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パラレルワールド台湾が描く、日本がボタンを掛け違える前の姿。ライター神田桂一氏インタビュー。
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パラレルワールド台湾が描く、日本がボタンを掛け違える前の姿。ライター神田桂一氏インタビュー。

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ライター神田桂一。彼は、ライター界の中でも非常に奇特な存在だ。政治的な取材や、社会問題にも触れるかと思いきや、一方ではインディペンデントなサブカルチャーについてもライティングする。文豪の文体模写を手がけた書籍が17万部のベストセラーになったかと思うと、今度は畑違いの漫画の原作を手がける。そんなつかみどころのないライター神田氏が10年にわたって注目し続けてきた台湾を一冊の書籍「台湾対抗文化紀行」にまとめて出版するという。
なぜそれほどまでに「台湾」に注目したのか。日本のパラレルワールドとしても捉えることができ、日本が見習うべき姿勢がそこにはあるという。書籍内では、あまり声高に語られなかった神田氏自身の意見を中心に、書籍のサブテキストとしても楽しんでいただけるインタビューをお届けする。

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神田桂一/1978年、大阪市生まれ。ライター/漫画原作/総合司会。「ポパイ」「ケトル」「スペクテイター」「週刊現代」「論座」などで執筆。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・菊池良と共著)。11月に『台湾対抗文化紀行』(晶文社)を刊行予定。
https://kanda.theletter.jp/
Twitter:@pokke0902

ライターになるまで。

-神田さんは、様々な活動をされていますが、肩書きは「ライター」なんですよね?

神田:基本はライターです(笑)。

-神田さんのキャリアをお話しいただければと思います。

神田:そもそも高校生の頃から、ライター・編集者を目指していました。当時、色々な雑誌を読み漁っていたのですが、その中でも「ファミ通」がすごく好きだったんです。実は僕はゲームはほとんどやらないのですが、「町内会」「ゲーム帝国」などの投稿コーナーでハガキ職人をやっていたんですよ。金のガバスは、今でも大事に持っています(笑)。

-ガバス(笑)!ゲーマーでないのに!

神田:そうなんです。ファミ通は、本当は裏方の仕事のはずの編集・ライターがとにかく前に出て目立つスタイルだったんですね。そこに惹かれていたんです。

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-大学卒業してから、ライターになったんですか?

神田:大学を留年して、新卒で一般企業の営業職に就職したんです。本当は目標だったマスコミに行きたかったんですが、自分に自信もないのでとりあえずの就職でした。2社目で運良く某出版社に転職して、それから現在までライターとして活動していますね。

-一度、一般職も経験されているんですね。

神田:えぇ。3社目も出版だったんですが、特に1社目の経験はすごく企業と自分との在り方を考えるきっかけになったと思いますね。3社勤めてみて、企業で働くことを諦めました。僕は企業が無理だったんです。

-企業のどういった側面が無理だったんですか?

神田:トップダウンというか…誰かのルールで仕事をするのがすごいストレスだったんです。日本社会は特に顕著だと思うんですが、企業の論理が何よりも優先される文化じゃないですか。個人というものが軽視される。それは企業内でも同じなんですね。それが自分には合わなかった。企業のために個人が犠牲になる。そんな例を散々見てきて、それに加担するのが嫌になったんです。もう一旦休んで色々な価値観を見に行こうと思って、海外を放浪しはじめました。

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-それは、ライターとして何かネタを探しに?

神田:実は、その時点では、会社勤めでかなり心身ともにやられてしまっていて、もうライターを辞めようと思っていたんです。何か手に職をつけて、個人で細々とやる仕事をしたいな…なんて思いながらトルコとエジプトに行ったんですが、いわゆる沈没してしまいまして。

-沈没?

神田:バックパッカー用語で「何もせずにその国でダラダラと過ごす」みたいなことなんですけど、他のバックパッカーに心配されるくらい、ただただ宿で寝ていました。

-そんな状態からもう一度ライターとして復帰したきっかけはなんだったんですか?

神田:ちょうどヨルダンの国境にいた時に、新しい雑誌の立ち上げを手伝わないか?と連絡をいただいたんですよ。シリア〜イスラエル〜レバノン〜トルコまで陸路を北上するっていう旅をするか、もう一度ライターとして仕事をするか…迷いに迷ったんですが、「まだ書きたいことが残っているな」と思って帰国してライターに復帰しました。

-書きたいことってなんだったんですか?

