の価値軸・ルールの中で考えるから、格差が生まれるのかもしれないですね。

若宮:僕は子供に「将来なんの職業につきたいですか?」っていう質問が嫌いなんです。10年後20年後、いまある職業だけのわけがない。今まだ見えていない無数の可能性があるのに、今ある中から選べと言うのが、そもそも間違っているのではないかと思います。職種としてまだない仕事はつくり出せばいい。僕自身も子供に「なんの仕事しているの?」と問われて返答に困ります(笑)。

-(笑)。

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若宮:職種とかジョブスクリプション的な発想だけではなく、まだ見えていない価値を探して、起業するというのはとても意味があると思います。漫画ゴールデンカムイにも出てきましたけど江戸〜明治時代には「親孝行」って職業があったというんですね。それは、人形を使って親孝行をしているフリをして「親孝行でござ〜い」って言うだけの職業だったらしいんです。「親孝行してて偉いでしょ?お金ちょうだい!」っていう職業なんですよ(笑)。

-わけわからないですね(笑)。

若宮:変な価値だって全然創造できるんですよ(笑)。もっと自由に発想するべきだと思うんですよね。

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いびつさとアート思考。

-若宮さんは「アート思考」も書籍として体系化していますよね。

若宮:元々会社員時代にロジカルシンキングとかデザインシンキングとかを結構やってきて。ですけど、新規事業はどうもうまくいかないし、フレームワークがかえって発想の足かせになっているケースもある。試行錯誤するうち、昔アート研究していた時のアーティストの思考法・クリエイションと親近性があるのではと思えてきたんです。先ほどお話しした既存の価値からすると価値が認められないものにどうやって新しい価値を見出していくか、価値感自体を革新していくかという部分で、アーティスト的な創造の仕方がこれからのビジネスのフィールドにも必要だという実感があったんですね。

-ご自身でも、事業でも活用されていますか?

若宮:例えば、弊社の新規事業立案はかなりアート思考をベースにしています。「なぜ他でもない自分がその事業をやりたいのか?」を深堀り、市場ニーズからの逆算ではなく自分起点で新しい価値をみつける。一ヶ月後の自分に手紙を書くことで自分と向き合う時間を届ける『LetterMe』というサブスクの事業なんかもそうですが、ニーズ分析からではでてこないようなユニークな事業が生まれています。

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-若宮さんは、公式HPでも「いびつさ」をひとつのキーワードとして推していますが、それもアート思考と関係ありますか?

若宮:うん。「いびつさ」は僕自身が愛着を持てるポイントなのかもしれませんね。事業もそうですし、書籍で伝えたいのもそういうことかもしれません。いびつって「歪」と書きますよね。「不正」と書いて歪と読みます。そして正解は一つしか無いですが、いびつさは本当に色々なかたちがある。正解とか、正義とか、やっぱりきれいに整頓されすぎていたり、単一的なものへ違和感があるんです。「単一カルチャーは容易に狂う」だからこそ、僕はいびつでいたいと思いますし、オルタナティブな選択肢を提示していたいですね。

-若宮さんは「まとも」とか「あたりまえ」というものに対しての違和感が根幹にあるように思います。

若宮:弊社の事業のひとつとして、企業向けに偏愛とかいびつさについてのアート思考ワークショップを行うことがあるんですが「自分は変わってない。いびつじゃない。変じゃない。」と思っている参加者が大半なんです。ですが、ワークショップを通して自分自身のいびつさに気がつくと「もっと自由に発想していいんだと楽になった。解放された。」という感想をいただくことが多いんですね。大抵お話を伺っていると、「変だよ」って言われないように…「当たり」や「さわり」のないように隠して過ごしているうちに、自分のいびつさに気がつけなくなっているんですね。

-あぁ。それはなんだか辛いように思うかも。

若宮:自分のいびつさを隠していると、知らず知らず他人にも「まとも」を望んでしまいますよね。「私も我慢しているんだから、あなたも我慢しなよ」と思ってしまいがちです。これは、意外と社会の閉塞感の根幹かなと思います。SNSなんかを見ても、なにか単一主義・全体主義的な正義中毒や吊し上げ、たたき合いが増えている気がして危惧しています。「価値観が凝っている状態」とよくいうのですが、異質な意見とあって揺れる余裕余白がない気がして。僕は、もう少し自分自身のいびつさの中で悩みながら暮らすことのほうにリアリティを感じたりするんですよね。

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これからの世界で失いたくないもの。

-では最後に、これからの世界で失われてほしくないものを教えてください。

若宮:僕は実は葛藤フェチなので、「葛藤」を失いたくないです。アートにも葛藤があると思っているのですが、葛藤ってとても人間らしいし、かわいいなって感じたりします。葛藤がない世の中って多分何かが狂っていくんですよ。カルチャーっていうのも葛藤とか、未整理な状態でこそ生まれるものだと思っているんですね。カルチャーは、そういういかがわしいものとともにあると思うんです。葛藤があるから、思い通りにならないことも多いですし、でもそこがAIや機械にできないことかなと思います葛藤の末に全然想像もしなかった答えが出るのも人間ならではだと思うんです。

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Less is More.

若宮氏のインタビューをしていて、とてもゆるやかな社会問題への立ち向かい方だなと思った。誰も否定せず、全ての問題を自分自身に問いかけるように思考する。「まともな人なんていない」自分自身も含めて全ての人がいびつだからこそこの世界は愛おしいと話す姿、私たちがこれから考えるためのヒントがたくさんあるように感じた。

(おわり)

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