2023年どうでしたか?株式会社インフォマート・メディアLess is More.編集部・年末座談会。
今回は、2023年にリリースした記事をLess is More.編集長のインフォマート園田と櫻井の2名で振り返ってみました。年末の今回は、2023年リリースした記事から2人が特に印象的だった記事について語っていただきました。
一流ではないからこそできること。
-年末恒例の振り返りですが、今回はお二人の特に印象的だったインタビューに絞って語っていただこうと思っています。
櫻井:僕はスポーツメンタルコーチ今浪さんのインタビューがすごく心に残っています。
園田:櫻井さんは、今浪さんのインタビューは外せませんよね(笑)。
-元々櫻井さんがインタビューを熱望されていましたからね(笑)。
櫻井:そもそもYouTube チャンネルのファンでしたから(笑)。ミーハーからのスタートでした(笑)。
-そもそも今浪さんのどんなところに惹かれたんですか?
櫻井:今浪さんは現役時代に一軍と二軍の間を行ったり来たりしていたそうです。その状態をご自身で1.5軍、とおっしゃっています。僕が好きな野球系チャンネルってほとんどが一流選手のものなんですが、今浪さんは一流ではないとご自身で分析されている
-あぁ。自ら冷静に一流ではないと分析されているんですね。
櫻井:そうなんです。心の病気をきっかけに引退をしたその体験があってメンタルコーチを始めて、その認知向上のためにYoutube活動をされているという部分でも、感じる部分がありました。
-ネガティブにも捉えられる、ご自身のキャリアをポジティブに捉えて発信されているのは、素晴らしいですよね。
園田:メンタル面について冷静に見つめる姿勢は、私たちビジネスパーソン文脈においても、すごく参考になるなって思いました。
櫻井:技術とメンタルの両面でサポートしていくのは、他の業界においてもすごく大切なことですよね。
園田:このインタビュー以来、近年の色々なスポーツの試合を意識して見ているんですが、メンタルコーチってかなり一般的になってきているようですね。
最先端のアスリートの世界でデータやテクノロジーが重視される一方、メンタルからサポートすることも重要視されている。これは、すごく示唆深いと思います。
言語による権威勾配に気づいた。
-園田さんはいかがですか?
園田:人工言語エスペラントは、すごく興味深かったです。
園田:言語による権威勾配って、意識し出すと非常に強いものだと改めて感じました。日常レベルでもあると思うんですよ。ある方に研究者の世界でも、英語で書かれた論文の方が優遇されるとお聞きしたこともあります。
櫻井:言語から中立性について考えるという発想がなかったので、すごく視点が変わりましたね。いわゆる外国語以外の選択肢があると知って驚きました。
-言語をもとに世界中でコミュニティを形成しているのもエスペラントの面白い点ですよね。
櫻井:民族や宗教、国境を超える新しいつながり方の可能性を感じましたね。
伝統的なものを否定することなく。
櫻井:岩手まで取材にお伺いした、夜行書店も心に残っています。
園田:これも櫻井さんが提案してくれましたよね。
櫻井:実際にお伺いして、神聖なはずのお寺にエロ本が並んでいたりして、矛盾だらけの空間に驚きました。日野岳さんもとんでもなくファンキーな方で(笑)。
-取材中もずっとタバコを吸われていましたよね(笑)。
櫻井:そうそう(笑)。自分自身の固定観念が崩れる体験になりました。
園田:私が素晴らしいと思ったのは、色々な宗教や歴史について、きちんと学ばれていること。伝統的なものを否定することなく学び、認めたうえで、ご自身の視点や考え方を発信している。とても大事な姿勢ですよね。
-特に宗教のような繊細な話題を取り上げる際には大事ですよね。
園田:角度次第では、宗教的なテーマを取り扱っていきたいですが、確かになかなか繊細な部分がありますよね。特に日本は、宗教について語る文化が薄いので取り扱いづらい印象はあります。
櫻井:伝統的な宗教については、比較的取り上げやすいかもしれません。
園田:もしくは「無宗教」ってテーマは取り上げてみたいですね。日本は無宗教だと言われますが、例えば神道は日常的な生活や道徳レベルで溶け込んでいると聞いたこともあります。
学問や勉強をもっと楽しむ枠組み。
園田:学問バーは、実際に取材前後で何度かお邪魔したのですが、個人的にもすごく影響を受けました。宮本道人さんに噂をお聞きしたのがきっかけでした。
-どんなところに影響を受けたんですか?