神田:僕は元々ノンフィクションが好きだったのですが、読むばかりで自分自身書いたことはなかった。一度くらいチャレンジしてみてから辞めようと思ったんです。

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書くだけでなく、企画から創る。

-神田さんは、色々な媒体でライターとして活躍する一方で、「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら(宝島社)」も17万部のベストセラーになったり、ノンフィクションともかけ離れた書籍も手がけられていますよね。

神田:そうなんですよ(笑)。僕の中で、硬派なノンフィクションをやりたいって人格と、アホなことをやりたいって人格が分離して存在しているんです。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」は本で笑わせたいというアホなチャンネルで作ったんです。

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↑Less is More.でもインタビューさせていただいた菊池良氏との共著「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」はシリーズで2冊販売中。

-かなり不思議な分離の仕方をしていますね(笑)。

神田:自分の中では自然にそうなっているんですけどね(笑)。

-11月8日に1巻が発売になったコミック「めぞん文豪(ヤングキングコミックス)」の原作も手がけてらっしゃいますよね。

神田:「めぞん文豪」は、ヤングキングの編集長と元々友人だったので、お声がけいただいてチャレンジしてみました。こちらも企画段階では「フリーランス島耕作」とか、かなりアホなものも提出していて(笑)。結果的に「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」でも共著した菊池良君とのタッグということもあり、文豪つながりで「めぞん文豪」として連載がスタートしました。面白いものになっていると思うので、ぜひ引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。

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↑こちらも菊池良氏と原作を務めた「めぞん文豪(ヤングキングコミックス)」1巻が大人気発売中

-ライターというには、非常に多岐に渡る活動ですよね。

神田:元々、ライターとして、文章を書くことにそこまで興味がなかったんです。どちらかというと、企画全体の中で機能する文章が得意なのかもしれませんね。なので、そういう企画全体から考えるうちに、今のようなスタイルになりました。

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「台湾対抗文化紀行」を上梓するまで。

-さて、この度「台湾対抗文化紀行(晶文社)」をリリースされるということなんですけど、なんで台湾を題材に本を作られたんですか?

神田:2社目の編集部に所属していたころから、長期休暇の度にバックパッカーとしてアジア近辺を旅していました。アジアはほとんど回って、最後に行ったのが台湾だったんですね。震災後の2011年冬だったと思います。

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「台湾対抗文化紀行(晶文社)」は神田氏初の単著。台湾カルチャーの現在進行形だ。

-最後だったんですか。

神田:そうなんです。実は、行くまでもあまり気乗りしなかったんです。というのも、例えばインドとかは文化も街並みも日本と違いすぎて、分かりやすくカルチャーショックを受けるじゃないですか。ハプニングも起きやすいです。でも、台湾ってパッと見、日本の街並みとそこまで変わらないですし、あんまり面白いことがあるようには思えなかったんですよ。

-でも、結果的に書籍を出すまでにハマったのはなぜだったんですか?

神田:訪れてみると、すごく日本に似ている部分はあるのに、微妙な差異があって面白かったんです。例えば、台北のカフェに行くと下北沢にありそうな内装の中、日本の曲がかかっていたり、日本の雑誌が置いてあったんです。でも、店員さんは中国語を話している。自分自身が、どこにいるのか一瞬見失うような感覚になって、それはすごく面白い体験だったんですね。

-現地ではそんなに日本の文化を目にしたんですか?

神田:当時、日本のサブカルチャーがすごく現地で注目されていたので、ほんとにアチコチで日本のモノを見かけたんですよ。大型書店でも、日本の雑誌がずらりと並んでいたりしました。現地で出会う人たちも、日本のカルチャーにすごく興味を持ってくれていたと思います。そんなわけで、台湾に行くと、なんというかパラレルワールドに迷い込んだような、日本の別の可能性みたいなものに触れられるような…エキゾチックな感覚があったんです。

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-その感覚が「台湾対抗文化紀行」を作るきっかけになったんですね。

