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もっと、自分のために花を飾ろう。フラワーアーティスト前田有紀氏/guiインタビュー。

元民放アナウンサーとしてもご存知の方が多いとは思う前田有紀氏は、今ではフラワーアーティストとして、株式会社guiの経営者として活躍されている。花き業界全体の構造が変わる中、花の楽しみ方を次々と提案し続けている前田氏にお話をお聞きした。

前田有紀 /フラワーアーティスト。元テレビ朝日アナウンサー。10年間テレビ局に勤務した後、2013年イギリスに留学。コッツウォルズ・グロセスター州の古城で見習いガーデナーとして働いたのち、都内のフラワーショップで2年半の修行を積む。「人の暮らしの中で、花と緑をもっと身近にしたい!」という思いから、イベントやウエディングの装飾や作品制作など、さまざまな空間での花のあり方を提案する。

↑guiの公式サイト。

私を軸にした仕事。私の心の満足。

-前田さんを元アナウンサーとしてご存知の方も多いと思います。フラワーアーティストへとキャリアチェンジした経緯をお聞きしてもいいですか?

前田:約10年間、アナウンサーとしてとても充実したお仕事をさせていただきました。アナウンサーと言っても、会社員の一人ですし、当然会社からの要望にも応えるような働き方をしていました。10年間そういう働き方をしてきてふと「自分自身を軸にした働き方ってどういうものなんだろう?」って考え出したんですね。

-何かきっかけがおありだったんですか?

前田:当時、仕事の中でトップアスリートの方をはじめとして、様々な活躍をしている方にインタビューさせていただく機会が多かったんですね。皆さんの共通点が「自分軸で生き方や働き方をしている姿」でした。当時一人の会社員だった自分自身と照らし合わせるとマイクを向けられる皆さんの姿がとても眩しく映ったんです。そういう皆さんに接するにつれて、私も自分自身を軸にした生き方にシフトしたら人生はどれだけ変わるんだろうって真剣に考え出したんですよね。それで、元々花が好きだったので、好きなことを仕事にしていけたらいいなって思ったんです。何より好奇心が止められないというのもありましたけど(笑)。

-すごい覚悟ですよね。不安はなかったんですか?

前田:もちろんありましたよ!でも、アナウンサーを辞めるということより、一人の会社員としてのレールから外れることへの不安が大きかったです。私自身、高校-大学と普通に進学して、周囲と足並みを揃えるようにして就職したので、「あたりまえ」とか「普通」と思っていたステップから外れることはやっぱり不安でした。今となっては、転職という選択肢ってあたりまえになってきましたが、アナウンサーから全く別の仕事に転職することは当時まだまだ一般的ではなかったですから。

-ご退職されてからはどうされたんですか?

前田:半年間、イギリスに留学しました。帰国後は一般の花屋さんで掃除や配達っていう本当に基本の”き”みたいな仕事からスタートして、3年かけて市場での仕入れやコスト管理なども学ばせていただきました。

-まさに”修行期間”ですね。お花屋さんって、かなりハードワークとも聞きます。アナウンサーという華やかな業界から、そう言った下積みを体験されるのは、かなり大変だったのかなって思います。

前田:おっしゃる通り、花屋の仕事はハードワークです。手もボロボロになりますし、洋服も汚れ放題。肉体的に決して楽とはいえません。煌びやかな印象のあるアナウンサーからすると「大変な仕事になったね」って思われることもありました。でも、私は本当にお花が好きだったんですよね。私自身の心の充足感から考えると、好きな花に囲まれて働く喜びというのは何物にも変え難いものだと実感しました。社会から見た「良い/悪い」では、私自身の心の満足ははかれないと、花屋さんでの仕事が気付かせてくれたんです。

起業。アーティストとして。経営者として。

-修行期間を経て、起業されたのはなぜだったんですか?

前田:妊娠がすごく大きなタイミングでした。つわりや体調や体調の影響で店頭業務が難しくなって退職しました。でも3年間積み上げてきたものを崩すのは勿体無いですし、せっかく歩み始めたキャリアをストップさせたくなかったんです。小さくても前に進む道はないかな?って移動型花屋「gui」として起業しました。

-移動型花屋?

前田:期間限定のイベントやマルシェ、あとは百貨店のポップアップショップなど色々な場所に出店して、小さな花屋を展開するサービスです。

guiは移動式花屋としてスタートした。(出典:https://gui-flower.com/news/page/11/) 

-すごくユニークですね。どうしてそういうサービスを考えついたんですか?