園田:私がお伺いした日は、「宇宙での植物生育」や「妖怪について」をテーマに語り合っていました。若手の研究者の熱意伝わってくる異様な場所で、訪れる度に「学問」の意味がよく分からなくなったんですよ(笑)。
-どういうことですか?
園田:失礼かもしれませんが「ある分野のマニアが、語り合うことを学問と呼んでもいいんだ!」って(笑)。すごく先鋭的なマニアの話を「学問」と定義することで、楽しみ方・学び方がずいぶん変わるんですよね。
-確かに、マニアの皆さんが話している感じはありましたよね(笑)。
園田:学問とか勉強って、本来もっと自由で楽しいことだと改めて感じさせてくれました。社会や未来に直接還元できるような研究と、ただ好奇心を満たしてくれる研究、そのどちらもが「学問」として、一緒くたに括られている。すごく素敵な捉え方だなって思ったんです。
櫻井:僕は普通の大学生だったので、学生のうちからマニアックな研究に熱中する皆さんに羨ましさもありますね。
園田:Kisiでは、求人サイト「Kisi Career」がオープンしたようです。普通のバーの枠組みを超えた活動は素晴らしいですよね。これからも注目したい空間です。
社風を言語化すること。コストから考えること。
櫻井:僕は、朱さんのインタビューが心に残っています。企業における倫理や正義について、考えるきっかけを頂きました。
櫻井:ご本人が企業に所属しながら研究もされているので、ビジネス・アカデミアのどちらにも寄らず、中立的に語ってもらえたのは衝撃でした。すごく珍しい立ち位置の方ではないかって思うんです。
-確かにそうかもしれませんね。
櫻井:きちんとビジネスの言葉…朱さんのお言葉をお借りすると”方言”でお話いただけるので、企業に勤める僕にとってはすごくわかりやすかったんですよね。
園田:確かに、ビジネスの角度からも、哲学の角度からも学べる内容でしたね。
-ELSIについてはどう捉えてらっしゃいますか?
園田:今までの日本企業だと「社風」みたいなふんわりした空気に、倫理観やELSI的なものが織り込まれていたんじゃないかと思うんです。なので、特別に言語化したりする必要がなかったのかもしれません。
-日本は、そういう空気はあったのかもしれませんよね。
園田:ただ、この社風みたいなものって、インフォマートももちろんですし、周囲のスタートアップ企業の話なんかを聞いていても、近年、少しずつ薄れているように感じています。
特にリモートワーク以降、各々の仕事におけるゴールだけを共有することが増えた結果、語化されていないような社風とか社内カルチャーが急速に失われつつあるのかなと。
-あぁ。リモートワークで社風みたいなものを共有する場は失われがちだったのかもしれませんね。
園田:「ELSI」って、そういう失われつつある社風を改めて言語化するきっかけになると考えています。「ELSI」のような枠組みをきっかけにしないと、どんどん倫理観みたいなものが薄れて、結果だけを求めてしまう。
-「ELSI」を元になんとなくの社風をきちんと言語化しようということかもしれませんね。
園田:企業における、ある種の人間臭さをデザインするような意味があるのかもしれませんよね。
櫻井:ちょっと話題がズレるかもしれませんが、今年は世間でもLGBTに関してのニュースが増えましたよね?