神田:一冊にまとめようと思ったのは、何度か台湾を訪れるうちに、インディミュージックや、ジンなど手がける独立系書店、今はなくなってしまった原発反対を訴えるカフェなどに出会ったのが大きかったんです。なんとなく、そういうもろもろの情報が一つの線としてつながるんじゃんないかと思い、一冊にまとめたんです。現地で出会った一人一人は、固有のアティテュードを持っているんですけど、何か根底に共通するものがあるように感じたんですよね。

-書籍は、有名/無名関わらず、様々な人々のインタビューを中心に構成されていますよね。

神田:基本的に、台湾で比較的に自由に生きていると感じた方々…ある意味では少数派の意見を数多く取り上げています。心がけたのは”小さい声を取り上げる”こと。海外のルポでも、あまり誰も取り上げないような、描かれることがないような視点から一冊にまとめたかったんですよ。ちょうど取材を始めた2012年頃は、台湾と日本のインディペンデントなアーティストの交流が活発になっていたんです。そういう交流を裏で支える、すごく熱意のある色々な個人の人たちに出会いました。そういう声を集めた記録とも言えると思います。

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台湾を見ることで「日本が掛け違ったボタンを戻す」。

-そういう様々なインタビューを通して、台湾から見えてくるものはなんだったんですか?

神田:震災後から現在に至るまで、日本の窮屈さ、寛容度の低さというのは、SNSを中心に日に日に増しているように思うんですが、台湾はもう少しバランスが良いイメージがあります。もう少し風通しがいいというか、ゆるいところはゆるい。ですが、一方で政治的な意識はすごく高いんです。

-それはなぜですか?

神田:気をつけて発言しないといけませんが、やはり中国との緊張状態というのがひとつありますよね。そういう政治的な緊張と背中合わせで、日常のゆるさみたいなものが成立しているんだと思いました。実は今回の書籍に関して政治的な視点についても記録してありますが、取材をスタートした当初はこの本にポリティカルな視点を入れるつもりはなかったんです。もっと、サブカルチャー取材に特化した本にするつもりだったんですね。

-そうなんですか!

神田:えぇ。取材をし始めると、現地の誰にインタビューしても、必ず政治の話に行き着く。結果的に政治に触れないわけにいかなかったんですよ。取材を進めるうちに、それが台湾のリアリティだと気がつきました。大げさかもしれませんが、自分の作っているものや、普段の仕事がどのように政治的な影響を与えて、世界を変えていけるかという前提のもとで活動しているように思えました。

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-日本はアーティストは政治的な主張NGみたいな風潮すらありますもんね。

神田:ちょっと前に日本で「音楽に政治を持ち込むな」という議論がありましたよね。台湾のミュージシャンは、本当に当たり前に政治の話をする。日本とは前提が違うんですよね。日本には、良くも悪くも危機感がまだまだない…緊張感がないので、これほどまでに自国内で攻撃しあったり、不寛容で見張りあっているのかもしれませんね。台湾の人たちの声を聞くと、国際社会での自分たちの振る舞いは、学ぶことが多いように思います。

-なるほど。

神田:基本的には、旅行記でありながら、台湾の友人たちとの出会いの記録であり、サブカルチャーの取材記録になっています。ゴリゴリのノンフィクションのつもりが、エッセイとの間みたいな仕上がりになっていますよね(笑)。かなりユニークな一冊なので、ぜひ読んでいただければと思います。

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これからの世界で失いたくないもの。

ーでは、最後の質問です。神田さんがこの先の世界で失いたくないものは?

神田:「自由」ですね。僕の人生を振り返ると一番大事にしてきたことかなと思います。自由には責任が伴います。移動・行動・思想の自由…。色々な解釈がありますよね。それぞれの解釈によって、「自由」は分断の原因にもなっていると思います。だいぶ深刻な状況ですよね。

-神田さん自身は、どのように「自由」を考えてらっしゃいますか?

神田:僕自身は、少しずるいかもしれませんが、どこか遠くで傍観しているというか。ひとつのことを決めすぎず、ぼーっと見ていることが自由でいられる視点だと思っています。僕にとって、色々なことを面白く捉えられる視点を持つことが、自由であることなんですよね。

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「台湾対抗文化紀行」ではレイモンド・マンゴーの「就職しないで生きるには(晶文社)」という書籍の影響を強く受けていると神田氏は言う。なにかに反抗することと裏腹なゆるさ。

神田氏は傍観しながらも、何かにゆるやかに対抗しながら作品を作っているのかもしれない。

(おわり)


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