前田:花屋で働いていると、いわゆる贈り物・ギフト需要がほとんどで、日常的に花を楽しむ方って、すごく少ないんですよね。せっかく可愛い花を店頭に取り揃えても、手に取ってもらえないのを残念に思っていました。
もっというと、ほとんどの方は日常的に花屋に入ってきてくれさえもしない。だったら、こちらから移動することで、もっと皆さんの日常で花を目にする機会を増やすことから始めようと思ったんです。

-なるほど!

前田:嬉しいことにかなりご好評いただいて、色々な場所でguiを知っていただけました。その時に出会ったお客様は、未だに日本中様々な場所から花を注文してくれます。自分自身が移動することで、出会いが生まれて、繋がって、広がり続けています。今では、移動式花屋だけでなく、ファッションブランドやアクセサリーブランドとのコラボレーションなども手掛けています。

-guiがブランドとしても、拡張しているイメージですよね。

前田:実は、はじめた時はそこまで広がるなんて思っていなかったんです(笑)。お店を持たないからこそ、変幻自在でいられたというのはありますね。

-今では、前田さんご自身も、本当に多岐に渡るプロジェクトを手掛けられていますよね。

前田:私自身はフラワーアーティストとしての側面もありつつ、guiのメンバーも増えてきたことで経営者としての側面も年々強まってきていますね。アーティストとして花を広げていく立場と、経営者としてもう少し大きなみんなの働き方や夢を叶える立場、その両方から考えることが増えました。

-まだ、あまり経営者としての前田さんをイメージされる方は少ないように思います。

前田:現場でも周囲の仲間たちのサポートや、運営側に回っているシーンは多いんですよ。どうしても「花」というとふわっとした印象を持たれたり、望まれることも多いのですよね。経営については割とシビアに考えて動いています(笑)。

店舗NURをオープン。

-そんな中、2021年からNURという店舗もスタートしましたよね。移動式の花屋からスタートして、一つの店舗を持つことにしたのはなぜだったんですか?

前田:パンデミックの影響もあって、お客様の花に対する価値観が変化したと思っています。簡単にいうと日常的に花を家に飾る方が増えてきたんです。リモートワークの影響なのか、家に花を飾ってないことを寂しいと感じる声もありました。

-あぁ。みんな家にいる時間も増えましたし、確かに花の重要性が増しているかも知れませんね。

前田:そういう背景を踏まえて、こういった時代の過渡期に何ができるだろう?って考えた時に、もっと日常的に花を買い求めてもらいたいと思ってNURをオープンしました。

-神出鬼没な移動式だけでなく、欲しい方がいつでも買えるようにということですね。

前田:店舗を持つことで、「欲しい」と思った時に買いに行けますからね。もちろん、オンラインショップなどでお花は買えますが、本来的には生き物なので一輪一輪全て形も色も違いますよね。なので、リアルな店舗で自分自身の目で質感や立体感、色合いを確かめて選べるシチュエーションが作りたかったんですよね。

-実際オープンしてみてどうでしたか?

前田:自分のための花を探しに一人でフラッといらっしゃるお客様多いです。NURをオープンして花への価値観の変容は肌で感じますね。

業界全体の変容と、子どもたちへの思い。

-少し大きな目線で、花き業界全体をどのように捉えてらっしゃいますか?

前田:業界全体は、流通金額だけで見ると縮小傾向にあるといえます。これは、婚礼や葬儀などの大型需要の減少が一つの大きな原因です。ただ、農林水産省のデータによると、個人の花の消費量は年々増え続けているんです。

-先ほどの店舗のお話と同じく、自分のために花を買う人が増えているということですね。

前田:そうですね。業界全体で花の意味や価値が、今まさに問われているのかなと思いますね。大型需要だけでなく、どうやってもっと身近な文化へと転換させるのか、業界全体で考えていくタイミングです。

-2020年3月の緊急事態宣言を受けて、婚礼や葬儀などの大型需要が無くなったりもしましたよね。

前田:フラワーロスの問題は、パンデミックで顕在化しましたね。でも実は、もっと小さな規模でも、花の売れ残りによるフラワーロスって業界の課題としてはあったんですね。花には寿命があるので、八百屋さんやスーパーのフードロスと同じくフラワーロスの問題は、業界的に当たり前の問題としてありました。そこに目を向ける人が増えたことは、良かったのかも知れませんね。

-そうかも知れませんね。

前田:私たちもNURというお店を持ってから、このフラワーロスの問題には直面しています。私ももちろん、スタッフのみんなもお花が大好きなので、なるべく無駄にしないように心がけてはいるんですが、例えば天候の悪い日には来客数が少ないので、予想した仕入れより売れなかったりするんですね。そうすると、お花が余ってしまいます。

-処分するしかなくなってしまうんですか?