-あぁ。2023年は「LGBT理解増進法」が施行されましたしね。
櫻井:すごく繊細な問題なので、どの立場から議論しても批判がくるような状況だったように思います。企業としても、どのようなスタンスを取れば正解なのか分かリませんでした。
企業の倫理観ってこういう局面でこそ役に立つのかなって考えたりしました。
-あぁ。そういう意味では、すごくタイムリーだったのかもしれませんね。
園田:櫻井さんのいう通り、企業としても、個人としても全方位的に正しいことってやりづらいですよね。
企業倫理の議論も大事ですが、僕個人としては、多様性を実現するために、コストからも考えるのも一つの方法かなと考えています。
-どういうことですか?
園田:例えば、トイレの問題ってありましたよね。
-あぁ。某商業施設だったり、色々問題がありましたよね。
園田:極論ではありますが、あらゆるマイノリティーに合わせたトイレを作ったら、すごくコストがかかりますよね。企業がそれを全て背負うのは無理です。だからこそ、どの程度の多様性を実現するべきなのか、現実的なコストからバランスを考えていくのも大事だと思うんですよね。
-面白いですね。「完全な正解」はなくても、「このコストの中では、これが正解」ってことはありえるということですよね。
園田:そうそう。すごく現実的な中で、できる範囲の多様性を実現しようとすると、むしろそれ以外は、理想論で終わってしまう気がします。
それは、当たり前じゃないかもしれない。
園田:どのインタビューも心に残っていますが、千松さんのお話は、未だに色々考えさせられます。
園田:狩猟採集生活を営んでると聞くと、どうしても世の中と切り離された仙人みたいに捉えられがちですが、千松さんはいわゆる普通の暮らしと狩猟が両立している。
私たちと同じ時代・同じ社会に所属していながら、これほど「食べるために働く」ことから解き放たれている人に、はじめて会ったように思うんですよね。
-あぁ。食べることと、働くことがイコールではない。
櫻井:千松さんのインタビューを読むと「不安がない」とおっしゃっていて驚きました。働くことと、食べることを関連付けない方が、不安なく健康な精神状態でいられるのかもしれないですよね。
-確かに。
櫻井:死への不安って誰にでもありますよね。大都会で、会社に所属いても死への不安は拭えません。些細なこと…例えば、上司にちょっと怒られるとかでも「首になったらお金がなくて食べものが買えなくなってしまうから、死んでしまう」ってうっすら感じているんだと思うんですよね。
-あぁ。薄められているけど、死への不安が拭えないですよね。
園田:都会に暮らす我々に比べたら、千松さんの方が野生の動物と対峙するような危険や、死と隣り合わせの環境のはずなのに、不安が少ないっていうのは不思議ですよね。
櫻井:そうなんですよね。
園田:ご自身が「とかいなかに住んでいる」とおっしゃられているように、都会と田舎、狩猟採集生活と現代社会、色々なものの境界にいらっしゃる方ですよね。
-ご本人は意識してはいないと思いますが、確かにそうですね。
園田:そういう境界にいるからこそ、私たちが当たり前と思っていた日常をもう一度考えるきっかけをもらえると思いました。
-どういうことですか?
園田:例えば、企業に所属していると、大抵は「個人や企業の成長」が、当たり前の前提になっていますよね。
-あぁ。なんとなく当たり前だと思っていることってありますよね。
園田:千松さんには、そういうよくわからない当たり前がまるでなかったなって思うんです。
だからこそ自分達の日常と照らして「そもそもなんで成長しなきゃいけないんだっけ?」って改めて考えるきっかけになるんですよね。
-最後に今年を振り返っていかがでしたか?
園田:先ほど櫻井さんも話していたように、今年は企業としてもメディアとしてもどんな発言・発信が正しいのか、戸惑う一年でした。
そういう状況の中、取材させていただいた皆さんや読者の皆さんのおかげで色々な発信ができて本当に感謝しています。
櫻井:皆さんのお話をお聞きして、自分自身がすごく固定観念にとらわれていたなと気がつく一年でした。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
Less is More.
今年もありがとうございました。来年も素敵な発信を続けていければと思いますので、読者の皆様どうぞよろしくお願いいたします。
(つづく)