前田:私たちの場合、一つの解決方法として、余ったお花の鮮度が下がりすぎないうちに、目黒区や鎌倉市の児童養護施設、最近ですと渋谷区の子育て支援施設に寄付するようにしています。売り物にはならなくても、まだまだ楽しめる生花であれば、子供たちの目に触れさせてあげたいんです。

-それは素晴らしい活動ですね!

前田:最近、自分自身も2児の母として、子供たちへの活動を増やしたいって考えています。例えば、近年、土を触るのを嫌がる子がいたりするんです。自然に触れるチャンスをつくってあげることができたら、もっと花を好きになってくれる人が増えると思います。花を楽しむ感性を持った次世代が増えてくれるのは、業界的にもすごく意義のあることですよね。

固定概念を無くして、花を楽しんで欲しい。

-様々な問題はあれど、自宅での需要が増えているのは、すごくポジティブなこととも捉えられますよね。

前田:例えば、花のサブスクリプションサービスが生まれたり、業界全体でも色々な試みがスタートしています。私自身も皆さんの日常生活の中で花と触れ合うポイントをどのようにデザインできるかというのが現在の課題です。

-実際にどんなことを考えておられるんですか?

前田:花の楽しみ方って、もっとたくさんあると思うんです。そういう楽しみ方を提案をしていきたいと思っています。一人ひとりのライフスタイルにフィットする花の飾り方があると思うんですよ。お花は、自分だけのためのハレの日を、気軽に彩ってくれるものでもありますから。世代ですとか、センスなどに合わせて楽しむチャンネルの一つとして「染めの花 フラワーデザイン図鑑(誠文堂新光社 )」をリリースしました。

「染めの花 フラワーデザイン図鑑(誠文堂新光社 )」

-あえて一手間かけて飾るのは、愛着にもつながりそうです。

前田:花の表現の幅も広がるので、ライフスタイルにぴったりな花のデザインが可能になるんです。「染めの花」って本当に面白くて、水の通り道がすごく良くわかったり、「あぁお花ってこうやって生きているんだ!」ってことに気がつける。理科の実験みたいにお子さんとも楽しめますし、さまざまな世代の方に楽しんでいただける一つのクリエイティブなチャンネルになると考えています。

白のチューリップをベージュに染めた例。専用の染め液に花を活けることで、花が美しく染まる。葉脈などの様子も良くわかるように。(出典:HibiyaKadan×Odakyu STANDARD FLOWER.

-あぁそうか。サブスクみたいなお花を販売するサービスと並行して、楽しみ方を広げるのが前田さんの解決策の一つということなんですね。

前田:えぇ。花を染めることで、まじまじ花を見てくれますよね。そうやって花を身近に感じてもらえるための、一つのチャンネルになるといいなって。そういうチャンネルをもっと増やしていくのは、結果的に業界全体でも必要なことですよね。

-あぁなんか花を日常で楽しむことって、本当はもっと幅広いものなのかも知れませんね。

前田:もちろん、お花って安いものではありませんし、時間がくれば枯れてしまいます。でも、好きな色だけで作る花束とか、ファッションのようにコーディネートして楽しめるようになって欲しい。もっと固定概念にとらわれず花を楽しんでくれる人が増えたらいいなと思います。

これからの世界で失いたくないもの。

ーでは、最後の質問です。前田さんがこの先の世界で失いたくないものは?

前田:私は「温もり」を失いたくないです。例えば、お花を目で見て選んで、手に取るときの温もり。あの温かな気持ちは忘れたくないって思っています。
人がやらなくていいことは、どんどん効率化・デジタル化してもいい。その分、私たち人間は、もっとクリエイティブな時間を過ごせますから。でも、手書きの手紙のように、温もりの残る世界だといいなと思っています。

Less is More.

あなたが最近、花を飾ったのはいつだろうか?前田氏のお話を聞いていると、すごく楽しそうに花を語ってくれる。例えばいいことがあった日に、自分のための花を買って帰る。なんでもない日を彩ってくれる力が、花にはある。そう感じさせてくれるインタビューだった。

(おわり)

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